ディジェが提督です。(SDガンダム×艦隊これくしょん) 作:たくらまかん
星々が煌めく漆黒の中をビームが飛び交い、物体を貫いて爆ぜた。
スカートの中の大型ノズルから火を吹かし、脚の無いモビルスーツがモノアイに白い機影を捉える。
「ガンダム!」
その忌まわしい名を口ずさみ、ジオングが両腕を分離させるや、上腕からワイヤーが射出した。独特の音を空間に響かせて標的へと伸びる。瞬く間にその二つの大きな手はそれぞれ躍動し、視界に飛び込む敵目掛けて五指に備わったビームを放った。
自身の機動性、際立った直感でもってすればモビルスーツ隊や艦隊を一網打尽に出来るが目の前の宿敵には通用しなかった。
後ろ、頭上からと降り注がれる砲をガンダムは苦もなく回避してジオングに肉迫する。彼もまた直感の冴え渡る兵なり。
瞬時に武器の特性を理解しジオングの戦法を潰しに掛かったのだ。バックパック、足裏のブースターで姿勢制御をしつつビームの嵐を掻い潜り、ガンダムは右手のライフルを構える。その視線の先にあるのはジオングーーシャアである。
「そこ!」
自分の真下へと伸びる右腕へ銃口を向けてガンダムは思惑の孕んだビームを放つ。そして彼はそのまま振り向き、背後に迫っていた左腕も穿った。
ジオングにとっての主力武装が、たった一瞬で破壊された。
並々ならぬガンダムの戦闘力を叩きつけられたシャアは苦虫を噛み潰す想いに駆られる。ザクII、ズゴック、ゲルググ、リック・ドムと戦場に応じ、自身の力量を昇華させて姿を変えて相手をしてきたのであるが、同じく宿敵も重武装であったり、マグネットコーティングを取り付けたばかりの灰色の配色で立ち向かってくるなど、互いの存在に導かれる度に強者となってきた。
この結果は彼の力を証明する形といえる。
「ちぃ!」
「シャア、逃がしはしない!」
「フンっ! 掛かったな、ガンダム!」
「負け惜しみをーーうあぁっ!?」
右手のビームライフルを掲げ、胸部へと狙いを定めるガンダムに対し、シャアはほくそ笑み、口部と腰部に備えたビーム砲で彼が掲げる左腕をシールドごと吹き飛ばした。
しかし、ガンダムのビームライフルは衝撃に煽られ体勢が崩れながらもジオングの身体を撃ち抜くといった執念を見せる。
「何だと!? ふふ、それでこそ私のライバルだ!」
爆散する身体、その暴風を利用してシャアはジオングの頭だけで飛び、闘争本能の赴くままに最後の武装となった口部ビーム砲をフル出力で発射した。
「ぐあぁっ!? やらせるか、このっ!」
光の奔流が頭部を貫いた、視界は暗転し、意味を成さなくなるが、ガンダムにはシャアの姿がはっきりと見えていた。再び砲口に光の粒子がチャージされている感覚がある。
負けるわけにはいかない。満身創痍にもかかわらず心は奮えた。ガンダムはライフルの残弾エネルギーを全て一発の弾丸へと注ぎ込む。
「ガンダム!」
「シャア!」
総身の力は此れへ。両者の魂は互いの敵を打倒すべくエネルギーの砲に全てを賭け、残骸の漂う戦場でプライドをぶつけた。
一年戦争。それが、ガンダム率いる地球連邦とジオングーー通称:赤い彗星ことシャアの組織したジオンが、地球と地球圏の宇宙を舞台に繰り広げた大戦の総称である。この後戦争は停滞、ほどなく地球連邦とジオンの本部の間で終戦協定が結ばれる。これ以降、地球圏に戦の波風が立つことはなかった。
ーーそして、地球は七年の刻が流れた。
もう、この世界が砲火に晒されることはない。人々はこの平和が揺るぎないものだと信じていた。
が、災いは新たな姿となり、地球へと舞台を移して彼らの前へと現れた。
〜鎮守府・ベルファスト基地〜
「提督、おはようございます」
「おはよう大和」
朝、鳥の鳴き声が聞こえる司令室にモビルスーツが入室し、艦娘に出迎えられる。白い軍帽を頭にかぶる水色のモノアイモビルスーツ、彼の名はディジェという。一年戦争の後、提督に就任し、戦場を転々として再びこの基地に着いたのである。
少尉だった七年前を思えば破格の出世だが、地球連邦にとって手に余る存在であるから実際は厄介払いだった。
「よっと! って何笑っているの?」
「へ? あぁっ、すいません提督」
背の低いポールハンガーに帽子を掛け、席についただけでよく艦娘達に微笑ましく見守られている。そんなに可笑しいだろうかとふいに考えるも自分の誂えられた家具を見れば納得だった。
モビルスーツは艦娘より身体が小さい。その為、彼の執務を行う机は身丈に則して作った一点ものである。……つまり、子ども用みたく小さいのだ。ディジェにしてみればこそばゆいことだが、彼の秘書艦を務める大和にとっては毎日ぴょこんと革張りの椅子に腰掛ける提督の姿は失礼であれど、愛らしいの一言に尽きる。
「あ、そういえば朝食を摂っていないな」
「でしたら私が作って持ってきます」
「良いのかい? 毎日君にはお世話になっているから、たまには食堂へ行こうと思うんだが」
「もう、気にしないでください。私はあなたの秘書艦なのですから、これくらい」
胸に手をやり、笑顔を見せる大和にディジェはそれ以上拒むことはしなかった。
「分かった。少し待っているよ。あと、ラムネもね」
「はい!」
大和は嬉しそうに部屋を後にした。はじめてラムネを頂いたときは飲み慣れなさに驚いたものだが、暑い季節や寝ぼけ頭には効果的な飲料である。思えば彼女との付き合いはここへ来る前ジャブロー基地に訪れた時からだ。
それこそ序盤の戦いは大型故に資材やらバケツやらと掛かったが他の艦娘達と連携を取りつつ、自分も出撃して稼いできた。今はモビルスーツ(若い子)も増えたから、ドダイ改に乗ることもない。
「それにしても深海棲艦め、いったいどんな奴らなんだ」
海上で戦いをはじめてもうひと月ほど経った今でも、その正体は不明だ。ただ、明らかな事は彼女達も大和達のように駆逐から戦艦までクラスがあり、強い者ほど女性の姿をしている。また、その種類も多い。
そして、特筆すべきことは向こうもこちら同様にモビルスーツを従えているという部分だ。黒色に塗装されたモノアイタイプや、ガンダム系の機体も確認されている。
「ただ戦っていくだけとは、情けないな」
自分達に立ちはだかる彼女達に得体の知れない何かを感じることは絶対である。
思案に耽っていると、閉じられた扉を向こうから叩かれる。
「提督、お待たせいたしました」
すかさず大和の声が聞こえ、ディジェは慌てて扉を開き、彼女を招き入れた。途端に胡椒の香りが湯気とともに室内へと流れてくる。その発生源は大和の持つお盆の中である。
「良い香りだ。今朝はコンソメスープかな?」
「正解です。それだけじゃありませんよ? 今日はトーストにスクランブルエッグ、ハムにサラダも作りました」
机の上に二つのお盆が置かれる。彩りも良く、バランスの取れた朝食である。自分の為にと用意してくれた彼女に対し、ディジェは部屋の隅に置いていた座椅子を机の反対側へ移動する。途端に大和から少しばかりの不満の声があがる。
「提督、私がやりますよ」
「大丈夫だよ。僕に出来ることをしたいとおもっただけだ。大和はチャーミングだから」
「ふえっ!? あ、ありがとうございます」
ディジェにとっては当たり前のセリフだったのだが、大和には充分心を揺らせる一言であった。頬を紅潮させる彼女を椅子へと促し、ディジェは少し遅い朝食を共にするのだった。
「ところでずっと気になっていたのですけど、提督のお口って何処になるのですか?」
「突っ込まないでくれソコは」
本当に俺達どこで食べているんだろう。ツッコミながらも、所属モビルスーツの顔を思い浮かべ、大和の疑問に心中で同意するディジェであった。
☆★
ダカールより通信が入った。北方にて深海棲艦が味方艦隊を撃破をしたとの報告だ。これより遠征である。ディジェは直ちに格納庫へ赴き、艦並びにモビルスーツを招集した。
遠征組の艦隊を編成するためである。
「天龍、配備モビルスーツはエクシア」
「うし、エクシア。背中は預けるぜ!」
「了解した。未来はこのオレが切り拓く」
「叢雲、ブルーフレーム」
「傭兵ね。足手まといにならないでよ?」
「安心しろ、任務は遂行する」
「金剛、ゴッド」
「ゴッドさん。今日こそ流派東方不敗、コンゴーフィンガーを使いこなしてみせマース!」
「よく言った! その心意気や良し!」
「島風、ゼフィランサス」
「「吶喊しまーす! お"うっ!?」」
「加賀、フリーダム。赤城、ジャスティス」
「あなたの翼、頼りにしています」
「ありがとう。僕も君の道を拓くから」
「ミーティアも積む?」
「いや、アレは資材を使い過ぎるから置いていく」
軽巡、一。駆逐、二。戦艦、一。空母、二。モビルスーツはそれぞれ一機当千の実力者達を充てた。必ずや敵を撃破出来るだろう。痛々しい高揚感であるが、ディジェは彼らを信じて疑わない。
「君達の武運を信じている! だが無理はするな、必ず還ってこい!」
激励を飛ばし、敬礼を交わしたところで格納庫から艦隊が進撃する姿を見送る。本当ならば自分も加わりたいが、提督自らが基地を空けるわけにもいかない。トリントン基地を深海棲艦隊が強襲を仕掛けたばかりだからだ。それもジオンのモビルスーツを率いて、である。
「大和」
「はい!」
「引き続き周囲の警戒は怠らないようにしよう」
「了解です提督!」
安らげる時は休むが、この戦況であるうちは油断はするわけにいかない。兜の緒を締め直す気持ちに駆られながら、ディジェと大和は基地に残留している戦士達に声を掛けていった。