ぼっち・ざ・りたーんず!   作:百合原理主義者

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第2話

 

 思えばですが、私たち結束バンドは出会いに恵まれ、その活動もとても順調だったのだと思います。

 

 オーディションを受けながら練習して、ライブして、徐々に自分たちの音楽が好きだと言ってくれる人たちに出会って、なんとレーベルにも誘われて……

 

 すべてが手探りで休む暇なんてなくて、どう考えても大変なことばっかりだったのに……

 

 当時は目を回しているだけでしたが、あの時の日々は何より楽しかったんだと思います。

 

 

「メジャーのレーベルですか……?」

 

「そうです、考えてみませんか……、と、会社としては言わせていただきます」

 

「でも私たちこのストレイビートさんに見出してもらったんですよ、それをそんな……」

 

 

 だからその話はあまりに突然なことで

 

 

「声をかけてくれたのはソベックス・エンターテインメントです」

 

「おっ、おぉ……」

 

「リョウ先輩がうろたえている!? って、え? そこって私でも聞いたことありますよ?」

 

「き、喜多ちゃん、い、一番おおきいところ……! この日本で一番大きな所だよ!!」

 

「おちついて虹夏……、そんな話だけで飛びつくような腰の軽さじゃ、逆に食われちゃうよ……」

 

「せ、先輩! なんて腰の据わりよう 流石です!!」

 

「ちょっ! リョウ! 流れるように高額ギターをスマホで予約しようとするな!」

 

「my new gear……」

 

「山田ぁッ!!」

 

 

 降って湧いたかのような話、これを逃したらこの先、こんな幸運二度とないような、そんな暴力的な選択です。

 

 

 

「正直、私たちも驚きました……、ですがこれは、あなた達の意志の問題だと思います」

 

「で、でも司馬さん……、これって引き抜きじゃ……」

 

「私たちのことは気にしないでください、この話が通れば、正直こちらの規模としては破格の条件を出してきましたから、再度言いますがこれはあなた方の意思次第です。確かに大きなレーベルで自分たちの思う様な音楽が出来ない、縛られていると感じてしまうようなことがあるかもしれません」

 

「は、はい」

 

「もちろん断ったからと言ってどうともしませんし、あなた方を私たちは守ります。……ですがよく考えてください、このチャンスは、この日本すべてのアーティスト達が狂おしいほどに望んだ栄光の一つです。そんな岐路の前に貴方たちはいると理解してください」

 

 

 でも馬鹿な私はこんなときでさえ、自分のことしか考えていなくて

 

 

 

「私たちのやりたいこと……、正直、有名になれば、私の夢には近づく……のかな? でもみんなは……?」

 

「私はこのメンバーとどこまでも一緒に行きますから!」

 

「私は別に、……みんながそうしたいなら、それもいいよ、だから……」

 

「階段、ふぇヘ……、あぁふ……タミさん」

 

 

 どうやったら自然な感じで、自分の正体がバレるかなんて小さなことしか考えてなくて

 

 

「………ぼっちは?」

 

「ぼっちちゃんは?」

 

「ひとりちゃんは?」

 

 

 だから今だから言えます。

 

 

「でぇへへ……、はい、実はわたしがギターヒーローですぅ……ん? 」

 

 

「妄想の中にいたんだ、タミさんどうだった?」

 

「しっかりたのむよー、ギターヒーローさん」

 

「まぁ、でも、みんな気持ちは一緒ですね!」

 

 

「えっあっ、は、ははは、はいぃ! み、みんなで! いっしょに!! したいです!!」

 

 

 

 この話は絶対に受けるべきではなかった。

 

 そしてギターヒーローは消えるべきだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それギターだよね? 弾けるの!?」

 

「……あっ」

 

「……おーい?」

 

 

 あ、あれ、か、感動のあまり意識が飛んでた……!!

 

 

「あ! いきなりごめんね、私下北沢高校2年の伊地知 虹夏!」

 

「後藤ひとり! ギターやってます! 暇です! ここ10年先……。あっいえ、ここ数年の売れ線バンドは全部引けます! 」

 

「い、逸材!! じ、実は私バンド組んでるんだけど、今日急にギターの子がこれなく……」

 

「バンド組んでみたいけど! メンバーが集まりません!!」

 

「まだ何も言ってないのに! でもいいよ! うまい話があるよ!」

 

「あっはい、でもギターの腕はミジンコ以下です!」

 

「……まぁ、ここまでの好条件、全然かまわないよ!」

 

 

 ついてきてとはにかむ虹夏ちゃんの後をついていく

 

 高校生の虹夏ちゃんの残り香を懐かしく思っていると、先に立つ彼女がこちらに顔を向けた。

 

 

「ギターに自信がないって言ってたけどさ、でもここ最近の曲みんな弾けるぐらいなんでしょ?」

 

「あっはい普段はネットでカバーあげたり……」

 

「へぇーギターヒーローさんみたいだね」

 

 

 その一言に私は固まりかける。

 

 

「いえ! ネットに便座カバーの画像をあげてます」

 

「それはどういう趣味!?」

 

 

 ギターヒーローだけはまずい、このことは絶対みんなにバレてはいけない、あんなものがあったから……

 

 

「ご、ごめん、真剣なんだ……、人によっていろんな趣味があるよね」

 

 

 思えば、私がギターヒーローであることに気づいたのは虹夏ちゃんが最初だ。

 

 もっとバレないように用心しなければいけない

 

 

「あはは、で、でね、私が言ったギターヒーローっていう人はネットで数年前からギターの動画上げてるんだけど、すごいうまいんだよ」

 

「へぇ……、そうなんですね……、全然知りませんでした」

 

「あれ? 知らない? ほら動画もあるんだけどさ……、このピンクジャージの……」

 

 

 私はすぐさまジャージを脱ぎ捨てた。

 

 

「どうしたの!?」

 

「いえ、あつくて……」

 

「へ、へぇ……」

 

 

 私は肌寒い春先の中、半袖だけで歩いて行った。

 

 

 

「ついたよ~、ここがスターリー」

 

 

 地下への階段を降り、懐かしい扉を開けると、そこは薄暗いライブハウス

 

 もう何年振りだろうか、不意に足を止めると涼やかな声がする。

 

 

「やっと帰ってきた」

 

「この子はベースの山田リョウだよ、でこっちが助っ人の後藤ひとりちゃん」

 

「こんにちわ」

 

 リョウさんがこちらに軽く会釈をする。

 

 私は何も言わずつい、その顔をぼーっと見てしまっていた。

 

 

「げぇッ ひとりちゃん、やめといた方がいいよ、リョウはかなりの変人だから」

 

「えっ、あっ、はい、……え?」

 

「フッ……」

 

 

 リョウさんは変わらないなぁ……、そんなことを考えながら思わず笑みがこぼれた。

 

 

「ム……、虹夏やるね、なかなかのヴィジュアル値だ」

 

「別にそこ基準で選んだわけじゃないから」

 

「じゃあギターの腕?」

 

「いえプランクトン程度の腕前です……」

 

「ま、まぁまぁ、さっそくスタジオで練習しよっか!」

 

「……あっ、その前にギターの準備させてください」

 

 

 来てすぐに私たちはスタジオに向かい、通りすがったPAさんに挨拶をしてから練習を始める。

 

 

「バレないように……、バレないように……」

 

 

 絶対にバレないように……、ジャージは脱いだからバレない……、そもそも顔出ししてないし、弾き方の癖は……、いっそ左で弾けばバレないかな……、ストラップ直さなきゃ……、ギターはこれで良し、……ん? ギター?

 

 

「……ふーん、それ、良いギターだね」

 

 

 ……これギターヒーローって人と同じギターだよ、そもそもが同一人物だから同じだよ。

 

 

「いえ、私のギターじゃないです……」

 

「えっ、そうなのひとりちゃん」

 

「盗みました」

 

「嘘でしょッ!?」

 

「とんでもなくロックな子がきたね……!!」

 

 

 私は何をいってるんだ……!

 

 

「あ、いえ! 父のなんですけど、無理やり自分の物にしたー、ってかんじです! 今日初めて持ってきました」

 

「フフ……、非行少女」

 

「そ、そっかぁ、そういうことかぁびっくりしたぁ……! じゃあさっそく合わせてみよっか」

 

 

 ひ、人に合わせるのが久しぶりすぎて……、わたし、や、やれるかな?

 

 長い孤独でむしろいろいろなモノが衰えてそう……

 

 

 そんな私の心配など待ってくれるはずもなく、虹夏ちゃんがカウントをとって曲が始まる。

 

 ボーカルなしのインストバンド

 

 歌声がないことに物足りなさを感じながら、ギターを弾く

 

 

 うわっ、ストラップの位置低くしすぎた。

 

 というかバレないためとはいえ左で弾くの、き、キツい……

 

 

 向かい合った二人が互いに目を見合わせてから、こちらを見る。

 

 

 あっ、やっぱりだめそう

 

 

 正直、二人の演奏に合わせるだけで精いっぱいだった。

 

 

 最後に音が止んで沈黙が訪れる。

 

 

 

 それに耐えきれず、私はゆっくりと膝を抱えて横向きに倒れ込んでゆく。

 

 収束するように過去をなぞってしまったようだ。

 

 

 

「どうもープランクトン後藤です……」

 

 

 

「いや、うん、なんというかさ、びっくりだねー」

 

「割と面白かった」

 

「あっ、えっ、はい?」

 

 

 あれ、まさか、私わりといい線いってる!?

 

 そ、そりゃそうだよね、だってあれからずっとギター弾いてたんだもん、そりゃひとりだったけど経験値がちがうよね……!

 

 

「演奏は……、うん、下手だった。普通より下ぐらい、でも全然平気だよ!」

 

「……バンドも初めてなんだっけ? 演奏が下手なのにリズムがとれてるから、なんか聞ける感じなのが面白くてさ」

 

 

 あっはい……

 

 

「構えは様になってた。ギターは低く構えれば構えるほどかっこいい」

 

「いや、あれはそういうレベルじゃ……」

 

「ギターの構える低さは知能の低さ」

 

「うん……、うん? それほめてる?」

 

 

 

「どうもーアオミドロ後藤です……」

 

 

 

 正直ちょっと思ってました。二度目の体験、私の黒歴史を打ち破るギターテク

 

 無駄に年だけを重ねても大人になれるわけがないんだね

 

 あは、あははは

 

 

 

「そういえばひとりちゃん、ライブは本名で出るの、あだ名とかある?」

 

「クラムボン後藤でーす……」

 

「それはもういいから……」

 

「ひとり……、ひとりぼっち……、ぼっちは?」

 

「リョウ、さすがにそれは……」

 

「うれしいです! もっとぼっちって呼んで……!」

 

「嬉しそうだねぇ!?」

 

 

 またあだ名をつけてくれた。

 

 ありがとうリョウさん

 

 

 

「結束バンドさん、そろそろ準備だけお願いします」

 

 

 そんな時、ドア越しから声がかかる。

 

 

「おっと、そろそろみたいだね!」

 

「あっ、その前に、すいません、ちょっといいですか?」

 

「えっ、なにその段ボール」

 

「被ります」

 

「なんで?」

 

「今の私が他人と目があえば恐らく奇声を上げて逃げ出しちゃいますよ……? ヤジを直接ぶつけられたら吐きます」

 

「ぼっちが野次られたら、私がベースでポムってするから、任せて欲しい」

 

「リョウ先輩……! ……でも本当にやるのだけは止めてくださいね」

 

「まてまてまてーい! それを取りなさい 私たちと目は……、あんまり合わないけど、こうして面と向かって話せてるよね」

 

「いえ、虹夏ちゃんとリョウさんは特別です」

 

「えっ、うん、ありがと、……じゃなくて! PAさんに挨拶できてたじゃん」

 

「あっ、PAさんもギリギリ例外です」

 

「どういうこと……?」

 

「あっ、あと虹夏ちゃんのおねぇさんも例外です」

 

「どういうことッ……!? あったことないじゃん! 確かにやさしいけど!」

 

「普通に話せるレベルは家族を除けば、あともう一人だけ、学校に居ますかね……」

 

「ぼっち友達いたんだ……」

 

「……いえ、まだなんの面識もありません」

 

「だからどういうことだよォッ-!!!!」

 

 

 

 

 

 

「結束バンドさん、出番でーす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然のボーカルギターのドタキャン、お店のためにも穴は空けられないと、藁をもすがる思いでかける電話は当然全滅

 

 もはやこの際ギターを持ってさえいれば誰でも良かった。

 

 そう考えて下北沢を走る私

 

 そんな中で現れたカモがネギしょったように、ギターを背負った女の子

 

 私はそれを逃すまいと、多少強引気味に引っ張り込んだ。

 

 

 その女の子は、なんというか

 

 

 失礼なことを承知で言うなら、ちょっと、まぁまぁ、いやだいぶ変わり者だった。

 

 

 だけど私がここで彼女に声をかけたこと、これは運命だったんじゃないかと後になって思う。

 

 

 

 

 技術を期待したわけではないと分かりつつ挑んだリハーサル

 

 

 それは奇妙な感覚だった。

 

 

 私とリョウで、突然放り込まれて息も合わせられないであろうギターをフォローする。

 

 そんな予想していた音は鳴らなかった。

 

 

 確かに自分で言うだけあって、彼女の演奏はそこまでではない、初心者脱出その直後から3歩目くらいの音

 

 でもそれは、床にあまりにも近い位置に構えたパフォーマンスのせいだろう。

 

 まともにやればもっとマシになるというのに、小器用に外れた音を誤魔化す動きと音は、人を愉快な気分にさせる。

 

 笑いそうになったリョウと私のテンポが、ずれていく様をしまったと感じ、すぐに正そうとする。

 

 

 その前にあの子の指が加速した。

 

 

 ずれた私たちの音を拾っていく、楽譜通りに正すのではなく、これは元々そういう曲なのだと言い張るような言い訳のような音

 

 

 私たちは驚いて、目を丸くして見合わせる。

 

 

 どこで見つけたか聞いてない、と言いたげなリョウの口元

 

 そんな事、興味なかったクセにと私は目で反論する。

 

 

 それでも、ちょっと面白そうだからという表情を隠さないリョウは、勝手にベースの音とリズムを変えていく

 

 

 いや、それ、私がキツくなるやつでしょ

 

 そう思うとまた、あの子が何とかしてしまう。

 

 

 もはや私たちの予感は確信に変わった。

 

 

 この子は絶対になにかある。

 

 

 リョウはもうすでに自分の世界に入ろうとしているが、この際私も練習だと思って好きにやらしてもらおう

 

 普通だったらひどい演奏になってしまい大コケだ。だけどなぜか音は纏まったまま、走り続ける。

 

 

 

 とうとう走り切った私たちは、その少女を見ながら息を整えた。

 

 

「どうもープランクトン後藤です……」

 

 

 私たちにはもう一つ予感があった。

 

 

「いや、うん、なんというかさ、びっくりだねー」

 

「割と面白かった」

 

「あっ、えっ、はい?」

 

 

 

 おそらくこれから、とっても楽しいことが起きる予感だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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