ランダム展開の世界で冒険者が生きのこるには 作:無料お試しセット
喧噪の先に駆け付けると、冒険者がピンチに陥っていた。*
胸までの長さのハンマーを構えてジャイアントフットと対峙し、防戦一方となっていたのは一人の女性。新人冒険者がゴブリンにでも苦戦しているのかと思って来てみたが、どうにもギルドで見覚えのない相手だったので首を傾げてしまう。
いかにも高そうな衣服と手入れの行き届いた長髪。周囲に仲間の気配無し……なんかワケ有り物件っぽい。既に厄介事の匂いが漂っているが、魔物に襲われている相手を見殺しにする訳にもいかない。僕は模範的な冒険者なのだ。
「も、もう少しで町に着くところでしたのに……っ! どうしてこんな魔物が街道にいるんですのっ!? ぶ、武器の相性が良くありませんわ……! 誰かっ……誰かー!!」
体を一回転させたハンマーの振り上げでジャイアントフットの踏み付けを弾き、その反動を利用して転がるように距離をとった女性の身のこなしからは戦闘への慣れを感じるが、本人も言っているように重量級のハンマーではスピードとパワーを併せ持つバランス型との1対1は辛そうだ。
立ち上がり、肩で息をしている女性に向けてジャイアントフットが跳んだのを見ていよいよ猶予が無いと判断した僕は、魔法で女性を強化する事にした。*
「《強化:未来からの便り》」
「はぁっ……はぁっ……! あ、あれ? ……ちょおおおおっ!」
ハンマーを持った女性は急に軽くなった体に驚きつつ、自身を踏み潰さんと落下してくるジャイアントフットに体を二回転させたフルスイングを叩き込んだ。てっきり一度攻撃を受けるものだと思っていたが、急に身体強化されたにも拘わらず的確に状況を読み取ってカウンターに移れたのは彼女の生まれ持った戦闘センスによるものだろう。
城壁すら破れそうな一撃を受け、ジャイアントフットは足を粉砕されながら水平方向に高速で吹き飛んだ。無数の木々をなぎ倒して遠方の大木に強く叩き付けられた魔物は、そのまま液体のようにべしゃりと地面に落ちて動かなくなる。
「い、生きてますわ……! しかし、この身体強化はどなたが……?」
「……やあ、どうも。大変だったね」*
ここで面倒だからといって無視して立ち去ってしまうと後で手痛いしっぺ返しが来る。実はまだ発現していないだけで、さっき使った強化魔法には強力なデメリットが存在するのだ。
見ず知らずの相手に補助魔法を掛ける事すらグレーなのに、デメリット有りともなれば普通に犯罪である。命を助けた手前、衛兵に突き出される事は無いだろうが……ある程度仲良くなっておかないと後が怖い。
僕は周囲を見渡している女性に近付き、友好的な態度で話しかけた。胡散臭い笑顔で心を隠すのは得意技だ。
「この度は危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」
「いやいや、君が無事でよかったよ。その強化はしばらく続くから、そのまま森を抜けるといいんじゃないかな。町はこの街道をあっちに真っ直ぐ進んで、分岐を右に行くといい」
「あちらですね、親切にありがとうございます。私は、そうですね……旅人。旅人のリシューゲルですわ。冒険者になるためにルーメルの町にやって来ましたの。貴方のお名前を教えて下さるかしら?」
「…………僕はレッド。ルーメルで冒険者をやってる」
「まぁ! 私の先輩でしたのね」
嘘の情報を教えようかと少し考えたものの、どうせ一時しのぎにしかならないので止めておいた。相手は何かを隠しているような口振りだが、これに突っ込むほど僕の危機管理能力は低くない。
人命救助という冒険者としての義理は果たした。初対面の相手に割くリソースとしてはもう十分だろう。
「じゃあ、僕は依頼があるから……」
「お待ちください。これほど強力な身体強化を行えるという事は、レッドさんは強化術を専門にしているのでしょう? 前衛がいないと一人では危険ですわ。私も同行いたしましょう。もちろん報酬は不要です」
「え? いや……」
「遠慮なさらずとも結構ですわ。先程はお恥ずかしいところを見せてしまいましたが、私こう見えて戦いには慣れていますの。貴方の剣として盾として、立派に働いてみせますわ!」
どうやら彼女──リシューゲルは一人でどんどん話を進めていくタイプのようだ。
僕はこれからオルグ討伐だけでなく、薬草の採取という地味な作業を一日かけて行うつもりである。同年代か少し年下くらいの女性と二人きりで草をプチプチと引っこ抜くなんて想像するだけでも話題に困るし、張り切って付いて来たのにやる事が草むしりだなんて彼女が持つ冒険者のイメージまで壊してしまいそうで怖い。
しかし、僕は否定の言葉を紡ぐ直前で立ち止まった。*
まだリシューゲルとは仲良くなれていない。もう少しくらい親睦を深めないと、強化魔法の件を許して貰えないだろう。ここで別れるのは自殺行為だ。
「……わかった。受けている依頼はオルグの討伐と薬草の採取なんだけど、それでもいい?」
「ええ、問題ありませんわ。途中で何かありましたら、何なりと仰ってくださいね」
「うん。その時はよろしくね」
こうして、いつもと違う仕事が始まった。
強化で体力が有り余っているのだろう、移動中ちょこまかとポジションを変えながら色々と話しかけてくるリシューゲルを受け流しながら歩くこと約二時間。太陽の位置も高くなってきた頃になって、依頼票に書かれていた地点に到着した。小さな崖に囲まれているような山の窪みには比較的新しく作られた洞窟があり、入口近くには掘り出された土が積み上げられている。オルグの巣だ。
「あれ、てっきりはぐれオルグを捜索して倒すのかと思っていたのですが、巣の掃討でしたのね。これ、やはり私が付いてきて正解だったのでは……?」
「そうかもね」
彼女のあしらい方にも慣れてきた。初対面の相手と会話するスキルが上がったような気がする。やはり何事もチャレンジする姿勢が大切なのだろう。日々成長……悪くない響きだ。
長居しても仕方がないので、さっさと巣を攻略してしまおう。
僕は少し考え、リシューゲルを一人で行かせる事にした。*
道中、思っていたより会話が弾んでしまったので、ここで一旦クソ男ムーブをしてバランスを取っておこう。嫌われても強化魔法の件が怖いし、仲良くなり過ぎてもワケ有り物件っぽいので怖い。好感度の狭間を見極めろ。
それにリシューゲルは美人で腕も立って胸も大きいので、仲良くなるとギルドで同業者からやっかみを受けそうな気もする。ここらでちょっとブレーキをかけておこう。付かず離れずの距離を保つのだ。
「えぇ……? いえ、私は構わないのですけど、レッドさんと離れてしまうと本末転倒な気がするのですが……」
「この辺りの魔物なら一人でなんとかなる。洞窟内で後ろを取られないように入口を見張っておくよ」
「まぁ……貴方がそう仰るのでしたら従いますわ。ただし、不慮の事態があればすぐに大声で私を呼んでくださいね?」
今の彼女ならオルグどころかワームすら一人で蹴散らせるだろう。しきりにこちらを気にしているリシューゲルを見送り、僕は洞窟の入口で待機する事にした。
ちなみに見張りが必要だと思ったのは本当だ。理由は分からないが森の浅い場所にジャイアントフットが出てきていたので、普段は遭遇しないような強力な魔物と出会う可能性を考慮しての事である。
数は少ないものの、この森にも魔法を使うタイプの魔物は存在する。後ろから水を流されでもしたら大変だ。
ズドン、ズドンと大砲のような音が森を揺らす。人が持てるサイズのハンマーから発生しているとは思えない程の衝撃。
この調子ならオルグの討伐に関しては心配いらないだろう。そもそも、彼女は未強化状態でジャイアントフットとやり合っていたような女性である。リスクのある強化魔法を使っている事もあり、たとえ洞窟が崩落したって泳いで地上に出る事が可能だ。
そんな事を考えている内にも音は止み、額に汗をかいたリシューゲルが戻ってきた。
「……感動しました。体が軽くて、思った通りに動いて……レッドさん、貴方は私の命の恩人であり、同時にコルベル領の宝ですわ……」
勝手に地域の宝にされてしまったが、満足してくれたようで何よりだ。
僕は入口付近にいた数匹のオルグから討伐証明となる部位を剥ぎ取った後、洞窟奥へは行かずに引き返す事にした。洞窟の中に全部でオルグが何匹いたかは知らないが、巣を掃討すると後日ギルドの調査員が来て詳しく調べてくれるので数える必要がない。全部を剥ぎ取るのも面倒だし、たった数匹分の前払い報酬でも今日の宿には泊まれるし飯は食える。
洞窟の外から入口を軽くスケッチし、これでオルグ討伐の依頼は完了だ。ここから先はギルド側の仕事である。
リシューゲルが同行すると言い出した時にはどうなる事かと思ったが、予定より早くメインの依頼が終わったのでサブクエストも余裕で達成できそうだ。折角だし薬草も彼女に採取してもらう事にしよう。
薬草の群生地はオルグの巣と町の間くらいの位置にある。帰路という事もあって行きよりも足取りを軽くして小一時間歩いた僕達は、特に魔物とも冒険者とも会う事なく目的地に到着する事ができた。
「あの……薬草の採取ですが、全部途中で千切れてしまって……申し訳ありません……」
力が強くなり過ぎてブチブチと葉っぱを千切る事しか出来なかったリシューゲルに真顔で視線を送りつつ、僕はノルマより少しだけ多い量の薬草を採取した。全部採らないのは地域住民の暗黙の了解だ。
まだ日も高い時間ではあるが、もう仕事が終わってしまった。キツめに強化した前衛がいると本当に楽ができていい。これで二度と会わない相手だったらもっと良かったんだが……未来の事を気にしても仕方がない。怒られないように祈るんだ。
サブクエストを達成し、本当の帰路につく。
町への戻り途中も魔物と遭遇する事はなく、お喋り好きの美人が周りをうろちょろしている事以外は穏やかなハイキングのようだった。
「本日は本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません。この町にいる知り合いに報告があるので、今日のところは失礼いたしますね。またすぐにお礼に伺いますわ」
町に着くなりそう言うと、リシューゲルは役場の方向へと歩き去って行った。旅人がそっちの区画に何の用があるんだろうね。不思議だね。
今日の恩なんて忘れてもらっても全く構わないのだが、真っ直ぐな彼女の性格からして忘れる事は無いだろうとも思う。礼儀正しいし嫌いなタイプではないのだが、トラブルメーカーな感じがするのでパーティを組むのはちょっと……という印象の女性だった。
「……あ」
一人になり、依頼報告のためにギルドに向かって歩いていた僕は、彼女に身体強化の代償を伝えるのを忘れている事に気がついた。ある程度仲良くなった今こそベストタイミングだったというのに。
「……まぁいっか」*
一回別れたから探すのは無理だ。無理。こういう時には諦めも肝心である。
僕は一旦止めていた足を再び動かして冒険者ギルドに向かい、報告を済ませて依頼料を受け取った。
色々あったが、これで今日の仕事は終わりだ。
明日は平穏に過ごせるだろうか。
馬車が襲われていた 0
ヒポポッタスがピリリートしていた 0
気のせい。何もなかった 0
魔法で女性を強化する事にした 0.951225409
短杖でジャイアントフットを殴りつける事にした 0.6056073146
無視して先を急ぐ 0.09983237392
同行させる 0.3118623584
魔法で魔物をあぶり出す事にした 0.4394239167
リシューゲルを一人で行かせる事にした 0.8568714745
リシューゲルに作戦を立てさせる事にした 0.121810479
探さない 0.4268547394
全然変な選択肢が選ばれなくて困惑してます。
まるで普通の小説みたいだぁ……
翌日は……
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冒険に行く
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町でブラブラする
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森を散策する
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デメリットの件で怒られる