フォージャーさんちの迷子ドラゴン   作:タイムスリップドラゴンガール

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検索する前の自分「二期も始まったしスパイファミリー二次もいっぱい増えてるやろ!」




1-1

 

 アーニャ・フォージャーは名門イーデン校の生徒である。

 同級生の子供らと比べ些か矮小な身体ではあるものの、陽光の下で鮮やかに煌めくピンクブロンドの髪、クリクリとした宝玉然と輝く碧眼、曲がったことを許さぬ()()()()()()()()()を持った、将来の成長が有望視される愛らしい少女だ。

 

 さて、由緒正しき名門の名に恥じぬよう、優等生の証・(ステラ)を獲得しつつも、生来の奔放さから罰則点・(トニト)をも教師より頂いてしまう。

 そんな不思議な生徒であるアーニャには秘密があった。

 

 彼女とその両親との間に血縁関係がないこと?

 まあ、それもあるだろう。確かに彼女の持つ『かくしごと(シークレット)』の一つである。

 

 父親の任務のために、国家統一党総裁の息子・ダミアンと仲良くしようとしていること?

 いや、親の仕事の都合で子供同士の付き合いが決まるのは伝統的な名門校では割とよくあることだ。

 

 彼女の好物がピーナッツだということ?

 ――――いや、別にそれは隠していない。

 

 

 アーニャ・フォージャーの誰にも言えない秘密。

 それは彼女が超能力者(エスパー)だということ。

 

 彼女には他人の心の声が聞こえた。比喩抜きに。それはもうバッチリと。今朝食べたご飯の話題から赤裸々な妄想まで。

 彼女の近くで誰かが考えたことは全て筒抜けであると考えていい。

 

 だからこそ、アーニャの能力は捉えた。聞こえるハズのない心の声を。

 

 

(どうしよう、困った)

 

 

 聞こえるハズのない、遥か上空から。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「アーニャが帰ってきていない?」

「そうなんです。スクールバスの時間を過ぎても家に帰ってこなくて……」

 

 夕刻。とあるアパートメントの一角、フォージャー家にて。

 清潔感溢れるリビングでは一組の男女が深刻な顔をして向かい合っていた。

 

 長身の男の名は、ロイド・フォージャー。

 フォージャー一家の家長であり、バーリント総合病院で精神科医を営む好青年然としたイケメンである。

 愛する妻とは既に死別し、その忘れ形見であるアーニャと共にこの地にやってきた。

 

 対する女の名は、ヨル・フォージャー。

 ロイドの妻であり役所勤めの事務方公務員。濡羽色の長い髪と()()()強靭な肉体を持つ麗しき乙女。

 少々天然なところはあるが、強く優しく家族思いでありロイドの再婚相手でもある。

 

 二人は今からおよそ一年前に結婚した。夫婦仲は良好であり、義理の母子の仲も良好。

 三人は極めて理想的な家族である。

 

 ――――と、ここまでは表向きの設定(おはなし)

 

 人間とは多面的な存在だ。

 家庭と職場で異なる性格の仮面(ペルソナ)を被る例も珍しくない。

 光あるところにまた影もあり。華々しくスポットライトの当たる者の側には、目立たずひっそりと佇む者が常にいるように、目に見えるものだけが全てではない。

 

 そう、人には誰しも隠された一面がある。――――当然、この男にも。

 

 そもそも、この国に『ロイド・フォージャー』という名前の男は実在しない。

 『精神科医のロイド・フォージャー』はとある組織の手で都合良く作り上げられた仮初めの身分だった。

 

 彼の正体は名もなきエージェント、コードネーム〈黄昏〉。

 早い話、彼は西側の諜報員(スパイ)である。

 彼の行動も、彼を取り巻く家族という繋がりすら、徹頭徹尾任務のためのものだった。

 

 オペレーション〈梟〉(ストリクス)

 それが彼に与えられた最重要ミッションの識別名である。

 

 東国(オスタニア)の政党・国家統一党の総裁であり、対西国(ウェスタリス)強硬派の危険人物――――ドノバン・デズモンド。

 東西平和のため、ターゲットへの速やかな接触(コンタクト)が求められるが、用心深いヤツが現れるのは息子が通うイーデン校の懇親会だけ。

 

 潜入のため様々な技能を修得している優秀なエージェントである〈黄昏〉といえども、子供に成り済ますことはできない。

 保護者として潜り込むために子供が必要だった、それも大至急。

 そこで管理も手続きも杜撰な孤児院を選定。

 アングラ一歩手前の施設から引き取ってきた子供がアーニャだった。

 

 オペレーション〈梟〉(ストリクス)は、出だしから多くの問題と困難に見舞われた。

 そも、イーデン校に入学できなければ話にならないのだが、『これだ』と見込んで引き取ったはずのアーニャの()()()の出来は散々であった。

 

 学力的に不安しかない。立ち居振る舞いにも難がある。

 それでも、何としてでも合格させなければ。

 

 アーニャのために試験の問題文を事前に入手、内容を頭に叩き込み、一次試験を辛くも突破したのも束の間。

 送られてきた書類にロイドは再び頭を抱えることになる。

 

 二次試験の内容、面接。

 条件、子供と両親の()()で参加すること。今度は母親役が必要だった。

 

 こうして学校の面接対策のため、急遽確保したのが妻であるヨル・フォージャー――――旧姓ヨル・ブライアであった。

 

 元々は一人暮らしで何事もなく生計を立てていた彼女ではあるが、昨今の情勢の変化によってとある懸案事項が浮かび上がった。

 過激になっていく秘密警察によるスパイ狩りである。

 『独り身でいると怪しまれスパイ狩りにあってしまう』という理由でパートナーを求めていた彼女と、利害関係の一致で結びついたのである。

 なおその際の婚姻届は偽装し、一年前に籍を入れたことにした。…………面接直前の結婚など『どうか疑ってください』と喧伝しているようなものなので。

 

 妻も子供も、全ては偽り。

 ただ、任務(ミッション)のために。

 

 因みに、妻役であるヨルはヨルで偽装結婚に至るまでの『本当の経緯』があるのだが、ロイドはこの事実を知らないので割愛する。

 

 閑話休題。

 

 

 帰宅しない児童。

 

 その状況に『誘拐』の二文字が浮かぶ。

 誠に腹立たしいことだが、子供を標的とする誘拐事件は数多く発生している。ここ東国(オスタニア)でも、隣国西国(ウェスタリス)でも。

 親からの身代金目当てだったり、あるいは子供そのものが目的だったりするが…………何にせよ、碌でもない動機には変わりあるまい。

 

 ロイドは歯噛みした。

 アーニャの存在はオペレーション〈梟〉(ストリクス)の要と言ってもよい。

 アーニャがいなければ任務に差し障りが――。

 東西両国の…………いや、世界の平和が掛かっている。

 そこまで思考して、ふと最悪の予想が頭を過ぎる。

 

(まさかオペレーション〈梟〉(ストリクス)の詳細を知る何者かの妨害……!?)

 

 焦燥感から半歩踏み出しかけ、即座に思考を沈静化(クールダウン)させる。

 

(いや落ち着け、〈黄昏〉。まだ誘拐されたと決まったわけではない。オペレーションの成否に関わるような重大事案をWISE(ワイズ)が見逃すはずがない。

 第一、あの子(アーニャ)は自由奔放を絵に描いたような存在だ。何を仕出かしてもおかしくはない。だからそう、何かこちらには思いもよらぬ道草を食っている可能性もある――)

 

 どこまでも冷静に。どこまでも冷徹に。

 〈黄昏〉は計算を弾き出すと、ロイドの顔でヨルに微笑みかける。

 

「落ち着きましょうヨルさん。アーニャのことだ、家に帰るのも忘れて近くで遊んでいるだけかもしれないですし……」

「ですが」

 

 ヨルの不安は晴れない。というのも、アーニャには既に誘拐されかけた実績があるのだ。

 その誘拐未遂に関してはイーデン校生徒をターゲットにした稚拙な犯罪であり、ヨルの肉体言語によって解決済みの事件ではあるが……。

 

 また、ヨルと出会う前にも一度〈黄昏〉の関係者だとバレて敵方に誘拐されているが、ヨルはこのことを知らないので当然ノーカンである。

 人知れず被誘拐経験豊富な少女・アーニャ。彼女の行方は未だ杳として知れない。

 

 なお、匂いで痕跡を辿れる可能性のある最近飼い始めたペットは、もじゃもじゃ頭の情報屋と共に外を散歩中である。

 ロイドが仕事(にんむ)を理由に押し付けてきたのだが、ここに来て仇となった。

 

 おそらく大丈夫だろうとは思う。事件性はないはずだ。

 だが、さすがに所在不明時間が長すぎるか。ロイドが組織の目を借りることを視野に入れ始めた頃。

 

 不意に、玄関の扉が勢いよく開かれた。

 

 夫妻(ふたり)は反射的にそちらを向く。

 そこには娘であるアーニャの姿――――

 

「ちちー、ははー! アーニャ、あねひろった!」

 

 と、もう一人。銀糸の如く白く美しい髪色の少女が立っていた。

 

 ――――(アーニャ)が、見知らぬ女児を(かどわ)かしてきた!?

 二人が揃って言葉を失っていると、

 

「ちち、はは、アーニャのあねのカンナ」

「お邪魔します?」

「あ、ああ…………これはご丁寧に」

 

 アーニャの紹介に合わせて、少女は礼儀正しくペコリと一礼した。

 

 アーニャの言動から察するに、少女の名前はカンナ。

 それ以外の目ぼしい情報は――――あね? 姐、いや(シスター)か? 何故その単語がここで出てくる? まさか生き別れの姉妹? いや、二人は似ても似つかない。血縁関係などあるはずもない。そもそも人種が違うだろう。

 ならば何故、アーニャは姉と言ったのか――――?

 

(子供の考えることはわからん…………!)

(ちち、ゆかい)

 

 なおこの場合、(ロイド)の考えていることは子供(アーニャ)に全てバレているものとする。

 

「ええと、アーニャさん? 姉というのは……」

「あのねあのね、フワッとしてキラーッてしてこまってたからカンナはアーニャのあね」

 

 ヨルが困り顔でアーニャを諭そうとしているが、アーニャの発した事情説明と思しき言葉に再びフリーズした。

 情報が情報の体を成していない。

 

(やはりわからん……!!)

 

 何となく、先程の姉発言が『姉が欲しい』とか『姉貴分だ』とかのニュアンスなのだろうとは察したが、そこに至るまでの経緯についてはさっぱりだった。

 一体何が『フワッとしてキラーッってした』のか。困っていたのはどこの誰で、姉という回答を導くまでの途中式で何があったのか。

 

 何にせよ、少女(カンナ)を解放するためには、アーニャの突飛な発想から崩していく必要がありそうだ。

 

「待て待てアーニャ。よく考えろ、姉が急に出来るはずがない」

「でもはは、きゅうにできた」

「う、だがそれは」

「ちちも……もがッ」

「そうだな、そうだったな! 家族が急に増えることはあるな!」

 

 危ない。コイツ今『父も急にできた』と言いかけたな。

 ロイドはアーニャの口を塞ぎながらそう思った。

 

 ヨルには亡くなった前妻との子と説明しているので、ここで養子だとバレるのは非常にマズいのだ。

 仕方ない。原因究明の方が先か。

 

「しかし、また何で急に姉が欲しいなんてことを言い出したんだ?」

「えっと――――」

 

 

 

 アーニャは思い返していた。

 帰り道、適当に理由をつけて途中でバスから降りてからのことを。

 

 運転手の訝しむ様子にも気づかず、アーニャはそのまま興味の下に急いでいた。

 

 不思議な声だった。

 いつも聞こえてくる心の声とどこか、何かが違うような。まるで空から降ってくるように聞こえた、でも確かに誰かの助けを求める声。

 休める場所を求めているらしいその声の主に届くように無我夢中で声を張り上げていると、不自然な旋風が周囲に吹き荒れた。

 

「うわっぷ」

 

 突然訪れた自然の猛威によろけるアーニャ。

 そのまま路面に倒れ込むかに見えたが、いつの間にか現れた少女がアーニャの小柄な身体を支え、その顔を覗き込んでいた。

 

「大丈夫?」

 

 アーニャは翡翠色の瞳を大きく瞬かせた。

 綺麗。ただそう思った。髪は太陽の光に照らされて銀色に輝いていたし、見たことのない衣装を着こなす様は遠い国のお姫様のようにも思えた。

 この人だ――――なんてキレイでかわいくてステキなおねえさんなのだろう!

 

 どうして彼女の心の声が()から聞こえたのか、アーニャは疑問をすっかり忘れていた。

 のぼせ上がっていたとも言う。

 

「どうした?」

「はっ!?」

 

 ()()()()()から直接かけられた声にハッとなるアーニャ。

 ぼーっとしていたが、そうだった。言わなければいけないことがあったのだ。

 

「アーニャひとり、ちちははおうち」

「? そう」

 

「アーニャのいえ、いっぱいやすめる。ぴーなつたべほーだい」

「ぴーなつ」

 

 言葉を並べていくが、どうにも反応が芳しくない。

 どうしてだろうと首を捻って、大切なことを忘れていたのだと気がついた。

 

「でも私は――――」

「アーニャのなまえ、アーニャ・ほーじゃー(フォージャー)! おねえさんのなまえなに?」

 

 そう、名前である。

 知らない人に着いていってはいけないのだ。だからきっとおねえさんも困っていたのだ。

 

 アーニャがたどたどしく誰何すると、目の前の少女のテンションが若干上がった。

 

(お姉さん……!)

「カンナ、小林カンナ。よろしく」

「カンナ!」

 

 ぴょこぴょことカンナの周囲を跳ねるアーニャ。

 

(アーニャちっちゃい…………才川より騒がしい)

(サイカワ?)

 

 誰だろう? 首をかしげるアーニャ。

 でも、ここでそれを尋ねるようなことはしない。それは『知らないはずのこと』だから。

 心の声色からはその人物に好意的なのが伝わってくる。それだけわかれば十分。

 アーニャの作戦『ガンガンいこうぜ!』はそのまま継続された。

 

 

 その後もアーニャは手練手管を駆使し(少なくとも本人はそう信じている)、眼の前の彼女の興味を引くことに成功した。

 何やら目的が微妙にすり替わっているが、当然本人は気づいていないし、指摘してくれる人物もいない。

 

(アーニャ、やはりてんさい。さくせんだいせーこー)

 

 あとは家まで連れて行くだけである。

 

 にんまり笑みを浮かべながら、アーニャは心の声に耳を傾ける。

 

(外国のお家、楽しみ)

 

 幸いにも家まで来ることに関して、カンナの心の声も満更ではなさそうだ。

 そんな最中、聴き逃がせないワードが聞こえた。

 

(ドラゴンだってことは秘密にしなきゃ)

(ドラゴン!?)

 

 ドラゴン。それは空想上の生物の名である。お姫様を攫ったり、宝物を貯め込んでいたり、悪者と戦ったりする、アニメや漫画で引っ張りだこのドラゴン!

 少女のワクワクは天元突破した。

 

(ドラゴン、つよい? おそらとべる? そら……たかい…………あっ!?)

 

 アーニャはようやく思い出した。そうだ、あの時の心の声は空の上から聞こえてきていた!

 ようやくアーニャは原点回帰した。

 

 

 無論、自宅まで連れてきたのは、目の前の少女が困っていたからというのも理由の一つ。

 だが、今アーニャを突き動かす最も強い原動力。その理由とは、

 

(ドラゴン、もっとちかくでみたい!)

 

 少女の娯楽のためだった。

 

 





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 2022/11/14 08:00
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