ぼっち・ざ・りたーんず! 作:百合原理主義者
自分が誰かにとっての特別な何かになる。
私がギターを始めたそもそもは、みんなから見て欲しいという承認欲求が始まりです。
それは夢に向かって努力するという前向きなものより、何もできない自分という現実から逃げるための、言い訳の方が近かったのかもしれません
みんなに見て欲しい、それを願うならまず自分から他人を見なければ始まらないのですから……
でも、みんなと出会ってからは、私の欲の形は変わっていきました。
尊敬されたい、褒められたい、見て欲しい、そこは変わりませんがその言葉の前に一つだけ
この4人みんなで
それが私の欲望の頭につくようになります。
そんなたった一つのことで、現実から逃げてた私がいつの間にか何かを追って走っている私になっている気がしたのです。
みんなのおかげで……、そう、みんながいなければ私はダメだったんです……
私達が事務所に所属してから、一気にいろいろなことが動き出しました。
「ど・う・も! 僕が君らのプロデューサーね、僕に任せれば、ばっちり売り込んであげるから、よろしく~!」
私達の音楽を売ってくれる一番偉い人、それがプロデューサーです。
特徴的なしゃべり方、ほとばしる自信と自己肯定感、喜多ちゃんとはまた違った明るさを持つその姿に私は面食らい、顔を上げることもできませんでした。
「ふんふん、いいじゃな~い、フレッシュだねぇ! ビジュアルが強い子達って言ってたけど、ど・ん・ぴ・しゃ! どうやっても売れる気しかないね~!」
「い、いちおう、私達はバンドマンですから音楽で……」
「うんうん! わかるよぉ~ 実力もあるってウチの奴らも言ってたのは知ってるから! 君たちのしたいこともモチロン叶えるさ! モチベーションは大事だからね!」
こちらが一つボールを投げれば、その何倍も返ってくるような勢い
話しかけた虹夏ちゃんでもないのに、私はいっぱいいっぱいになってしまいます。
「じゃあさ! 僕に夢を教えてよ! 自己紹介もかねてさ、君たちが何をしたいかを教えてくれないかな? はい! まず君!」
突然指名された喜多ちゃんは、一瞬驚くものの、すぐに笑顔を見せて答えました。
「わ、わたしですか、うん、はい! 喜多郁代、この結束バンドのギターボーカルです。夢って言ってもいいかは分からないですけど、私はこのメンバーと一緒に、楽しいこと、新しいこと! いろんなことをしてみたいです!」
「うん!うん! 任せてよ! これからきっと毎日が飽きないし、飽きさせない! 楽しみにしててよね!」
「はい!」
プロデューサーさんは何度も大げさに頷くと、今度は近くにいた虹華ちゃんに目を向けます。
「ドラムの伊地知虹夏です。とりあえずの目標が有名になって武道館ライブをやることです!」
「武・道・館! 具体的だね! いいよ、こっちもやりがいがあるよ! ……でもそうかい、武道館ライブが目標ってことは本当の夢はその先にあったりする?」
「……あっはい、そうです」
虹華ちゃんが一瞬ためらうように、珍しく視線をさまよわせました。
その瞬間、今まで黙り込んでいたリョウ先輩が口を開きます。
「……虹夏はハングリー精神が旺盛、将来事務所を作るつもり」
「えっ!?」
「へぇ~!! そうなんだ! じゃあぜひ僕たちの後姿を見てくれてもいいよ! 」
「はっ、はい、ありがとうございます」
次の自己紹介は、前に出てしまったリョウさんが、少し面倒そうに答えます。
「ベースの山田です。夢は、とりあえず自分の音楽をすることです。」
「ぐ、具体性ゼロ……」
「分かるっ! わかるよ! 職人肌だねぇ! もちろんこっちも仕事だからやってもらわなきゃいけないことはやってもらうけど、それが出来たら、君のやりたい音楽を阻むつもりはないから安心してね!」
みんなの紹介が終わりました。
ここで終われば気が楽ですが、さすがに自分達の曲をプロデュースしてくれる人に挨拶なしとはいきません
「あっはい、後藤ひとりです」
挨拶は決まったことを言えばいいのでまだ楽です。
しかし夢を答えろと言われて、私はすぐに口を開くことができません。
「ゆ、夢は、その、あの、」
プロデューサーさんは糸のような目をした笑顔のまま、こちらを見続けています。
私は何とか答えようと、しどろもどろになりながら、まとまってもいない自分の夢について話さなければいけなくなってしまいました。
「み、みんなで一緒にライブとかしたいです……、ぶ、ぶどうかんとか? そこで自分たちの音楽をみんなに見せて……、えっとそれで……」
自分の気持ちを正直に話したつもりが、思わずついさっきどこかで聞いたような話をくっつけて答えてしまいました
「わ、私が、あ、足を引っ張らないように! 皆と最高の音楽を演りたいです!」
「なるほどね! OK、OK! 君たち思っていたより結構仲いいね! みんなのしたいことはよくわかったよ! よし! じゃあその夢のために、まずは君たちのバンドを認知してもらわなきゃだね! よーし、これから忙しくなるぞー、みんなも頑張ってね!!」
来た時の勢いのまま、どこかに行ってしまうプロデューサーさんを私は呆然と見送りました。
嵐が過ぎ去った部屋、思考が完全に止まってしまった私に、リョウ先輩がニヤニヤと笑いながら肩に手を置きます。
「負けたよ、ぼっちの夢がいちばんビックだったね」
「皆で武道館で自分の音楽をするって、フフ、私達の夢が全盛りだもんね」
「えっ、あっ、そ、そんなつもりじゃ……」
「安心してひとりちゃん! だって自分達の夢でもあるんですもの!」
他のみんなも面白がって私を揶揄ってきます。
「じゃあさ! ぼっちちゃんが自分が本物のギターヒーローだって言えるくらいにギターが弾けるようになってさ、私達もそれに負けないぐらいの演奏ができるようになって、それで武道館ライブをするのはどう?」
「それ! すっごく楽しそう!!」
「まぁ、確かにそれはすごいライブになりそうだ。……どうせならギターが映える曲作ろうか、超絶テクの暴力みたいな曲」
皆さんにとって、その言葉は私の出まかせを揶揄った言葉だったのでしょう。
ですがそれを聞いた時、私はその光景を想像してしまいました。
いつものチヤホヤされる妄想とは違う、自分の体の芯が思わず震えるような感覚
そう、これが本当の夢であるのだと
「は、はい、この4人で!!」
私はその夢が破れてから知ることになるのです。
「ぐ、グッ……」
「ご、後藤さん! 大丈夫!!」
あれ、意識飛んでた……、わたしは何を……、転んでる……?
「……もしかしてまだ私のことを……? でもごめんね」
たしかあの後、喜多ちゃんとみんなが鉢合わせして、スターリーまできてバイトを手伝ってもらって……
「さっき言った通り、私は結束バンドには入れないわ……、ギター弾けないし、一度逃げ出した人間だし……」
そ、そうだ!? 喜多ちゃんは今、バンドから逃げ出した負い目からみんなの前から去ろうとしてるんだ!!
「ままま、まってください!」
私は痛む頭を無視して何とか顔を上げる。
「に、逃げちゃうのはしかたないんです。わ、私も逃げ続けてきたから分かります……!」
「そうね……、だから真剣にやってるみんなとはいられないの……」
「でも違います!!喜多ちゃんは逃げてません! 真剣でした!!! ゴホッ……!」
「えっ……?」
普段話さないせいで声量のコントロールができない私は盛大にむせ込んだ。
それでも私は言わなきゃいけない
「で、でも喜多さん、左手の指の皮、固くなってた……、バンドマンの手でした」
「それって……」
「うん、かなりギター練習しないとできない」
虹夏ちゃんとリョウさんが軽くうなずき合ってから、喜多ちゃんの方を見る。
「喜多ちゃんも! これから結束バンドを盛り上げて欲しいな!」
「なんで、私にそんな……」
「ふふ、だって喜多ちゃんが逃げてなかったら、ぼっちちゃんとも会えてなかったよ? リョウだってそう思うでしょ?」
「4人になればノルマも4分割、スタジオ代が浮く……」
私はヘッドバンキングの如く、頭を上下に振って、虹夏ちゃんの意見に同意する。
喜多ちゃんの大きな目の端に涙が滲みだす。
「後藤さん……、先輩……、うん、私がんばる……、結束バンドのギターとして」
虹華ちゃんはやっぱりすごい、その一言で喜多ちゃんの心は動いたようだ。
「あっ、でも先輩たち、今のラッパー路線はやめた方がいいですよ……、悪い奴らはだいたい友達で、そんな人たちと葉っぱ?を吸ってるんですよね?」
「それどこ情報ッ!?」
「後藤さんが……」
「メンバーが一人、警察にパクられるくらいのほうが、ロックバンドとして箔がつく……」
「アワワワワワワワ」
嘘です。まず私には友達がいません……
虹夏ちゃん、リョウさん、喜多ちゃん、全員が揃った。
とうとうこの4人で結束バンドは再始動する!!
「だめだぁ……、もうおしまいだぁ……」
そう考えていた私は思わぬところで躓いた。
「作詞が出来ないぃ……、どうして……? 昔は出来たし編曲だってやれたし、何曲か作ったことだって……」
私は机の前で頭を抱えていた。
それもこれも全て、自分が調子に乗ったせいなのだ。
原因は1週間前にさかのぼる。
「じゃあ、ぼっちちゃん、作詞の方はまかせるよ」
「あっはい」
「あれ、意外に反応薄い、もしかして作詞とか結構やってた?」
「えぇ、まぁ……」
メンバー内で作詞は昔からやらされていたので、多少はまだ何とかなる。
「そうなの? 私ひとりちゃんの詩とか見たいなぁ!」
「えっ、あっ、はい、じゃあ、今かきます……」
喜多ちゃんの期待オーラに押され、私は何かのポスターを裏返して、そこに書き込んだ。
4人でやる結束バンドの代表すべき1曲目、私にとっても思い出深い曲だ。
よく覚えているのでその場で歌詞を頭の中から書き写していく。
「た、タイトルは『ギターと孤独と蒼い惑星』です」
「はやっ!?」
すぐに書きあげることができたのは当たり前だ。
何せ私はこの曲を知っているのだから、昔は頼まれてからずいぶん時間をかけてしまったが、今回はその必要はない。
私が書いたものを皆が覗き込んで読んでいく、やはり何度されても慣れないむずがゆさを覚えながら、みんなが読み終わるのを待った。
「すごいねぼっちちゃん! 即興でこの完成度……!」
「ギターだけじゃなくて作詞もできるなんて! 私ここのフレーズ好き!」
「でぇへ! へへっ……、どぅえへへへ……!」
「ぼっち」
「でへへ……、あっ! はい」
私がデレデレしてるとリョウさんは椅子から立ち上がっていた。
「ん……、ちょっとこの詞、借りていい?」
私のメモを指でつまむと、微妙に上気した顔をした先輩は、そのままベースを担いでスターリーから出ていこうとする。
「あれ、どうしたんですかリョウ先輩」
「なんか火が付いた。帰る」
そう言ってリョウさんはそのまま帰ってしまった。
「お前ら、そろそろバイトの準備を……、おい、リョウはどこだ?」
「あっ、リョウから連絡来てた……“ゴメン今日のバイトぼっちに変わってもらって”……だって」
「ヘァッ!?」
「……そういう話らしいが、頼めるかぼっちちゃん」
「じょ、上司命令……、はい構いません! 今からスグデレマス!!
「いや、ほんとにいいのか……? 助かるけど……」
「ハイヨロコンデー!!!」
「ぼっちちゃんのそのお姉ちゃんに対する絶対服従の態度は何なの……?」
「…………うんやっぱ休んでいいぞ、ぼっちちゃん」
「はっ!? ち、違うんです!過去のトラウマの条件反射で……! て、店長さんもこのスターリーも好きです!!」
「…………そ、そうか!」
調子に乗った私は思わぬところでしっぺ返しを食らうことになるのだった。
「できた」
次の日、頭にタンコブを付けたリョウさんがスマホ片手にそう言った。
「大丈夫ですかリョウ先輩! おいたわしい姿に……!」
「急に帰って、おねえちゃんもそりゃ怒るよ、自業自得だからね」
「私の給料カットに比べれば安い犠牲……」
「それで、できたって言ってたけど、まさか…… 」
「うん、新曲、昨日の歌詞を見てたらなんかできてた」
早速新曲に聞き入る虹夏ちゃんと喜多ちゃんはそれが終わった後、興奮気味にリョウさんに駆け寄った。
「すごーい! 流石リョウ先輩!」
「いいじゃん! かなり良い! こんなに良い曲がすぐ作れるなんて……!」
「ひとりちゃんとリョウ先輩! この二人がいれば結束バンドの楽曲は盤石なんじゃないですか?」
私は、思わず口を開けて固まる。
私があそこまですぐに歌詞を書き上げられたのは、もともとその歌詞を知っていたからだ。
だがリョウさんはそれを見て一日で曲を作ったという
「……て、天才? す、すごい本物だ……、か、かないっこない……!」
「フッ……」
「リョウ、実はぼっちちゃんへの対抗心もあったりしたでしょ?」
「……否定はしない、あらためて、良い歌詞だったよぼっち」
「どうせなら、もう一曲ぐらい作れない? 早く自分たちの曲だけでセットリスト埋めたいし」
「いいですね! 楽しみです!」
「かまわない、今、結構調子いい、じゃ、頼んだぼっち」
「えっ……?」
それから1週間がたった。
「あぁ! どうしてあの時“作詞なんてチョチョイのチョイですよ!”なんて言って受けちゃったのぉ……」
次の集まりを3日後に控えているという状態で、作詞の進捗は全くといっていい程、進んでいなかった。
言い訳をさせてもらうなら、全く作れていないわけではないのだ。
私はノートに書き殴られた言葉たちを目で追う、その内容を一言で言い表すなら
「え、なにこれ、遺書……? これを書いた人、すでに世界を呪って死んじゃってるの……?」
中学生の作詞ノートの黒さを超えた呪いの言葉の数々
バンド時代ですらここまでではなかったと思う、きっとそれから後の私の歪みが、このような呪物を生み出してしまったに違いない……
「だ、ダメだ、こんなもの世に出したら、自殺教唆で捕まってしまう……!」
私は必死に明るいまでいかなくても、共感できる暗い雰囲気程度までライトに戻そうとするが、うまくいかない
「む、無理だ……、い、いっそのこと結束バンドの過去作……、いや未来作の歌詞を……、ダメだ! あの曲たちはあの場で完成したからこそあの曲になったんだ。バックグラウンドが薄っぺらい形だけで出しても、私たちの演奏に気持ちが入らない……」
もっと明るくて、一般に受けるような明るい曲を書かなきゃ
こんな曲は暗すぎて誰も聞きはしない、私の歌詞はいつもそう怒られたんだから、何とかしなきゃ……
「ふ、ふへへ、だめだ……、かけない、もういっそのことこの先十年のヒットチャートをメドレーで作ってやる……、ふふふ、億万長者になってやる……。レコード大賞総なめだ……!」
追い込まれた私は虚しい言葉を吐くが、それでも明るい詩は浮かばなかった。
時がたち、みんなと会う日は明日。
何とか書き上げたそれは、いつかの日と同じような、この世の不条理を歌う呪いみたいな内容だ。
「うぅ、もうだめだ。リョウさんに相談してばっさり切り捨ててもらおう……、あっ、そういえば前相談した時はおしゃれカフェに連れていかれたな……、今回はそうならないように……」
昨日詩が出来たこと、実は私がカフェインアレルギーでコーヒーを飲むと心臓が止まることをあわせて連絡すると、待ち合わせる場所の地図とともに、すぐに返信がきたので、私は家を出た。
「ここらへんだけど……、この先曲がったところかな……」
地図アプリを睨んだ後、目的地のあたりを付けていると、聞きなれた声をかけられる。
「ぼっち、こっちこっち」
「あ、リョウさん……」
私は顔を上げると、そこはラーメン屋であった。
「じゃ、入ろうか」
「あっはい」
ラーメン屋なら家族といったことがある。庶民的な食べ物だし、そう滅多なことにはならないはず……
入口に食券機が置いてあるので、頼みやすいのも良い
「あと、ごめん、今月お金ないからおごって」
「……あっはい」
お金はちゃんと余分に持っていたので足りた。
食券機から券を買った後に席が空くまで待つ、ちょうど私達の前のお客さんがメニューを聞かれているところだった。
「……ニンニクは?」
「マシマシ、マシ、少なめ、抜き」
あっ、だめそう……。
マシ……? えっ、なんて?
「とりあえず座ろうか」
「リョウさん、リョウさんはここ来たときあるんですか、どうやって注文を……」
「いや、初めて来た。頼み方よくわかんないね」
メンタルがつよい……!
「お客さん、にんにくは……?」
「あっ、あっ、あっ、その!」
「注文よくわからないんで、いちばんスタンダードなのください」
「はいよ……」
メンタルが強いよ……!
「待ち時間に見せて」
「あっ、はい……」
麺をすする音だけしか聞こえない空間で、リョウさんは神妙な顔で私の書いた歌詞を見る。
「前のより、さらに暗いね」
「あっ、それは、はい、前に書いた歌詞、実はあれ、昔考えた奴なんです。だからさっとできましたけど……、その、最近うまく作詞できなくて……、そんな風になっちゃうんです」
「前の歌詞は少ないけど、刺さる人には刺さるって歌だったね……、そしてこれは……」
「うっ、じゃあ今回のはダメですか」
「いや、これはこれでなんだけど、前より刺さる範囲が狭すぎだね、ここの世界と自分を呪うようなフレーズ、共感してしまった人はこれは自分だけに向けたメッセージだと曲解して崇拝してしまうアングラ味を感じる。いつか過激なファンに刺されそうだけど、いいんじゃない?」
「結束バンドをそんなブラックメタルみたいなノリにしたくないです……」
「うーん、面白そうだけどなぁ……」
やっぱり私の歌詞は暗すぎてダメだ。
「何やっても暗くなるんです。もっと結束バンドらしい曲にしないと……」
「……うーん、そもそもらしさと言っても、私達のバンド結成されたばかりだし、らしさも何もなくない?」
「うっ……」
「ぼっちが考える結束バンドらしさってなに?」
それを言われて反射的に答えてしまう。
「……それは、バラバラな人間の個性が集まって一つになっているところです」
「……へぇ」
「へい、お待ち」
「おっと、きたね、まずは食べよう」
「あっはい」
私には多すぎるラーメンを前にして何とか完食しようと格闘する。
そしてラーメンを食べ終わった後に、既に食べ終わり、スマホをいじって待っていたリョウさんが不意に口を開く。
「ぼっち、さっきは良いこと言ったよ、個性を捨てたバンドなんて死んだのと同じだよ、私はこのバンドには死んでほしくない」
「あっ、はい、それは私も同じです」
「だから好きなように書けばいいよ、私も同じ意見だ。みんなバラバラな人間の個性が集まって、それが一つの音楽になるんだよ」
「あっ……」
先ほど、自然に出た言葉、それは昔、一度リョウさんに教えられた言葉だったことを今更ながらに思い出した。
「……これからスターリー、虹夏と郁代がくるってさ」
「えっ」
「歌詞の内容、だいたい出来たって送ったから、みんなで再度練り直しにいくよ、ほらぼっち」
リョウ先輩はそういうと、立ち上がって、私の手を引いて微笑みかけてくる。
「あとお腹いっぱいで歩くのが辛い、電車賃も貸して」
「あっはい、多めに持ってきてますんで足ります……」
お金は多めに持ってきたので足りた。
私は古着が好きだ。
何で好きかと言えば、個性があるところだろう。
服は消耗品だ。
今の時代、服と言えば、同じものを大量に作っていく、そうすれば安くて良いものができるのだから、それが常識になるのは当たり前だ。
別にそれが悪いと言いたいわけじゃない
でも、買ってみた服を着て、外に出てみると人と被っていたら、なんとなく嫌じゃないだろうか?
その点、古着は良い。
大抵は一点物で、その服以外で同じものなどない、いや同じ服でさえどこか違う、へんてこで面白くてかっこいい。
そういった自分の中の琴線に触れるものを見ると、つい欲しくなってしまうのだ。
そんな私に虹夏は無駄なものを買うなとよく言う。
でも虹夏は無駄がない人生は余裕がなくて嫌だなと思わないのだろうか。
あれ、……なんの話をしてたっけ?
あぁ、そうだ、最近とびっきり個性的な奴を見つけたんだ。
「どうもープランクトン後藤でーす……」
「うれしいです! もっとぼっちって呼んで……!」
「すっ、すす! すいません!! 使えないバイトでモシャッケナッス……」
度が過ぎた引っ込み思案で、そのくせ人懐っこいところがあって、たぶん相当ギター弾けるくせになぜかやらない。
見てて飽きない、タダならちょっと欲しいかもしれない
そして最近知ったんだけど、結構熱いところもある。
「ぼっちが考える結束バンドらしさってなに?」
「……それは、バラバラな人間の個性が集まって一つになっているところです」
鋭い目をぼっちがするのでちょっとびっくりした。
そして、ぼっちが言った言葉に、ちょっと、ううん、かなり共感した。
うーん、これはいけない
外で服が被ったら嫌だと言っておきながら、ぼっちと同じだったのが実はすごくうれしい気分になってしまっていたのだから。
そういう、自分でもよくわからない部分も含めて私は彼女が好きだ。
「お腹いっぱいで歩くのが辛い、電車賃も貸して」
「あっはい、多めに持ってきてますんで足ります……」
それに返済期日無期限無利子でお金も貸してくれる所もなお良い。