ディジェが提督です。(SDガンダム×艦隊これくしょん) 作:たくらまかん
北海の戦闘も終わり、艦隊が帰港したのは一三時を過ぎた頃だった。全員無事とまでいかなかったが、顔ぶれは概ね出港した時と変わらない。そのことを確認した提督と秘書艦はホッと胸を撫で下ろす。ただ、量産モビルスーツが何機も墜ちてしまったのは、戦争だからと言ってしまえばそれで終わりだが悔しい。
自分の意志を汲み、動いてくれた戦士達を前にディジェは大和と共に出迎えた。
「皆よく帰ってきた。討たれてしまった仲間のことは仕方ない。生き残った俺達が、彼らのためにもこれからも戦っていこう。ありがとう」
提督の労いを受け、未だ戦いの余韻の残っていた天龍達の表情から緊張が解れる。この言葉こそが彼女らにとって戦闘終了を受け入れられるものだった。そして、艦娘とモビルスーツのそれぞれが戦場で回収したパーツを提督へと引き渡して入渠に向かっていく。ほとんどが疲れを癒そうと足早に立ち去る中、加賀赤城隊がディジェの前で足を止める。思いつめた表情で四人が手に抱えていた亡骸を彼に託した。
「……」
それらはこの隊に配備した105ダガーの物で相違ない。
「申し訳ありません。提督よりお預かりいたしました彼らを無駄に」
「私も同様です。強敵が現れたことで正しい指示を出せず、みすみす……」
発言をするにつれて加賀、赤城の声が弱々しく震えていく。彼女らのパートナーとして従軍したフリーダム、ジャスティスも自分がもっとしっかりしていたらと弁護する。しかし、それでもディジェは彼らの無事を嬉しく思った。
「彼らは君たちの未来を願っている。それはこんな姿になった今でもだ。その君たちが今すべきことは悔やむことじゃない」
提督自らの想いを受け、彼らはようやく決着を迎えた心地になる。回収したパーツを譲渡し、ディジェと大和に敬礼を交わした四人は船渠へと赴いていった。
「戦死者が出たのはあの隊だけか」
「大尉……」
「責任があるのは僕だって同じだよ大和。こんなことは慣れるものじゃないさ」
哀しげに笑うディジェに対し、大和はただ無言で見守ることしか出来ない。天龍達から受け取ったパーツを自分の格納庫に収めていると、間もなくディジェがその作業に手を貸した。
「……」
「……」
どちらからも言葉が出ることはないが、ふたりにはそれで十分だった。
他の艦娘やモビルスーツが居なかった頃、戦場では機動性の劣る大和をディジェが、一撃一撃の重さを持たないディジェを大和がとお互いに足りない点をカバーするといった戦術で艦隊を指揮してきた。
戦場を離れた私生活でもその役割は変わらない。お互いの波長がパズルのピースが嵌るように合致するのだ。
大丈夫だよ、あの娘達に大きな口を叩いたからには、慣れずとも提督をやるさ。ディジェの佇まいからそんな想いが大和に伝わる。
「あ、コレで終わりだけど……入らないな」
「うっ、は、はい」
格納庫が回収パーツで満載してしまった今、ディジェの持つ青い戦闘機はキツいものがある。大和は苦しそうにしてこうべを垂れるのであった。
☆★
火照った身体を涼やかな風が心地よく包んでいた。入渠を終え、島風は軍港から茜色に覆われた世界を眺めていた。
戦闘の後、此処で涼むことが彼女の習慣である。といっても少しの間だけである。陽が沈むとこの辺りは気候から一気に寒くなるのだ。
ーーでも彼女はそこから離れない。あどけない瞳の中には橙の空に舞う相棒(バディー)の姿があるからだ。それも青い双肩は外側へと出っ張り、背中には白い大型スラスターが新たに備わっている。爆発的な速さで鋭く、時に火を緩めて悠然と飛ぶ姿に可憐な花が思い浮かぶ。柵が無いため、落ちないように気を留めながらも、島風はすっかりその姿に見とれていた。
「あれ? 島風、居たんだ」
「おぅっ」
視線が島風を捉えたところで彼は飛行を止めた。影が差し込み、その表情は見えないが声のニュアンスからキョトンとしていることだろう。油断から驚いた後、口元に手をあてて、くすりとした島風は距離を縮めてくるゼフィランサスにイタズラっぽく答える。
「うん、ずっと見てたっ」
「そっか」
「ね、さっきと姿が違うけど……」
島風が指すことにゼフィランサスはああと声を出すと、その場でくるりと回った。近くで見ると尚更、彼の身体が変わっていることがよく分かる。おぅと口癖が出ている相棒にゼフィランサスは微笑んで説明した。
「島風が入渠している間にさ、提督の改修を受けてゼフィランサス“フルバーニアン”になったんだ。ゲタが無くても空中戦が出来るように」
「おぅっ、カッコイイ……」
海上と空、それぞれのフィールドで縦横無尽に駆け抜ける自分とゼフィランサスの勇姿を思い浮かべ、島風の頬がほんのりと赤らむ。やがて彼女の前に手が差し伸ばされた。深いグレーのゴツゴツとしたマニュピレーター、その持ち主はもちろん、
「……湯上りの試験飛行、する?」他でもない相棒のものだ。花のような笑顔を咲かせ、島風は心のままに彼の手を取った。
☆★
入渠を終えた叢雲は足早に相方を探していた。司令に伺えども知らないと言われ、基地を歩き回って出会い頭に艦娘やモビルスーツに聞いても彼の姿を見た者は居ない。これだから傭兵はと悪態をつくもそこで諦めるようなこともしない。今回は背中を預けてあげた仲なのだから労いの言葉ぐらいは掛けておきたいのだ。
「? あいつは確か……」
食堂を抜けて廊下に出たところで向こう側から、工作艦・明石とモビルスーツの姿があった。つい先ほど船渠で治療を行っていたガンダムタイプ、名をアストレイ・レッドフレームといい、ブルーフレームと同型の機体である。それを確認したときには叢雲の足は明石達に向いていた。
「ねえ、レッドフレーム」
「おー、さっきぶり」
「疲れは癒せましたか?」
明石の問いにまあねと答え、叢雲はすかさずに相方の所在を訪ねた。
「ブルーフレームを見てないかしら? さっきから探しているのだけど」
「私は見てませんが……」
「あぁ、ブルーなら屋内練兵場に「ホント!? あ、ありがと!」いるけどってオイ! そぅbーー」
屋外の練兵場へ行っていたからかすっかりその場所を失念していた叢雲は情報を聞くなり踵を返して駆け出していた。何となくレッドフレームが何かを伝えようとしていたが、今は一刻も早く相方に文句を言ってやりたい想いが大きい。
「待ってなさいあんの傭兵!」
廊下を曲がり、視界から消失したにも関わらず反響して伝わる叢雲の声にレッドフレームと明石は苦々しく笑うことしかできなかった。
「装備を改修したからそれも見てほしかったんだけどなぁ」
「多分、あっそで終わるよ?」
「そっか。ま、とりあえずメシだメシ」
「今日はたしかーー」……………。
駆け出した叢雲が練兵場に到着した頃には外はとっぷりと陽が暮れていた。窓から濃紺の空を仰ぎ、やがてその視線をひとり鍛錬に勤しむ相方へと向けた。
まったくとひとり呟く。屋外の練兵場もだだっ広く、場所に困ることなく鍛えられるが此処も劣らず広大である。特筆すべき点は、これまでの戦闘記録を元に敵を投影させて実際に仮想の戦場として利用できるシュミレーターシステムがあり、かなり使えるのだ。そして今、ブルーフレームは今朝の敵を相手に非殺傷設定の銃を撃っている。
「ちょっと、私が来ているんだから止めなさいよ」
叢雲は構わずにブルーフレームを呼び止める。兵として気を緩めていないのは感心するが、緩めなさ過ぎる彼に苛立ちを覚えてしまう。追加武装を受けたのか重装備であることを知るも、叢雲の意識は彼への文句しかなかった。
「知っているーー」
最後の敵を討ち破り、シュミレーターが停止したところで銃を納めながらブルーフレームが叢雲と向き合った。
「何か用か?」
淡白な反応が叢雲の勘に触る。何か用か? 用が無かったら来てはいけないと言うのかこの冷血漢はと頭がグツグツと煮え立つ。目尻が釣り上がり、小首を傾げているブルーフレームを見据えて人差し指でさして叢雲は怒りをあらわにする。
「何よ! この私がわざわざあんたに声を掛けに来てあげたっていうのにその態度!? あんたが明後日には契約とかが終わるからどっか行っちゃうんでしょ! せっかくコンビネーションとか出来たって言うのに何よ何なのよサーペントテールって!」
「そうか。すまなかった。確かに明後日には次の基地から遠征の護衛を依頼されている。だから此処の連中ともあまり馴れ合う必要はないと判断しているだけだ。サーペントテールについては機密事項だ、背中を預けた相手だからといって話すわけにはいかない」
距離を詰め、激情に駆られて問い質す彼女を前にしてもブルーフレームは動じることなく、その質問にはぐらかさずに答えるが、それで納得する叢雲ではない。こうなったらとことん悪態をついてやろう。艦娘としてではなく、ひとりの少女として悪戯心が芽生えた矢先ーー、
「だが、お前は良い相棒だ。たいした奴だよ」ブルーフレームが柔らかな笑みを浮かべた瞬間、用意していた言葉が叢雲の頭の中で爆発してしまう。耳まで赤く染まった姿はまるで茹で蛸のようである。
「……なによ、当たり前のことじゃない」
「ふっ、そうだな。失礼した」
「分かれば良いのよ、それと」
共に闘った友として手を差し出すブルーフレームに叢雲は恥ずかしそうにしながらも自らの手を重ね、握手に応じるのであった。
「お疲れ様。あんたも……凄かったわよ?」
「吹雪型五番艦に言われるとは光栄だな」
「 ばか」
☆★
金剛は食堂で妹達と団欒を楽しんでいた。その主な話題は今朝の戦場で師と共に深海棲艦と熱闘を繰り広げたことにはじまり、基地で待機していた間の出来事に移っている。
「金剛姉さま、そういえばゴッドさんを誘わないのですか?」
四女の霧島が眼鏡の位置を上げながら尋ねる。何時もであれば彼もこの団欒に同席するのだが、今夜に限っては来る気配もないのだ。妹の指摘に金剛はため息をつくやがくりとその場で項垂れてしまう。
「イェス……、もちろん師匠に声をかけたネ。そうしたら」
「そうしたら?」
「『スマン、今から師匠と手合わせがあってな。今日は先に食べていてくれ。うおォォォ師ー匠!』って」
身体を起こすと同時にキリッと表情を作り、低い声で凛と話し、締めには叫ぶといった行動を起こす長姉の姿に榛名霧島両名は何事かと目を見開くが、比叡は大いに感動していた。
「あの……金剛姉さま。それは、誰ですか?」
「ノンノン、決まっているデショ榛名。もちろんゴッドさんデース!」
分からない子ネと胸を張って言う金剛に三女は会釈をして謝した。金剛の師であるゴッドは姉妹も既知の仲であるが、そのまた師つまりは大師匠は誰もが会ったことがない。間もなくそのことを思い出した金剛は焦燥感に駆られはじめた。
「OH、マィゴッ!」
頬に両手を当て、叫びながら勢いよく席を立つ姉に妹達は反射的に小さく悲鳴をあげた。流石に驚いた比叡が早打ちする胸の鼓動を抑えながら尋ねる。
「お、お姉さま? どうしたのですか?」
「どうしたもこうしたもありまセーン! ゴッドさんの弟子でありながら大師匠に挨拶しないなんて破れ門デス! 金剛、行きマース!」
「わわ! お姉さま!?」
言うや比叡らの声も届くことなく、金剛はカレーを平らげて水を飲み干し、食堂から飛び出してしまう。嵐の過ぎ去ったような感覚を味わい、呆気に取られた姉妹はやがて互いを見合わせて苦笑した。
「あ、比叡姉さま。今日、明石さんから何か買われてましたね?」
「うん。ブロマイド買っちゃった」
榛名の言葉に比叡は本日の戦利品を妹達に披露する。地上戦で赤い盾を持ち、ビームサーベルで敵兵を斬り裂く勇姿がそこにあった。ファンというわけでもないが、前大戦の英雄となれば榛名霧島もさすがに感嘆する。
姉妹は四人でひとつの部屋を充てがわれており、プライベートスペースのなどはそれぞれの模様がある。特に比叡は凄まじく、姉好きの他に白い悪魔ことガンダムの大ファンだったりする。ベッドや机、果てには壁までガンダムのポスターやブロマイドで埋まっているほどだ。
「は〜、良い買い物した〜」
「それにしても、大尉って一体何処に行ってしまわれたんでしょう」
榛名の話題を契機に団欒の席に緊張感が漂った。ブロマイドを眺めていた比叡も一転して眉根を寄せる。それだけにガンダムという存在は伝説なのだ。
宿敵シャアと一機討ちをした際に重傷を負ったという。やがて傷も癒えてまだ闘っているとか、本当は没したとか、彼が何処へ行ったかはファンクラブでも知られていない事実だった。
「一説によれば、上層部に軟禁されているらしいですし」
「私は姿を変えて地球の平和のために闘っているとも聞いたわ」
霧島、榛名の言う噂が有力候補であり、もちろん比叡も既知の情報だ。是非とも調査をしたいが、今の状況が状況なだけに勝手をするわけにもいかない。司令にも捜索活動を願い出たこともあったが「大丈夫、彼も僕達と同じように闘っているさ」とやんわり却下されてしまった過去があった。
「ガンダムさまに会ってみたいなぁ」
「そうですね、私もいつかお会いしてみたいです」
(……司令も大尉なのよね。でも、まさかね)
恋する姉達を眺めながら、霧島はあるモビルスーツに面影を重ねていた。
〜食堂の隅〜
ディジェ
「……気まずいな。このまま気づかないでくれ」
大和
「盛り上がって、ますね」
武蔵
「さすが英雄だな」
ディジェ
「武蔵、よしてくれ。俺はそんなモノじゃないーーって何故距離を詰める?」
大和
「今はこうしたほうが良いようですから」
武蔵
(……かつての英雄が提督とは随分と贅沢だな。それか連邦が無能なのか)