ぼっち・ざ・りたーんず! 作:百合原理主義者
私は社会という言葉が怖いです。
人が集まって生きていく、そうすると社会にはルールが生まれます。
私はそのルールを守ったり、従ったりすることがどうにもうまくできませんでした。
別にそのルールとは法律がどうこうという話ではありません
私が言っているのは目に見えなくて、そして強固で、外れた人間を弾き出し、見えない何かみたいに扱うそんな恐ろしいルールです。
きっと、そんなルールの内に住まう正しい人たちの外側に私はいました。
――怒られているうちが花だぞ
いつも怒っているのに
――学生気分が抜けてないのか?
学生だってうまくやれた記憶はない
――社会人失格だ
社会人に合格すると何かもらえるのかな
――いいか! 社会は厳しいんだぞ!
厳しい社会より優しい社会がいいのにどうして社会は厳しいままなんだろう
きっとそんな風に思う私がおかしいのでしょう、いわゆる社会不適合者と言うやつです。
私は最後まで、そんなルールが分からなかったし、あまり分かりたくなかったのです。
だってそうでしょう?
それが分かってしまったら、私がまるでこの世界で生きていてはいけないみたいじゃないですか
私達がメジャーデビューしてから出した曲は売れに売れ、色んなラジオ、お店のBGMなどで流されました。
普通に過ごしていれば3日に1回は聞いてしまうぐらいの頻度で流され、不意に自分たちの音楽を聴いてしまうと、思わず口がだらしなくゆるんでしまいます。
「な、なんというか、すごいね……、私達の音楽が色んな所から聞こえるって、現実感がないなぁ……」
「友達がみんな祝ってくれました! ほら! CDも複数枚買ってくれてるんですよ!」
「アニメさまさま、このまま布教に勤しんで欲しい」
「もう、リョウが一番文句ばっか言ってたのに、調子いんだから」
今まで具体的なライブが行えなかったので分からなかった私達の人気、それが見える形で感じ取れ、私は有頂天でした。
「ふ、ふひゅ、ひひひ、前の二曲目の挿入歌を作ったあと、原作者さんからサイン付きの最新刊が事務所に届きました……! 私の名前宛です……!」
「売ったらいい値段付きそうだね」
「……えっ、うっ…、売るんですか……?」
「売ったらリョウのギター売って買い戻すからね」
「…………冗談だから、それにしてもぼっち宛って、ぼっちがファンだってどうして分かったんだろう」
「それなんですけど! オーディションに居た時、痩せてた男の人がいたじゃないですか、あの人が実は原作者さんだったんですって!」
「へぁッ!! あっあの時の人が…… えっ、じゃあ、わ、わたしはなんて失礼なことを……」
「やぁ!! みんな! 今日も元気してるかな!!」
そんな風に事務所で雑談を交わしていると、いつもより5割増しで元気なプロデューサーさんが来ました。
「うんうん! 今日も皆バッチリ可愛いね!! 取材もラジオもバンバンあるから今日もお仕事頑張って!」
「また雑誌の取材……」
「おっと山田チャ~ン、ファンサは大事だから笑顔笑顔! って、君の場合アンニュイな所が逆にウケてるからそれでもいいか! わっはっはっは!」
曲が売れてからというもの、取材や宣伝、この手の仕事がさらに増えました。
結束バンドに世間が興味を持ってくれているからだと喜多ちゃんが言えば、それはこちらがお金を払って取材をしてもらってるのだとリョウさんはそっけなく言い、虹夏ちゃんはどっちもあるけど私達のやることは変わらないと苦笑いを浮かべてました。
最近人前で全く演奏していない私たちは、仕方がないとはわかっていてもついつい愚痴をこぼしてしまいます。
ちなみに私はその会話に参加せずにただ聞いているだけでした。
人気者になってチヤホヤされたいと思っていただけの私には、そこまで考えることが出来なかったのかもしれませんね
「らじお……、ざっし……、が、がんばって神バンド感を演出しなきゃ……!」
「ぼ、ぼっちちゃんは結束バンドの最終兵器だから! 奥にどんと構えていればいいよ!」
「そ、そうですよ! ひとりちゃんは黙っていれば最高にかっこいいんだから!」
「私は面白いからぼっちのトークはもっと見たいけどね」
「えっ……」
人前に出るのは苦手と言えど、いざ雑誌の取材やラジオに出演した場合のシミュレーションを私は中学の頃から入念にしていました。
しかし、予想と実際は違うもの、つい先週の出来事が私の脳内でフラッシュバックします。
音楽雑誌のインタビューに答える私……
――高校生でデビューなんてすごいですね
いえ、じぶん昔、学生のときは陰キャで、クラスの隅っこで本読んでました(笑)
「結束バンドは高校生バンドなのに、“学生の時は……”ってひとりちゃんが言い出すから記者さんめちゃくちゃ困惑してましたよね……」
「年齢詐称と疑われて、誤解を解くのが大変だったね……」
「ぐっ!?」
ラジオのゲストとして、パーソナリティーの質問に軽快な返しで場をわかせる私……
――皆さんは普段学校にも行きながら、仕事もこなすわけですが大変じゃないですか?
私は学校の方が大変です。 中退するのが夢なんで……(笑)
「ひとりちゃんが余りにも感情が死んだ声で言うから、パーソナリティさんも一瞬答えに詰まっちゃってましたよ」
「あれはその前の喜多ちゃんが“どちらも最高に楽しくて大変なんて思いません!”って答えて、じゃあ同じ学校のぼっちちゃんは……って話の流れだったのが追い打ちに……」
「なんか郁代とぼっちの仲が悪い感じで笑えた」
「ぎっ!?」
「うん、まぁね、後藤チャンは黙ってれば美人だから、うん! 結束バンドはチームなんだから一人ぐらい後ろで黙ってても問題ないよ!」
例え私がインタビューに備えたかっこいい返事をいくら考え、私がゲストのラジオの台本を何冊書き上げようと、現実の私はしょせん陰キャ
プロデューサーさんの実質的な戦力外通告に私は肩を落とします。
「さぁお仕事お仕事! 今日も元気に行ってみよう!」
プロデューサーさんの一言で、今日の仕事へとメンバーで向かおうとした時、後ろから声をかけられます。
「あっ、そうだ、山田チャンと後藤チャン、ちょっと残ってもらっていい?」
「話なら私達も……」
「あぁ、君たちは先に行っていいよ! 車はもう待たせてるからさ!」
キビキビ動く二人に対し、のそのそと動いていた私とリョウさんは部屋を出ようとしている所で止められ、プロデューサーさんはいつもの笑顔で虹夏ちゃんと喜多ちゃんを見送ります。
プロデューサーさんは二人が出ていく姿をしっかりと確認すると、こちらに顔を向けてきました。
「いやー、君たちにはちょっと曲のことで話があってさ、ほら、このバンドの曲って君たちが作ってるじゃない?」
「あっ、は、はい」
「作曲が山田チャンで後藤チャン作詞でしょ、それでさ、この前君たちに楽曲をお願いしたじゃない? いやー、何度もせかすつもりはないんだけど気になっちゃってさ!」
そうです。以前アニメのタイアップとして売り出した後、結束バンドの次の曲を作ってくれとプロデューサーさんは私達に言ってました。
「もうすぐできます。私達結束バンドを世間にぶつけるための楽曲が」
リョウさんが珍しく、プロデューサーさんに対して熱を込めて言い切ります。
初めに作った曲だって私達の曲ですが、今回作れと言われたのは“私達のロック”
様々な情報が付随しない、なんのしがらみもなく私達結束バンドを生で伝えることができる曲なのです。
傍からみてもリョウさんの熱が入っているのは伝わっていましたし、それは私も同じです。
私達の楽曲作りは先詩と先曲かと言えば先詩、つまり歌詞を先に作り、そこからインスピレーションを受けたリョウさんが作曲する場合が多いです。
こういった場合、先に歌詞ができてるので、作曲はそれに合わせたメロディーを作っていくのですが
――ぼっち、ごめん、ここはもっとリズムを優先させたい
私の歌詞を変えられないか提案したり
――ここの歌詞、ちょっと窮屈そう、もっと言いたいことあるんじゃない?
逆に今度は歌詞を優先し、多少の無理があっても曲のメロディーを変えることを躊躇せず
そんな私たち二人であぁでもない、こうでもないと作りあげている曲、つまり渾身の一曲でした。
「うん、途中経過で出したやつを聞いたよ」
流石に2度目に待ってもらった時は、進捗を出さないわけにもいかず、完成までは人にみせたくないリョウさんも観念して作りかけの物を渡していました。
「いい曲だった。キャッチ―なのにオリジナリティもある。つまり間違いなく売れる曲だと僕は思ったね!」
その言葉に私たちはしてやったりと互いに目を合わせて、リョウさんはバレない程度に口の端を持ち上げていました。
「だからね、僕はこのまま完成でも構わないと思うんだけど、どうかな?」
「え?」
しかし、話はそこで終わりませんでした。
「あと少しで完成するんです。もう少し待ってください……」
リョウさんの声が不機嫌なものとなりますが、プロデューサーさんはそれをまるで気にしてないように振舞います。
「少しっていってもどれくらいだい? こんないい曲なんだ、今でも売れると思うよ!」
「あと、1週間もあれば……」
「うーん、流石にこちらの予定のあれやこれやがキツイわけよ山田チャ~ン! もうね、色んなとこに君たちの新曲と同時に動き出すように、掛け合ってるの、実は2週間も前がもうレッドゾーンだったんだよ、これ以上は無理だね」
半笑いのプロデューサーさんでしたが、その目は笑っていません、それがすごく怖いです。
リョウさんはそれでも食い下がります。
「……私達のロックをぶつけろと言ったのはプロデューサーです。お願いします。もう少しだけ待ってくれませんか」
リョウさんが頭を下げました。
この場でその行動は当たり前のはずですが、なぜか頭を下げたリョウさんを見て、私は衝撃を受けてしまいました。
「……じゃあさ、一つだけお願いを聞いてくれたら待ってもらえるように調整を付けてみるよ」
プロデューサーさんは頭を下げるリョウさんを上から見下ろすように覗き込みます。
「ほ、ほんとうですか」
「でもね、条件がある」
その一言に私たちは顔をあげて一瞬だけ喜びの表情を浮かべ
「君たちの作った曲の歌詞なんだけどさ、もうちょっと明るい歌詞に変えてくれない?」
その一言に固まってしまいました。
「……曲はかなり良いんだけど、正直言えば歌詞が暗すぎるんだよねー」
「うっ……」
私の心臓がギュッと縮みます。
「分かる。分かるんだ。これは傑作になる。それは今までこの業界に携わってきた僕も保証する! ……でもね、だからこそ惜しい」
これが的外れなものだったら私だってここまで動揺はしません、ですがその言葉が全くよぎらなかったと聞かれればウソになってしまいます。
「別にね、ここから夢は必ず叶うんだー、なんて陳腐な曲にしろなんて言うつもりはないよ、でも少し、ほんの少しでいいから大衆を意識した歌詞にできないか考え……」
「この曲にすこしでも手を加えろという話なら聞きません」
きっぱりと、強く揺るがない語調でリョウさんは断言しました。
その様子にテコでも動かないとプロデューサーさんは感じたのでしょうか、ついと目線をリョウさんから私にスライドさせます。
「後藤チャンが作詞してるんだろ? どう、自分でもちょっと暗すぎたとか思わない?」
結果として、その言葉は私にとって効果てきめんでした。
「う、あ、その……、あの、確かに私の歌詞は暗いですけど……、で、でも」
「だよねぇ!! 私も売り出す側だからね! 些細な失敗の可能性は無くしたくてさ!」
でも、それが私達の音楽なんだ。そう続きを言う前に、言葉の濁流に押し流されてしまいます。
「どうだい? この際、作詞ぐらいならこっちの方で、あっ、大丈夫、名義や報酬も変えないよ、ウチにはそういう人もいるから安心して……」
「それ、本気で言ってますか?」
ずいと、私を隠すようにリョウさんが一歩前にでます。
いつもの平坦な声とも違う低い声に、リョウ先輩の怒りが直に伝わってきました。
「本気だよ、僕はいつだって本気さ」
ですがプロデューサーさんはそれでもいつもと同じ笑顔でした。
「君はこう言いたいんだろ? “やりたい音楽をさせて欲しい” 初めに君に夢を聞いた時そう答えていたのを覚えているよ」
「そうです、私は自分の音楽をするためにここに居ます」
「僕の答えも変わらない“仕事をこなせば構わない”だ」
プロデューサーさんはにっこりと笑うと、リョウさんの言葉には返事をせずに自分の言葉を続けます。
「前に“ここが正念場だ”って言ってたのを覚えてるかな? 覚えてないならもう一度言うよ、今君たちはさらに売れるか、埋もれるかの瀬戸際に居る。いいや、もうそのタイミングは過ぎてるのかもしれない」
その変わらない顔の形から吐き出される言葉には、有無を言わせない重みが乗ってるようにも感じます。
「なのに君たちは僕の催促を2度も蹴って曲を作ってたよね? 」
リョウ先輩は変わらずプロデューサーさんに対して顔をまっすぐ向け、私にはその後ろ姿しか見えません。
「今売れば確実に売れる。そんなタイミングでも僕は君たちミュージシャンを約束通り尊重した。君たちを売るのが仕事の僕が、だ。身が焦がれる思いだったよ」
リョウさんは何も言いませんでしたが、その背中がわずかに揺らぎます
訪れる沈黙、リョウさんがチラリと私の方に顔を向けました。
その目は少し赤みがさしていることに私は気づいてしまいます。
「約束の期日を守れなきゃペナルティがある。社会人として当たり前のことだよ、自由は仕事をこなしてからの話だよね?」
義務や仕事なんて社会の正論を年上の大人から真正面からぶつけられて、右も左も分からない私たちにはどうすることも出来ませんでした。
「期日は絶対だ。遅くとも明日がデッドライン、それまでに曲を完成させなきゃいけない、時間が欲しかったら歌詞を書き直す。それが嫌なら山田ちゃんが妥協してこのまま曲を完成とする。どちらか一つ、これはそういう話だよ」
リョウさんの今回の音楽にかけていた情熱を私は知っています。
そして音楽に関しては完璧主義であるリョウさんが、自分の納得できていないモノを世に出すことなんて許せないことも私は知っていました。
私かリョウさんか、そう考えた時、私の口が自然に開きました。
「あっ、あの、わ、わたしが!」
「分かりました。明日までに完成させます」
しかし、私の声に被せるように、リョウさんが言葉を言い切ります。
「ですけど、明日までは待ってください、ギリギリまで完成度を上げたいんです」
その言葉を聞いてプロデューサーさんはニンマリと笑いました。
「オッケイ! まぁ、厳しいこと言ったけど出来る内でやれることをやるしかないんだよね、じゃっ! 君たちもお仕事頑張ってね!」
鼻歌を歌いながら部屋を出ていくプロデューサーさんの背中を見送った後、私は恐る恐るリョウさんの方を見ます。
「ぼっち」
「あっ、はい……」
「もしかしてさ、最後に自分の歌詞を変えようと思ってた?」
「えっ、あの……、その、……はい」
そういうとリョウさんは少し呆れて、分かりづらいですが、わずかに眉を斜めにして怒ったような表情を浮かべます。
「ぼっちのあの歌詞で私のメロディができた。そこを曲げちゃいけないよ」
「で、でも、リョウさん……、ホントは完成させてから出したかったはずなのに……」
それでも、リョウさんの悔しさは計り知れません、曲を作るにあたってもう少し私が早く歌詞を書き上げていれば、そう思わずにはいられないのです。
「でもそれじゃ私達の曲は完成しない、やりきれないのは悔しいけど、これは私の実力不足だから」
じゃあいこうか、そう言うリョウさんの顔はいつも通りの表情に戻っています。
それでも私が暗い顔をしてままでいると、リョウさんが肩に手を置きます。
「ぼっちはぼっちでいい、それに別に曲は後でも手直しできる。アレンジverで収録してアルバムをかさまし出来るから結果オーライ」
そう言って、リョウさんは優しく笑いました。
メジャーデビューしてから私達の本当の意味での1曲目
プロデューサーさんの予想通り、その曲は私達結束バンドの実力を世に知らしめる代表曲として、世間に広く知られることとなります。
ファンに結束バンドと言えばと聞けば一番か二番目に名前があげられるこの曲は、その音楽的完成度を専門家からも絶賛されました。
でも、そういった声を見聞きするたびに、リョウさんはほんの少し寂しそうな顔をします。
後にアレンジverを出しましたが、世間に認知されるのは初めに出した曲でした。
思わずにはいられません、あの時、私の歌詞のまま、リョウさんの全力を出した楽曲を出せば何かが違ったのだろうかと
少しずつ、意識しても分からないほどに少しずつ
私たちの音はずれ始めていったのです。
ふと顔を上げる。
「でも、本当に大丈夫? チケット売るのが大変なら、他に分担すればいいし、リョウは案外こういうの上手いし、喜多ちゃんも心当たりはあるらしいから、後は私も入れて2、2、1でわければ……」
「……あっ、チケットのノルマの話でしたっけ」
「もう、ぼっちちゃん、もしかしてまた意識飛んでた?」
そう、私は選ばないことを選んだ。
口から出た言葉は、レコードをなぞるような言葉で、私はそこから外れる勇気もなかった。
「私もチケット配りますよ、なんとなくなんですけど、心当たりがあるんです」
「ぼっちちゃん……」
「ひとりちゃん……」
当然二人は、私の言葉なんて虚言とでも思っているのだろう
でも、もしこの世界が都合のいい夢だとしたら、私にはもっと会いたい人たちがいた。
「もう大丈夫、大丈夫だから……、ね?」
「そうよ……、私がその分がんばるから、ひとりちゃんは演奏に専念して……!」
「えっ、あっ、はい……、い、いえ!」
それにしても私って全然信じられていない
虹夏ちゃんと喜多ちゃんの慈愛の目をなんとか振り払って、私の初めてできたファンである一号さんと二号さんの顔を思い出す。
この二人は何回も私達結束バンドを助けてくれた人たちだ。
もう一度、あの人たちに会いたいと私は願う。
それに、もう一人、お世話になったあの人にも会えるかもしれない
「い、いや、ホントにあてが……」
「大丈夫、大丈夫だから……、ね……?」
「うっ、……そっ、そうかな、……虹夏ちゃんが言うならそうかも、……ってよくない……!」
虹夏ちゃんの母性に負けそうになるが、それでもここで引くわけにはいかない。
「あ、あの! その!? ら、らいぶ……、そう! 路上ライブでチケットを売るつもりなんです!」
言ってしまったと思う反面、自分でもそう悪い考えじゃないと思った。
過去をなぞれば同じ結果になるのか、それとも元々夢であるならおこるべきことは起こるべくして起きるのか
ただ、いつかと同じ行動をすればあの人たちに会えるのではないかという期待が私にはあった。
「ひとりちゃん……! もういいの、そんなに頑張らなくても……!」
「私たちがそこまで追い詰めてしまったんだね……! 大丈夫、私がしっかり売ってあげるから……!」
「えっ、あっ、はい……」
それにしても本当に信用がないな私……
いや、信用がないと思っていたが、これはある種の私のぼっち加減に対する厚い信頼なのでは……?
「ふーん、どこでやるつもりなの……?」
もはや、自分で店長さんからライブチケットを買ってそれを売るという、転売屋じみた行為をするしか私に残された道はないのかと諦めかけていた時、リョウさんがそう聞いてきた。
「あっ、その、金沢八景で……、明日にちょうどお祭りもあるのでいいかなと……」
「あぁ、あのあたり……」
場所を聞かれて反射的に答えてしまうが、私の話を聞いて、横に居た虹夏ちゃんが難しそうな顔をする。
「ぼっちちゃん本気なんだ……、でも明日って、そんな前日じゃ許可下りないんじゃないかな……? ぼっちちゃん申請したときあるの?」
「えっ、あっ……」
「路上ライブは警察に申請するんだけどね……、そもそもお祭りとかだと交通の邪魔って突っぱねられちゃうし……、そういう縁日に通る路上ライブって、地元の集まりとか大抵和楽器系なんだよね……」
「へぇ、そうなんですね」
「ドラムにアンプはうるさいからだめ……、ロックバンドをやるって言っただけで断られた時もあるし……」
「確かに縁日の路上ライブにそんなことしてる人たちあんまりみませんね……」
その手の細々とした申請はみんな虹夏ちゃんに任せてたから私は当然、そんなことを知っているわけがなかった。
ひとりで逮捕覚悟でやるしかないのか
そんな悲壮な覚悟を私が固め始めていると
「じゃあ、みんなでゲリラライブすればいい……」
八方ふさがりだと思っていた私に、リョウさんがなんてこともないように呟いた。
「えっでもリョウ先輩、警察に見つかったら補導とか……」
「こっちに比べれば、警察も緩いと思う、それになんだけど……、ぼっちの路上ライブで客にチケット売るって案さ」
「あっ、はい……、わたしが首謀者です……、犯行の後には自首します……」
「いいと思う、知り合いに売るのは簡単だけど、私達の音楽に興味を持ってもらうにはむしろ、私達と何の接点もない人に売った方がいいから」
チケットが売れる知り合いなら、お金を出しても欲しいと私は思ってるので、リョウさんの発想は目からうろこだった。
「なるほど、ひとりちゃん、私恥ずかしいわ……、そんなところも考えていたなんて……って、ひとりちゃんがこんなみんなを誘うような提案は珍しいわね」
「あっ、はい……、はい?」
「うん! じゃあ明日! 最寄り駅で待ち合わせ!」
「あっ、そうです! どうせならちょっとお祭りでも覗いていきませんか!」
「じゃあ、早めに集合する?」
「……人混みがすごそう」
あれ、もしかして今私、友達を遊びに誘ってる? この私が……?
どうせならお祭りにも行きたいとはしゃぐ喜多ちゃんと、その話に乗る虹夏ちゃん、面倒そうにしながらも誘ってほしくないわけじゃなさそうなリョウさん
あぁ、みんなで行けばきっとそれは楽しいのだろう
私はみんなとの楽しい時間を夢想し
そして不意に強烈な虚脱感に襲われる。
「ひゅ……」
まるでこの楽しい出来事を外から眺めているような違和感、眩暈とも違う自分が天に吸い込まれてしまうような感覚
「せっかくのお祭りなんだからリョウもくるの!」
「だって夏のお祭りですよ! 同じ夏は来ないんですから、今しかできないことをしましょうよ!」
「じゃあ、ぼっちがツイスターポテト奢ってくれたら行く」
しばらくするとそれは収まり、私は自分が自分であるという感覚を取り戻す。
「あっ、はい……、みんなで、いきましょう……」
私はなんとなくその現象の意味を頭のどこかで理解してしまう。
「ぼっちちゃん?」
「顔色が悪いね、ぼっち元気ない?」
「いえ、……楽しみすぎて成仏しそうなだけです」
「ひとりちゃんったら大げさね! でもホントに楽しみ!」
私はその言葉にぎこちない笑みで返事を返したのだった。