ぼっち・ざ・りたーんず!   作:百合原理主義者

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第5話

 

 

 

 

 ロックとはなにか

 

 

 そう言われて即答できるロックンローラーがこの世に何人いるでしょうか

 

 ジャンルとしてのロックか、それとも精神としてのロックかでも答えは大きく違うと思います。

 

 分かるようでいて分からない、説明した瞬間ウソになってしまうような、一言で定義できないようで、きっと答えは単純な気もする不思議な言葉

 

 

 そんなロックについてですが、ロックを聞く人たちにとって、公然と囁かれているある言葉があります。

 

 

 

 それは……「売れた時点でロックはロックでなくなる」という言葉です。

 

 

 

 まぁ……、分からなくもないのです。

 

 商業主義を嫌悪するわけでもないですが、売れて有名になってしまえばその時点でロックは大衆に飲まれポップスとなる。

 

 実をいうと、私もそういう考えを持つ側の人間でした。

 

 ロックとはメインストリームではない者達による抵抗、体制や既成概念に対する反抗心や怒りこそがロックだ……、なんてどこかで聞いた言葉を掲げて、有名になったロックバンドを昔の私は僻んでいたものです。

 

 

 さて、そうしてどういう因果か、今度は自分がその選択に迫られた時、私はメジャーデビューの話を受けました。

 

 

 メジャーデビューしたらロックではなくなると言いながら、私はメジャーデビューの話を受けたのです。

 

 それはなぜか

 

 答えは単純な話です。

 

 

 

 自分たちは違うと思ったからです。

 

 

 

 きっとそんなこと、この門を通った幾千の人たちが、そう思っていたのでしょう。

 

 それでも私たちは信じました。

 

 

 私達さえ変わらなければ、変わらずに自分たちの音楽を続けられるのだと

 

 

 そう思っていたのです。

 

 

 

 

 

 

 

「私たちの写真ですか?」

 

 

 私達のメジャーデビューが決まり、さて何をすればいいのだろうか? 作詞や作曲をして、いい歌をどんどん作らなければならないのか?

 

 そう意気込む結束バンドに対し、頼まれた初仕事というのはある意味、私にとっての鬼門でした。

 

 

「そうそう、もともとのやつも良かったけど、改めて広報していくには個人の写真だったり、雑誌に載せる用だったり、とにかく枚数と種類がいるんだよね! じゃ! 頑張って!」

 

 

 連れてこられたスタジオは広い……、はずなんですが所狭しと置かれたセットと衣装で、圧迫感を私は感じてしまいました。

 

 家の押し入れとは違う、機能的な煩雑さに気圧されてしまいます。

 

 

「わー! プロみたい、すごく本格的なスタジオ……って、そういえば本当のプロでしたね!」

 

「うーん、まだ一曲も作ってないうちに、写真ばっかりなんて……いいのかな?」

 

「気にしないで虹夏、私達のアー写も1回目は全員で通しすらしてないのに撮ったし、2回目も曲作りの息抜きに撮ってた」

 

「ご、ごめんなさいリョウ先輩……」

 

「ま、ま、前に同じく……」

 

「まぁまぁ、それはもう昔のことだから……、緊張しないで行こうってリョウは言いたかったんでしょ?」

 

「いや、正直すごく気が乗らない……」

 

「こらーッ!?」

 

 

 

 そんな幼馴染同士の掛け合いを見て、喜多ちゃんは一拍おいて笑い、私も少しホッとしてしまいます。

 

 

 そんな時です。

 

 後ろから突然、パシャっと音が鳴りました。

 

 その音がシャッター音を浴びせかけられたからだと気づいた時には、後ろに男の人が立っています。

 

 

 

「ごめんなさい、いい写真だったからつい撮っちゃった、あなた達が今日のお客さまかしら?」

 

 

 そこには右耳にピアスを開け、長髪を後ろにまとめた下手な女子よりも美肌な男性

 

 より直接的に言うなら乙女の心を持ってそうな男性がいました。

 

 

「こういう業界ってそういう人は珍しくないですよね……」

 

「美意識の高い男性ってそうなりがちっていうか……」

 

「さぁ? 自分の道を歩いてたらこうなっただけじゃない?」

 

 

 新宿フォルトの店長さんみたいな、自己に対する美学を感じるその方は、私達の反応に気も悪くせずに口の端を持ち上げます。

 

 

「あらっ、聞こえてるわよお嬢さん達、全くいい度胸じゃない、今日のオーダーは過密どころじゃない量の仕事をさせられるんだから、覚悟しておきなさいよね」

 

 

 その一言で、両脇に差し込まれるハンガーラックに私たちは分断されます。

 

 突然のことに驚いていると、後ろからせり出した椅子に膝を曲げられ、尻餅をついてしまいました。

 

 

「まずはメイク! そしたら個人写真から撮るからいくわよ!」

 

 

 

 私達は流れるようにメイクを施されていき、終わった人から順番に撮影に移っていきます。

 

 

 

 

 初めに撮ることになったのは喜多ちゃんです。

 

 

「あらっ、写真慣れしてるのね、ならどんどんポーズ変えちゃってもいいわよ、いいよー、そのまま……、そこっ! そのままで目線こっちに欲しいわ!!」

 

 

 喜多ちゃんは予想を裏切らず、ノリノリで自分からポーズを決めていきました。

 

 すごい、もうカメラのフラッシュより輝いているように、私には見えてしまいます。

 

 

「あ……あの? フラッシュは焚いてるはずなのに、逆光で撮れてないみたいに暗いんです……? カメラの故障でしょうか?」

 

「白ホリにアンブレラあんのにアンタ何言って……、あら、ホント……、暗いわね」

 

 

 まともに見たら目と脳が光に灼かれてしまうので、私はしばらく目をつむって待ちます。

 

 

 

 

「次はそこのクールな子! いいわね、ダルそうだけど絵になってるわよ、だけどもうちょっと目線が欲しいわ、そう! それよ! 痛めたわけでもないのに首をさすりなさい! 顔が良い者にしか許されない首を痛めた人のポーズよ!」

 

「そうです! リョウ先輩! そのまま手で顔を覆ってください! 顔が良い者にしか許されない頭痛になってる人のポーズ!」

 

「え? ちょっ、あなたは自分の撮影にもどりなさっ……」

 

「キャー!! 先輩! 目線をこっちにくださーい!!」

 

 

 

 リョウ先輩は、自然体なのに様になっています。

 

 けだるげな眼もとは、多分ただの夜更かしでしょう

 

 昨日、好きな作曲家が深夜ラジオのゲストに出ると、私と話してました。

 

 それがクールな風に見えてしまうんだから美形ってお得です。

 

 

 

 

 

「うちのメンバーがすいませんでした」

 

「いえ……、助かったわ、でも少し巻いていくわよ!」

 

 

 結局、二人は虹夏ちゃんに怒られて、まじめに写真を撮られていきます。

 

 

「……その、うちの最後のメンバーなんですけど……」

 

「あぁ、もう一人の子……? 確かに遅いわね、そろそろメイクが終わっても……」

 

「いえ、多分なんですけどちょっと問題が……」

 

 

 

 カーテンのようなもので仕切られたそこを開けると、そこには萎れてしまった私がいます。

 

 

 

「ちょっ!? えっ! どういうこと!? あの子はどこ? ちょっとあんた達何倒れて……」

 

「そこの空気を吸わないでください!」

 

「えっ!?」

 

「布を口に当てて、そこに充満しているひとりちゃんを吸い込まないように気を付けてください、そうしないと……」

 

 

 私のことをよく知っている喜多ちゃんは、地面に倒れているメイクさん達を指さします。

 

 

 

「顔に粉と液をぬるって……、そもそも肌に悪いですよね……、ごめんなさい……」

 

「メイクとかだるいよね、もう、すっぴんでよくない……? 無駄な時間をかけてごめんなさい……」

 

 

「あ、あんた達!? メイクアーティストとしての誇りはどうしたのよ……!?」

 

 

 すでに二人は私を吸い込まないように濡らした布を口に巻いて、駆け寄りそうになる彼の肩を押えます。 

 

 

「やっぱり、複数人に囲まれて、顔や髪を触れられるストレスに、ひとりちゃんが耐えられるわけがなかったんだわ……」

 

「喜多ちゃん、何か方法はある?」

 

「虹夏先輩! 任してください、……すいませんミストスプレーってありますか」

 

「い、一応あるけど……?」

 

 

 メイクさんは青い顔をしながら、霧吹きを喜多ちゃんの手に渡しました。

 

 

「まず粉をまとめるため、水分を与えます」

 

 

 私は思わずジメジメした水に寄っていくと、その重みに耐えきれず落下していきます。

 

 

「ひとりちゃんはジメジメした所を好むので、すごい勢いで空気中の水滴に吸着して、地面に沈殿していきます」

 

 

 私が地面にまとまっていると、喜多ちゃんがもう一度私に水をかけてきたので、体が重いです。

 

 

「ある程度地面に落ちたらもう一度全体に水分を与え、形がまとまってきたらチリ取りで集めます」

 

 

 私はされるがままに集められると、喜多ちゃんが実家のように落ち着くような、暗く狭い場所に丁寧にしまってくれます。

 

 

「密閉されながらも、ある程度の空気も通る箱、段ボールがおすすめです。そこに詰めた後、直射日光の当たらない場所で保管して、しばらく待ちます」

 

 

 落ち着いてきた私は、ようやく形を取り戻すと同時に、思考力もまとまったものになっていきました。

 

 

「そうするとキノコのように、ひとりちゃんが生えてくるのですが、ここで刺激をあたえるとこの微妙に原形をとどめていない状態のツチノコぼっちで動いてしまうので、人間になるまで辛抱強く待ちましょう」

 

「人……、間……?」

 

 

 皆に迷惑をかけてしまった私は、申し訳なさそうに段ボールから出ます。

 

 

「はい、できました。では、ここからさらに撮影に耐えられるようにしていきましょう!」

 

「うん、喜多ちゃんがぼっちちゃんを戻してくれているうちにリョウと準備したよ!」

 

「そ、それはメイク道具じゃなくて、ただのやすりに工作用のりなんだけど……?」

 

 

 私の崩れかけた顔パーツと顔を固めて、整形していきます。

 

 

「顔を整形してノリで固めれば1時間は持つはず……」

 

「カッコ良いひとりちゃんを見てもらえるよう、私達の腕の見せ所ですね! あっ、先輩、ひとりちゃんは強い光にさらされてしまうと成仏してしまうので、UVクリームをノリの上から塗ってください」

 

「さすが、ぼっちの生態に詳しい喜多博士、助言が的確だ。よし、仕上げは任せた虹夏」

 

「ふふふ、絵心なら自信があるからね! これをこうして……、できた!」

 

 

 固まるまで自然乾燥すれば完成です。 

 

 完全に固定されて口も開けられませんが、これでなんとか撮影のフラッシュも耐えられそうです

 

 

 

「うん、人形みたいに表情がないね」

 

「崩れないようにガチガチに固めたんだから仕方がないでしょ! でもリョウ以上の無表情……、クールな感じにしすぎたかな」

 

「顔はいいからひとりちゃんのカッコ良さは伝わりますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてなんとか乗り切った写真撮影

 

 ですが、その後も雑誌のインタビューや、あいさつ回りなど……、私にとって地獄のような日々が続いていきます。

 

 時間が経つのは早いもので、私が毎日ヘトヘトになりながら、事務所の言うことを聞いていると、もうひと月が経っていました。

 

 

 思えば、バンドとして全く活動できていないので、私はこの先に少し不安を覚えてしまいながらも、ふと、事務所からのメールが届いているのに気付きます。

 

 

 それはいわゆる給与明細、私達のお給金についてのメールです。

 

 

 結束バンドの売り上げ、以前は4人で分配していたそれは、事務所に所属することで、面倒な手続きを全て会社がおこない、口座に振り込まれる話でした。

 

 

「でも、結局ミュージシャンなんて歩合制で……、わたしたちまだなにもしてないし……」

 

 

 私は、大した期待もせずにその数字を確認します。

 

 

「げぇ……!?」

 

 

 私はそこに書かれている数字を見て、飛び上がりました。

 

 何度も数えなおしても、数え間違いを疑って家族に確認してもらっても額は減りません

 

 お父さんはその額を見て、新車を1台買える値段だと腰を抜かしました。

 

 

 みんなへ連絡をしようかと混乱しているうちに、先に虹夏ちゃんから、メンバーで集まるよう、連絡が来ます。

 

 

 

「すごい……、大金ですよ!!」

 

「……正直びっくりしてるよ、なんでこんなに……、わたしたち大したことしてないのに……」

 

 

 集まった私たちは突然舞い込んできた大金に喜びよりも、戸惑いが先にでてしまいます。

 

 そんな中でリョウ先輩だけは、スマホの画面を見ながら机を指先で叩いて考え込み、しばらくして顔を上げます。

 

 

「今調べてみた、今まで撮られたよくわからない写真や映像、それをプロが編集、昔作ったミニアルバムの焼き増しにDVDをつけ、強気の値段設定3000円、さらに作詞と作曲はそれぞれ売上が分配されればこのくらいになる」

 

「そ、そうなんですか、流石先輩! 頭脳明晰!」

 

「ほんと、この金勘定の計算能力を他に回せないの?」

 

「……別に、これくらい当然じゃない?」

 

「くそ~、なんだよ、リョウったらクールぶっちゃってさ、順調に売れたんだから、もっと純粋に喜んでもいいじゃん!」

 

 お金が入ったというのに、珍しくテンションの変わらないリョウ先輩を私達は不思議に思いました。

 

 

「順調ね……」

 

「リョウ?」

 

 

 浮足立ってる私たちの中で、先ほどまで売り上げの内訳を確認していたリョウさんは、不意に物憂げな顔をします。

 

 リョウさんが物憂げな表情をしている場合、大抵がどうでもいいことを考えている時がほとんどですが、いつもそれを見破って呆れる虹夏ちゃんは、いつもと違い無言でリョウ先輩の言葉を待っています。

 

 そのただ事でない雰囲気に当てられて、私と喜多ちゃんは佇まいを正してしまいました。

 

 

「概算を出した。おおよそ3万枚、それが私たちの売れたCDの枚数」

 

 

 リョウ先輩がスマホを投げ出す。

 

 画面には私達、結束バンドの記事や、動画サイトでの広告などが表示されていました。

 

 それはここ一か月、私達がしていた活動をまとめたものであると、一目見ればわかります。

 

 

「ちょうどビルボードにのれる初週の売り上げだった、月のランキングの10位の下限がだいたいは2~3万枚だから、ちょうど今の売り上げだね、なんというか、都合のいい数字だなって思ったよ」

 

 

 つまらなさそうにリョウ先輩はスマホを持ち直します。

 

 

「きっとテレビにも出れる。取材も増えるし、人の目に集まるようになる、実際そういう話もしてたしね」

 

「それって……」

 

「さぁ……、でも、これって私たちの音楽が売れたのか、それとも予定通りに売ったのか、……どっちなのかな?」

 

「もう! リョウったら、どうしてそう斜に構えた考えをするの! 予想が外れて売れないよりいいでしょ! ね、みんな!」

 

 

 虹夏ちゃんの明るい声に対してもリョウさんの反応は薄く、まだ何か考え込んでいるようでした。

 

 

「で、でもリョウ先輩、それって別に悪いことじゃないような……、売れるように努力するのは会社としては当たり前ですし……? そういうものじゃないでしょうか」

 

 

 確かに都合がよすぎる数字です。

 

 ですが、それが私たちの実力か、そうでないかなど、私には分かりません。

 

 

 流行というものは、そういうものである。

 

 世間の流行り廃りに敏感な喜多ちゃんだからこそ、言えた言葉だと思います。

 

 そしてそれは、それに気付けるリョウさんだってわかってるはずでした。

 

 僅かな沈黙が訪れます。

 

 

 

 

「で、でも」

 

 

 

 私は沈黙に耐え切れずに口を開いてしまいました。

 

 みんなの目が私に集まります。

 

 

「でも、リョウさんの気持ち、少しわかります……、なんか嫌です……!」

 

「なんか嫌って、子供じゃないんだから……」

 

 

 しまった、そう思いながら胃酸が濃くなるのを感じ、思わずえづきながらも続けました。

 

 

 

「わ、私ぃっ! どうせなら初めてで10万枚ぐらい売りたかったですッ!! どうせ期待を裏切るなら……そ、そっちの方がロックな気がします!」

 

「じゅ、10万枚……」

 

「ぼっちちゃん、それって今の日本じゃ大ヒットレベルだよ」

 

 

「クフッ……」

 

 

 すこし呆れた皆のなかで、リョウさんが、こちらを見た後、笑い出します。

 

 

「ふ、ふふ、いや、ぼっち、さすがにそれは目標高すぎ、サザン並みだよ?」

 

「で、でもドームをうめるならそれくらい、か、軽く超えないと……」

 

「うん、いいね、やっぱりぼっちはいい、ふっふふ」

 

「そ、そうですか? うっ、うぇへっ、うぐぅへへへ」

 

 

 何を褒められているかわかりませんでしたが、褒められることはうれしいので、私は口元が緩むままだらしない顔を晒しました。

 

 

 そうして、暗い場の空気が霧散したのか、ホッとした様子の虹夏ちゃんと喜多ちゃんも話しかけてきます。

 

 

「リョウが音楽に拘る気持ちはわかった……! そうだよ! お金も大事だけど私達の音楽を貫くのが大事なんだ!」

 

「先輩! すいません! 私達結束バンド! 流行に流されるのではなく流行を作れということですね!!」

 

「……? ……虹夏、郁代、ゴメン、ちょっとよく分かんない」

 

「なんでそこがわかんないんだよっ!?」

 

「いや、お金がいっぱい貰えるのは普通にうれしいし……」

 

 

 

 その日は皆でささやかなお祝いをして、私達結束バンドはその日を過ごしました。

 

 

 そして次の日、私達は事務所のプロデューサーさんに呼ばれます。

 

 

 

 

 

「いやー、サプライズ大成功だったかな! びっくりしたでしょ? 売り上げ見てびっくりしたでしょ? これがメジャーだよ君たちぃ! いやー秘密にしていたかいがあったね!」

 

 

 私達がどう思われようと、私達の音楽は変わらない

 

 この時の私はそう思っていました。

 

 

「僕たちは君たちが売れると確信したから選んだんだ。これから君たちは売れていく! いや、僕たちが必ず売るよ!」

 

 

 ここから先、私たち結束バンドは、加速度的に有名になっていきます。

 

 

「3万枚? ノンノン! こんなのは序の口、そのポテンシャルが君たちにはある! 期待してるからね!」

 

 

 

 環境が変わるという意味、人は変わらずにはいられないという事実

 

 そんな当たり前のことを私は知らないふりをしていたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……あれ?」

 

「ひとりちゃん! 気絶してないで起きて! 本番だから!」

 

「ここまで来たらやるだけ……」

 

「ぼっちちゃん! 大丈夫だから! 練習の成果を出そう!」

 

 

 

 ここはスターリー? あぁ、そうだ……、新曲を作ったけど、店長さんがオーディションで受からないと出さないって……

 

 

「……その、すみません、本気でやります……!」

 

 

 なんでこんな大事な時に私は意識なんか飛ばしてるの……!?

 

 

「見せましょうバラバラな私達、結束バンドの結束力を……!」

 

「ひ、ひとりちゃんがらしくないわ……」

 

「気合十分だね、ぼっち」

 

「ぼっちちゃんが結束力なんて体育祭ワードを使うなんて……、じゃ、じゃあ始めるよ」

 

 

 私は、ステージの上から、自分の演奏を聞いてくれる観客の顔……、つまり腕を組んで座ってる店長さんの顔を見る。

 

 目が合った。けど反らさない……と思ったけど、ちょっと横を見て回復……

 

 

 ここにいるのは結束バンドと店長さんとPAさんだけ、ぼっちな私のために誂えたかのような身内だけのステージだ。

 

 

 この4人で初めて、誰かにみせるライブ

 

 あれだけ焦がれた私の夢、その始まり

 

 

「あのバンドと! ギターと孤独と青い惑星って曲っ、やりまーす!」

 

 

 多分、私がしたかったすべてがここにある。

 

 

 私は静かに息を吸って吐いた。

 

 

 

 

 曲は虹夏ちゃんのカウントから始まった。

 

 

 一斉にかき鳴らすギター、まずは上々、息の合ったスタート。

 

 歌いだしの前の私と喜多ちゃんのギター、手元を見ちゃう所もかわいい、……そう、そこから歌うために前を向く姿、やっぱりすごくかっこいいよ喜多ちゃん

 

 

 でも、喜多ちゃん、すこし目線が下かな……、大丈夫、虹夏ちゃんのリズムを聞いて……! そう、もっと、好きにしていいよ、虹夏ちゃんだって……! リョウさんもいるし……って、リョウさんなんか飛ばしてない……?

 

 あれ……、でも二人ともすごいハモってる……、リョウさん顔もいいのに声もいいなんて卑怯だよなぁ……、って虹夏ちゃんがすごいキツイことに……! あれ、笑ってる……、うんやっぱり虹夏ちゃんはすごいなぁ……

 

 

 あぁ、たのしい……

 

 たのしすぎる……!

 

 

 いけない、私の悪い癖で演奏が走りすぎてる……、わかってる。 分かっているのに……

 

 

 

 止められない!!

 

 こんなに楽しいことを止められるわけがない!!

 

 

 

 

 最後にリョウさんと虹夏ちゃんが曲を締めた時、すでに私達の息は上がり、時間にすればほんの少しだけなのに汗だくだった。

 

 

 曲が終わって、ようやく、私はここがオーディションの場であることを思いだした。

 

 

 みんなで目を合わせて、店長さんの言葉を待つ。

 

 

「……いいんじゃない」

 

 

 その一言にみんなは表情を緩めるが……

 

 

「と言いたいところだが」

 

 

 店長さんの鋭い視線で待ったがかかる。

 

 

「ドラム、この程度で息切れんな、力の入れすぎ」

 

「フロントマン、前を見ろ、下を向きすぎ」

 

「ベースは自分の世界に入りすぎ」

 

「ギターは……、観客は前だ、横を見すぎ」

 

 

 的確な指摘なのでぐぅの音もでない……、でも店長さんは私達の演奏を評価してくれるはずだ……

 

 

「でもまぁ……、バラバラな奴らの結束力か……、そうだな、お前らの演奏だが……」

 

 

 店長さんが突然黙り込み、長い沈黙が訪れる。

 

 

 あれ、なんか昔より長くないだろうか、だ、だ、だいじょうぶだよね、……あれ、私調子乗りすぎてた?

 

 

「うん……、あぁ……、くそっ……」

 

 

 店長さんが突然不機嫌そうに唸る。

 

 あ、あわわわわ、やっぱり、私のせいなんだ。

 

 いつもそうだ……、調子に乗った時、ぼっちの反動から常軌を逸した行動力でドン引かれる行為をしてしまうんだぁ……

 

 

「ふふっ、もう、正直に褒めればいいじゃないですか、すごい良かったって」

 

 

 その時、PAさんが笑いをこらえたまま呟いた。

 

 店長さんはむっつりとしたまま、PAさんを睨むが、一拍おいてすぐにため息をつく。

 

 

「……まぁ聞けた」

 

「じゃ、じゃあ!」

 

 

 その一言を聞いて虹夏ちゃんはスティックを握りしめたまま立ち上がる。

 

 

「合格だ」

 

「や、ヤッタァァァァァ!」

 

 

 その言葉を聞いた喜多ちゃんが、私を横から押し倒す勢いで、抱き着いてきた。

 

 

 

「でもここで調子乗るなよ、確かにいい演奏だったが……」

 

「お姉ちゃんがいい演奏だって!」

 

「当然、私は合格すると確信してた……」

 

「ガァッ!! だから調子に乗るな!」

 

 

 虹夏ちゃんが笑い、そこにリョウ先輩がいて、喜多ちゃんが私の手を引いてその輪に加わって。

 

 

 あぁ……

 

 

 不意に涙がこぼれる

 

 

 胸が詰まるほどの充足感……

 

 

 

 

 

 

 私は今、ここで死んですらいいと思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いします! ひとりを助けてください!」

 

「落ち着いて下さい、お母さん、娘さんはどちらに?」

 

「玄関です!」

 

 

 

 

 

 あれ、ここはどこ?

 

 

 

 

 

 

 

「今からそちらに救搬します、えぇ、はい、急性アルコール中毒だと……、動いてます、しかし呼吸が……」

 

 

「ストレッチャーに載せます。ハイ、イチニィ!」

 

 

 この人達は誰? みんなは……?

 

 

「あぁ、 ひとりッ! ひとりィ!! ごめんなさい! ごめんなさい!!」

 

 

 お母さん? なんで、さっきまでスターリーに……

 

 

「アンビュー用意、輸液するから点滴針も!」

 

 

 待って……

 

 ここは……、いやだ。

 

 いやだいやだいやだ、こんなところにはいたくない……

 

 戻して欲しい、早く、あの優しいところに私を戻して……

 

 

「運びます!」

 

 

 体を揺らさないで欲しい……、ぐるぐると世界が回っている

 

 堪えきれない吐き気が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ゛エ゛ェェッェェエ゛ェェェェ」

 

 

 私は胃の中にあるもの全てをぶちまけていた。

 

 

「ひ、ひとりちゃんッ!?」

 

「ウッ……、はぁ、はぁ、えっ、なに……? どういう……」

 

「だ、大丈夫? ひとりちゃん……?」

 

 

 ここはスターリーだ。

 

 

「え……?」

 

 

 でもさっき見たのはなに?

 

 

「嘘……」

 

 

 いや、知ってる。 私は知ってるはずだ。

 

 だって最初はそう思ってた。

 

 

「夢……?」

 

 

 呆然と呟く私を見て、みんなが珍獣を見るような目を向けてくる。

 

 

「すごい……、良いことが起きて現実逃避する人初めて見ました」

 

「き、究極のネガティブ」

 

「見てて飽きない」

 

 

 

 

 

 

 ここは、私の見ている夢なの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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