え……冒険者ギルドって暖かい場所じゃないんですか?   作:Atlantis

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出会い

 

 

 俺は、前世の頃から『冒険者ギルド』というものに憧れていた。

 

 それは何故か。……答えは簡単だ! 前世で好きだったマンガやゲームで、魅力的な場所として表現されていたからだ。まるで家族のような暖かさが冒険者ギルドにはあり、そこにはたくさんの人が笑顔で溢れていた。

 

 例えば、ほかのギルドの奴に仲間がやられたときにはみんなで悲しみを分かち合い、仲間の仇を討ちに行く。また、困っているギルドメンバーがいたら全力で助けるし、逆に助けを求めてきたらそれに応える。そんな風に、お互いを助け合ったりするのだ。

 

 そんなことを、俺は実際に体験してみたいと思っていた。あのような絆の輪の中に、自分も入ってみたい。その思いがあったからこそ、俺はこの世界に来てからも、ずっと憧れを抱いていたんだと思う。……この世界の冒険者ギルドに。

 

 俺の住む村『サングラナ村』は田舎の中の田舎として有名な場所だ。しかし、『冒険者新聞』と呼ばれる情報誌が稀にこの村に届く。この世界に転生してから5年がたち文字に慣れたとき、俺はそれを読みこの世界に冒険者ギルドがある事を知った。

 

 ……その時から、俺は特訓を始めた。自分の特性に合った魔法を覚え、それをひたすら鍛え続けた。全ては『冒険者ギルド』に入るために……。

 

 特訓を始めてから10年ほど経ったころには、村の同年代の中では一番強くなり、大人でも敵わないくらい強くなっていた。そして、村長さんからも認められるほど魔法を極めることが出来た。

 

 ……しかし、俺の両親、そして妹(長女)は冒険者になる事を認めてくれなかった。

 

 それも当然だろう。『サングラナ村』は、とても裕福と言えるような場所ではない。村人のほとんどが農業を営んでおり、日々食べるものにも苦労している状況なのだ。そんな中、若い働き手である俺が冒険者になどなってしまったら、家族の生活が立ち行かなくなることは目に見えている。

 

 それに、俺たちの家族の中には小さな末っ子の妹がいる。当時はまだ2歳という幼さであったため、彼女がある程度大きくなるまでは生活を不安定にさせるわけにはいかなかった。

 

 そこで、俺は家族と約束をすることにした。20歳になるまでは絶対に冒険者にはならず、家族の手伝いをするということ。そして、冒険者になってからは毎月きちんと仕送りを送る事。もし払えない場合は冒険者を止めて家に帰ってくること。

 

 ……そうやって条件を付けて、ようやく許しを得たのだ。

 

 それから5年間、俺は毎日のように魔法の訓練を続けた。……魔法はほとんど完成に近づいていたため、ひたすら出力を強化すると共に魔法を活かす為の足腰の強化も行った。その結果、今の俺は村で一番強い男になっていた。村で1番と言われるようになった時、ついに俺は旅立つ日を迎えた。村の皆に見守られながら、俺は歩き始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはぁっ! いい風だなぁ~」

 

 暖かな春風が吹き付ける草原の中、俺は一人寝転んでいた。今いる場所は、目的の首都『ギルディアス』からやや離れたところにある草原だ。この辺りは森に入らない限り魔物もあまり出ず、ピクニック気分で散歩することも出来るほど安全な場所らしい。

 

「……おっと、そうだった。ギルドメンバーの一員になる前に『あれ』を確保しなくちゃいけないんだったな」

 

 体を起こし、大きなあくびをしながら独り言を言う。そして俺は立ち上がり、とあるモンスターを探しに奥深くの森へと向かう。

 

 『レッサードラゴン』と呼ばれるモンスターは、普段は森の奥深くに住み着いていると言われている。こいつは『ドラゴン種』の中でも最弱クラスの強さしかなく、手練れの冒険者なら一人で狩れるドラゴンとして有名なんだそうだ。

 

 だが、そんな奴でもドラゴンはドラゴン。普通のモンスターと比べると強く、奴の落とす素材は中級素材として高値で取引されている。

 

 中級素材を持っていくこと。それが、オレが目指しているギルド『ディアス・ファミリー』のメンバーになるための条件だ。その為、俺はレッサードラゴンの素材を求めて森の中へとやってきたのだ。

 

「たしか、レッサードラゴンは赤っぽい色の鱗を纏ったトカゲ型のドラゴンで、長身の男性と同じくらいの高さを持つって話だよな……」

 

 冒険者新聞にはそのような情報が載っていたため、俺もある程度の見当を付けながら歩いているのだが、なかなか見つからない。

 

(おかしいな……。確かに新聞の情報だとこの辺にいるはずなんだが……)

 

 そう思いながらも、俺は森の中を突き進んでいく。すると、目の前に大きな湖が見えてきた。

 

「おお! すげぇ綺麗なところだな!」

 

 太陽の光を浴びキラキラと輝く水面を見つめる。透き通った水が心地よい冷気を放ち、思わず飛び込みたくなってしまう衝動に駆られるが、ぐっとこらえる。服がびしょびしょになってしまうからな。

 

「まずは、服を脱いで……って、うおっ!」

 

 服に手を掛けた瞬間、俺の目の湖に前に巨大な影が現れた。

 

 俺は咄嵯に後ろへ飛び退き、武器を構える。

 

「グルルルッ……」

 

 俺の前に現れたのは体長3メートルほどある橙色のドラゴンだった。鋭い牙を持ち、口の周りが血に染まっていることから何かを食べてきたのだろう。一瞬恐怖を感じたが、すぐに喜びに変わる。こいつは、もしかしたらレッサードラゴンなのではないかと。

 

 森の奥深くで出会ったし、一応赤っぽい色をしている。つまり、冒険者新聞に書かれていたレッサードラゴンの情報と一致していることになる。情報より少し大きいような気がするが、まあそれは個体差だろう。きっと、長年生きてきたに違いない。

 

「よしっ、とりあえずやっちゃうか」

 

 レッサードラゴンの前に立ち、魔法の準備をする。……情報によると、レッサードラゴンの攻撃手段は巨大な足による踏みつけ攻撃だけらしい。そのため、俺はそれに備えて魔法を準備している。

 

「グォオオオオッ!!」

 

 標的は大きな声を上げ、こちらに向かって口を開いてきた。……それを見た瞬間、嫌な予感がした。

 

「ボボボボボボボッ!」

 

 奴は、口から火球を吐き出してきた。その速度は速く、避けるので精いっぱい。

 

(ちょっとまって、その攻撃はマジで無理なんだけど……!)

 

 必死に逃げ回りながら、俺は心の中で叫ぶ。……まさか、火球攻撃をしてくるなんて。攻撃手段は巨大な足による踏みつけ攻撃だけって情報は、嘘だったのかよ。

 

 俺には、遠距離攻撃で攻めてくる相手をどうにかする術がない。その為、逃げることしか出来ない。

 

「くそっ! どうすりゃいいんだ!?」

 

 火球を吐き続けながら、ひたすら追いかけてくるレッサードラゴンを見て悪態をつく。火球を吐く瞬間こそ一瞬動きが止まるものの、その後は再び猛スピードで追いかけてくる。このままではいずれ捕まるのは目に見えている。

 

「ボボボボボボボッ!」

「……熱いっ、服が……」

 

 そうこうしているうちに、再び火球が飛んでくる。俺は慌てて避けようとするが、足がもつれて転んでしまった。火球の直撃こそ免れたもの、飛び散った火の粉が服に当たり、所々に焼け焦げた跡が出来てしまう。

 

「いてて……っ、クソっ! 脱ぐしか……っ」

 

 俺は急いで服に手を掛け、一気に脱ぎ捨てた。そして、そのまま地面を蹴って走り出す。

 

「グガァアアッ!」

「ちょっ、まっ、待ってくれよぉおおお!!!」

 

 上半身裸になった俺を、奴は逃がさないと言わんばかりに追いかけて来る。疲れ始めてきた俺に対し、ドラゴンは翼で空を滑空しながらどんどん進んで行く。……このままでは、追いつかれてしまう。

 

(もうダメか……?)

 

 そう思った時、奇跡が起きた。なんと、ドラゴンが火球を放つのを辞めたのだ。火球を放たず、猛スピードでこちらに向かってくるドラゴン。その姿はまるで、獲物を追いかける獣のようにも見えた。

 

「グォオオオオッ!!」

 

 叫び声と共に、ドラゴンは勢いよくこちらに突っ込んで来る。……どうやら、火球を吐くよりこっちの方が早く俺を始末出来ると思ったようだ。

 

 ……だが、これはチャンスだ。

 

 俺は逃げるのをやめ、ドラゴンと向き合った。そして、右手を前に突き出す。落ち着いて、ゆっくりと魔力を込めていく。……そして、遂にその時が来た。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!

 

 凄まじい轟音とともに、俺の目の前までやってくるドラゴン。魔力を開放する、絶好のタイミングだ。

 

「ギガントシールド!!」

 

 魔法を唱えた次の瞬間、目の前に巨大な盾が現れる。非常に頑丈そうな見た目をしており、それでいて重厚感のあるデザインをしている。俺の身長の2倍ほどのサイズで、これが俺が出せる最大の大きさになる。

 

 俺を踏みつけようとしてきたドラゴンの足は、突如現れた巨大な盾によって抑えられてしまう。激しい衝突音と共に、土煙が上がる。

 

(よし、上手くいったぞ……)

 

 俺は安堵のため息をつく。そして、力の限り叫んだ。

 

「今だぁあああっ!!」

 

 全力で盾に力を加える。腕が悲鳴を上げるほどに、ありったけの力を振り絞る。……すると、ドラゴンの体が徐々に持ち上がって行った。

 

「グギャッ!?」

 

 突然の出来事に驚いたのか、ドラゴンは驚きの声をあげる。そして、ジタバタともがき始めるが……。

 

「うおらああああっ!!」

 

 さらに力を込めると、とうとうドラゴンは体勢を崩し、背中から地面に倒れてしまった。

 

 

 ……地面に横たわるドラゴン。その両翼は見事に折れており、もう空を飛ぶことは出来ないだろう。倒れた自身の体重に、羽が耐えられなかったようだ。血を流して苦しんでいる様子からも、もはや戦意喪失しているように思える。

 

 巨大な体躯は確かに戦いで有利になるが、同時に弱点にもなり得るという事か。まあ、今回は相手が悪かったな……。

 

「グォオオッ……」

 

 ドラゴンは起き上がろうともがくが、なかなか立ち上がることが出来ない様子だった。しばらくの間暴れていたが、やがて諦めたように動かなくなった。……羽が折れてしまった痛みに、耐えきれなくなってしまったのだろう。

 

「ふぅ〜、やっと終わったぜ……」

 

 ようやく緊張の糸が切れ、その場に座り込む。全身汗びっしょりだし、体力的にも限界だった。

 

 

 ……俺がドラゴンを倒すために使った魔法「ギガントシールド」は、名前の通り巨大な盾を作り出し相手の攻撃を防ぐ魔法だ。盾魔法『シールド』を極限まで鍛えることによって使えるようになった魔法で、俺が使える唯一の魔法である。盾以外の魔法適性が俺にはなかったため、それしか使えないのである。

 

 攻撃手段として使いにくい魔法ではあるが、俺は気に入っている。なぜなら、どんな重い攻撃にも耐えられる圧倒的な防御力があるからだ。それに、攻撃魔法と違って詠唱時間がないというのも利点だろう。……まあ、その分消費魔力が多いのだが。

 

「よしっ、とりあえず素材を回収しようかな」

 

 俺は立ち上がり、倒したドラゴンの元へ向かう。素材を回収すれば、ギルドに入団することが出来るだろう。

 

「さて、どうやって解体しようか」

 

 俺はナイフを取り出し、ドラゴンを眺めながら呟く。

 

 見たところ、このドラゴンはかなり大きい。体長3メートルを超える巨体に加え、体重も相当あるはずだ。そのため、鱗も非常に硬くナイフでは剥ぎ取れないだろう。

 

「……さて、どうやって解体しようか」

 

 もう一度、同じセリフを口にする。意味がないと分かっていても、つい口にしてしまう。……完全に迂闊だった。何故、レッサードラゴンから素材をはぎ取る事を考えていなかったのか。腐ってもドラゴンじゃん。ナイフなんかじゃどうしようもないって普通わかるよね?

 

 

 ……丁度その時、一人の冒険者が通りかかった。大きな大剣を背に携えた、いかにも戦士といった風貌の男性だ。

 

 巨大な、大剣。……もしかしたら! 

 

 俺が男性を呼び止めると、彼は堂々した態度で振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男性の姿を見た時、俺は思わず言葉を失った。……カッコイイ。

 

 年齢は40代前半くらいだろうか。身長は高く、体格も良い。全身には無駄を一切省いたような引き締まった筋肉がついており、歴戦を思わせる傷跡があった。……そして、何より目を引くのが彫りの深い顔立ちだ。精巧に作られた彫刻のような端正な顔立ちをしており、とても強そうだ。

 

 彼を見ていると、凄くワクワクしてくる。具体的に言うと、もし彼が同じギルドのメンバーで同じパーティだったらなんて最高なんだろうと妄想が止まらないのだ。

 

 そう、例えば…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に任せて先に行け!」

「……で、でも」

 

 目の前には強大な敵。俺たちのパーティーは満身創痍で、いつ全滅してもおかしくない状況だ。敵には傷一つ付いていないのに対し、こちらは既にボロボロだ。そんな状況の中、傷跡を持つ男が言った。

 

「大丈夫だ。お前たちは先に行ってろ。俺なら心配いらん。このままでは全員お陀仏だぞ」

「でも、全員で戦ってもかなわなかったんだ。一人で戦うなんて……。時間稼ぎならオレにやらせてください。俺の魔法なら、あの強敵の攻撃だってしばらくの間は……」

 

 俺がそういうと、男は首を横に振った。そして、真剣な眼差しで俺の目を見つめてくる。

 

「その魔法で守るべき人がいるだろ。……大事なヒロインを、守ってやれ。」

「……わかりました。すぐに、戻ってきてくださいね」

「ああ、約束する。」

「……ありがとうございます。……どうか、ご無事で」

 

 傷跡の男の言葉に感服し、涙を流す。そして、俺たちは急いでその場を離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、熱いシチュエーションが止まらない。こんな感じの妄想ばかりしてしまう。……本当に、素晴らしい。やはりクール筋肉剣士は最高。絶対に彼みたいな人と同じギルドの同じパーティーとして活動したい。

 

「……聞いているのか?」

「えっ!? あっはい。すみません」

 

 いけない、考え事をしていて全く話を聞いていなかった。こちらから呼び止めたのに……俺の悪い癖だ。男性に謝ると、彼はため息をついた。……呆れられたかな。

 

「……何の用だ」

「あっ、はい。実は……」

 

 俺はドラゴンを解体しようとしていることを説明した。すると、男性はドラゴンに近づき、じっくり観察し始めた。

 

 しばらくすると、彼はおもむろに大剣を抜き振り下ろした。ドラゴンの尻尾が根元の方から切り落とされ、地面に転がる。

 

「……こんなもんか」

「あ、ありがとうございます」

 

 感動のあまり、俺は声が震えていた。まさか、これほどまでに凄腕の剣士だったとは……。これは、もう憧れるしかない。

 

 男性はすぐに解体作業に取り掛かった。手際よく鱗を剥ぎ取り、血抜きを行う。……あまりにも、手際がいい。やがて、全ての素材を取り終えたのか、解体を終えた男性が涎を垂らしながら俺に声をかけてきた。

 

「……すまないが、ドラゴンの肉の一部を分けてくれないか。美味しそうだ」

「勿論です。と言うか、尻尾以外は全てお譲りします!」

 

 俺は笑顔で言う。正直、彼が来てくれなかったら気絶したドラゴンから素材を採れなかっただろう。

 

「おじさんが来てくれて、助かりました」

 

 もしこの出会いがなかったら、途方に暮れて街に帰る羽目になっていたかもしれない。そう考えるとゾッとする。俺は心の底からの感謝を伝えた。……だが、彼の反応は意外なものだった。

 

「……俺にはオリヴァー・グリフィンという名があるのだが。それに、俺は20代前半だ」

 

 傷跡の男、改めオリヴァーさんは、少しムッとした表情で言った。……あぁ、しまった。完全に年上だと思っていた。まさか、俺と近い年だったなんて。その年でこんな貫禄があるなんて……凄いな。

 

 そんなことを考え、オリヴァーさんに対する憧れが更に強くなる。

 

 ……しかし、まずは謝罪をしなければ。

 

 俺はオリヴァーさんの機嫌を損ねてしまったことに罪悪感を感じつつ、頭を下げる。すると、オリヴァーさんは困ったような表情になり、頭を掻いた。

 

「謝罪はいい。……それより、これは?」

 

 オリヴァーさんが、解体されたドラゴンの死骸を見て言う。……おそらく、ここまでの流れを知りたいのだろう。隠す必要もないので、正直に全て話すことにした。

 

「湖に飛び込もうとしていたら、襲ってきたんです。そして…………」

 

 俺は今までの事を淡々と答える。

 

 黙って聞いていたオリヴァーさんだったが、途中から目つきが鋭くなり、次第に呼吸が荒くなっていった。

 

 どうしたのだろうか。……もしかすると、怒っているのだろうか? オリヴァーさんは、ゆっくりと口を開いた。

 

「……つまり、これはお前が倒したと」

「そうです。盾でガガっと」

 

 俺は手でジェスチャーを交えながら説明する。……我ながら上手く説明できたと思う。これで理解してくれただろうか?

 

 ……オリヴァーさんを見ると、何故か顔が青ざめている。……どうしたのだろうか。何故オリヴァーさんの様子がおかしくなったのか分からないので、首を傾げる。そんな俺の様子を見て、彼が大きく息を吐き、脱力して呟いた。

 

「……お前は、大物だな」

「???」

 

 俺は再び首を傾げた。一体どういう意味なのだろうか。

 

  ……その後、すぐにオリヴァーさんは解体されたドラゴンの死骸を担いで去ってしまった。

 

 結局、彼の言葉の意味は分からなかったが、俺はオリヴァーさんと出会えたことでテンションが上がり、鼻歌を歌いながら目的地まで向かうのであった。……オリヴァーさん、カッコよかった。やっぱり、彼みたいな人とパーティーを組みたい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺り一面が緑に染まった森。木漏れ日が差し込み、幻想的な雰囲気を醸し出している。美しい絵画のような光景がそこにはあるはずなのだが、一人の男がそれを台無しにしていた。

 

 燃え盛る炎。パチパチという音と共に、真っ黒になった薪が崩れ落ちる。男は汗を流しながらも、楽しそうな笑みを浮かべていた。やがて、男は満足げに額の汗を拭う。そして、目の前に置かれた大きな肉の塊を見た。……うん、いい感じに焼けた。

 

 オリヴァー・グリフィンは、先ほど解体したばかりのドラゴンの肉を焼いている最中である。肉をひっくり返すと、こんがりと良い焼き色がついている。そろそろ食べ頃だろう。そう思ったオリヴァーは、ナイフで肉を切り取り、口に運んだ。

 

 ……うまい!! オリヴァーは、ドラゴンの肉の味に感動する。こんなにも美味しいものを食べたのは生まれて初めてだった。やはり、『グランドドラゴン』の肉は格別だったようだ。

 

 市場にほとんど出回らない、最上級の肉。……こんな機会は滅多にないだろう。肉を次々と切り取っては頬張るオリヴァー。その度に感動の声を上げる。極上の肉は彼の舌を大いに喜ばせたようで、オリヴァーは幸せの絶頂にいた。

 

「……名を、聞き忘れたな」

 

 ふと、あの時の男のことを思い出す。複数のAランク冒険者が束になってようやく討伐することの出来るグランドドラゴンを、ほぼ無傷で倒してしまうほどの実力者。そんな人間がいるとは、全く知らなかった。何故か上半身裸ではあったが、恐らく腕利きの冒険者だろう。

 

「認めよう、お前の力を」

 

 オリヴァーは小さく呟いた。彼は、今まで様々な強者と出会ってきた。その中には、自分よりも遥かに優れた力を持つ者もいた。……しかし、グランドドラゴンを一人で倒した人間は見たことがない。

 

 巨大な肉を全て平らげた後、『S級冒険者』オリヴァー・グリフィンは静かに微笑んだ。

 

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