それからしばらくして、戦闘空母ガロードは、宇宙へと上がるべく発進した。
その時メルダは、ブリッジで、立体スクリーンに映る基地司令ハイゼルからの叱責を受けていた。
「どういうつもりだ!? ゲート前で何をやったのか、全部報告を受けている!」
メルダは、涼しい顔をしていた。
「ご存知でしたら報告の手間が省けました」
ハイゼルは、その態度に、更に怒り心頭といった様子だった。
「ディッツ提督の名を使えば何でも出来ると思っているのか!? そんな風に、親の威を借るような真似を日頃からやっていたのか!?」
「誤解があるようですので、訂正させてください。父の権力を借りようとしたのは今回が初めてです。先程、そうでも言わないと説得力に欠けると思いましたので。ご心配は無用です」
「当たり前だ! そんな事より、任務を優先しろ!」
「もちろんです。分かっております」
ハイゼル司令は、メルダの横にいたガロードの艦長リドルを睨んだ。
「頼むぞ。くれぐれも、その娘がこれ以上余計なことをしないように見張っていてくれ」
「承知しました」
通信が切れたあと、艦長リドルはメルダをちらりと見た。
「お嬢さん。厄介事は困るな。上官には、それなりの敬意を払って貰わんとな。それはもちろん、艦長であり、大佐であるこの俺にもだ」
メルダは、小さなため息を漏らした。
「大変失礼しました」
リドルは、メルダの顔を覗き込んだ。
「な、何か?」
リドルは、姿勢を戻すと、ポリポリと顎をかいている。
「俺は、ここへ来る前はディッツ提督の座乗する艦で、副長をやっていた。提督には、このテロン基地配属を推薦され、この艦を与えられた。テロンは、辺境の地だが戦略的に重要だ、ということで大佐への昇進も決まったという訳だ。で、その時に、あんたが短期出張でこっちへ行くから、くれぐれもよろしくと直々に頼まれた」
メルダは、何が言いたいのだ、と言おうと口を尖らせた。しかし、それを言う前に遮られた。
「ま、そういうことで、俺も提督には頭があがらねぇって訳だ。だが、お嬢さん。あんたも、提督の顔に泥を塗るような真似だけはしないことだな」
メルダは、顔が熱くなるのを感じていた。
「わ、分かっています! 私も、勝手に父の名を使った以上、迷惑はかけないつもりです」
「分かってんならいいさ。じゃぁ、任務の方を頼むぜ」
メルダがブリッジでいろいろ言われている間、美晴は艦載機格納庫に取り残されていた。
目の前には、メルダの愛機である赤いツヴァルケと、見慣れたコスモファルコンが一機駐機していた。何故か、コスモファルコンも同系色で赤く染められていたが。
どちらの機体も、ガミラス人の整備チームが点検を行っている。そして、バルカン砲の砲弾や、更にはミサイルの取り付けも行われていた。
美晴は、渡された地球連邦防衛軍のパイロットスーツに袖を通し、ヘルメットを手に抱えていた。
そのヘルメットには、細かな傷が沢山付いており、使い古されたものであるようだった。
実戦で使われていたものだろうか?
なぜ、ガミラス艦に、防衛軍のスーツが置いてあるのか?
幾つもの疑問が浮かぶが、友軍であるのだから当然のことなのか? と、想像を膨らませるぐらいしか出来なかった。
そんなことを考えていると、メルダが艦載機格納庫へ降りて来た。既にガミラス軍の紫色のパイロットスーツに身を包んでいる。
しかし、先程の偉ぶった態度とは打って変わって少し浮かない顔をしていた。が、美晴の姿を認めると、再び高飛車な態度へと戻すのが、彼女の目にも明らかだった。
「着替えたか。良く似合っているじゃないか。テロン軍との共同作戦を想定して、この艦にもテロンの装備品の在庫が積んである。サイズが合うものがあって良かったな」
美晴は、口を尖らせたまま、黙っていた。
メルダは、自分の愛機とその横のコスモファルコンをまじまじと眺めると、しばらく考え込んでいた。
「お前には、そのコスモファルコンを使ってもらう。この艦は、あと数分で火星上空へと上がる。そうしたら、そこの機体を使ってお前の実力を見てやろう」
美晴は、整備員が抱えてコスモファルコンに装着しようとしているミサイルを凝視した。
あれを、これから使えというのか?
勝負とは……本当に命の取り合いをしろと?
美晴は、少し青ざめてメルダの顔色を伺った。
それに気付いたメルダは、口元を緩めた。
「説明しよう。これから話すことは、現時点では機密事項だ」
メルダは、今回の機密事項の漏洩が、地球連邦でも重罪であることを簡単に説明した。その上で、現在の状況を包み隠さず美晴に話した。
「デモ活動がボラー連邦のスパイの仕業……!? そんな事、急に言われて信用できると思っているのか!?」
「今の時点でお前が信じられないのは仕方が無いだろうな。しかし、お前も最新の銀河系内の各陣営の勢力図や、その関係を授業で学んだ筈だ。彼らがガミラスとテロンが仲違いするのを望んでいるのは事実だ。そうなれば、彼らにとっての我々の脅威度は大幅に下がるからな。その後は、あわよくばテロンを自陣営に引き込めないか模索するつもりだろう。先のガトランティス戦争で、テロンが強力な兵器を保持している事を知られた弊害だ」
地球の強力な兵器、すなわち波動砲の事を指しているのは、美晴もすぐにわかった。
そして、地球人は、表面的には仲良くしていても、ガミラスへの敵対感情は当時を体験した人々の心の中に未だに燻っている。それは、デモ隊に参加した皆も、そうでない人々も、そして美晴自身もそうだった。
そこに、第三国がつけ込んでくるなど、これまで美晴は想像もしてこなかった。
「証拠はあるのか?」
メルダは首を振った。
「残念ながら、状況証拠しかない。だが、だからといって、我々は手をこまねいている訳にはいかない。これは、ある意味戦争なんだ。何も起こらなければ、それに越した事は無い。だが、起こってからでは遅い。可能な限り、有事を未然に防ぐのも、我々の責務だ」
美晴は、頭の中がすっかり混乱していた。さっきまで、デモ隊に積極的に関わる覚悟を決めたばかりなのに、今度は銀河系を股にかけた諜報戦の話を聞かされて、何が真実か掴みかねていた。
「……なら、まだ信じた訳じゃない」
「それで構わん」
メルダは、愛機に近寄ると、機体を軽く叩いた。
「私は、これから火星宙域の警戒に当たる予定だ。何らかのテロ攻撃の兆候を掴み次第、その脅威を排除する。お前もそれに着いてこい。勝負と言う言葉を使ったが、何も私とお前で戦う訳じゃない。私と共に、この任務を冷静に、着実に遂行しろ。……そうだな、私よりも先に敵を発見し、私に報告して欲しい。脅威の排除に成功した暁には、事件を未然に防ぐのに協力してくれたとしてお前を表彰し、さっきの約束を守るように、ガミラス政府に要請する」
美晴は、命を取り合うような勝負をする訳では無いと知って、胸を撫で下ろした。彼女に負けたく無いとは思っていたが、何も本気で彼女の命を奪いたいと思っていた訳ではないからだ。それに、本当にそのような勝負をすれば、美晴の方が命を落とす可能性の方が圧倒的に高かった。
「話は分かった。……遊星爆弾症候群の治療薬の譲渡に、条件があると言うのは、噂ではなく、事実だったんだな?」
メルダは、眉間にしわを寄せると、汚いものにでも触れた時のような顔をした。
「……そうだ。我が国の政府の考えは、私自身が納得しかねている。大使も大使で、まるで使えん」
美晴は、メルダが何を考えているのか、その瞳を、その表情を伺った。
納得していない? ガミラスのくせに? 地球人に気を使っているというの?
美晴には、その理由が分からなかった。
教科書には、このメルダ・ディッツという人物が、地球人が最初に出会ったガミラス人だったとしか書かれていない。どのような人物か、どのように地球人と交流を深めていったのか、そんな事は当然知る由も無かった。
「なんだ?」
美晴は視線を反らした。
「な、何でもない!」
メルダは、愛機のタラップに足を掛けた。
「お前も乗れ。間もなく、発艦命令が出る」
その頃、マゼラン市郊外の宇宙港では、反ガミラス同盟の会見が開かれようとしていた。
荒垣英子は、息子とともに会見に望んでいた。
多数のマスメディアが取り囲み、フラッシュが眩しく焚かれている。
ショートボブの青い髪が特徴の荒垣英子は、メディア全員、そして生中継される太陽系中で注目を浴びていた。
ガミラス基地前のデモ隊でも、その会見の様子を各自の携帯端末で視聴していた。
「いよいよか」
デモ隊のリーダー小島拓郎は、妻と娘と共に、固唾を呑んでその様子を見守っていた。
今まで公の場に出ることを拒んでいた反ガミラス同盟のナンバー2が、いったい何を語るのか、メディアの注目はその点にも集まっていた。
中央通信社の我孫子は、前列の一番前の席にカメラマンと共に陣取り、その様子を見守っていた。
しばらくして、会場が少し静まった所で、会見は始まった。
「皆さん、お集まり頂きありがとうございます。私は、反ガミラス同盟の副リーダーを務めている荒垣英子です。隣りにいるのは、志を同じくしてくれた息子の瑛太です。彼は、防衛大で今回の件にまつわる学生運動を主導したリーダーでもあります」
カメラのフラッシュが、更に激しく焚かれる。
「既にご存知のように、我々反ガミラス同盟は、地球連邦政府がガミラスの傀儡であると訴えて来ました。
現在、私たちはガミラスと和解した事になっていますが、実際には違います。政府は、ガミラスの言いなりになり、彼らの不当な要求を飲み続けています。今回の火星ガミラス基地然り、遊星爆弾症候群の治療薬の件も然り。私たちは、あれだけの被害を被ってなお、本当に彼らとの和平を望んでいるのでしょうか? 彼らの言いなりになってでも、彼らとこれ以上仲良くすべきなのでしょうか?
彼らに、一方的にやられたあの戦争の時とは違い、私たちには、私たち自身で身を守る術を身に着けました。私たちは、わざわざ他の銀河系から私たちを絶滅寸前まで追い詰めた彼らと、仲良くする理由がありません。それよりも、この銀河系には、私たちのより近くに住む、仲間となり得る様々な種族が住んでいる事が明らかになりました。これから私たちは、もっと彼らとの交流を深め、共存して行く道を探るべきです。
しかし、それはガミラスがいる限り、不可能なのです。彼らは、マゼラン銀河を征服しただけでは飽き足らず、私たちの銀河系への侵略を今も諦めていません。ここ太陽系を、彼らの野望の新たな拠点としようとしているのです。
今こそ、私たちは銀河系の仲間と手を取り合い、ガミラスの脅威に対抗するべきなのです!」
荒垣英子は、立ち上がると、携帯端末を皆に見せた。
「これより、私たちは実力を行使します。ガミラス基地を破壊し、彼らを永遠に太陽系から排除します! この端末から指示を送れば、私たちの仲間がガミラス基地の破壊活動を開始します!」
会見場は、どよめいた。突然の破壊活動の宣言に、フラッシュは激しく焚かれ、メディアは一斉に質問を始めた。その混乱の中、荒垣英子は、笑みを絶やさなかった。
プロデューサーの我孫子は、自身の携帯端末を取り出すと、何処かへと連絡をとった。
「……私だ。あの女を絶対にここから逃がすな」
ガミラス基地前で話を聞いていたデモ隊は、みな、戸惑いを見せていた。
「こんな話、今まで聞いたことねぇぞ」
「おい、リーダーさん! どういうことなんだ!?」
小島拓郎は、青くなって端末を持つ手が震えていた。
周囲のデモ隊メンバーからの叱責は、耳に入らない。
「ねえ、あなた」
「お父さん、どうなってるの!?」
拓郎は、震えが収まらないその手で、会見を映す端末を握りしめた。
俺が聞きたいぜ……。
破壊活動って何の事だ?
そんな準備なんて何もしてないだろうに……。
デモ活動ならともかく、テロ活動を宣言しては、ここに集まった全員がただでは済まないだろう。
その彼のポケットの中では、荒垣から渡された発信機のランプがいつの間にか青くなり、静かに明滅していた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。