ぼっち・ざ・りたーんず!   作:百合原理主義者

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第12話

 

 お恥ずかしい話ですが、私は何かと“ひとり”でいることは多いですが、何かを“ひとり”で決めることがすごく苦手です。

 

 

 そもそも自分が思い切って何かをやってみれば失敗ばかりで後悔は積もる一方

 

 

 ……巷では“後悔しない選択”が素晴らしい人生と言われているらしいですがどうなのでしょうね

 

 

 後悔しない選択

 

 

 きっとギターをやってなくて、みんなと出会わなくて、バンドもきっと組んでなくて……

 

 

 あぁ、私はそれでも後悔をするのでしょう

 

 でもひょっとしたらこんな気持ちになる程辛くなかったのでしょうか?

 

 

 

 結局、私ひとりでは選べませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は事務所の一室、そこでテーブルを挟んでプロデューサーさんと向き合っていました。

 

 話の内容はもちろん先日のNステ、そこで話題になった私のギターについてです。

 

 

 

 

 

「まぁ、一応確認すると後藤チャンがこのguitarheroさん……、で間違いないんだよね?」

 

「う、あっ、そ、その……、…………はい」

 

 

 私はプロデューサーさんの前で小さくなりながら。時間をかけてようやく消え入りそうな返事を一つします。 

 

 

「……プロデューサーさん、ギターヒーローの名前をどう使うかはぼっちちゃん次第ですからね」

 

「そ、そうですよ! 名前を出すときはバンッとド派手にしちゃう予定なんですもの!」

 

 

 そして、私の隣に座る虹夏ちゃんと脇からずいと身を出す喜多ちゃん、それを見て苦笑しながらプロデューサーさんは手を振ります。

 

 

「いや、君たち本当に仲いいね、山田チャンもそんなに睨まないでくれよ」

 

 

 いつの間にか後ろから頭に手が置かれると上から声がします。

 

 

「ウチのギターは結束バンドの最終兵器ですから、勝手はやらないでくださいよ」

 

「まぁ、君たちがそう疑うのは仕方がないけどね、別に僕も後藤チャンをどうにかしようなんて思ってないってことは分かってくれよ」

 

 

 プロデューサーさんは肩をすくませながら私を含めた皆の顔を見てから、話を続けます。

 

 

「まず後藤チャン、前の番組見たよ、最高過ぎて鳥肌が立ったね」

 

「あっ、はい、ど、どうも……」

 

「後藤チャンがギターヒーローっていうのはこちらの方も少し前から確認はしていたんだよね。実は最近巷で噂になってたの気づいていたかい?」

 

「えっ そ、そうだったんですか!?」

 

「いや、ぼっちちゃん……、前に話してたじゃない」

 

 

 まさか知られていないと思っていた私は驚きの声を上げますが、同時に虹夏ちゃんとプロデューサーさんが難しそうな話をしていたことを思い出します。

 

 今になって思えば、あの時の会話は私のことを話していたのではと、今更ながらに思い至りました。

 

 

「まぁ、以前は疑惑程度という感じだね、技術的に真似てるかもってぐらいの憶測だったけど……、今回のNステで風向きは完全に変わった」

 

 

 うっ、と私は息を詰まらせます。

 

 

「そうとう話題になってるね、後藤ひとり=ギターヒーロー説、ネットでもそうだけどこっちにも問い合わせの連絡がもう来てる。あぁ、もちろんとりあえずは適当に煙に巻いといたから安心してね」

 

 

 実はそういった話題に心当たりがないわけではありませんでした。

 

 以前のNステから私のギターヒーロー名義のアカウントへ似たようなダイレクトメールが山のように届き、どのように返信するか途方に暮れていたところです。

 

 

「検証動画とかも出されてる。持ってるギターとか背格好、同業者からはエフェクターの好みから演奏法のクセまで指摘されてるみたいだ。いや、ほんと凄い人気だね」

 

 

 そう、そしてギターヒーローの発言と私、後藤ひとりの経歴が照らしあわした検証動画が出回り……

 

 

「う、うぅ……! 陰キャが陽キャの経歴詐称してごめんなさい……!」

 

「ひとりちゃん……、最近の書き込みはそうでもないから……」

 

「う、うん、まぁ、そこはネット、どう自分を見せようと自由なのが売りだからいいんじゃないかな……! まぁとにかくだね!!」

 

 

 プロデューサーさんは咳ばらいを一つしてから話を元に戻します。

 

 

「もちろんギターヒーローの名前は後藤チャンのモノだ。けど今、実際に君をギターヒーローとしてみなす世間の目があるなら今後の結束バンドの活動にも影響は出るだろう。ならキミはどうしたいのか? それ次第で事務所として対応も変わってくる」

 

 

 どうしたらいいか、そう聞かれて私は改めて考えこみます。

 

 バレたくない……、わけではない、むしろ自然な感じでバレてすらいいと昔の私は思っていました。

 

 

 いや、なんというかこう……、

 

 “ひょ、ひょっとして後藤さんはギターヒーローなんじゃ……? ”と聞かれて

 

 “そうですけど?”みたいな感じで別に隠してないんだけどね……

 

 みたいにクールに決めちゃったり……!

 

 

「隠したいなら事務所としては事実は確認できないと突っぱねるし、派手に発表したいなら事務所だってフォローしてそれなりの場所や演出も用意しよう! ……君がそれを必要とするならね」

 

 

 いや、まてよ?

 

 プロデューサーさんの言う通り、どうせならもっと劇的な感じで皆にワーキャーされながら発表しちゃったほうがカッコいい?

 

 ……実は今まで隠してきたんだ。……私たちの音楽に色眼鏡をつけて聞いてほしくなかったから

 

 ……みたいな!! こっち! こっちもいい!!

 

 

「考えが口に出てるよぼっちちゃん……」

 

「というか聞くなら色メガネは違くない……?」

 

「じゃあ色イヤホンですかね」

 

「それはもうジャケ買いとかの表現で良くない……?」

 

 

「うん、まぁ、でも個人的に心配なのがあってだね……、正直事務所としてはどっちに転んでもおいしいんだ。隠せばミステリアスな魅力になるし、発表すれば単純な話題性は抜群! でも、でもだねぇ……」

 

 

 で、でも! どっちも捨てがたい! 欲を言うなら二回やりたい……!

 

 ま、迷う! わ、私はどうしたら……!

 

 

「……後藤チャン、君、ちゃんとウソとかつき通せる?」

 

「ウフっ、うへへぇ……、ハッ!?」

 

「中途半端にバレたりしないよね?」

 

 

 私が意識を取り戻した時、虹夏ちゃんは手で顔を覆い、喜多ちゃんは目をそらしていました。

 

 

「アバ アババババ……」

 

「いや、あの、それは……、そうなんですけど……!」

 

「そ、そうです一応結束バンドとして、ひとりちゃんのギターに負けないぐらいの力をつけたら一緒にやろうって決めてたんです!」

 

「……まぁでも、結局はぼっち次第だよね」

 

 

 リョウさんの言葉で、みんなの会話が途切れ、私に目線が集中します。

 

 その雰囲気を察したプロデューサーさんがゆっくりとこちらに目線を合わせて問いかけます。

 

 

「じゃあ改めて聞くよ後藤チャン、君はどうしたいんだい?」

 

「えっ、あっ、うっ……」

 

 

 妄想の時間は終わりです。

 

 

 どうやれば一番いいか、そういわれて先ほどの妄想やそれに覆い隠された不安がグルグルと頭の中に渦巻いていました。

 

 

 結束バンドの邪魔にならないだろうか?

 

 自分の本当をどう見せるのが正解なの?

 

 そもそも本当に世間にバレてもいいの?

 

 

 ウロウロと彷徨わせる目線は自然と皆の方へ移ります。

 

 

 でも、なぜか皆はこちらの目線を受け止めるだけで何も言ってはくれません

 

 

 

 ……本当は分かってます。これは私が決めなきゃいけないことで、皆はそれを分かってるからただ私を見守ってくれているんです。

 

 

 私が一人でちゃんとできることを皆に見せなきゃいけない

 

 いつまでも結束バンドのお荷物でいるわけにはいかないんです。

 

 

 私はどうしたいか、そう聞かれ、なんとなく思いついたこと……、というよりは自然に頭の中に残った考えが一つありました。

 

 

 

「……私は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話が決まってから、私たちはすぐ動き出しました。

 

 やろうと思ってからかかった時間は3週間も掛らなかったと思います。

 

 まさか、ここまで順調に進むとは思っていませんでした。

 

 

「まぁ、意外と言えば意外、でもぼっちらしいって言えばらしいかもね」

 

「リョウさん……、無理言ってすいませんでした」

 

「いや、相談に乗るぐらいしかしなかったし、楽しかったよ、どちらかと言えば虹夏達が気合い入れすぎて心配だったぐらい」

 

 

「ひとりちゃんに負けていられないですもの! 何においても私が頑張らなきゃって!!」

 

「喜多ちゃん……、別にそんなの、やっぱり私がやってみたら全然で、喜多ちゃんはやっぱりすごいって改めて思ったよ……」

 

「せっかくのお披露目! 今日の主役はギターヒーローなの! そんな意気込みじゃダメよひとりちゃん!!」

 

「ヒ、ヒェ……」

 

 

「いや、本当にみんなでがんばったね、プロデューサーさんにせめてこの間だけでも仕事を減らしてもらうよう掛け合った甲斐があったよ」

 

「虹夏ちゃんもいろいろ思い付きで頼んでごめんなさい。プ、プロデューサーさんも、私のやり方が地味でもったいないって言ってましたし……」

 

「いいの!いいの! おねぇちゃんも嬉しそうだったし! それに事務所の手を借りないこっちの方がぼっちちゃんらしくて私もいいと思うよ」

 

 

 私たちはPCを囲うように4人で立っていました。

 

 

「じゃ、じゃあ、やります!」

 

 

 私は皆に見守られながらマウスを操作すると、震えるマウスカーソルを丁寧に動かして、一つの動画を投稿します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、ある動画投稿サイトに一つの動画がアップロードされる。

 

 

 その動画のアカウント名は“guitarhero”

 

 その投稿スタイルはいつもの馴染みの和室と奇抜なピンクジャージ姿で、世に有る流行曲を高い技量で演奏するといった所謂“弾いてみた”系の投稿者。

 

 

【guitarhero】みんなで新曲!【弾いて歌ってみた】

 

 

 しかし今回の動画はいつもと趣が違った。

 

 

 着ている物はいつもの芋ジャージ。その姿のまま撮影機材を近くで触っているのか画面にはお馴染みのださピンクが一面に映る

 

 そして操作を終え、画面から距離を取っていくと次第に他の景色が映っていることに気づくだろう。

 

 薄暗い地下を切り裂くようにまばゆい光を放つライブハウス、その光を受けながらギターヒーローが背を向けて中央へと歩いてゆく。

 

 普段なら絶対に胸上は映さない彼女の全身が画面に収まった時、彼女の動画をよく見る者達は驚き、それと同時に画面の全体が姿を現した。 

 

 

 ここでようやく気付く

 

 

 その画面の中央で背を向けてギターヒーローが立っているが、その脇にも人影がいる。

 

 頑なにコラボを拒否し続けてきたギターヒーローの両脇にドラム、ベース、ギターの3人が彼女が定位置に着くまで静かに見守っていた。

 

 

 

 ゆっくりとギターヒーローが振り返る。

 

 

 

 驚くべきことにギターヒーローの前にはマイクが一つ置かれていた。

 

 

 

 そして照明が彼女を照らす。

 

 その光に彼女は目を細めた後、小さな、しかし不思議とよく響く声で呟いた。

 

 

「聞いてください、ギターヒーローで……」

 

 

 そこから行われた演奏に視聴者はただ、聞き入った。

 

 いつもの正確無比な演奏技術を魅せる彼女とは違い、生の迸る感情が出力されたそれは、明らかに今まで知るギターヒーローの姿ではなかった。

 

 その歌声

 

 ギターほどの技量はないと分かる歌声はしかし、なぜか妙に人の心を揺さぶる。

 

 半端な声はギターと合わせて一つの楽器のような奇妙な一体感を持って、聞くものの芯を揺さぶった。

 

 

 彼女の感情が音として飛び込み、聞く者の脳。あるいは心、そういった何かを震わせ、体に鳥肌が立つ

 

 

 わずか数分程度の演奏

 

 それが終わり。動画を見た幾人もの人間がただ呆けたまま、ようやく飛ばされた動画の広告で意識を取り戻す。

 

 

 

 

 急いでひとつ前の動画に戻ると、コメント欄にはただ短く

 

 

 

 今後とも 結束バンド:後藤ひとり/guitarhero をよろしくお願いします。

 

 

 

 とだけ書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分で歌を作って自分で歌う。

 

 

 まさか自分がこんなことをするなんて思ってなくて……、いや。そうじゃないです。

 

 本当は忘れてしまった昔の憧れで、普通に考えれば自分には無理で諦めて、でも初めの自分は確かにそんな自分になってみたかったっていう気持ちもあって……

 

 歌は妹ぐらいにしか聞かせられませんでした。

 

 歌えないわけじゃないけど、人前でこんなことできるはずがなくて、だからこそきっと、この結束バンドのみんなが支えてくれる今しかやるチャンスはないのだと思いました。

 

 

「うわっ、再生数エグッ……! これ反応ヤバいよぼっちちゃん」

 

「今、ギターヒーローのチャンネル登録者数って25万人でしたっけ……、あの、昨日の今日で50万まで増えてませんか?」

 

「これ、登録者数100万行くかもね、ということはさらに再生数が……! 考えられる収益も……、フフ、ぼっち、実は作曲の指導料についてなんだけど……」

 

 

 

 正直、曲の完成度はリョウさんと比べるのも失礼、私程度の歌声じゃ喜多ちゃんの足元にも及ばないなぁ、なんて思ってしまっていた私の動画は、結束バンドとの相乗効果、その時の話題性やドラマ性、もろもろ込々で、結果かなり……、いえ正直謙遜するのがおこがましいほどの評判となった記憶があります。

 

 

 動画投稿を行った次の日、事務所のプロデューサーさんは本当に忙しそうに動き回っていますが、私たちの姿を見るといつもの笑顔を見せます。

 

 今現在、私個人や結束バンドに対しての取材依頼が殺到、その対応を丸投げする形になってしまったプロデューサーさんに、私は何を言われるかと身構えていると

 

 

「あぁ伊地知チャン、とりあえずは結束バンドじゃなくてギターヒーローに話を聞きたそうなトコは全部シャットアウトしといたから!」

 

「えっ、あ、ありがとうございます」

 

 

 意外そうに互いに顔を見合わせる私達にプロデューサーさんは困ったように眉を下げて笑います。

 

 

「まぁなんとなく君たちが分かってきた。どうなろうとも“結束バンドで”なんだろ?」

 

 

 プロデューサーさんは呆れたような、でもなにか少し眩しいものを見るように一瞬だけ目を細めます。

 

 

「ここからは僕らの領分さ、バッチリ任せてくれよ、君たちは仕事を十二分にこなしてる。なら僕たちはそれに応えなきゃいけないからね」

 

 

 そういってプロデューサーさんはいつもの軽い笑い顔に戻ってしまいます。

 

 

「あっ、でも他のとこには結束バンドとして仕事を受ける以上はギターヒーローの話題は控えるように釘は刺すけど、全く触れられないってことはないと思うからそこらへんは皆で上手くかわしてね!」

 

「分りました! ひとりちゃんのフォローは任せてください!」

 

 

 正直、プロデューサーさんがここまで私達の意見を全面的に認めてくれるとは思わず拍子抜けしてしまいますが……

 

 

「何か企んでる……?」

 

「あっこらっ、リョウ!」

 

 

 その一言にプロデューサーさんは怒らずに、少し意地悪そうな顔をして

 

 

「フフ、バレたか……、できればご機嫌を取ってあの曲のレコーディングをウチに任せてもらおうって腹なのさ……」

 

「……それを決めるのはぼっちちゃんですからね?」

 

 

 虹夏ちゃんがすかさず一歩前に出ると、プロデューサーさんは慌てたように手を顔の前で振ります。

 

 

「分ってるって! ギターヒーローの音楽はギターヒーローのモノだ。好きな形で世に出すべきだってわかってるさ!」

 

 

 しかしそれでも疑惑の目を向け続ける虹夏ちゃんにプロデューサーさんは襟を正して向かい合います。

 

 

「僕はね、ただあの音楽を世に広めたいと思っただけだ。君がどんな形にせよ世に出すつもりなら全然おっけーだよ! 上の奴らと戦う覚悟くらいある」

 

 

 その一言にみな少し驚いた顔をします。

 

 

「ひ、ひどいなー、君たち僕を金の亡者か権力に取りつかれた奴みたいに思ってたのかい?」

 

 

 正直、……いえ、実を言えばかなりそうかなと思っていたのは内緒です。

 

 

「……これでもうちの事務所は音楽一本でやってるんだ」

 

「その割にいろいろ余計な事させますよね」

 

「うっ、山田チャン……、まぁ本業は音楽さ、……僕はね、いい音楽を世に出したいのさ、臭いことを言うと本物の音楽ってヤツをね」

 

 

 プロデューサーさんの意外な言葉、そしてそれを聞いて一番恥ずかしいのはプロデューサーさんなのか、心なしか赤い顔のままワザとらしい咳ばらいをします。

 

 

「ウォッホン! 僕だってね、昔は音楽で食ってこうとバンドをやってたんだよ? じゃなきゃ音楽の善し悪しが分からない奴がプロデューサーなんてできるわけが、……まぁできちゃうのがこの業界か……、いや! でも僕は違うからね!!」

 

 

 ただでさえ早口で話すプロデューサーさんが心なしか輪にかけてまくし立てるように喋りきるのですから、私たちも何も言えず黙り込みます。

 

 

 そのわずかな間を嫌ったのかプロデューサーさんはすぐに仕事に戻ろうとし、最後に私の方を見て

 

 

「ギターヒーローさん、どんな形であれ、貴方の音楽が世に出されるなら僕に文句なんてないよ」

 

 

 そう言って、私たちの前から小走りで去っていきます。

 

 

 やりたいことと、やらなきゃいけないこと、したいことというのはきっとツラいことと背中合わせで……

 

 今更ながらに、私は大人の大変さと凄さ、その一鱗に触れた気がしたと、その時思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、私の曲はレコーディングして世に出すことに決めました。

 

 

 リョウさんからは、いっそ個人で出してもいいのでは? とも言われましたが、そのまま事務所の伝手でレコーディングもお願いしました。

 

 

 より良い音楽を作りたい。

 

 

 プロデューサーさんの音楽に対する意外な真摯さもそうですが、なにより大手の強みとして、よりクオリティを高く仕上げられるという点で私は選びました。

 

 

 こうして出した曲も、……下世話ですがかなり売れます。

 

 しかも知名度効果でバンドの売り上げも好調です。

 

 

 

「これで私も少しは結束バンドのために何かできたかな……、いや、結構最近の私ちょっと……、いやかなり頑張ってる……、うへ、うへへぇ……」

 

 

 皆がそれぞれの個性で結束バンドを盛り立てていく、その一助になれたのではないかと私はほんの少しだけ安心した後にハッとします。

 

 

「だ、だめだ後藤ひとり、いつも私は調子に乗ってとてつもないやらかしをする……!」

 

 

 私はいつの間にかだらしなく緩みきった頬を引き締めます。

 

 ここで褒められて嬉しいなぁと思うだけじゃ、何も変わらない、みんなが私のためにしてくれたこと、今度は私が皆に返さなきゃいけないんだと決意を新たにしました。

 

 

「ふふふ、お悩みのようだ後藤チャン……」

 

「うっ!?」

 

 いつの間にかいたプロデューサーさんは、怪しげな含み笑いをします。

 

 

「そろそろ、やろうじゃないか……」

 

「な、何をですか?」

 

 そして勿体ぶりながら話を始めますので、一応の合いの手を入れながら私は言葉を待ちます。

 

 

 

 

 そして、プロデューサーさんの開いた口から聞かされた言葉に私は電流に貫かれたかのように身をピンと伸ばしました。

 

 

 

「武道館ライブ、やるんだろ? みんなを集めてくれ」

 

 

 

 

 

 きっとここでした。

 

 ここそが私の間違いでした。

 

 

 私が得意気にやったこと全部が結束バンドを台無しにする行為だったと今なら分かります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は先日のスターリーのライブハウスでの出来事を思い出しながら布団を転がる。

 

 

「ぐ、ぐおぉぉぉ……! 結局虹夏ちゃんにギターヒーローだってバレてる……!」

 

 

 私は結束バンドの初ライブ、その打ち上げで虹夏ちゃんに言い放った言葉を反芻しながら悶えていた。

 

 

 偽装は完璧だったはず 歴史は繰り返すというのか……!

 

 そう思いながら、あの場でバレた理由をそれとなく聞くと

 

 

“えっ だって和室にピンクジャージとかダ……、め、珍しいし! よくよく考えたらギターも一緒だったじゃん”

 

 

 納得できないと思わず虹夏ちゃんの手を握り、ギターの利き腕さえ変えたのだと泣き言を私は唱えますが、虹夏ちゃんはすこし気まずそうに目をそらし

 

 

“ぼっちちゃん、日常生活だと隠さず普通に右利きじゃん、今だって右手が先に出てるし……”

 

 

 そう言われて膝を折る私と、慌てて助け起こす虹夏ちゃん

 

 

「これもさだめなのか……、それとも私が愚かなのか……、ふ、ふへへへへ」

 

 

 悲観が一周回って薄ら笑いに変わった私は部屋の隅で小さく三角座りで縮こまる。

 

 時は夏休み

 

 私は貴重な青春の時間の内でも万金に値するだろう時間をお布団の上で怠惰に過ごしていた。

 

 結束バンドの皆に誘われてもいいように、もちろん予定は開けてある。

 

 

「いや、だからそれじゃダメでしょ……」

 

 

 そう、私以外の皆は割と忙しい、リョウ先輩は一人でよく分かんないとこで楽しんでるし、虹夏ちゃんはスターリーのバイト等で暇なときはない、そして喜多ちゃんにいたってはそもそも予定をあけることがないので論外

 

 みんなはどうせ私なしでも楽しめちゃうんだ……

 

 

「ふ、ふへへ、結局この部屋に籠るんだ……、い、いいもんね、ここが私の世界なんだ……」

 

「おねーちゃん」

 

「はんっ!?」

 

 

 突然の声、この部屋に侵入してくる人なんて年単位で居なかった私は、心の最終防壁であるふすまを超えてきた侵入者に驚きを隠せない

 

 

「あぁ!? 私の世界が破られるぅぅ!!」

 

「うー、おへや ほこりっぽいなぁ」

 

 

 そう言ってふたりは締め切った私の部屋の窓のカーテンを開け放つ、さんさんと照らす日差しを部屋の隅で避けながら、ようやく私は平静を取り戻した。

 

 

「あっ、あぁふたりか……、そっか、今は普通に入ってくるもんね、ふっふふ……」

 

「なんかおねーちゃんがまたきも~い」

 

 

 ここが現実の世界ならふたりはキラッキラのJK真っ盛り、妹といえどその姿を直視することは不可能……、というより中学校あたりからなんか……、こう、距離というのだろうか、別にケンカなどしていないのに何となく話す機会が減ったと思う。

 

 今どきの若い子が何を考えているか分からない……、というよりは急な心の成長に私がついて行けないのもあるだろうが……

 

 ふたりも年頃になって家にいない時間が増えたし、オシャレもしちゃって、そういうのに疎い私はなんか危ない場所で遊んでいるんじゃないかと心配した時もあった。

 

 まぁ、外にでず、部屋にずっと籠ってる私の方がもっと自分を心配するべきだけどね……

 

 

 

「姉が引きこもりだもんね……」

 

「えっ、しってるよ? おねーちゃん、テレビでやってる“にーと”そっくりだもん」

 

「ちがうよふたり、ニートは仕事も勉強もしてない人のことだよ」

 

「そうなの?」

 

「そうなの、将来のための勉強もせず、ちゃんとしたお仕事につかない人のことをいうの、だから私みたいに何もせず毎日ギターだけ弾いているような人間は……ん?」

 

 

 これ、私のことだ……

 

 

「い、いや私は今学生だから! まだセーフ、セーフなはず!! まったく勉強が身に入らなくて将来に毛ほど役に立たなくても! 一応女子高生!」

 

「へー」

 

 

 ふたりは私の言葉を話半分で聞き、持ってきたタブレット端末を操作している。

 

 いやこれ半分も聞いてないな……

 

 でもなんだろう、この空気、すごく懐かしい

 

 

「ふたりは最近元気? かわったことない?」

 

「えーおねーちゃんにしんぱいされたくなーい」

 

 

 それはそう

 

 

「う、うん、じゃあ最近好きなこととか、よくやってることとかある?」

 

 

 タブレットに目を向けるふたりが顔をこちらにあげたまま首をかしげる。

 

 

「うーんとね」

 

 

 

 なんだろう、大きな目で自分を見上げるふたりをみて、実の妹に言うのも変だけど、この時のふたりもかわいいな、そう言えばこの時のふたりは何やってたっけ、なんて思っていると

 

 

「よあそびがすき!」

 

「夜遊び!? ウソでしょふたり!?」

 

 

 予想を裏切る返答に私は激しく動揺する。

 

 

「おっ、お姉ちゃんはそういうの、危ないし、ふたりには早いと思うなぁ!!」

 

「えーなんで? おねーちゃん やってるじゃん」

 

 

 確かにバイトで帰りが遅くなることはあるが、むしろそれ以外の外出はしてない

 

 

「お、おねえちゃんはお仕事だからいいの」

 

「さいきんずっとおし入れで よあそびしてるのにー」

 

「いやそれは夜遊びじゃなくて夜更かしで……」

 

 

 どう二人を正道に立ち戻らせるか言葉を詰まらせる私に、ふたりは頬を膨らませながらタブレットをこちらに向けてくる。

 

 

 そう、それは私があげた動画だ。

 

 演奏するギターヒーロー、この年に一番売れたアーティストの曲を弾いている。

 

 そういえばこの年のこの人の人気はすごかった。

 

 視聴者の反応がいいその曲たちのカバーを当時、あの手この手でえげつない数をカバーして弾いた記憶がある。

 

 

「ん? あっ……、そっちの夜遊び……」

 

 

 ふたりがグレたわけでないことに気付いて胸を撫でおろす私の顔にタブレットが押し付けられる。

 

 

「そーだ、そのためにきたの、おねーちゃんこれやって、アイドルのやつ、やっぱりダメ?」

 

「ごめん、ちょっと勘違いしてた。いいよふたりが好きなの弾くよ」

 

「じゃあね、このどうがみたいにやって!」

 

「はいはい」

 

 

 そういえば、昔はこうやってふたりに人気の曲をせがまれたものだということを今更ながらに思い出した。

 

 もう何かをふたりに頼まれた記憶すら遠い私は、いつも以上に本腰を入れてギターを持った。

 

 私は息を少し整えてから妹のリクエストに答える。

 

 

 妹の期待に応えようと原曲の再現を目指し、全力で弾く私

 

 

「えー、なんかたりなくてちがーう」

 

 

 大きすぎてヘッドホンの片側のイヤーマフしか当てられないふたりは片手を抑えたままこちらを指さす。

 

 全力のギター完コピ、しかしそれは不評だった。

 

 

「ち、ちがうの?」

 

「だってこのどうがのチキチキとかボンボンないし」

 

「チキチキボンボン……、ベースとドラムのことかな、それは編集で……」

 

「えーできないの?」

 

 

 流石に一本のギターでメロディ、ベース、ドラムの再現は厳しい……、

 

 そう言いかけるがふたりの不満そうな顔を見たら、私にはその期待を裏切ることはできない

 

 

「う、うーん、まぁやってみるね」

 

 

 曲はメロディとベースラインぐらいならなんとか誤魔化せないかと弾いてみる。

 

 

「それそれ、おねーちゃんチキチキも!」

 

 

 いや、全部は流石に……、もうここは無駄な音を省いてそれっぽく……

 

 試行錯誤を繰り返し、そのたびに無茶ぶりをするふたりのアンコールで何度か曲を繰り返す。

 

 

「えへへー、おねーちゃんやっぱりできるじゃん」

 

「ま、まぁね」

 

 

 ようやく満足した様子のふたり

 

 実は割とギリギリなことを隠しながらやりきると当時としても珍しくふたりが私の太ももの上に転がってくる。

 

 嬉しそうなふたりは頭を置いたまま、それを邪魔しないよう私もギターを脇に置いた。

 

 ギターを弾く姿勢のままなので、ふたりの頭を足で抱え込む姿勢となり、自然と私達の目線は近くであったままだ。

 

 

 ふたりはぼーっとした様子で私の目を見上げたまま無言でいると、突然ぽつりとつぶやいた。

 

 

 

「じゃあね、じゃあね、今度は歌って?」

 

「え?」

 

「お姉ちゃんの歌が聞きたいな、何時もしてくれたじゃん」

 

「うん……、そういえば、そうだったけど……」

 

 

 別に歌えない訳じゃない、ただ、なんとなくそれをここですることは躊躇われた。

 

 

「今日はちょっと喉の調子が……」

 

「さっきすごい大声出してた」

 

「少し歌わないうちに下手になっちゃって」

 

「勿体ぶっちゃって、昔から私には聞かせてくれたじゃん」

 

「あっ、それにギターと同時だと難しいかなぁ……」

 

「じゃあきらきら星がいい、幼稚園で歌ったやつ、うん、あれがいいなぁ……」

 

 

 一つ一つ退路を潰される。

 

 ふたりも頭を動かす気はないようで逃げることもできない

 

 

 うたっていいのか、そんな考えが頭に浮かぶ。

 

 

 

 

「Twinkle, Twinkle, Little Star♪」

 

 

 

 

 その時ふたりの声が下から聞こえた。

 

 

「ほら、せーの」

 

「あっ……」

 

 その言葉に押されて、私は脇にあるギターでメロディーをかなでる。

 

 

 A、D、Eたった3つのコードだけで弾けるその曲はギターを横に立てても手を伸ばせば簡単に引けた。

 

 

 

「「Twinkle, Twinkle, Little Star♪」」

 

 

 

 促されるがまま歌うと、案外、声というものは簡単にでるもので

 

 初めはふたりと一緒に、次第にふたりはメロディを口ずさむ程度で、最後は私一人で歌い上げる。

 

 

 短い曲はすぐに終わる。

 

 

 だけど不思議と部屋の空気はゆったりとしたもので、そこまで短いとも思わなかった。

 

 

 

「ふたり?」

 

 

 いつの間にかふたりは寝入ってしまっていた。

 

 風で揺れると思うほど長いまつげがついた瞼が閉じている。

 

 

 なんとなく心地がいいな、歌ってみればそんな風に思えるのはあの頃の無邪気なふたりのおかげだろうか

 

 

 あの時は一人だと思っていたがそれは案外私の思い込みで、こういう時間もないわけじゃなかった。

 

 そんな風に思えば夏休みの間中、家に居るのも悪くない

 

 

 そう思えた。

 

 

 

「けど、たぶん、もう昔のふたりぐらいにしか歌ってあげられないかなぁ……」

 

 

 

 夏が終われば文化祭だ。

 

 それをきっと私は楽しんではいけない

 

 

 だってなにより、私にとって、こんな懐かしい今がどうしてもいとおしいのだから

 

 

 

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