ぼっち・ざ・りたーんず! 作:百合原理主義者
だから書きます。
思うのです。
きっと私は人間に向いてないんだなって
「あっ、ぅ、ご、ごめんください、わが社のところてんを卸してみ、みませんか……、年代物でのど越しなめらか……、し、試供品も!」
「あぁ、ごめん、悪いけど今昼休み中だから帰ってもらっていい?」
「あっ……」
社会って言葉が嫌いです。
……いえ、嫌いというより怖いです。
「今月のところてんの営業売り上げは後藤さんが最下位でした。では後藤さん、これからできる改善点をあげてください」
学校は社会の縮図というらしいですね。
でも社会より簡単なんだそうです。学校では関わりたくない人には関わらなくても何とかなるのだから、社会と比べるまでもなく楽だと
「また後藤さん」
「部長も意地悪よね、後藤さん辞めさせたいからってわざと営業部に異動させて……」
でも私はそんな簡単と言われる場所ですら駄目でしたからね。
自分なりにしがみ付いてみましたが、社会なんて土台無理だったんです
「でも、簡単な仕事とかやらしても余計なことするし……」
「庶務で雑用だけさせたんだけど、この前も見積もり書の原本をシュレッダーにかけちゃったんだって」
人と関われない人間未満の私が、人と関わらないとだめな社会に放りだされたら、こうなるのは当然のことで
私は社会から落っこちてしまいました。
「ひとりちゃんこのドア開けて! もうお仕事なんかしなくていいから!」
自分が人間じゃないと認めたら少し心が楽になりました。
けど私を人として扱おうとする優しい人たちがまだいます。
でもそれは今更で、それはとても残酷なことだと私は思うのです。
「あーーーー、あーーーー、あーーーー」
「またお母さんと一緒にご飯食べようよ……、お願い……」
最近、時間がよく分かりません
アラームのセットされていない目覚まし時計、その秒針を見つめると、ものすごく遅いのに、日付だけはあっという間に過ぎ去っていきます。
「お母さん、最近ついにハロワ行けって言わなくなったな……、このままじゃダメなのはわかるけど、もう人生頑張れないよ……」
ふと、チューハイの空き缶のゴミばかり入った押し入れの隅に、紙のはがし後のようなものを見つけます。
それは私が壊した私の大切なものの一部でした。
「高校の頃、バンド組んでたの懐かしいなぁ……、なんだかんだあの頃の私ってキラキラしてたんだなぁ………」
手を伸ばすと空き缶にぶつかり、思ったより勢いよく倒れて、灰黒い汁が流れます
灰皿代わりに使っていた空き缶だったのでしょう、吸殻を吸った酸臭がする汚濁が大切なものにかかります。
「あっ、あぁ……、いや……、今日はもうギター弾いて落ち着こう……」
頭に浮かぶ色々を散らすため、ギターをかき鳴らします。
今日はお酒もタバコもききが悪いみたいですね。
そんな日はつい、まともなことを考えてしまうのが、どうしようもなく苦しいのです。
「みんな、今頃何してんだろ……」
そういえばあれからいったいどれだけの時間が経ったのでしょう
時計をチラリと見てふと気づきます。
あぁ、そういえば今日は誕生日、……私は27歳になっていたのです。
「う、うぁ……、うっ うぅぅぅぅ、う゛ぅ」
これは惨めだとか、不安だとかで出た涙ではないのです。
それは昔からでしたから、これはそういうものも含めた何かです。
でも、このぽっかりと空いた虚無に名前を付けて、形を持たせてしまったら、その瞬間おそらく私は生きていくことができなくなってしまうでしょう。
「戻りたい……ッ! 戻してよぉ……」
どうやら本当に今日はダメな日みたいです。
急いでお酒をあけて流し込みます。
お腹が苦しくなるほど入れた後、ようやく頭が働かなくなってきてくれます。
「あぁ……、みんな……」
ぼーっとしながら、腕が重くて大変でしたが、手元にあったライターでタバコに火を付け口にくわえて吸い込みます。
お酒で広がった血管がタバコのせいで無理やり縮んでゆくと、もう何も考えなくてもいいんです。
「……ぁ」
意識が落ちていく、これはいつもの気絶と違う気がします。
ジワリと広がるようなイヤな暗闇です。
でもこれで良かったのかもしれません……
こ、の……、ま……、ま…………………………
「ひとりー、いいかげん起きなさーい」
「うぅ……、 頭がいたい……」
「そろそろ学校行かないと遅刻するわよー、もう……、ふたり、おねぇちゃんを起こしてきて」
「ほ、ほっといて、生活費は一応入れてる」
二日酔いの最悪な奴、どんな不信者でも神に祈りたくなるような痛みと吐き気を私はこらえる。
「おねぇちゃん、また けびょ~?」
「た、たとえ仮病だとしても、本当に具合が悪くなってるなら仮病じゃ……」
痛みに呻きながら顔をあげると、小さな妹がいた。
「…………は?」
「どうしたのおねぇちゃん?」
「は、えっ、どういうこと? 」
まさか、私が知らないうちに三女が生まれていた?
混乱した私は訳も分からずに目を回す。
「さ、さんにん、みたり? は? 語呂がわるいよ……」
「おかあさーん、またおねえちゃんが変なこといって布団から出なーい!」
「もう、妹のふたりだって起きてるんだから。起きなさい」
訳が分からなかった。
「じゃあ、いってらっしゃい、ひとり」
回らない頭で流されるままに、私は朝食を食べて、歯を磨いて、着替えをした。
「ゆ、ゆめ? なんでこんな残酷な……、は、はは、まぁいいか、どうせ夢だし……」
部屋を出ていくとき、引きこもり生活でも唯一傍にいてくれたギターを担いだ。
「へ、へへ、ヤニで汚れてないし、手垢もまだまだついてない、きれいだなぁ……」
「おかーさん、おねぇちゃんがギターにほっぺたすりすりしててきもーい」
「ふたりもまだ私に対して優しいし、いいなぁ……、な、撫でていい?」
「お、おねぇちゃん、きょうはほんとにヘン……、怖い、エンガチョ!」
働きもしないで家に寄生する私に向けるあの目に比べれば、ずいぶんかわいいものなので許そう。
私は気分よく部屋に戻っていこうとする。
「ちょっとひとり! 学校に行かないとだめでしょ」
「ど、どうせ現実でも引きこもりだけど、学生の身分でのずる休みと永遠の夏休みに囚われたニートの休みでは、天と地との差が……」
どうせ夢なら家にこもらせて欲しいという私の願いは打ち砕かれ、はいはいと聞き流す母に玄関まで押し出される。
ポツンと道路に置き去りにされた私は途方にくれた。
「そ、そとなんか出たら、死ぬッ……」
社会を経て、引きこもりを経験した私から言わせれば、私の外への忌避感は数倍以上に膨れ上がっている。
私は私以外の全てを恐れているといっていい、そんな不安感から逃れるため、私は妙案を思いた。
「いや、まてよ? どうせ夢なら自分の好きな夢をみればいいんだ……!」
よーし、ふふふ、こんな場所にはいられない。好きな夢で書き換えてやると思い立った私は自分の欲望を爆発させる。
「えへへへ、どんな夢をみちゃおうかなぁ……、ェヘッ、エヘヘへ……」
学校に行く道すがら、夢の住人たちが何度も不審げに私を見るけど、夢だと思えば構いはしない。
「体に重い障害を背負って働かなくても許される存在になれば……、それはさすがに暗すぎか、宝くじ当てちゃおっかなぁ……、不労所得で悠々自適な生活もいいしなぁ……、他に、他にもっと……」
夢、見たい夢、私が一番見たい夢は……
「……みんなに会いたい」
でも、そんな夢は見れないことを私は知っていた。
虹夏ちゃん、リョウさん、喜多ちゃん
いまさら私がどの面を下げて会おうというのだろうか
「私が結束バンドを壊したのに……」
唇を噛むと血が滲む。
すごく痛くて、鉄臭い味が口いっぱいに広がっていく。
というか……
「イタッ、強く噛みすぎた! いたぁーぃ……」
夢なのになんで……、そこまで考えて口を押えた手の、そこに塗りたくられた鮮明な赤が、目に飛び込んでくる。
この血の赤さ、これは本当に夢なのだろうか?
次第に頭の痛みが薄れていくにつれて、いろいろなモノが見えてくる。
もう一度傷口に手を当てれば痛い
試しに頬をつねればやはり痛い
自分でざっくばらんに切ったはずの長髪を引っ張ればこれも痛い
髪を引っ張りながら、血だらけの自分の顔を揉んでる私を見つめる周りの目、これもとても痛い
「えっ……?」
気づけばヤバイ人を見るような目を周りの通行人は私に向けていた
えっ、じゃあさっきの妄想全開のあの顔も見られてた?
「ウッ、ウワァァァァァァ!!」
私は全力でダッシュした。
途中手足がまるで水中で動かしたかのように重いと感じた時は、一瞬だけ実はやっぱり夢では? と思いかけもしたが、それはただ私の運動神経が終わっていただけだった。
「お゛、おぇ……、なにが? どうして? 戻った? なんで?」
走って電車に乗り込んだ後の強烈なわき腹の痛み、体中酸欠で立てないほどのこの苦しみに、もはやこれが現実であると徐々に思い知らされてしまっていく。
もしもこれが、現実だとしたら
長く通った通学路、いつか見たような景色、携帯のニュースサイトを見れば、確かにこんなことあったという出来事が書いてある。
学校についた。
自分の靴箱を見つけるのに時間がかかったが、靴箱を見れば細かい傷などに見覚えがある。
下駄箱にクラスの番号も書いてあって、おぼろげな記憶を頼りに行けば懐かしい
そして、学校にいる間クラスメイトが話しかけてこない、……これも変わらない
「…………わたし、本当に戻ってきたんだ」
せっかくギターを持ってきたというのに、誰も話題に触れずに下校時間となる。
変わらない、記憶のとおりだ。黒歴史だから今も鮮明に覚えている。
「も、もしっ……! 変わらないなら……!」
私は走り出す。
人生でこんなに急いで走ったことはないくらいに走った。
「ゲェッ……ハァ、ハァ……ぢょっと休げい……」
そして校門前の横断歩道からは歩いて向かった。
しばらく歩いた先に目的地が見える。
ブランコと鉄棒とベンチくらいしか置いていない小さな公園
その一つに私は座り込む。
これが現実で、私があの頃に戻ったというのなら、もし許されるというのなら
ブランコに腰掛け、震えそうになる体を必死に押しとどめる。
あれだけ時間を無駄にするのは得意だったのに、やけに時間がたつのが遅い
落ち着きなくあたりを見回せば、同じようにベンチに座るサラリーマンが見えるだけで、まだ会えない。
本当に会えるのかも分からない、別の日だったかもしれない、そもそも自分なんかに話しかけてくれないかもしれない
ただ、祈るように待つ。
「パパ~」
「あなた、ごめんね遅れちゃって」
「よーし、飯を食いに行くか」
人の気配にびくりと身をすくませれば、それは別の人だった。
同じ公園にいたサラリーマンは家族とその場を去っていく。
しっかりと社会で働いて、奥さんと子供もいる幸せな家庭
自分と違い、必要とされる人間
与えることができない私が、誰かに必要とされることなんてありはしない
「…………やっぱり、私なんかが」
「あ! ギターーッッ!!!!」
だからあの時、私を必要としてくれたあの人は天使だと、今も心の底から思っている。
※注
きらら世界はかわいい女の子が可愛いことをする優しい世界
きらら系に男をぶち込むのが好きならば
私は優しい世界にうつ展開をぶち込もう
これはそういった作品です。