今回の登場人物
柿崎国治…神戸が2年間の謹慎処分を受けていた間、様々なトリガーの調整や技の開発、実験等に沢山付き合ってくれた根っからの善人。神戸の数少ない友達の一人にして、困ったら頼れる兄貴分なのだが実年齢は神戸のが上である。密かに神戸を隊に呼びたいと思っているが誘って入れる程踏み切れていないのが現状。
緑川駿…神戸の事は一切知らなかった。ザキさんをフルボッコにしている神戸を見て、思う所があり神戸をボコそうとしたワンコ。蓋を開けてみるとザキさんとは仲良しな上神戸の独自のスタイルと圧倒的な強さに憧れを抱き始めた。やはりワンコである。
個人戦のロビーに着いた俺はあることに気付いた。
-----誰かしら誘わないと個人戦出来ねぇじゃん……。
俺がボーダー内で顔を出していたのはもう2年半も前だ。大半のボーダー隊員が恐らく俺は分からなくなっている事だろう。そして残念ながら俺は誰かしらに話しかけるコミュ力なんてものは無い。だが俺は誰かしらと個人戦をしたいのだ。どうすればいいか。
少し悩んだ結果俺は話し掛けられるのを待つ事にした。我ながら大変馬鹿らしいと思う。ちなみに今画面の前では緑色の少年と槍使いが何やらバトっていた。槍使いはあの槍を見る限り恐らくA級だろう。少年の方は分からないが…それでも中々の手練であることは動きから予想がついた。
「あれ?神戸じゃないか!!謹慎は解けたのか?」
バトルを眺めていると後ろから驚いたように話しかけられた…と言っても周りに配慮してくれたらしく後半は小声だったが。大変有難いことである。神は俺に救いの手を差し伸べてくれた、グラシアス!
俺は後ろを振り向くと目には柿色の服が入った。顔を上げると目には見慣れた顔…柿崎隊隊長の柿崎国治の顔があった。
国治は俺の数少ない友達だ。ボーダーの入隊時期も近く、話しやすかった事もあって仲良くなれたし、俺が謹慎になっていた時も俺の実験と称した新技の編み出しにも手伝ってもらったりしていた。むちゃくちゃ優しい奴である。
「チームの方のランク戦は来シーズンからだけどな。個人戦は今日から再開なんだ。早速1戦やらないか?」
俺としても相手が見つかったのは大変ありがたい。今日は隊のメンバーとご飯に行くとか言ってた気がするんだが大丈夫だろうか。
「あとちょっとでここを出なきゃ行けないからなぁ…1戦だけならいいぞ。」
国治の優しさに感謝しかない。相も変わらず良い奴である。ナイスガイだな。
「よっしゃやるか。俺はバイパー使う事にするわ。」
久しぶりなので順番に試していきたい所だ。今回は5本勝負で国治はアステロイド(突撃銃)を使うらしい。大して俺は射手としてバイパーを使う……尤もダイヤモンド型にトリオンキューブを割っている改造付きなのだが。
『個人戦1本目、スタートです。』
無機質なアナウンスと共に試合開始の合図が告げられる。
今回の個人戦はお互い1種類の攻撃トリガーとシールドに絞ってやっている。今後チームでのランク戦に参戦する場合はいつものトリガー全てという訳にはいかず、ある程度制限されるからだ。
「バイパー!!」
俺はきっちりと弾道を引いて手持ちのバイパーのうち7割程度を目の前の国治へと向けて放つ。
「シールド!」
勿論当然の如くシールドで防がれる。俺は残しておいた3割をシールドを貼っていない両サイドへと入れる。勿論少量のシールドでは防げる範囲だがその為には国治は全防御に入るしかない。だが入れば一方的に削られるだけだ。時間差射撃というやつである。
「うぉぉぉぉ!!」
国治は1歩下がり、突撃銃の銃撃でバイパーを相殺するという高等テクニックを披露してみせる。このスタイルで定期的に国治とやっているだけあって対応もしっかりしているのは流石と言うべきだろう。そのまま国治から弾丸が飛んでくる。真正面から飛んでくるので防ぐ事自体は容易だろう。
「シールド!C1!」
俺はシールドでそれを防ぐ。と言っても俺のシールドは改造したと言う通り普通のシールドと一点だけ違う点がある。シールドのカラーバリエーションだ。俺のシールドはC1からC5までの計5色に試合中に必要に応じて色変えが出来る。C1というのはデフォルトカラーの半透明のシールドの事だ。一見すると大した意味が無いように感じられるだろうが、シールドで相手の目眩しをしたり、色を変化させる事で相手の集中力を乱したり出来る、と言ってもこれらに大した意味は無い。
大半の人間からすれば罠みたく何かしらの仕掛けがあると思わせられるだろう。それが1番のメリットである。
『罠があると思わせるだけで意識の何割かは奪える』というのはボーダー隊員ならば誰もが知っている教訓だろう。つまり罠のブラフは大事という事だ。それに人は予想できないことが起きれば動揺する。まぁ要するに色つきの理由の八割は相手の思考を掻き乱すためである。慣れてくるとあんまり意味は無いし大差もない。とは言え色付きなのを利用して視界を遮ったりは出来るのだが。
「シールド!C5!からのバイパー!!」
俺はわざと国治の前に真っ黒のシールドを面積は視界を覆うほどに大きく、厚さは極薄で貼る。ちなみにC5は一切の透明感の無い真っ黒だ。Cはカラーの略である。
「…え?うわぁぁぁ!!」
国治は俺がシールドを貼った事に困惑し一瞬手が止まる
、俺はそこを見逃さず……と言っても見えないのだが、シールドの裏からバイパーの集中砲火で国治の供給機関を破壊する。
『トリオン供給機関破壊、柿崎ダウン』
無機質なアナウンスと共に1戦目の勝利が告げられる。最初A級トリガーの俺とバトルした時は5秒位で落ちていた事を考えると国治の成長を伺える。
そして二戦目がスタートする。国治は開幕そうそう凄い勢いで突っ込んできた。あの突撃銃のトリガーを持ちながらなので流石に多少速度は落ちるが、それでもトリオン体なだけあって中々に速い。
「バイパー!!」
俺は後ろ歩きをしながらバイパーを国治に向かって放つ。国治は俺に対して最短ルートで突撃している。俺と国治の一直線上、国治の胸あたりにバイパーを放つ、バイパーの軌道を工夫して同じ位置に遅効させて何度も弾が来るように弾道を引きつつ、横にスライドされて逃げられないようにそれぞれ1割程度のバイパーの弾で横道を塞ぐ。
元々俺と国治のトリオン差では多少集中シールド気味、或いは固定シールド気味に防ぐ必要がある。少なくとも狙い通り、とは行かないだろう。
「クソっ…シールド!シールド!」
だが国治は全防御に入り集中シールドを貼る。弾がワンパターンかつ狙いが正確な為、シールドの位置を合わせるのは容易だろう。だが当然全防御に入ってしまった為多少なりとも俺に猶予が出来る。
「バイパー+バイパー…をしている余裕は無さそうだな。じゃあ普通にバイパー!!」
合成弾、と呼ばれるこれは今A級にいる出水が開発したものだ。天才肌らしくなんかやったらできたとの話らしい。出水が正隊員になった頃はまだギリギリだが伊勢隊は存在していたので出水の事は知っているし、合成弾の存在も教えてもらった。
ちなみに本来ならばバイパーのトリガーは両方に入っていないが、普段からトリガーチップと専用の工具を持ち歩いているのでトリガーを自力で入れ替えることが出来る。エンジニアの性と言うやつだ。バイパー1本で対戦するという話になった時にバイパーのトリガーチップを入れさせてもらった。
だがまぁそんなものを撃っている余裕は無さそうだな。
俺が放ったバイパーから身を守るようにトリオン供給機関と頭に集中シールドを貼った国治だったが、今までと違い俺が狙ったのは足だ。国治の両足は弾が当たって無くなり、そのままその場で倒れる。それを確認した俺は一目散にその場から逃げ出した。
態々足の無いやつと戦わなくても勝ちだろだってこれ。
結果、無事二戦目も勝利する。というか1戦だけって言ってなかったっけ国治……時間大丈夫なのか?
「すまねぇ…そろそろ時間だから俺は行くわ。それにしても神戸は相変わらず強いな。」
「国治だって強くなってて驚いたぜ。またやろうな!」
「おう!いつでも誘ってくれ!」
そのまま国治は隊のメンバーとご飯へ行くためにその場を後にした。
バイパーのポイントは6059→6165となっていた。まぁ元々バイパーをそんなに多く使って来ていた訳じゃないし2年の謹慎期間があった。仕方無いだろう。
「さっきのバトル凄かったね……次は俺とやらない?」
そう言って話しかけてきたのは緑髪のさっきの少年、バトルを見ていた限り相当な手練なのは間違えないだろう。ところで敬語はどうしたこいつ。絶対俺より年下だろうよ。
「いいけど……フル装備でやってもいいか?」
「こっちもフル装備だし別にいいけど……というか手加減して勝てるほど甘くないよ。」
それはさっきの動きを見ていて俺も感じた所である。
「まぁなんでもいいけど5本勝負でどうだ?」
「それでいいよ、俺の名前は緑川駿、あんたは?」
目の前の緑川は挑発的な笑みを浮かべている。流石に負けることは無いという自信…いや慢心が心の奥底にあるように見える。
「俺は神戸真だ。んじゃやりますか。」
俺はトリガーチップを弄り、いつものトリガー構成のうちの1つをセットする。
『個人戦1本目、スタートです。』
俺はCCスコーピオンを起動する。CCとはカラーチェンジの略だ。要するにシールドと同じく色を変化させられるスコーピオンという事だ。今回のカラーはC4を使おう。
「さて、悪いけど本気で行かせて…え?」
『トリオン供給機関破壊、緑川ダウン』
緑川が驚くのも無理は無い。開始早々にして緑川の胸部に刃が刺さったような穴が空いていたのだから。そして目の前には何も見えてかったはずだ。勿論目を凝らせば見えるのだろうが。
スコーピオンはシールドと同じように5色のカラーチェンジが出来る。さっきも見せたようにC1はデフォルトのカラー、そしてC5は透明度が一切ない黒色である。そして今回セットしているのはC4……C5と対になるような、透明度100%のトリオンである。
勿論光の歪み具合なんかでゆっくり目を凝らして見るなり、音を聞くなり方法はあるのだが初見でこれに気付ける人間などまず居ないと見ていいだろう。あの太刀川ですら初見では食らったぐらいだ。迅さんは未来視のせいでものともして居なかったが。
『個人戦2本目、スタートです。』
俺はさっきと同様にスコーピオンを出す。流石に2度も許してくれる程敵は甘くは無いだろう。俺は逆側の手でバイパーも構えておく。傍から見ているとシールドの用意とバイパーを構えている様に見えるはずだ。
「さっきは一体何が…!?そういう事か……グラスホッパー!!」
どうやら2度は上手く行かなさそうだ。一体どうやって気付いたのかは謎だが、俺のスコーピオンの色が透明である事に気付かれてしまったらしい。グラスホッパーで距離を取られる。だが緑川もメイントリガーは剣のはず、近付かなければ攻撃は出来ないだろう。
「それならば…バイパー!!」
俺はバイパーで緑川の逃げ道を封じようとする。当然の反応だろう。緑川は俺の前へとそのまま突っ込んで来る。俺はそれを見てバイパーを即座にアステロイドに切替える。
「甘いな…アステロイド!!」
アステロイドは射程25、弾速40、威力35でぶっぱなす。元々俺はトリオンはかなり高い、緑川のトリオンがいくつかは分からないがアタッカーである以上そう高くは無いと見ていいだろう。なのでこれでも簡単なシールドでは致命傷を追う筈だ。俺は7割程度を緑川に向けて放ち、残りの3割を置き弾にしておく。
「シールド!」
緑川は全体に向けてシールドを貼るが、シールドもあえなく壊れてしまい、そのまま爆散していった。今回は小技と言うよりは力押しの勝負だった気がする。緑川は恐らく俺の透明スコーピオンを警戒していたのだろうが宛が外れたな。
『個人戦3本目、スタートです。』
「それなら…グラスホッパー!!」
緑川は開幕1番俺の透明スコーピオンの即刺しを避けるためか1度グラスホッパーで左に飛んだ後で、グラスホッパーで俺との距離を詰めてきた。さて……弾幕トリガーで応戦してもいい所だが…。
「エスクード!!C1!!」
俺はエスクードを使い緑川との間に壁を生み出した。このエスクードはシールドのように色や大きさを調整出来るエスクードである。勿論本来のエスクード同様に生える元となる場所が必要だったり、恐ろしく固い等の要素は変わっていない。
「からの…バイパー。」
俺は緑川に聞こえない様に囁き声で唱える。バイパーは本来緑川がいるはずの位置の真上を通り、そして真後ろへと攻撃が直下し、緑川へと向かうように弾道を引いている。
「グラスホッパー!!」
緑川はそれを勘で察知したのか右側にグラスホッパーで飛び退く。だが残念な事にそこには俺が先程置いた置き弾がある。そのまま置き弾にあたって緑川は再び爆散する。この時点で勝ち越しなのでここからは多少遊びを入れてもいいだろう。やっぱり俺のサイドエフェクトは強すぎる……のかもしれない。
『個人戦4本目、スタートです。』
「グラスホッパー………えっ!?」
開幕早々に緑川はグラスホッパーを使い後ろに飛んだ、それは恐らく透明スコーピオンを避ける為……の筈だったが、緑川の胸部にはまたもスコーピオンの跡が着いていた。
俺のやった事は透明スコーピオンを利用してのマンティスで無理やり射程を伸ばした。これは影浦と言う可哀想なサイドエフェクトの持ち主が開発したスコーピオンを2つ繋げて無理矢理射程を伸ばす裏技である。これを透明なスコーピオン×2でやると見えない上に届く筈の無い範囲から攻撃が飛んでくるクソゲーとなる。但し全攻撃になってリスクも大きいので余裕の無い時にやることは無いのだが。
『トリオン供給機関破壊、緑川ダウン』
『個人戦5本目、スタートです。』
「シールド!」
緑川の次に取った作戦は初手から頭部と胸部に集中シールドを貼ると言うものだった。確かにそれならば胸部へ向けたスコーピオンは防げるだろう。だが……
「エスクード!C5!」
俺のとった行動もまた初手防御だった。シールドやスコーピオンと違い、エスクードのC5は射手としてのトリオンキューブと全く同じ色の半透明である。それを見た緑川は距離を詰めてくる。対する俺はと言うと……。
「アステロイド+アステロイド=ギムレット……。」
合成弾を練っていた。今回は単純にアステロイドの性能が2倍になるギムレット。俺は合成弾の作成に必要な時間は約4秒。出水や二宮さんはだいたい2秒で組めるらしいのでタイムとしてはそこまで早くは無いのだろう。ちなみに半透明エスクードだが、トリオンキューブと全く同じ色なせいで俺が何をしているのかはマジで見にくい。国治に長い間付き合ってもらって目で見てもほぼ分からないだろう。
「グラスホッパー!!」
緑川はどうやらエスクードの左から飛んで攻撃する事を選んだらしい。だがあっちには見えていなくて、俺には見えている。
「ハイハイ!発射!!」
俺はギムレットを緑川に発射する。
「やっぱそう来ると思ったよ!シールド!」
対する緑川だが、器用にも空中で固定シールドを使って受ける気らしい。確かに普通のアステロイドならばそれで良かったが……
『トリオン供給機関破壊、緑川ダウン』
ギムレットの火力には通用しない。合成弾というのはやはりやばい気がする。この世に綻びる悪だろコレ。
「な……んで……。」
こうしてVS緑川は5戦5勝という素晴らしい結果で終わった。
これにより、アステロイド10095→10216、スコーピオン9561→9615となった。二年謹慎していたが別にポイントを取られた訳でも無いし、2年前迄にも定期的に俺のトリガースタイルとサイドエフェクトで荒稼ぎしていただけあってそこそこにポイントは高めだ。
「完敗でした…神戸先輩、最後の奴アレどうやったんですか?」
何やらシュンとしている緑川だが動き自体は悪くなかったと思う。
「ん?あれはアステロイド2つ合成してギムレットにしただけよ。あのエスクードの色がトリトンキューブの色と全く同じになってるのよ。」
「凄いですね……こんなに凄いのに神戸先輩ってなんで今までランク戦で見なかったんですか?」
緑川が目をキラキラさせながら言ってくる。とは言え2年も謹慎してましたなんて言える訳も無い。俺としては事情はあまり人に離したくはないのだから。
「まぁ色々とな…それよりもどうやってあの透明スコーピオンに気付いたんだ?」
これが一番の疑問だ。気づいたからと言ってそうお手頃に対策出来るものでは無いはずなのだが……。
「先輩が逆側の手でバイパー出したじゃないですか?」
「出したな。」
それがなんだって言うんだ。
「あの時、バイパーの光が不自然に曲がったんですよ。それで分かりました。」
まさかあのバイパーが悪手だったとは思いもよらなかった。負けたわけじゃないが敗因は屈折なのはどうなのだろう……今度上手いこと消せないか試してみるか。
「それは予想外だったな…。」
「取り敢えず先輩連絡先交換しましょうよ!またバトルしたいです!!」
「えぇと…まぁ、また明日にでもやろうぜ?」
俺は周りから向けられる視線に辛いものを感じたので今日の所は退散したいのだ。サイドエフェクトのせいで尚のこといい気がしない。
俺はその場から逃げるように去っていくのだった。
神戸の心の声
→柿崎……数少ない友達、むちゃ良い奴。
→緑川……才能を感じるワンコ
←柿崎……友達、可哀想な奴。化け物。
←緑川……生意気そう→強いしカッコイイ!
神戸の個人ポイント
アステロイド→10216
スコーピオン→9615
バイパー→6165
2年間の謹慎があってなおこのポイントなので相当の手練。2年間の謹慎処分がなければ普通に射手の中でもトップ3、攻撃手の中でもトップ5には間違えなくいたと思われる。