「足腰を悪くしたか、我が盟友よ」
随分な挨拶じゃないか、シルバーアッシュ。
ランセットに連れられた私を見ての感想はラヴァとそう差があるものではない。
私がそこまで歳を召したように見えるのか?
「フッ、そうむくれてくれるな。詫び代わりに今回も良い取引が出来るように尽力するとしよう」
私は立ち上がり、シルバーアッシュとマッターホルンと握手を交わす。彼らはカランド貿易。イェラグというカランド山という雪山を信奉する小規模の宗教国家で、輸出業を行っている組織だ。
ただし、我々ロドスと同じくある程度の軍事力、私兵を抱えている事がわかっており全幅の信頼を寄せるにはややきな臭いものはある。まぁ、この大陸ではありふれた事ではあるが。
「先日、『海』とやらの出来事で大打撃を被ったそうだが、お前は大事ないか?」
私は特に怪我も何も無い。だが、失ったもの多い。ケルシーやアーミヤの穴は大きすぎて未だ塞ぐ事が出来ていない。
「ケルシー殿とアーミヤCEOか……それは惜しい人達を無くしたな。墓はあるのか?あるのなら、礼を捧げたい。取引という間柄ではあったが彼女らにも恩がある」
もちろんだ。あとで案内させよう。
ところでイェラグの方では変わった事は起きていないだろうか?
「いいや、良くも悪くもイェラグは変わらずだ。心配性の“巫女様”がエンシアを心配していたくらいか」
彼の言う巫女様は妹であるエンヤ、コードネームプラマニクス、エンシアはコードネームクリフハート。プラマニクスは現在イェラグで巫女として動いているが、クリフハートは鉱石病治療でロドスに滞在している。
『海』で多数のオペレーターが死傷したことで心配していたのだろう。
幸いな事にクリフハートは別件で任務に当たっていたので、巻き込まれずに済んでいる。
「そうか…それなら良かった」
僅かに安堵の表情を浮かべたのを私は見逃さなかったが、わざわざ指摘することもない。
シルバーアッシュは冷徹だが冷血ではない。イェラグの未来を守りたい……そう言った人の心を持った人物だ。まぁ、ちょっと一言二言足りてないのは玉に瑕なところではあるが。
あぁ、そう言えば………とシルバーアッシュにマッターホルンを派遣して欲しい旨を伝えると、快く了承を得られた。
人手が足りて居ないのだ。特に厨房の。
後ほどマッターホルン雇用の書類を持って来させることを伝え、彼らを霊園区画へ案内するよう手隙のオペレーターに伝える。彼ら見送りながら、ランセットに腰掛け移動するように頼む。今日はカランド貿易ともう一件来訪があるのだ。
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「あ、リーダー!怪我したの?それとも腰を酷使するような事した?」
近くで作業していたアンジェリーナが荷物を落としそうになっていた。
私は暫し考え……した、と答えた。
アンジェリーナは荷物を落とした。
「え?マジ?」
あぁ、マジだ。ここ最近は46時間超座り仕事をしていた。十分“腰を酷使するような事”だろう。
エクシアはそれを聞き、一瞬キョトンした顔をするが、すぐに笑い声を上げる。
「なるほどねーそれはさぞ腰に悪いだろうね!」
相変わらずエクシアは喜怒哀楽がはっきりして、元気いっぱいだ。
とはいえ、こうやってずっとお喋りをする訳にもいかない。仕事の話しをするとしよう。
「あーっとね。まぁ、今回も“多少”トラブルはあったけど、ご注文の品物は無事搬入完了!って、感じかな」
ペンギン急便の言う多少のトラブルは、大体多少では言葉が足りない事が多い。恐らく今回もまぁまぁな物的損害が出ているだろう。ペンギンが机を叩いている様が想像できる。
だが、それもペンギン急便の有名税みたいなものだ。
「今回はいつもより配達物多かったけど、やっぱり大変?」
彼女も『海』の事を聞いていたのだろう。珍しく気遣う声色で尋ねてくる。
大変は大変だ。先ほどの通り私は長時間労働しなくては立ち行かなかったし、ブレイズのように戦闘オペレーターから身を引いたものも多い。
「そっかー、だよねー。そこで!ボスが大変だろうから手を貸してやれって指示を受けたので、しばらくロドスでお世話になるね!!これ契約書!」
エクシアから書類を受け取ると、付箋が挟まっているのに気付く。皇帝からだ。
《貸し》とだけ書かれたそれを見て思わず苦笑いする。
こちらとしてはありがたいが、龍門の方は問題ないのだろうか。
「まぁ、最近スラムとか難民の感染者を集めて部隊を作ろうとか、ちょっときなくさい話しは出てるけど、概ねいつも通り騒がしい感じだよ」
感染者の部隊。龍門はレユニオンによって実際に被害を被った都市だ。そこで感染者の部隊を作るというのは、かなり反発があるだろう。ウェイ長官は何を考えているのだろうか…。
いくつか浮かぶ嫌な予想を振り払い。エクシアに人事部へ向かうように伝える。
彼女はにこやかに手を振り、去って行く。
『海』の事態は思った以上に各国に影響を与えたのかもしれない。
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カシュッといくつものロックが解除され、隔壁が開いて行く。
ランセットにここまでで良いと伝え入室する。
「ドクターじゃん、どしたの?メンテは連絡した通り、あと1時間くらいで終わるよー」
用はそちらではないと厳重に保管されている容器を見る。
黒い鉱物のような身体を持った怪物『Mon3tr』だ。ケルシーが体内に飼っていた謎の生命体でエリジウムの報告によれば、押し寄せる恐魚を焼き払うなど驚異的な戦闘力を持っていたが、先の騒動で多数のシーボーンと戦い半身を失っている。それを回収し保管しているのだ。
クロージャにMon3trの状況について聞く。
「いやーぶっちゃけ私もコレに関してはよくわかんないんだよね………で、色々試してたんだけど」
と言ってクロージャはコンコンと部屋の片隅に置いてあったタンクを小突く。劇物である標識が貼られたそれは、精錬された液化源石だ。
「コレが1番怪我に効いてるみたい」
当然だが恐ろしく危険なものだ。ここにあるだけで小国を汚染して余る。それが効果的とは一体こいつは何者なのか。なぜケルシーは最後にこいつを私の元に寄越したのか……その答えはもう分からなくなってしまったが、ケルシーのやる事だ。きっと意味があるのだろう。そう信じて出来る事をやるしかないのだ。
【Mon3tr】
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