条件交渉後、火星ガミラス大使館――。
エリーサは、ガミラス本国への報告の為、亜空間通信でローレン・バレル大統領に連絡をとっていた。しかし、どうしても連絡がつかない。
地球連邦は、提示した一部の難民移送の条件を受け入れる方向で検討を開始した。その報告をしようとしていたのだが、どうやらしばらくの間、バレラスに大統領はいないらしい。
そもそも、今回の件は地球連邦側の感情を逆撫でする提案であり、エリーサ自身も気が進まない交渉だった。真意を大統領に確認できぬまま交渉を始めたものの、直接意図を確かめるべきだろうと考えていたが、一度もこの件で会話が出来ていない。
不安になったエリーサは、前任の地球駐在大使であり、現在は大統領主席補佐官の任に就いているランハルト・デスラーへと連絡をとった。
小さな端末の画面に、ランハルトがようやく現れ、エリーサはほっと胸を撫で下ろした。
「ドメル大使。私に連絡してくるとは、そちらに着任してから初めてですね」
「すみません。あなたの助けを借りるのは極力控えようと思っていたのですが。是非、ご意見を伺いたい事案がありまして」
スクリーンの向こうで、ランハルトは何の話をされるのか、直ぐに気付いたようである。
「話しにくいことですか?」
エリーサは、流石だと思いつつ、黙って頷いた。
ランハルトは、少し思案した素振りを見せていたが、直ぐに回答を示した。
「承知しました。では、こちらから連絡し直しますので、少しお待ち下さい」
そうして、いきなりランハルトは通信を切断した。
エリーサは、再び連絡が来るまでの間をじりじりとしながら待った。しかし、ものの数分で、再び連絡が届いた事が端末の画面に表示された。エリーサは、急いで画面に手を伸ばし、接続を指示するボタンに触れた。直ぐにランハルトの姿が再び画面に映し出された。
「私の個人回線からご連絡しました。セキュリティに問題はありません」
個人アカウントに紐づく公開鍵により暗号化された通信である事をランハルトは言っている。エリーサは、ほっとしたが、彼を信用しても良いのか、若干不安もあった。しかし、このまま何も確かめずにいるよりはましだろうと、覚悟を決めた。
「ご存知かと思いますが、遊星爆弾症候群の医薬品の製造方法提供と引き換えに、難民を一部、ガミラス本国へと移送するよう交渉を申しつかっております。正直、今回の件は地球連邦との友好関係を鑑みれば、条件交渉すべきで無い事案だと、個人的には考えています。今回の件は、直接大統領とお話が出来ぬまま、命令書がこちらに届いておりました。それから直ぐに、科学者らがこちらに到着したので、私も急遽この交渉を開始する事になりました。地球連邦側の世論は割れています。この事について、バレル大統領の真意をお尋ねしたかったのですが、この数日間不在だと言うことで、連絡が取れず少々困っていました」
ランハルトは、まずは大統領の所在について話した。
「大統領は、我が連邦諸国で不穏な動きがあり、軍の派遣についての議論に参加しています。今回は、少々難しい問題をはらんでおり、時間がかかっていると聞いています。私も同行しようとしたところ、大統領府で待機するように仰せつかっています」
ランハルトは、そこで話を止めると、何やら考え込んでいる。眉根を寄せ、何か気になる事に気付いたような素振りだ。
「……今回の交渉についての真意、とのことでしたね。私の知っている事をお知らせしましょう。主だった理由は、二つあります」
「お願いします」
「まず第一に、我々ガミラス人とガルマン人とが本当に同じ種族であるか、医学的に詳細な確認をしようとしています。それには、被検体であるガルマン人自身をこちらに呼び寄せて、確認すべきだとしています」
エリーサは、なるほどと頷いた。しかし、地球連邦側に協力を仰ぎ、大使であるエリーサが動いて火星で進めれば良い話である。わざわざ遠いガミラス本国へ呼び寄せる理由としては弱い。それに、ボラー連邦やガルマン帝国の所属国の難民までは呼び寄せる必要は無い。
「第二に」
ランハルトは、そこで話を切った。
「あなたにも、政府の一員としての守秘義務があります。これから話す事は、内密にお願いします」
「もちろんです」
ランハルトは、重々しく頷くと、続きを話し始めた。
「第二に、彼らと今後、戦争をする可能性はゼロではありません。そのような検討をする事は、政府として当然のことです。その場合、こちらの被害を最小限にとどめつつ敵を攻撃する手段として、遊星爆弾によるロングレンジ攻撃は、過去の実績からも有効です。ここまでお話すれば、おわかりですか?」
エリーサは、直ぐにはなんの事を言っているか分からなかった。しかし、今回の交渉の事を考慮すれば、自ずと回答が頭に浮かんで来た。
「まさか……! 遊星爆弾に含める植物の効果を、難民の人たちで確かめるおつもりですか!?」
ランハルトは、エリーサに、声を小さくするように促した。エリーサも、自身の発した言葉の重みに、はっとして口をつぐんだ。
「流石に、人体実験をしようとまでは考えておりません。身体の組成や、DNAの解析などを行う事になるでしょう。そのサンプルとして、彼らには協力してもらいます」
エリーサは、目を丸くして両手で口元を覆った。
とても信じられないと彼女は思っていた。バレル大統領が、よりによってデスラー体制時代のやり方を検討をするとは、考えもしなかった。
「そのような、非人道的な事に私は加担させられていたのですね……」
ランハルトは、画面に顔を寄せると、小声で言った。
「本音を言えば、私もドメル大使と同じ気持ちです。この件には、私からもバレル大統領に意見しましたが」
エリーサは、ランハルトがそのような陰謀に積極的に加担していたのでは無いと知って、ほんの少しだけ良かった安堵した。
「大統領はなんと?」
「あらゆる選択肢を検討し、準備するのは大統領として当然のことだ……と、仰っていました。つまり、有事の際は、彼らの故郷に遊星爆弾を落とす事も視野に入れていると言うことです。……お前は、考えが甘いと、怒られましたよ」
エリーサは、酷く悲しい気持ちになっていた。
政治の世界は、余りにも残酷だ!
大統領の言っている事を理解出来ない訳ではない。
それにしても、地球人への治療薬の提供の交換条件が、新たな民族への遊星爆弾の効果の確認が目的とは……!
余りにも酷い……
「バレル政権も、かれこれ長く続いていますから、大統領の重責も、次第に重くなっているのは私も理解しています。それにしても、昨今の状況は、まるでデスラー政権時代の末期を彷彿とするような事案が増えてきているので、私も大統領が大丈夫か心配しております」
ランハルトの表情は、相変わらず冷静だったが、微かに憂いを帯びている。ランハルトは、バレル大統領に見出されて、今の立場にいるのは有名な話だ。尊敬する人物を心から案じているのであろうと想像出来る。
そうして、いくつかのやり取りの後、エリーサはランハルトに別れを告げた。
「色々とご説明助かりました。バレル大統領に、よろしくお伝え下さい」
通信を切断した後も、エリーサの心は曇ったままだ。
しばらく、端末を前に、彼女は放心していた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。