極東管区防衛軍司令部の自身の執務室で、行政長官中西はデスクの端末で遠方からの通信を受けていた。
予想通り腹を立てた芹沢は、司令部のスタッフに当たり散らした為、やむを得ず彼を司令部から追い出した。そんなことをやっていたが為に、部屋に戻るのに少々時間を食う形になった。
「お待たせしました。大統領」
端末のスクリーンには、地球連邦政府のあるワシントンの会議室に集まった数名の高官らが映っている。
「ナカニシ長官。何か問題でも?」
大統領のダグラスは、大統領選挙で多忙な中駆け付けてきていた。前大統領チャールズの突然の引退から急遽引き継いだとは思えぬ辣腕を今も振るっている。
「はい。例の活動家らの動きがあり、こちらの軍部が勇み足をしておりまして。それを収めるのに少々手間取りました」
「そうか。助かるよ。このような時の為に、私が手を回して秘密裏に君を行政長官に推挙したのだ。極東管区は、地球連邦防衛軍の要だが、今は勝手に動かれては困る。敵を欺くにはまずは味方から、と言うだろう?」
「承知しております」
「本題に入ろう。マッキンリー防衛長官から説明する」
前の防衛長官ウィルソンが罷免され、マッキンリーはその後任である。前任者とは異なり、かなりの切れ者だと言われている。ダグラスは選挙戦を戦う為に、失言も多い前任者をあっさりと切ったのだ。
「ご存知の通り、この太陽系にはスパイが紛れ込んでいます。現時点では、確証はありませんが、状況証拠からボラー連邦の手の者と思われます」
彼らの間では周知の事実だった為、この話に驚く者はいない。
「彼らは、我々地球連邦とガミラス連邦の友好関係の破壊。そして、それに伴う地球連邦の弱体化を目的としていると推測されます。彼らは、先のガトランティス戦争の協力において遅れを取り、ガルマン帝国や新たに誕生したイスガルマン・ガミラス帝国と友好関係を築こうとする我々を警戒しています。そこで、波動砲という兵器を保持する我々を自軍に引き込むか、若しくは弱体化させるのが目下の目的でしょう。その為に、地球人の間で根深く残るガミラスに対する憎しみの感情を利用し、連邦国民の分断を図ろうと暗躍しています。極東管区の活動家の動きは、この影響化にある可能性が高い。彼らの活動に食いつくマスメディアの動きにも注意が必要ですが、政府として動けば、その批判の矛先はこちらに向くでしょう。選挙中ということもあり、迂闊なことは出来ません。彼らはこの騒ぎで視聴率を稼ぎ、広告費やニュースペーパーの有料記事で荒稼ぎするのが目的です。であれば、こちらもそれを利用して、泳がせてその尻尾を掴むのがベストでしょう」
「マッキンリー長官は、反ガミラス同盟、またはマスメディアにスパイが紛れ込んでいるとお考えですか?」
「はっきりとは。だが、これまでの情報部の諜報活動の報告によれば、その確率は非常に高い」
会議は一時静まり返った。それぞれが、今回の問題を真剣に思案しているのであろう。
「そこで。ナカニシ長官。例の艦はどうなっている?」
中西は頷いた。
「既にアステロイドベルト宙域付近にオンステージさせています。極東管区の軍部も今は知りません」
「抜かりは無いようだね、ありがとう。この航宙母艦ブルーノアは、ご存知の通り日米で共同開発した新造艦で、地球連邦初の次元潜航艦です。今後、極東管区のアンドロメダ級に代わり、地球連邦防衛軍最強の艦として活躍していくことになるでしょう」
「現状は、極東管区科学技術省所属の実験艦として、軍部からは遠ざけています。現在は、元軍人の担当者が指揮をとって実験や運用を行っています」
「よろしい。今回、敵の次元潜航艦と思しきものが、この太陽系に潜み、スパイ活動を支援していると推測されます。火星に活動家が向かうこのタイミング。向こうも尻尾を出す可能性がある。それには、こちらも極秘裏に動き、次元潜航艦を使うのがベストでしょう。我々地球連邦政府としては、フレデリック・スコーク宙将を配下の部下と共にブルーノアに派遣し、この作戦の指揮をとってもらうことにしました。既に、アステロイドベルトに向かっている為、間もなくランデブーすることになるでしょう。科学技術省のメンバーは、そのタイミングで交代してもらいます」
中西長官は、スコークの名を聞いて驚きを隠せなかった。土方宙将が引退を示唆して艦隊司令の座を退任したことで、北米管区所属のスコーク宙将がそれに代わった。彼直々に指揮を取らせるということが、この問題に対する連邦政府の意気込みが伝わるというものである。
「艦隊司令が直接指揮を取られると?」
「そうです。今回の作戦は、失敗は許されない」
「承知しました。一つだけお願いが」
「なんだね?」
「現在艦の運用を指揮しているメンバーの一部は残して頂きたく。次元潜航艦の特徴を最も熟知しておりますので」
「良いのかね? 軍事行動を取るかも知れないのだが」
「それは問題ありません。既にこの事は本人たちに伝えております」
そこまで二人が話した所で、再びダグラス大統領が口を開いた。
「よろしい。それでは、作戦を開始したまえ。神のご加護を」
「承知しました」
中西長官は、軽く会釈をした。
この二十三世紀になっても、米国民のキリスト教信仰は健在だった。仏教すらも形だけしか残っていない日本の無宗教ぶりとは対照的だ。
この宇宙にも、キリスト教の崇める神が存在すると、本当に彼らは信じているのだろうか?
中西自身もアメリカ暮らしが長かったが、これだけは未だに理解できなかった。
その頃、アステロイドベルト付近では――。
「潜望鏡降ろせ。浮上して、客人を収容する」
真田は、ブルーノアのブリッジの艦長席から乗組員に命じた。極東管区と北米管区の科学技術省から派遣された彼らは、この艦の設計から関わり、ガミラス人の科学者の支援を受けて建造を指揮した。日米共同開発の名の下に、初の次元潜航艦として生み出されたこの艦は、人類の科学の歴史上も大きな飛躍をするものだ。
科学技術省でデータをとった後は、軍に引き渡す事になっていたとはいえ、真田はこの新造艦の開発や実験に携われたことを誇りに思っていた。
「真田さん、やはり浮上時に僅かに計器の乱れが見られます。かなり調整したんですけどね」
乗組員の中でも、今回軍から唯一派遣された新米は、実験状況を身内にも仲間にも極秘にすることを約束して、新任の中西長官から指名されてここにいた。ヤマトの技術科員から技術科長に昇進して長く活躍した彼は、間もなく別の艦の技術科長に就任するだろう。それは、このブルーノアかも知れない。恐らく、今後は艦の運用も日米で協力することになるだろう。
「今後は、君が引き継いで調整すればいい。特に心配はしていないよ」
「真田さんと久しぶりに一緒に働けて光栄でした」
新米は、立ち上がると握手を求めてきた。
落ち着き払った彼は、流石にあの頃のようにシンマイとは呼べないだろう。真田は、思わず苦笑した。
「私もだよ。ありがとう。楽しかった」
二人は、固く互いの手を握り合った。
「でも、スコーク宙将が来たら、もう少しだけ作戦への協力をお願いします。この艦を実戦で運用するには、まだ真田さんの助けがいりますから」
「それは、謙遜かね? 君がいれば、この艦は大丈夫だと思うがね」
そんな二人のそばに、もう一人の科学者が近付いた。
「私も、個人的に志願して作戦に参加させてもらうことにした。もう暫くの間、よろしく頼む」
ローゼが、同じように握手を求めてきた。彼女は、まだ若いガミラス人の科学者だ。赤い癖毛を揺らして、女性らしいほっそりとした手を伸ばしている。
「ローゼくん、君の協力無しで、この艦を完成させることは出来なかっただろう。とても感謝している。だが、本当にいいのかね? 残れば、実際に戦闘になる可能性もあると私は聞いている」
「私も、ガミラス軍人だ。テロン人が設計したこの艦が正常に稼働するのを見届けたいと思っている。これまでのような実験より、実戦の方が望ましいと思っている」
「なるほど。では、もう暫くのお付き合い、よろしく頼む」
「承知した」
三人は、それぞれ握手を交わした。すっかり、地球式の握手のやり方は、ガミラス人の間でも定着したらしい。彼女曰く、本国でも流行っているのとのことだ。
「各自、退艦準備!」
真田は、全艦に発令すると二人に言った。
「艦載機格納庫へ、艦隊司令長官殿をお迎えに行こう。一緒に来てくれ」
「分かりました」
「了解した」
フレデリック・スコーク宙将は、大型シャトルから降りると、出迎えた真田らに敬礼した。彼の後からは、彼の部下が続々と降りてきている。この後も、ピストン輸送で、乗組員が大勢やって来る予定だ。
「ミスター・サナダ、アラコメ、それからミス・ローゼ。出迎えご苦労。どうかね、この艦の調子は」
「概ね完全に動作しています」
「概ね?」
答えた新米は、急に不機嫌そうな表情をしたスコーク宙将の態度に、真っ青になった。
「いっ、いえ! すっ、すこぶる調子が良いです!」
慌てた彼は、若い時のようなどもりが戻っていた。真田は、心の中で苦笑していた。
「スコーク宙将。技術者というのは、よく知っているだけに、完璧とか完全とか言うのは苦手なのです」
スコーク宙将は、不機嫌な仮面を外すと、にやりと笑った。
「はははっ、分かっているさ、ミスターサナダ。軽いジョークだよ、ミスターアラコメ。君が優秀な科学者だと、マッキンリー防衛長官からも聞いているよ。君がそう言うなら、かなり調子は良いということだろうな」
スコーク宙将は、新米の肩をぽんと叩いて、真田とローゼの方を向いた。
「これから暫くの間、君たちは私の指揮下に入ってもらう。技術的な問題があれば、力を貸してくれ。よろしく頼む」
「りょっ、了解しました!」
「承知しました」
「こちらこそ、よろしく頼む」
スコークは、ブリッジへ向かうエレベーターへと歩き出した。
「科学技術省の乗組員が退艦次第、作戦行動を開始する。直ちに、次元潜航し火星宙域へ向かう!」
真田らは、敬礼してその背を一旦見送ると、直ぐにその後に続いた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。