「騙し騙しでやってたけど、もーう限界だからメンテナンスするね!」
クロージャは部屋の扉を蹴り開け、言うだけ言って去っていった。
手元に視線を落とせば、先ほどまで艦内をモニタリングしていたPRTSは『ただいまメンテナンス中です』と簡素なメッセージを表示して、うんともすんとも言わなくなっていた。
「いつもの事だけど、急だねぇ」
「ようやく落ち着くと思ったのに、また騒がしくなりそうね…」
ブレイズとオーキッド(業務過多なので秘書を増やした)も書類を抱えたままぼやく。
クロージャはワルファリンと同じくかなりの変人なのだが、恐ろしく有能だ。彼女が居なければロドスは航行出来ないだろう。インフラと言ってもいいので、多少の奇行蛮行ぼったくりは目を瞑らざるを得ない。不服だが………不服だが!
しかし、PRTSが使えないとなると業務に不都合も出てくる。悲しいがテラの大地が問題だらけで明日にでも『海』に飲まれそうであっても、食っていくための金がいる。半日分の指示は既に出しているが、明日の計画など、まだ伝えていないこともある。どうしたものか。
「ここのところ、ドクターくんも部屋に篭りきりだったし、散歩がてら現場に行けばいいんじゃないかしら?」
「いいね!今ある書類も私達だけで片付けられるし、行ってこれば?」
ふむ…
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結局彼女達の提案に乗り、直接現場を回る事にした。
ところで、ロドスアイランドの艦について諸君はどのくらいのことをご存知だろうか。
現在、全長約870m、全幅約350m、全高約200mとなっている。これがどれくらい大きいかと言うと、かつてイベリアに存在したという空母なるもの3隻分。歩くと端から端へ行くのに20分ほど掛かる大きさだ。
そこに源石研究施設、鉱石病治療研究施設、訓練所や移住区などが詰まっており、内部は数字以上の広さを感じる事が出来るだろう。
そして私も今知ったのだが、ロドスアイランド艦の床は冷たい。頬で感じるに夏はこれで涼が取れそうである。
そうやって私が床の冷たさを堪能していると、やや静かめのモーター音が近くで聞こえる。その方へ視線を向けると、丸くキュートなボディに備え付けられたカメラと目が合う。ランセットだ。
「ドクター様、床に突っ伏すのは何かの儀式か何かでしょうか?」
いいや、そんなたいそうなものでは無い。ただ単に体力が尽きて行き倒れていただけなのだ。
「それはそれは…でしたら、私がドクター様を各施設へお運びしましょうか?PRTSのアップデートの関係でロドスのネットワークに接続出来ないので非番を言い渡されているのです」
そう言うことであれば…と提案に乗ることにする。そろそろ床の冷たさにも飽き飽きしていたところだった。
ランセットは作業プラットフォームの一部を車椅子のように展開する。
「どうぞドクター様。快適とは言えませんが床よりは上等だと思います」
床の方が快適ならクロージャに文句と予算を渡す事にしよう。
ーーーー
「………要介護老人?」
「ラヴァちゃん!」
開幕の一言目にしては酷く辛辣ではなかろうか。私はラヴァを抗議の目で見る、が、車椅子ランセットに揺られる姿ではこれっぽっちも迫力はないだろうが。
姉のハイビスが叱ろうとするのを止め、ラヴァに業務に支障が無いか尋ねる。
「あ〜、人手がちょっと足りてないけど、まぁギリ問題なく進められる範囲だな」
「そうだねー。うちの班は回るけどいざって言う時に欠員出ると厳しいかも」
ふむ、ちょうどオーキッドを秘書に任命した関係でA6のメンバーの配置を考え直そうとしていたところだ。何人かをそちらに回す事にしよう。
「げ、A6か……スポットさん回してくんない?」
あからさまに嫌な顔をしたラヴァをハイビスが叱るのだった。
ここは大丈夫そうなので、次は貿易所に向かう事にしよう。確かいくつか業者が入る予定だったはずだ。
【PRTS】
正式にはPrimitive Rhodesisland Terminal Service。
ロドスの業務用ネットワークシステム。遠隔戦闘指揮や業務サポートなどこのシステムによって提供されるものは多岐に渡る。
ときおりサーバーメンテナンスがクロージャによって行われるため、その際にはメンテナンス時間込みの指示が出される。