宇宙戦艦ヤマト2199 アカデミー   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「アカデミー」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」、「妄執の亡霊」、「連邦の危機」、「ギャラクシー」、「白色彗星帝国の逆襲」の続編になります。


アカデミー9 それぞれの葛藤

 火星上空――。

 

 美晴は、激しいGに耐えながらループを続けていた。背後から、メルダの操るコスモファルコンが同じくループで追ってくる。

「どうした! そんな方法で逃げ切れると思っているのか!? 反撃することも出来ずに、お前は、また私に落とされるんだ」

「……う、うるさい……」

 同じ機体であるからこそ、訓練経験、鍛えられた肉体、そして研ぎ澄まされた精神力の差がものを言う。美晴は、重力加速度に耐えきれず、意識を失いかけている。さっきまで威勢良くメルダに食って掛かっていた口数が、次第に少なくなっていた。

 メルダは、これ以上は危険だと判断した。訓練中に墜落などさせる訳にはいかない。ましてや相手は友好国の学生に過ぎないのだから。メルダ自身は、彼女の技量をある程度認めていたが、精神的に幼稚だと考えていた。

 メルダは美晴を追うループから抜けると、旋回しながら高度を下げていった。

 美晴は、ループに耐える事に必死で、メルダが離脱した事に直ぐに気付かなかった。

「ま、待て……!」

 美晴は、慌ててループから抜け出したものの、機体のバランスを崩してしまった。くるくると機体は回転しながら、地上へと落ちて行く。

 

 

 数日前、ガミラス大使館――。

 

 大使館に呼び出されたメルダは、執務室のソファーでエリーサと向かい合って座っていた。メルダは、出されたガミラスティーのカップに口をつけている。

「佐々木美晴の件は理解しました。そのような事情があったんですね」

 メルダは、エリーサが聞いたという、美晴の母親の陳述を頭に入れ暫し思いを巡らせた。遊星爆弾症候群の治療薬の一件が、彼女の怒りに火をつけていたのだ。肉親がガミラスのせいで病に冒されていた事で医官を目指していたのに、その目的を見失ってしまったのだという。メルダを倒す事で、ガミラスに一矢報いたいといった気持ちなのであろうか。怒りの矛先が、たまたまそこにいたガミラス人に向けられたのだとすると、視野が狭いというか、やはりまだ幼いということなのであろう。

「彼女の事は、承知しました。私に何が出来るか、少し考えてみます」

 エリーサは、にこりと笑っている。

「お願いね。可能な限り、テロン人との友好関係を築いていきたいから。私からの話は以上よ」

 エリーサは、用事は済んだので、メルダには早々に帰ってもらうつもりだった。そうして人を呼ぼうと腰を浮かせ掛けたが、メルダがまだ話したそうにしているのが表情から伺え、仕方なく再び腰を下ろした。

「ところで、個人的に、その、遊星爆弾症候群の治療薬の件について、ドメル大使にお考えをお尋ねしたいと思っておりました」

「私の考え?」

 首を傾げたエリーサは、メルダが何を話すつもりかわからない様子だった。

「ボラーとガルマンの難民を本国に連れ帰るのが交換条件だと聞きました。それも、彼らの母国と戦争になった際の、遊星爆弾の準備の為だと。それは、本当なんですか?」

 エリーサは、お茶のカップに口をつけ、すぐに返答しなかった。メルダの瞳が、僅かな苛立ちの色をみせている。

「さあ、どうかしら」

 メルダは、眉を吊り上げた。

「そう、ですか。言いたく無いのなら、私の意見を話しておきましょう。今回の政府のやり方は、私は間違っていると思っています。遊星爆弾症候群は、テロン人と私たちとの間の最後と言ってもいい、わだかまりです。それを、そんな理由で交換条件にするなど、ありえないのではないですか?」

 エリーサは目を細めてメルダを刺すような視線で見つめた。

「その話、誰から聞いたのか教えてくださる?」

 メルダは、憮然とした表情で、質問の意図を考えた。機密を漏らした者を処罰するつもりなのだろうか? メルダは、無性に腹が立った。

「父からですが」

 エリーサは、なるほどと思った。ディッツ提督は、娘に甘いのは知ってはいたが、重要な機密事項を漏らすとは。流石に、ガミラス軍の最上級将校であるディッツ提督を糾弾する訳にもいかない。

「確認ですが、他に誰にも話していないでしょうね?」

「私だって、これが機密事項だと理解しています。話す訳がない」

 エリーサは、メルダに聞こえるようにため息をついた。どうして、こんな話をしなければならないのか。美晴の母親の心情を思い、ただそれを伝えたかっただけなのに。一介の尉官に過ぎない彼女に、いったい政治の何が分かるというのか?

「……私は、政府の一員であり、外交官の一人に過ぎない。私の立場としては、政府の方針には従うのは当然のこと」

 メルダは、テーブルを思い切り叩き、静かな部屋に大きな音が鳴り響いた。テーブルの上のカップがかちゃかちゃと揺れている。

「私の知っているあなたは、活動家でこそないですが、政府のやり方が間違っていれば、反対する意見を持っているものと思っていました。それがどうして?」

 エリーサは、夫が生きていたあの当時の事を言っているのはすぐにわかった。当時のデスラー親衛隊の横暴に、人々を守りたいと思っていた時期も確かにあった。それも、デスラー政権が崩壊し、ガミラスは大きく変わった。混乱する国内事情もあり、それを収める為に、ディッツ提督らと協力してマゼラン銀河中を巡った時期もある。それも落ち着くと、忙しくしていたエリーサはやることが無くなり、かなり時間が経ってから、ようやく夫が地球人と戦って亡くなった事に向き合う事になった。デスラーが進めた領土拡大政策が、夫が命を落とさなければならなかった根本的な原因であるが、複雑な思いに囚われ、地球人に悪感情を抱いてしまった自分に自己嫌悪していた。

 そうして、暇を持て余していたエリーサをバレル大統領は呼び出し、ヒス政権時代のマゼラン銀河での外交官としての活躍の実績から、新たな地球駐在大使の任を依頼したのである。彼女の思いを知っていた大統領は、この地球滞在で気持ちの整理をつけたらどうかと提案してくれた。エリーサは、チャンスを与えてくれた大統領に感謝しているのだ。

 今回の事で、エリーサはまだ大統領の真意を本人の口から聞けていない。今は、その意向を守るのが、自分の役目ではないのか?

「あの頃は、私もまだ若かったから」

 メルダとエリーサは、暫くの間、互いに睨み合うことになった。

 これ以上は話す事は無さそうだ、と結論付け、メルダは会談を打ち切った。

「そう、ですか。残念です」

 

 

 そして、現在――。

 

 メルダと美晴の模擬戦から数時間後。機体を墜落させかけた美晴は、何とか立て直して地上に降りた。

 しかし、その日の授業の終わりに、美晴はメルダ共々宇宙科の教官に呼び出されて、こっぴどく叱られてしまっていた。メルダも、医学生に対してやり過ぎだと責められており、二人は、一週間は航空訓練への参加を禁ずると言い渡された。

「お前のせいだからな……!」

 美晴は、メルダと並んで教練の廊下を歩きながら悪態をついた。

「おいおい、私のせいにするのか? そもそも、お前がムキになるからだろう。お前は、本当にいい腕をしている。お前の事は、これでも認めていたんだがな?」

 メルダは、済ました顔で彼女に話し掛けた。しかし、美晴は目も合わさない。

「うるさい! それ以上私に話し掛けるな!」

 美晴は、肩を怒らせて足早にメルダから離れて行った。美晴の後ろ姿を見送ったメルダは、立ち止まって腕を組んだ。

「さて。どうしたものか……」

 

 美晴は、メルダと別れると、小走りに校舎を出て宿舎である女子寮の方へと向かおうとした。すっかり日も落ちて、辺りは暗くなっている。頭に血が上っていたのだろう。途中、何人かの学生らにぶつかってしまい、何度か頭を下げる羽目になった。

 その中に、同室の小島咲がいた。彼女は、細身のメガネの男子学生と二人でいたようだ。

「佐々木さん! ごめんなさい。大丈夫?」

「こっちこそ、ぼうっとしててごめん」

 美晴は、暗くて、もう一人が誰か分からなかったが、あまり気にもしなかった。この防衛大では、学生同士の恋愛は基本的に推奨されていない。そのような事を、真面目な彼女がする訳も無いだろう。

「これから、大事な会があるので急いでるの。良かったら、佐々木さんも参加してね! あなたも賛同出来るなら」

 なんの事か分からぬまま、二人は美晴を追い越して、走って行った。

 訳がわからない、と美晴は途方に暮れた。

 空には、もう星が瞬き始めている。

「今日は疲れた……」

 美晴は、そう呟き、重い足を宿舎の方へと向けた。

 そうこうしているうちに、美晴はやっと宿舎に辿り着いた。

 さっきの小島咲の話しが何だったのか、気にならない訳では無かったが、もう今日は疲れたのでふて寝しようと心に決めて、誰とも口を利かずに部屋に向かうつもりだった。しかし、宿舎の食堂で学生らが大勢集まって何やら集会を開いていた。

 美晴は、キョトンとした顔で、集まった同世代の若者たちの様子を眺めた。

 学生らの代表者と思しきメンバー数名が、集まった学生らの前で、演説を打っている。リーダーと思われる細身のメガネの男性が、メガホンを口元にあてて大きな声を上げている。

 美晴は、目が点になっていた。

 ここは、女子寮である筈なのに、男子が数多く入り込んでいる。いったい、これはどういうことだろう? 確かあれは、荒垣という四年生で、校友会の委員長をやっていた人物で、美晴にも見覚えがあった。

 その疑問は、彼らの演説の内容を聞いてすぐに解けた。

「遊星爆弾症候群の治療薬の件で、ガミラスは条件を提示したという。遊星爆弾症候群の被害者は、ガミラスが戦争を仕掛けて来たせいで、長く病に苦しんできたにもかかわらずだ! 彼らは我々に無条件で医薬品を提供するのは当然であり、寧ろ謝罪をするべきである! しかし、政府はこの期に及んでこの交換条件を受け入れようとしているだけでなく、その内容を我々市民に秘匿している! それは何故か!? 伝えられないような、ガミラス側に有利な密約を結ぼうとしているからに違いない! ガミラス軍の基地建設の時もそうだ! 我々の家族を殺戮したあのガミラスの基地を再び太陽系に建設するなど言語道断! これ以上、政府の暴走を許す訳にはいかない! そこで、我々は医学科を代表して立ち上がった!」     

 拍手が起きたところで、リーダーの荒垣は横にいた女子に、メガホンを渡した。

 美晴は、それが同室の彼女であることに気付いて、大いに驚いた。彼女は、美晴の想像よりも、はっきりとした大きな声で集まった医学科の学生たちに語りかけた。

「私の名は、小島咲。皆さん、私たちの活動に賛同してくれたことに感謝します。今、ガミラスに対する怒りは、再び地球で再燃しています。ニュースになっているので、皆さんご存知だと思います。数日後に、地球から反ガミラス同盟の代表者たちが、ここ火星ガミラス基地前での抗議活動を予定しています。私の両親は、地球で反ガミラス同盟の日本支部のリーダーをやっていますが、私も微力ながらこの活動を支援したいと思っていました。この決起集会に集まってくれたあなた方は、志を同じくした同志です。是非とも、この、非暴力の抗議活動に皆さんのお力を貸してください。地球連邦政府が、私たち市民の意見を無視出来ないように、声を大きくして、私たちのメッセージを届けたいと思っています」

 え? 何?

 美晴は、何が何だか分からなかった。

 知らない間に、何だか凄い事になっている。確かに、地球で反ガミラスのデモが活発化していることなど、ニュースで見ていたが、それがここ、防衛大でも盛り上がっている事を、まるでわかってなかった。彼女は、メルダとの空戦で勝つ事に集中し過ぎて、周りが見えて無かったのだ。

 美晴は、他人事のように、集会の様子を遠巻きに眺めた。彼女の近くには、この活動に賛同出来ない者たちも、大勢周囲を取り囲んで眺めている。

 人数を数えたところ、医学科の学生の五分の一といったところであろうか。美晴の周囲の学生らは、教官に通報しよう、などと話している。

 美晴には、何が正しいのかなんて、分からなかった。

 恐らく、自分の今のガミラスへの怒りの感情は、集会に集まっている者たちに近いのかも知れない。

 

 美晴は、その後早々に部屋に帰り、ベッドに潜り込んでいた。しかし、集会が終わったのだろう、同室の小島咲が部屋に戻って来た。彼女は、部屋の仕切りを勝手に開くと、美晴に声を掛けた。

「ごめんね。びっくりしたよね。私も何かやりたいとは思っていて、少し前に委員長の荒垣さんに話したら、凄く賛成してくれて。彼が動いてから、トントン拍子に事が進んで、今日の集会になってしまったの。ご両親の事もあるから、あなたは賛同出来ないかも知れないから、無理には誘わなかったの。ごめんなさい」

 美晴は、顔も出さずに言った。

「疲れてるの。今日は考えたくないから」

「そう、よね。ごめんね。気が向いたら、私の話を聞いてね」

 美晴は、布団から目だけを出すと、ようやく彼女を見た。

「そんな活動をしていたら、退学になってしまうんじゃない?」

「心配してくれてありがとう。でも、みんなその覚悟をした上でやってる事だから」

「そう……」

 美晴は、再び布団を被った。

「もう、寝る」

「……ごめん。また明日ね」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。
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