千の言葉を紡ぐ者   作:チキンうまうま

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レフィーヤさんが後輩でもいいじゃない。その意志で書きました。


千の妖精①

 

「…ぐおおおおお…痛い……。ここまで痛むのは久しぶりだな…。」

「あの…大丈夫ですか?」

「…ああ、レフィーヤか。問題ない。この感じなら魔法さえ使えたら治る。」

 

 それは某ガネーシャ・ファミリアの団長とアマゾネスの姉の方からの折檻により死に体のスヴェンが、医務室に転がっていた時のことである。みっともなくゴロゴロとベッドの上でのたうち回る彼に、1人のエルフが声をかけてきた。声の主はレフィーヤ・ウィリディス。スヴェンの後輩の魔道士である。

 

「えっ…そうは見えないんですけど…。」

「心配するな。今回はギリギリで骨が折れていないだけあいつらにも温情がある。後で【ディア・フラーテル】でも使うさ。今は体が痛すぎて制御できる気がせんが。」

「あ、その魔法使うくらいには痛いんですね。」

 

 と、言うかこいつが使おうとしているのは都市最高の治癒師の使う魔法である。それを使おうとしているあたりどれだけダメージを与えたんだあの2人。

 

「…そう言えば、スヴェンさんも他の人の魔法使えるんですよね。」

「ああ。【グリモワール】のお陰でな。お前がオラリオに来るまでは俺が唯一他人の魔法を使える魔道士だった。」

 

 そう言って彼は僅かの詠唱の後に一冊の真っ赤な表紙の本を顕現させる。これこそ凡庸な素質の彼を第一級冒険者まで押し上げた魔法。『魔法を記録し、行使する魔法』と言う埒外のイレギュラー。

 

「割ととんでもない魔法ですよね、それ。魔法大国からも狙われてるらしいですよ?」

「それはそうだろうな。実際、この魔法が出た時はロキはひっくり返ったくらいだし、当時は戦争遊戯まで巻き起こした。」

 

 それも駆け出しの頃に、である。当時はまだまだロキ・ファミリアも規模が小さく、希少な魔法を持ったスヴェンを狙って戦争遊戯(ウォーゲーム)まで引き起こしたものだ。

 

「戦争遊戯って…それは、なんというか…。」

「ゼウスとヘラがいなくなった後だったしな。あの時はオラリオは今よりも混沌としていた時期だ。わりとそういうのはあったぞ。」

 

 絶対強者にして秩序の守り手を失ったオラリオはあの頃治安が悪化し続けていた。『欲しければ奪う。奪うのに邪魔だから潰す』が罷り通っていた時代である。

 

「ま、うちは全部勝ったわけだが。おまけにあの頃の戦争遊戯のお陰で魔法のストックもだいぶ溜まったし、悪いことばかりではなかったぞ。」

「あ、そうなんですね。なんというか、強かというか…。」

「そのくらいじゃないとやってけんぞ、冒険者なんて。基本はやるかやられるかだ。」

 

 呆れた表情をするレフィーヤに、スヴェンは割と真面目に忠告した。あの暗黒期を生き抜いたものたちは基本的にかなりその辺りにシビア。そのため、レフィーヤのような新人はその甘さに漬け込まれやすいのだ。

 

「…覚えておきます。それと、スヴェンさん。」

「なんだ?どうせなら話していてくれ。痛みがまぎれる。」

「いえ、どうせなら私が治癒魔法使った方が早いんじゃないかと。」

「…あ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、助かった。ありがとうレフィーヤ。」

「いえ、この程度ならお礼を言われることでは…。」

 

 数分後。そこには『黄昏の館』の廊下を歩きながらぐるぐると肩を回すスヴェンと、その隣を歩くレフィーヤの姿があった。スヴェンは先ほどまでの苦痛に満ちた表情はどこへやら、完全に普段通りの様相となっている。

 

「いや、本当に感謝しているんだ。実は折檻されている時にいいネタを思いついてな。早く書き残したいところだったんだ。」

「実は意外と余裕あったんですね?」

「痛みには慣れているだけだ。俺は昔からよくシャクティさんに怒られていたからな。」

 

 まあティオネにまでされるとは思わんかったが、とぼやきながらも首を鳴らす彼に、レフィーヤが懐疑的な目を向ける。この男は割とどこまで本心を言っているのかが彼女にはわからないのだ。

 

「…第一級冒険者、というかレベル6ってそんなに痛みに強いものなんですか?」

 

 なんだかんだいいながらも割と平気そうな様子を見て、レフィーヤがついうっかりこぼしてしまった。

 

「ふむ?人によるだろうが…まああるだろうな。俺でもレベル6の後衛魔道士としては平均あるかどうか、ってところだろうしな。アイズとかガレスみたいな前衛はもっとあるはずだろう。」

「やっぱり、そう、ですよね…。」

「なんだ?悩みか?治療してもらった礼と言ってはなんだが…相談くらいなら乗るぞ?」

 

 急に暗い顔をし出したレフィーヤにスヴェンが非常に慌て出す。

 

「いや…やっぱり、アイズさんは遠いなあって。それだけなんですけど…。」

「…レベル3でレベル5を目標にしながらなに言ってるんだ…。というかお前は既に火力だけならとうに俺を超えているだろうに。」

 

 なにを言い出しているのか、とその答えを聞いたスヴェンが呆れた顔をした。というのも、彼からしたらレフィーヤは相当にやばい後輩なのである。まあ最近入ってきた後輩が、あっさりと自分を追い抜いてファミリア最高火力に肩を並べ始めたらそう思うのも当然なのだろうが。

 

「でも、やっぱり実戦だとスヴェンさんの方が強くないですか…?」

「そこは場数の差だろう。これでも俺のキャリアは10年越え、あの暗黒期を乗り越えた古参兵だぞ。というか、俺の強さとお前の強さは全く違うから気にしなくてもいいだろう。」

 

 放っておくとどんどんと落ち込んでいくレフィーヤを、どうにか慰めようと格闘する。彼は後輩に弱いタイプの先輩であった。

 

「レベル3でありながらあのリヴェリアにも匹敵する魔道士などお前しかいない。なに、あと1年か2年もすれば確実にアイズに追いつけるさ。お前ならな。だから安心しろ、レフィーヤ。」

「…でも、アイズさんを超えていくってのもそれはそれで解釈違いのような…。」

「本当に面倒だなお前。」

 

 そう言ってスヴェンはため息をつくと、悩み始めたレフィーヤを置いて先へと歩き始める。

 

「悩みごとがあるのは結構だがな。そういうのはただ悩むだけでは時間の無駄。甘いものでも食べて脳を動かしながら考えるのが一番だぞ。と、いうわけでお茶にでもしようじゃないか。リヴェリア(母代わり)アイズ(妹分)でも誘ってやるから。」

「……それ、スヴェンさんが甘いもの食べたいだけですよね?」

「ふむ、バレたか。正直俺1人だとその手の店はハードルが高くてな。誰かを誘わんとやってられんのだ。と、いうわけで一緒に来てくれ。奢ってやるから。」

「はい!そういうことならお願いします!」

 

 とりあえずリヴェリア辺りを誘うのだろう。迷うことなく彼女の書斎へと歩き始めたスヴェンを追って、レフィーヤは少し歩調を早めて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レフィーヤ・ウィリディスにとって、スヴェン・アルブレヒトという人物は割と不思議な存在である。

 

 魔法種族(マジックユーザー)でないにも関わらず、並のエルフを容易く置き去りにする魔力。時を経るごとに強くなっていくというその特異なる魔法。そしてそれを使うセンス。本人は凡庸と言って憚らないが、十分に第一級の名を冠するにふさわしい実力者であるとレフィーヤは思っている。

 

「ふむ、うまい。このクリームはなかなかだな。」

「そうだな、アーディもこの味は好むだろう。」

「誰がいつあいつの話をした?」

 

 目の前にいるハイエルフ、リヴェリア様が彼を指導したらしいが、彼自身は、リヴェリアよりも強い魔術師を参考にした、とまで言ってのけている。そのせいでそのことを聞いたエルフが彼に詰め寄ったこともあるのだが、彼がその憧れの魔術師の名を言ってのけた瞬間、全員が黙ったのも印象的だった。

 

「いや、お前がこういう店に来る時は大体アーディの機嫌を取る時だろう?違うのか?」

「…これだから子供の頃を知っている奴は嫌なんだ…!」

「ふっ。いくら大人ぶろうとお前はまだ子供だということだ。」

 

 魔道士として、そして冒険者として大成したその上で、彼は物書きであり続けている。一体その原動力はどこから来るのだろうか。

 

「…これだから年寄りは…!」

「……ほう?」

「…あ、これ俺死んだな。」

 

 なぜこの人は【万魔王(フロプト)】を名乗らず、【記す者(ブックマン)】を名乗り続けるのか。

 

「歯を!食いしばれ!」

「ぐわああああああああああ!」

 

 本当にこの人は謎が多い人だ。レフィーヤ・ウィリディスは彼の断末魔をBGMに、そう思うのだった。




レフィーヤ
 チート魔法持ち。かわいい。

【グリモワール】
 魔法を記録し、行使する魔法、というかなり異質な魔法。レフィーヤの魔法の上位互換のようでデメリットもあるのでそうでもなかったりする。

スヴェン
 彼の魔法は「形無い魔法を記録するもの」と「形ある物質を残しておくもの」の2つがメインである。もう一つあるけどあまり使わない。
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