フォージャーさんちの迷子ドラゴン   作:タイムスリップドラゴンガール

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検索した後の自分「どうして……」(現場猫)



1-2

 

 ◆

 

 

 

 さて、ここで奇妙な偽装家族に巻き込まれた少女の事情を少し見てみよう。

 

 小林カンナ、もといカンナカムイは正真正銘、本物のドラゴンである。

 

 ドラゴン。

 その言葉に一体何を思い浮かべるだろうか。

 

 鉄製の鎧よりも頑強な鱗?

 雄々しく捻れる立派な角?

 獲物を喰らう悍ましき牙?

 骨をも引き裂く鋭利な爪?

 

 そのどれもが正しい。

 多くのドラゴンはこれらの要素の一部、あるいは全てを兼ね備えている。 

 おまけに、火や水、雷などの自然事象を操るものもいるだろう。

 翼を持つもの、複数の首を持つもの、手足を持たず蛇のような体躯のものもいるだろう。

 ドラゴンに紋切り型(テンプレート)があるわけではない。彼らには様々な形態や能力がある。

 しかし、総じて地球上には存在しない生物だという共通点があった。

 

 当然、カンナも地球(ここ)ではない異世界からやってきた。

 そして尊敬するドラゴン・トールの痕跡を辿って日本に流れ着き、小林という人物の下で人間(ヒト)に化けて生活するうちに、すっかり人間社会に馴染んだのである。

 

 カンナは好奇心旺盛な幼竜でありいたずら好きだ。

 元々地球にやってきたのだって、異世界(こきょう)でのいたずらが原因だった。

 

 まあつまり何が言いたいかというと。

 

「トール様の馬鹿……」

 

 いたずらがきっかけで喧嘩して、衝動的に家出してきたのである。

 

 現在、カンナはドラゴンの姿で空を飛んでいた。

 力強く羽ばたく白い翼に、全身を覆うふわふわの羽毛。

 頭部の左右に生える二対の角。

 子供らしい丸みを帯びたフォルムは見る者によっては愛らしさを覚えるだろう。

 子供とてそこはドラゴン。成人男性の何倍もの体長になる。

 そんな巨体が宙に浮かんでいれば、たちまち上へ下への大騒ぎ。世紀の大発見。お祭りフィーバー。

 

 そうならないように、カンナは他の生物に見つからない認識阻害の魔法をかけている――――つもりだったが、未熟なカンナの魔法は度々途切れて丸見えになっていた。

 それでも人間から見つかっていないのは、地上から肉眼では目視できない高高度を飛んでいたからと単純に運が良いからである。

 

 一人っきりの、宛のない空の旅。

 以前のようにアメリカ大陸に行っても良かったが、あの国には既に友人がいる。

 今回は誰も知らない場所に行きたかった。

 

 自然発生していた極小規模な(ゲート)を潜り、その先で見つけた時空の歪みに飛び込んで。カンナは衝動に任せて我武者羅に飛翔した。

 間違っても、優秀なトールに見つかって連れ戻されないように。それはもうめちゃくちゃな経路を、めちゃくちゃな方法で移動した。

 

 

 そして、迷子になった。

 

 

「ここ、どこ?」

 

 認識阻害をかけながらの飛行に疲れたので、人の姿で街を散策する。

 

 風土や建築様式から判断して、ヨーロッパの辺り…………だと思う。

 だが、少し様子がおかしい。

 

 カンナが人間社会に慣れた、と言ってもそれはあくまでも日本での話。

 海外との生活や文化の違いまでは網羅できていない。

 

 しかし、それでもおかしいと直感的にわかった。

 だって誰もスマートフォンを持っていない。先程も電話をかけるために公衆電話に駆け寄っていく会社員らしき男性の姿を見た。

 買い物の際、皆現金を使っている。そこそこ儲けているらしい眼下の店のレジにはICカードの読み取り機すら置いていなかった。

 信号機の白熱灯、駅の改札口、街頭広告の写真、子供たちのおもちゃ……。

 

 何かが変だった。変だと断言できた。

 まるで数十年前の映画の舞台を見ているような――――。

 

(どうしよう)

 

 再び竜の姿で飛びながらカンナは考える。

 

 未熟なカンナには、不明な所在地から自由自在に門を作るほどの力はない。

 というか、どこからでも自在に門を生み出せるトールが別格なのだ。朧塚にいる他のドラゴンでも、そんなことができるのは元神のケツアルコアトルくらいだろう。多分。

 

 トールと喧嘩して家出した、と言っても一生会いたくないとは思っていないのだ。きちんと仲直りしたいと思っている。

 ましてや小林には何も言わずに飛び出してきてしまった。早く謝らなくては。

 クラスメイトで友人の才川に至っては何も知らない。カンナがドラゴンだということすらも。

 

(どうしよう)

 

 家もない。金もない。頼るべき保護者もいない。

 

 カンナカムイは雷を司るドラゴンだ。最悪、電気さえ確保できれば死にはしないだろう。電気を魔力に変換すれば魔法だって使える。だが、

 

(困った)

 

 ドラゴンの姿なら寒さなどの問題もなく大抵の地球環境には対応できるが、巨体を置く場所に困る。認識阻害の魔法も当然必要だ。

 山か森の奥深くならばこれらの条件はクリアできるが、今度は電気の確保の面で難が出てくる。

 

 人間の姿なら町中に入り込めるが、少女が一人で彷徨(うろつ)いていたらさすがに目立つだろう。雨風を凌ぐ場所も用意しなければならない。

 先程の散策中にこの国の公用語は覚えたので誰かとおしゃべりしたい。あとできれば温かいお風呂とベッドも欲しい。美味しいご馳走も食べたい。

 

(どうにかして休める場所を見つけなきゃ)

 

 そんな時だった。

 

「あー! アーニャ、ゆっくりやすめるすてきなばしょ、しってるなー!!」

 

 下から響く、幼子の声。

 

「でもアーニャ、ひとりさびしーなー!」

 

 大声で、まるで誰かに言い聞かせるような――――。

 

「だれかいっしょにいてくれるやさしーひと、いないかなー!」

 

 普段のアーニャを知る者であれば、少しわざとらしさを覚える喋り方だったが、幸いにして二人は初対面だった。

 そして、東国(オスタニア)の言葉を覚えたばかりのカンナは『この国の子供ってこんなものかな』と軽く流したため、違和感は指摘されることなく露と消えた。

 

 何より、悪戯っ子なカンナではあるが、明らかに年下である少女の困り声を無視できるほど非情ではないのだ。

 

「よし」

 

 ふわりと舞うカンナ。強風を起こさぬよう、慎重に降下していく。

 地上の近くで人間の姿に変身し、認識阻害の魔法も解除。

 

 そよ風に揺れる小さな身体をキャッチ。

 

 小さい。それが第一印象だった。

 カンナの人間体も大きい方ではないが、それに輪をかけて小さい。たしか、小学校で見かけた一年生がこれぐらいの身長だったかと思い出す。多分、才川よりもだいぶ年下だ。

 

 つまり、めちゃくちゃ脆弱。

 

 倒れかけていたが、大丈夫だろうか。少し心配になって顔を覗き込む。

 

「どうした?」

 

 ――――そして、あとはご存知の通り。

 

 小さくてか弱い生物(にんげん)なのに、やたらと元気なアーニャ・フォージャーになんやかんや懐かれたカンナ。

 『家に来てほしい』と仕切りにアピールするアーニャのために一緒に行くことにした。

 

 懸案事項はまだまだ沢山あるが、ひとまずお言葉に甘えて休ませてもらおう。

 ――――ドラゴンだということさえバレなければ大丈夫。

 

 カンナはアーニャの手を握り、アーニャの帰路に追従する。

 

 こうした紆余曲折の末に、カンナはフォージャー家に連れてこられた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 時は現在に戻る。

 

 

 アーニャのたどたどしい説明では埒が明かず、途中から交代してカンナが事情を話すことになったが、カンナが絶賛迷子中だという事実は程なく夫妻に伝わった。

 

 しかしカンナは説明中、嘘を吐いた。――――保護者の許可を得た上で、後学のためにここ東国(オスタニア)に来たのだ、と。

 普通の迷子では警察に連絡されて終わりである。カンナとしてはそれは避けたかった。そこから日本に連絡されればトールに何を言われるかわからないし、小林に迷惑がかかってしまう。

 …………まあ、カンナの予想が正しければ、例え警察に保護されたとしても()()()()()()()()()()し、そもそも『小林カンナ』は()()()()()()()()だろうが。それでも、念のためである。

 

 それ以外にも当然、正体(ドラゴン)のことは伏せてあるので所々表現を微妙にボカしていたが、それに気づいたロイドも『まあ子供の言うことだし』と受け流したため、カンナカムイの秘密は追及されることなく守られた。

 

 

 誘拐をぶちかました、もとい迷子を保護してきたアーニャはまだ『カンナ姉計画』を諦めてはいなかった。

 

「アーニャのあね、だめ?」

「ダメというか何というか……」

 

 できるかできないかで言えば『できる』。できてしまう。

 だが、できることとやってもいいことは違う。

 

 アーニャの実姉、つまりロイドの実子という設定でねじ込むのはヨルを含む他者の目があるため無理。

 当然ヨルの連れ子設定も土台無理である。というか、そんなことをしたらあのブラコン弟(ユーリ・ブライア)は確実にバグる。

 そうなると無難なのは従姉妹(いとこ)再従姉妹(はとこ)又従姉妹(またいとこ)あたりか。

 だが、存在しない親戚を偽造し(つくっ)たりして、諸々を捏造しなければならないのでなるべく避けたいところではある。

 あまり頻繁に行うと秘密警察などの関係機関に嗅ぎつけられる危険性が増すので、特に理由のない後付けの設定は少ないに越したことはない。

 

 ……第一、存在しない親戚が()()()()()場面に出くわせば、世間一般からズレた感性を持つヨルであっても『おかしい』と思うだろう。流石に。

 

 しかし、

 

「おうちない……」

「うっ」

 

 外国にいるカンナの保護者に連絡を取ろうにも、本人も連絡が取れないのだという。

 組織の情報網であれば発見することも可能だろうが、国家の存亡に関わる大事な任務を複数抱え、組織のエージェントたちも日々疲弊している。こんなことで彼らの仕事を増やすわけにもいかない。

 

 とはいえ、追い出すのも気が引けるし、世間体というものもある。もしも、追い出した少女(カンナ)が他所でこのことを吹聴したら…………。

 今はオペレーションの真っ只中。不確定要素を増やしたくはない。だが、断った場合考えられるリスクは。カンナを受け入れ、偽造を行った場合(ヨル)やその周囲への言い訳は。

 無数の計算をマルチタスクで行うロイド。

 

「カンナさんがアーニャさんのお姉さんになることはできないんです。アーニャさんのお友達としてお泊りするのであれば可能ですが……」

 

 アーニャを宥めるヨルの一言にピンときた。それだ。

 

「そうだ! ホームステイということなら――――」

 

 それならば急に増えても怪しまれない。

 

 本来ならばこんな土壇場で捩じ込むことはできないためやはり関連書類の偽造は必要だが、戸籍やら何やらを弄るよりは遥かに難易度は低い。

 ホームステイ()も司法の未熟な、もとい制度の緩い国を狙えば、いざ不備が見つかったとしても言い訳は立つ。

 

「ほーむ、すて?」

「ホームステイですよアーニャさん」

「カンナ、いっしょいられる?」

「はい! 皆さんで一緒にお泊りです!」

「おー!」

「おー」

 

 女性一人と少女二人が姦しくしている様を横目に、ロイドは密かに動き出す。

 やらねばならないことは山積しているが、まずはカンナの必要書類を用意せねば。

 

 ――――これで少しでもアーニャがやる気になってくれればいいんだが。

 淡い望みを即座に思考から打ち消す。さて、降って湧いた仕事を片付けよう。背後から聞こえる談笑に薄く笑みを浮かべたロイドは、上への報告のため一度自宅から姿を消した。

 

 

 

 後日。

 ロイドの奮闘の甲斐あって、カンナはホームステイの居候としてフォージャー家でお世話になることになった。

 

 ここから偽装家族と人間のフリをした迷子のドラゴンとの面白おかしい日々が始まるのだが――――ここまでのドタバタの結果、何故トールと喧嘩したのか、その原因をカンナはすっかり忘れていたのだった。

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

 

☆げんいん☆

 

???「あー!! 小林さんのために毒抜きしてたしっぽが無残なことに!!」

 

 

 

 

☆おそと☆

 

???「おい、どうしたボンド!? 早く散歩を終わらせないと俺が帰れないだろうが!」

???「ぼ、ボフッ……」ガタガタ

 

 

 

 

☆ほうこくご☆

 

ロイド「ところでいつごろからうちの国の言葉の勉強を?」

カンナ「さっき一時間くらいで覚えた」

ロイド(な、何という地頭の良さ……うちのアーニャと取り替えたいくらいだ)

アーニャ(ちちー!?)ガビーン

 

 

カンナ「ヨル、人間にしてはやる。身のこなしがコバヤシと全然違う」

ヨル「あら、ありがとうございます」

カンナ(ヨルなら攻めてきた人間三十人くらいまとめて滅殺できる、血祭り)ワクワク

ヨル(〈自主規制〉)

アーニャ(は、ははー!?)ピェッ

 

 

 





 とりあえずあと二つほど書きたいエピソードはありますが、まだ一文字たりとも続きを書いていないので次回更新予定は未定です。

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