火星、ガミラス大使館――。
マゼラン市の市長ベルナールは、ガミラス大使のエリーサ・ドメルの元を訪れていた。
「今回の騒動について、地球連邦政府を代表して、深くお詫び申し上げます」
大使の執務室で、立ったまま謝罪するベルナールに対し、エリーサは窓の外を眺めて振り返らなかった。
「大丈夫です。そのような活動家の団体が幾つもテロンにはあるのは、事前に把握していましたから」
「間もなく、地球からその活動家の団体がやって来ます。ガミラス火星基地前でデモ活動をすると予告されていますが、不測の事態に備えて、我々の警護を強化させて頂くつもりです」
「問題ありません。既に我々の軍の警護部隊も派遣されていますので、ご心配は無用です」
エリーサは、深くため息をついた。
ベルナールは、彼女の背を眺めた。表情は伺えないが、彼女が今回のことで深く心を痛めているのかと心配した。だがしかし、それは少し違っていたようだ。
「本音を言えば。やはり、こうなってしまったか、との思いです」
ベルナールは、当惑していた。彼女の真意を尋ねてもいいのだろうか? と考えていると、ようやく彼女はこちらを向いた。
「私がこちらに来る前のガミラス基地建設時にも、建設の妨害など小競り合いが多少あったと聞いています。しかし、このような目立った反対運動が始まったのは、先日の遊星爆弾症候群の治療薬の話をしてからです。あれが、あなた方の国民の反ガミラス感情に火をつけたのは間違いないでしょう」
ベルナールは、暗い表情をする彼女の顔を改めて確認して、何か言葉を探さなければと思案した。
「私たちが、本当の意味で仲良くなるには、まだまだ長い年月が必要なのでしょう」
「大使。あのような活動を行う地球人はごくわずかです。デモ活動も、もう少し時間が経てば必ず沈静化するでしょう。不快な思いをさせて申し訳ありません」
「確かに一部の方々かも知れませんが、あなた方こそ、不快な思いをしたことも確かでしょう。治療薬の提供条件については、約束通り公表していないようですが、それが不信感を煽ってしまった。失敗だったと思っています」
ベルナールは、呆気にとられた。
赤裸々に本音らしきものを話す彼女の姿を見たのは、多分初めてだろう。
「すみませんが、今日の所はお引取りを。あなた方の謝罪のお気持ちは、確かに受け取りました」
ベルナールが去った後、エリーサは、執務室の自分の椅子に腰掛けた。デスクに両肘をつくと、両手で顔を覆い、再びため息を漏らした。
私は、この件に今も納得していない。
それなのに。
大統領命令だからと、盲目的に従った。
――私の知っているあなたは、活動家でこそないですが、政府のやり方が間違っていれば、反対する意見を持っているものと思っていました。それがどうして?
メルダに言われた言葉を思い返した。
あれから何度も反芻して考え続けている。
その通りだとエリーサは思った。
ガミラス火星基地司令部――。
メルダは、司令部に到着すると、司令官ハイゼルの執務室に通された。
ハイゼルは、髭面にアイパッチ、顔面に大きな傷跡の残る厳つい初老の男だ。ガミラスでもかつては歴戦の勇士だったであろうことは容易に想像出来る。
二人は、立ったまま話し始めた。
「ディッツ大尉。明日、我々は宇宙に上がりテロン艦隊との合同訓練を行うことになっている。君は、ゲルバデス級空母ガロードに乗り、航空隊の訓練に参加して欲しい」
「テロンの防衛大の方は?」
「こちらの方が優先だ。既に大学側には連絡済みだ」
メルダは、そうなれば先程山本と話した美晴のことで何かすることも難しくなったな、と思っていた。
「……と、いうのは表向きの任務だ」
「と、言いますと?」
ハイゼルは、メルダの近くで声を潜めて言った。
「このテロンの星系内にスパイがいる」
「スパイ?」
「ボラーの連中だ、と言われている」
メルダは、目を丸くした。
「空母ガロードの乗組員の一部には既に伝えてある。だが、この任務の本命は、テロンと共同開発した次元潜航艦だ。敵も、次元潜航艦らしきものを使って、火星宙域の何処かに潜んでいる疑いがあるのでな」
「ここは、テロンの本拠地です。いくら敵も次元潜航艦を使っていると言っても、明らかに不利です。奴らの目的はいったい?」
「我々との友好関係の破壊だ。お前も知っていると思うが、明日、テロンの活動家が火星に到着する。それをきっかけに何らかの大規模なテロ活動を行う疑いがある。例えば、我々の基地を破壊するような攻撃を仕掛けてくるとかな。それが、ボラーの仕業と明らかに出来なければ、我々とテロンとの関係は大きく傷付くことになるだろう」
メルダは、そのようなことが、この平和な火星の裏で起きているということに驚いた。
「では、私たちの任務は、テロン側と協力して、テロ活動の警戒を行うということですか?」
ハイゼルは頷いた。
「お前には、航空隊の訓練と称して、部隊を連れて火星宙域の警戒にあたってもらう。次元潜航艦の動きを探知したら、テロンの次元潜航艦に位置を伝えればいい。この任務には、腕の立つ戦闘機乗りのお前が最も相応しいと判断した。やってくれるな?」
メルダは、ガミラス式敬礼でそれに応えた。
一方、火星の地球連邦防衛軍極東管区司令部では――。
山本が到着すると、基地司令官有森の執務室に通された。
そこには、有森と共に、加藤が待っていた。
「加藤さん?」
「山本。お前も呼ばれたのか」
執務室の大スクリーンには、艦隊司令のスコーク宙将が映っていた。
「スコークだ。早速だが、カトウ、ヤマモト、二人に極秘任務を与える」
加藤と山本は、直立不動の姿勢で敬礼をし、スコーク宙将からの話を待った。
「我々は、実験艦、航宙母艦ブルーノアにいる。現在、アステロイドベルトから火星へ向かっている。君たち二人は、直ちにそこを出発して、ブルーノアに乗ってもらう」
加藤と山本は、互いに顔を見合わせた。
日米ガで共同開発した次元潜航可能な実験艦の存在は噂では聞いていたが、あまりに突然のことに困惑していた。
「承知しました。我々はそこで何を?」
「今から説明する」
スコークは、ボラー連邦と思われる敵の存在を説明し、テロ活動の妨害が任務だと説明した。
「この情報は軍の内部でもごく一部の者しか知らない。所謂極秘任務だ。君たちの軍務長官セリザワも知らされていない。私は、君たちを、地球連邦防衛軍のエースパイロットとして、この任務遂行に最適だと判断して呼ぶことにした。ブルーノアは、次元潜航艦であると同時に航宙戦闘母艦でもある。敵が同じ次元潜航艦であった場合、この艦の能力を最大限使用して敵を叩く。航空戦力が有用になると判断した場合は、君たちに活躍してもらうことになる。最新鋭機コスモバイパーに乗機してこちらに来て欲しい。必要なら、ブースターを使ってもらっても構わない。ランデブー座標は追って知らせよう。説明は以上だ。何か質問は?」
二人は、改めて敬礼をした。
「ありません。直ちに向かいます」
スコークは、スクリーンの中で満足そうに頷いた。
「頼んだぞ。我々に失敗は許されない。万全の体制で敵を排除する。私からは以上だ」
通信が切れた後、二人は突然のことに困惑しきりであった。
基地司令の有森は、二人の肩を叩いた。
「あのスコーク宙将が、我々極東管区のパイロットを呼んだということを誇りに思う。君たちが、地球連邦きっての戦闘機乗りだと認めてくれているからだろう。ここで、この任務の事を知っているのは、私と君たちだけだ。コスモバイパーとブースターの使用は、私からスタッフに伝えておく。任務の内容については決して口外しないでくれ。何処にスパイが潜んでいるかわからんのでな」
「わかりました」
「承知しました」
二人は、執務室を出ると急いで滑走路の方へ向かって行った。
後に残された基地司令有森は、ガミラス軍との合同訓練の準備状況を確認する為、執務室を出た。
この合同訓練は、敵に対して軍の注意がそれていると誤認させる目的で行われる。
ほとんどの訓練参加者はこの事実を知らない。ブルーノアの乗組員以外で軍関係者で把握しているのは、有森と、ガミラス軍の一部の人間だけだ。連邦政府から極東管区の中西行政長官へ直接指示があり、連絡は極秘に進められたからである。
果たして、テロ行為が本当に起こるのだろうか? あったとしたら、その規模は? 連邦政府情報部の諜報活動は世界一だと聞いてはいるが。
有森は、この状況を知っていることの重圧に耐えようと、深呼吸をした。
そして、呼吸を整えると基地司令室に入り、大きな咳払いをして、スタッフの注意を引きつけた。
「明日の合同訓練の準備状況を報告したまえ!」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。