KAMEN RIDER WISEMAN IN FAIRY TAIL 作:Gussan0
お久しぶりですはい。
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
「くっ……また増えてきた!」
カナが放ったカードが、黒い人影の胸を貫く。
幽鬼の支配者のマスター・ジョゼが生み出した幽兵――シェイドは、輪郭を崩し、黒い霧となって消えた。
だが、その向こうから、さらに数体の影が押し寄せてくる。
「マックス、右!」
「分かってる!」
砂が巻き上がった。
振り下ろされた黒い腕を押し返し、そのまま敵の身体を包み込む。
マックスは砂を握り潰すように片手を閉じた。
シェイドが消える。
その直後、横から伸びてきた腕を、辛うじて身を引いてかわした。
「ちっ……!」
肩で息をしながら、再び魔法を構える。
黒い軍勢の向こうでは、超魔導巨人ファントムMkⅡが、空中に巨大な魔法陣を描き続けていた。
煉獄砕破――アビスブレイク。
あれが完成すれば、ギルドだけでは済まない。マグノリアの街まで、破壊に巻き込まれる。
分かっていても、こちらには巨人に手を伸ばす余裕がなかった。
「よそ見するな! 目の前の敵に集中しろ!」
カナが叫ぶ。
中にはナツ達がいる。
彼らを信じて、こちらはギルドを守る。それが今、自分達に出来る事だった。
だが、手元のカードを持ち直した時、指先が僅かに震えた。
戦い始めてから、何度魔法を使っただろう。
額を流れた汗が、顎から落ちる。
その一瞬を狙い、低く滑るように近付いていたシェイドが飛びかかってきた。
「っ!」
振り上げられる黒い腕。
カードを投げるより早く、白い刃が横から割り込んだ。
シェイドの身体が、斜めに裂ける。
霧となった影の向こうに、一人の少年が立っていた。
「……悪い。ちょっと寝坊した」
カナは、その顔を見つめた。
白い銃剣。見慣れた指輪。つい先日、ギルドに入ってきたばかりの新人。
「ソウタ……?」
「よっ」
奏太が軽く手を上げる。
その声を聞いて、ようやく目の前にいるのが本人なのだと実感した。
「あんた、病院にいたんじゃ……!」
「いたよ。さっきまで」
「さっきまでって……!」
言いかけたカナの横を、シェイドが抜けようとした。
奏太が銃口を向ける。
銃弾が黒い身体を貫き、敵は足元で霧となった。
「話は後で聞く。今は、俺にも手伝わせてくれ」
その後ろから、人影が駆け抜ける。
「ソウタだけじゃねえぞ!」
ジェットの蹴りが、一体のシェイドを吹き飛ばした。
体勢を立て直す前に、ドロイが追い付き、拳を叩き込む。
「俺達も戻ってきたぜ!」
「お前らまで!?」
マックスが目を丸くする。
そして、二人の間を抜けようとした敵の前へ、実体を持った文字が立ち塞がった。
「立体文字――鉄!」
レビィが指を振り下ろす。
重い文字が、シェイドを押し潰した。
消えていく影を確かめてから、彼女はカナ達を振り返る。
「もう大丈夫。私達も戦えるよ!」
カナの視線が、四人の顔を順に辿った。
最後に見た時は、まともに立つ事さえ出来ないほど傷付いていた。
その四人が、今は自分の足でここに立っている。
安堵が込み上げた。
続いて、言いたい事も込み上げた。
「……大丈夫って、本当だろうね? 無理して抜け出してきたんじゃないだろうね?」
「ソウタ君が回復魔法をかけてくれたの」
「回復魔法?」
カナが奏太を見る。
「……あんた、そんなのまで使えるのかい」
「まあ、一応」
「一応で済む魔法じゃないんだけどねぇ……」
呆れた声で言いながら、レビィの肩に手を置く。
レビィは小さく頷いた。
ジェットも、ドロイも、顔色は悪くない。
カナはようやく、短く息を吐いた。
「なら、頼むよ。見ての通り、こっちも手一杯だ」
「ああ」
奏太は頷き、周囲を見渡した。
傷付いた仲間達が、それでも武器を手放さずに立っている。
壊されたギルドの前で、倒れた者を庇いながら戦っている者もいた。
病室の窓から見た時より、その光景はずっと生々しかった。
壁の破片。割れた窓。床から外へと投げ出された家具。
少し前まで、ここで皆と食事をしていた。
ナツとグレイが喧嘩を始め、エルザがそれを止める。誰かが笑い、誰かが呆れる。
自分もそこに混じっていた。
「……ソウタ?」
小さな声に振り返る。
ギルドの方に、ミラが立っていた。
既にルーシィへの変身を解いた彼女が、こちらを見つめている。
奏太と目が合っても、すぐには言葉が出てこないようだった。
「ミラさん」
呼びかけると、彼女の唇が僅かに動いた。
「……目が覚めたのね」
「はい。ついさっき」
奏太が答える。
ミラは一歩近付いて、その顔を見た。
それから、腕へ。銃剣を握る手へ。しっかり地面に立っている足へ。
怪我が残っていないか、確かめるような視線だった。
「身体は? 痛いところはない?」
「もう大丈夫です。魔法で治しましたから」
「でも……」
ミラは言いかけ、口を閉じた。
奏太は、彼女が何を心配しているのか分かった気がした。
病院から出てきたばかりの人間が、大丈夫だと言って、そのまま戦場へ来たのだ。
簡単に安心出来るはずもない。
「無理して起きてる訳じゃありません。ほら」
奏太は空いている右手を、握って開いた。
痛みもない。動きも鈍くなっていない。
「レビィ達も治せたし、ちゃんと動けます」
ミラは、その手を見つめた。
やがて、張り詰めていた肩が少し下がった。
「……良かった」
小さく零れた声に、奏太は笑おうとした。
だが、続く言葉を聞いて、笑みが止まる。
「四人とも眠ったままだったから……本当に、心配したのよ」
「……すみません」
今度は冗談にしなかった。
ミラが自分達を気にかけてくれていた事は分かっていた。
それでも、こうして顔を見て言われると、眠っている間の彼女達の気持ちを、ようやく少し想像出来た。
ミラは首を横に振る。
「謝らなくていいの。帰ってきてくれたんだから」
その声を遮るように、近くで魔法が炸裂した。
二人が振り向く。
後退してきた仲間が、足を引きずっていた。マックスが、その前に立って敵を押し返している。
奏太は銃剣を握り直した。
「……話は、全部終わってから聞かせてください」
「ソウタ」
「今度は皆と一緒に戦います」
ミラは、彼の顔を見た。
そして、ゆっくり頷いた。
「無茶はしないで。怪我をしたら、ちゃんと下がるのよ」
「はい」
奏太は答え、仲間達の前へ出る。
ハーメルケインガンを左手に持ち替え、ワイズドライバーのシフトレバーを操作した。
黒い手形のハンドオーサーが、左手側へと切り替わる。
〖シャバドゥビ・タッチ・ヘンシ〜ン! シャバドゥビ・タッチ・ヘンシ〜ン!〗
戦場に、低い声音の変身待機音が響き渡った。
ジェットが振り返る。
ドロイが、敵を押し返しながら口元を緩めた。
「……その音、今は頼もしいな」
「普段は頼もしくないのかよ」
奏太は軽く返すと、左手の指輪を顔の横へと掲げた。
「変身!」
宝石のカバーを下ろし、指輪をベルトに翳す。
〖チェンジ! ナウ!〗
オレンジ色の魔法陣が、奏太の身体を通過した。
白いローブが風を受け、裾を揺らす。
白い魔法使いが、再び戦場に立った。
◆◆◆
踏み込んできたシェイドの腕を、ワイズマンは身を沈めてかわした。
銃剣を振り上げる。
黒い身体が裂け、霧が頭上を流れた。
さらにもう一体。
突き出された腕を剣の腹で逸らし、その懐へ入って蹴りを叩き込む。
吹き飛んだ敵を、銃撃で撃ち抜いた。
「……なるほど」
仮面の奥で、奏太は目を細めた。
一体ずつなら、倒せる。
動きも見えるし、銃剣も魔法も通る。
だが、相手は一体ずつ来てくれない。
正面の敵を倒せば、横から。横を向けば、後ろから。
自分が避けた敵が、そのまま後ろの仲間へ向かってしまう。
「マカオ、左だ!」
ワイズマンが叫び、銃弾を放った。
仲間の背後へ回っていたシェイドが、胸を撃ち抜かれて消える。
だが、その間に別の二体が近付いていた。
片方を斬る。
残る一体には、横から飛んできたカードが突き刺さった。
「全部一人で見ようとするんじゃないよ!」
カナの声だった。
「悪い、助かった!」
答えながら、ワイズマンは周囲を確かめる。
守る場所が広い。
前へ出て敵を減らそうとすれば、別の場所が薄くなる。引いて守り続ければ、いずれ囲まれる。
これでは、皆が息をつく時間を作れない。
「……なら、こっちも人数を増やすか」
ワイズマンは一度後退し、ハンドオーサーを右手側へと傾け直した。
右手のコモンウィザードリングを翳す。
〖デュープ! ナウ!〗
白い身体が、淡い光に包まれた。
その輪郭が左右へと分かれる。
一人、二人、三人。
同じ仮面とローブを持つ魔法使いが、合計四人、並んでいた。
「……え?」
近くにいたレビィが、目を瞬かせる。
右を見て、左を見て、もう一度真ん中を見る。
「ソウタ君が……四人?」
「おい、増えたぞ!」
「いや、見りゃ分かるって!」
ジェットとドロイまで声を上げた。
四人のワイズマンが、同時にそちらを向く。
「驚くのは後にしてくれ」
「今は敵が来るぞ」
「ほら、右」
「後ろもだ」
「全員喋るな! 余計ややこしい!」
ドロイの声に、本体のワイズマンが小さく笑う。
すぐに、銃剣を構えた。
「俺は前を減らす。そっちは皆の援護を頼む」
「了解」
「任せろ」
「そっちこそ、突っ込みすぎるなよ」
「……分かってるって」
白い影が、三方向へ駆け出した。
一人は、カナ達の前へ。
一人は、傷付いた仲間達のいる場所へ。
そして一人は、ギルドの入口へ。
残った本体が、正面の敵へと向き直る。
それぞれが別々に動き始めた事に、レビィは息を呑んだ。
同じ動きを映しているだけではない。
左のワイズマンは剣で戦い、右のワイズマンは銃を使っている。
入口へ向かった一人は、倒れている仲間を起こしていた。
「幻じゃ……ないんだ」
彼女の目の前で、分身の一人がシェイドの腕を受け止める。
銃剣を捻り、相手の腕を外側へ流した。
「レビィ!」
「う、うん!」
空いた胸元へ、立体文字が突き刺さる。
シェイドが崩れた。
「助かった。次も頼む」
分身が言う。
レビィは頷き、もう一度指を構えた。
驚いているだけでは、せっかくの魔法を生かせない。
「ジェット、ドロイ! ソウタ君が止めた敵を狙おう!」
「おう!」
「任せろ!」
分身が敵の攻撃を受け流し、ジェットが横から飛び込む。
蹴りで体勢を崩した敵を、ドロイが殴り飛ばした。
レビィは彼らの動きを追いながら、抜けてくるシェイドへ文字をぶつける。
今度は、誰か一人が囲まれなかった。
別の場所では、分身が負傷した魔導士へ肩を貸していた。
「歩けるか?」
「……ああ。悪いな」
「入口まで行こう。そこで治せる」
迫るシェイドを、片手の銃撃で撃ち抜く。
分身からの呼びかけに、本体のワイズマンが振り向いた。
入口には、他にも傷付いた仲間が集まっている。
彼はカナへ視線を送った。
「少しだけ、前を頼めるか?」
「ああ。治療かい?」
「その方が早く、皆も楽になる」
「任せな。こっちには、あんたが三人も残るんだ」
カナはカードを構え直した。
ワイズマンは仲間達の間を抜け、ギルドの入口へ戻る。
ミラが負傷者を支えていた。
「ミラさん、皆をここに集めてもらえますか。回復魔法を使います」
「ええ。お願い」
ワイズマンは右手をベルトに翳した。
〖ヒール! ナウ!〗
柔らかな光が、仲間達を包み込む。
裂けていた傷が塞がり、苦痛に歪んでいた顔が緩んだ。
腕を押さえていた魔導士が、恐る恐る指を動かす。
「……痛く、ねえ」
膝を曲げ、足を伸ばす。
先程まで歩くだけでも辛かった身体が、素直に動いた。
「おい……これ、もう治ってるぞ!」
「俺もだ。息が……楽になった……」
驚いた声が重なる。
ミラは傷があった場所を確かめ、ワイズマンを見上げた。
「本当に、治せるのね……」
「ええ。他にも怪我をしてる人は?」
「奥にもいるわ。今、呼んでくる」
ミラが駆け出す。
その間、ワイズマンは別の仲間へ向き直り、再び回復の光を灯した。
敵に向けていた魔力が、今度は仲間の傷を癒していく。
足を引きずっていた者が立ち上がり、腫れた腕を庇っていた者が拳を握った。
「ソウタ、助かった!」
「これなら、まだやれるぞ!」
武器を持って戻ろうとする仲間に、ワイズマンが頷く。
「カナの所へ行ってくれ。前に出すぎず、皆で守るんだ」
「おう!」
治療を終えた者が、一人、また一人と戻っていく。
迎えたカナが、すぐに守る場所を指示した。
ミラも、次の負傷者を連れてくる。
分身が守り、本体が治す。
それまで敵に押されるばかりだった戦場で、少しずつ、仲間達が態勢を立て直していった。
「……ミラさん。もう痛む人はいませんか?」
「ここにいる人は、これで皆よ。……エルザは、中で眠っているわ」
「エルザも怪我を?」
ミラは頷き、ジュピターを受け止めた事を短く伝えた。
ワイズマンは入口の分身へ声を掛ける。
「少し、中に入る。ここを頼む」
眠るエルザの側へ膝をつき、回復の魔法を使った。
光が、傷付いた身体を包み込む。
苦しげだった呼吸が、静かになった。
奏太はその顔を確かめ、ミラへ頷いた。
「……今は休ませておきましょう。また怪我をした人がいたら、俺を呼んでください」
ミラは頷いた。
倒れた仲間を見守る事しか出来なかった時間を思い出し、ほんの少し、目元が緩む。
「ありがとう、ソウタ」
「皆に、色々してもらいましたから」
ワイズマンはそう答えて、銃剣を構え直した。
前へ戻る彼の背中を、ミラは見送った。
そして、入口の分身へ顔を向ける。
「貴方も、怪我をしたら言うのよ」
「……俺達の事まで?」
「勿論」
分身が少し首を傾け、それから頷いた。
「じゃあ、気を付ける」
◆◆◆
本体のワイズマンが、銃剣を振り抜いた。
目前のシェイドが消える。
その向こうに、黒い影が密集していた。
後ろを気にする回数が減った分、敵の並びが見える。
仲間のいる場所。分身の位置。そして、誰もいない空間。
「カナ! 前の連中を、少し下げられるか!?」
カナがこちらを見た。
続いてワイズマンの視線の先を見る。
「あの爆発を使うのかい?」
「ああ。敵が固まってる。今ならまとめて減らせる!」
「分かった。合図しな!」
カナが周囲へ声を張った。
「前に出てる奴、一旦下がれ! ソウタが大きいのをやるよ!」
「大きいのって、あれか!?」
「巻き込まれるなよ!」
声を掛け合い、仲間達が後退する。
ジェットが、近くにいた負傷者を支えて駆け戻った。
レビィが文字を置き、敵の進路を一瞬塞ぐ。
前衛を引き受けていた分身は、銃撃を続けながら後ろへ下がった。
敵が、それを追う。
ワイズマンは最後まで、その位置を見ていた。
分身が横へ跳ぶ。
味方の姿が、狙う場所から消えた。
「今だ!」
右手をベルトへと翳す。
〖エクスプロージョン! ナウ!〗
敵の群れの中央に、魔法陣が浮かび上がった。
直後、圧縮された魔力が解き放たれる。
ドォンッ!!
轟音。
爆炎が膨らみ、黒い軍勢を呑み込んだ。
仲間達が、風圧に顔を庇う。
熱を感じる距離にいながら、爆発そのものは彼らへ届かなかった。
崩れたシェイドの輪郭が、炎の中で黒い霧へ変わっていく。
だが、範囲の外にいた一団が、爆発を避けて横へ流れようとした。
「そっちも見えてる!」
ワイズマンは狙う場所を変える。
〖エクスプロージョン! ナウ!〗
二度目の爆発が、その先で起きた。
さらに、奥へ。
仲間から離れた場所へ、続けて魔法陣を出す。
ドドォンッ!!
爆発が連なり、こちらへ押し寄せていた黒い列が、途中から途切れた。
「……うわ」
ドロイが呟く。
ワイズマンと、その先の爆炎を交互に見た。
「俺達を逃がした時にも、それ使えりゃ良かったのにな」
「……あの時は、残ってる魔力じゃ無理だった」
奏太の声が、少し低くなる。
ドロイはすぐに顔を向けた。
「責めてんじゃねえよ。助けてくれたのは分かってる」
「うん。分かってる」
レビィが、二人の間から前を見た。
病室で聞いた説明を思い出す。
自分達を逃がせるだけの魔力しか、残っていなかった。
それでも、奏太は前に立ったのだ。
「……今は、私達もいるからね」
ワイズマンが、彼女を見る。
「また魔力がなくなりそうだったら、ちゃんと言ってよ」
ジェットが頷く。
「今度は俺が運ぶからな」
「俺だって運べるぞ」
ドロイも続いた。
ワイズマンは三人を見て、それから小さく息を吐いた。
「……頼りにしてる」
「そこはもっと素直に言えよ!」
「今、素直に言っただろ!」
短いやり取りの間にも、黒い霧は流れていく。
視界が開けた。
先程まで足を置く場所もないほど押し寄せていた軍勢に、大きな空白が出来ていた。
マックスが、驚いたように息を吐く。
「……随分、減ったな」
「喜ぶのはまだ早いよ。でも、今のうちに休める奴は休みな!」
カナが周囲を見渡す。
「立てる奴は、怪我人と交代! 固まって守るんだ!」
仲間達が動き始めた。
水を渡す者。周囲を警戒する者。交代して前へ出る者。
ほんの僅かでも、息を整える時間が出来た。
ワイズマンは銃剣を下ろさず、その様子を確かめる。
よし。
何とか、皆の負担を減らせた。
だが、湖の向こうから新たな影が現れる。
一体、また一体。
黒い軍勢が、空いた場所を埋めるように近付いてきた。
「……まだ来るのか」
「ジョゼが作ってるんだ。倒しても、また増やされる」
カナが答えた。
「ジョゼって、ファントムのマスターか?」
「ああ。うちのマスターと同じ、聖十大魔道の一人だよ」
ワイズマンは、遠くに聳える巨人へ視線を向けた。
あれだけの軍勢を作り、まだ増やせる魔導士。
その上、街を消す魔法まで準備している。
「……そいつは厄介だな」
銃剣を握る手へ、力が入った。
向こうへ行って、止められれば。
そんな考えが、一瞬頭を過ぎる。
だが、振り返れば、治療を終えた仲間達が、ようやく守りを固め直したところだった。
分身達も、次の敵を迎え撃つために構えている。
ここを離れるには、まだ早い。
「中には、ナツだけが行ってるのか?」
「グレイとエルフマンもいる。三人で動力源を探してるはずだ」
エルフマンの名前に、ギルドの入口にいたミラが顔を上げた。
仲間達の傷が癒えても、巨人の中にいる弟の姿までは見えない。
彼女の視線は、湖の向こうへ向いた。
奏太は、巨人をもう一度見た。
「……なら、任せよう」
カナが頷く。
「こっちは、あいつらが戻ってくる場所を守るんだ」
「ああ」
ワイズマンは右手を上げ、分身へ合図する。
前へ出すぎない。
守る範囲を広げすぎない。
仲間達と、並んで戦う。
四人の白い魔法使いが、銃剣を構えた。
「よし。もう少し、付き合ってもらうぞ」
迫る黒い影へ向けて、本体が一歩踏み出す。
今度はその隣に、ジェットとドロイがいた。
後ろでは、レビィが次の文字を描き始めていた。
◆◆◆
同じ頃。
超魔導巨人の内部では、エルフマンが一人の魔導士と対峙していた。
大地のソル。
エレメント4の一人であるその男は、不自然に身体を曲げ、エルフマンの拳をかわした。
「……っ!」
右腕に宿した獣の力を、そのまま横へ振るう。
だが、ソルの身体は再び形を変え、攻撃の下をすり抜けた。
その直後、足元が崩れる。
踏ん張ろうとした脚を取られ、エルフマンは膝をついた。
「立派な腕ですねぇ。ですが、それだけですか?」
「うるせえ!」
床を蹴り、殴りかかる。
仲間が、外で戦っている。
ナツもグレイも、この巨人を止めるために動いている。
自分だけが、ここで止められる訳にはいかない。
振り抜いた拳が、壁を砕いた。
ソルには、当たっていなかった。
「……随分と、不自由な接収をなさる」
耳元に、声がした。
振り向くより早く、攻撃が腹へ突き刺さった。
エルフマンの身体が、床を転がる。
獣の腕をつき、どうにか立ち上がろうとする。
その姿を、ソルは薄笑いで眺めていた。
「全身を変える事は、出来ないのですか?」
エルフマンの動きが、止まった。
指先へ、力が入る。
砕けた床の破片が、掌の中で崩れた。
「……黙れ」
低い声が零れる。
ソルの笑みが、深くなった。
エルフマンの脳裏に、小さな妹の姿が浮かぶ。
伸ばした手。
止められなかった、自分の身体。
思い出すまいとしてきた光景が、目の前の景色へ重なった。
「黙れって……言ってんだろ……!」
エルフマンは、震える右腕を持ち上げた。
持ち上げた拳を振り抜く。
だが、その前に、人の形をした砂が盛り上がった。
白い髪。見覚えのある顔。
エルフマンは息を呑んだ。
拳が、止まる。
「……リサーナ……」
妹の姿をした砂の像。
本物でない事は、分かっていた。
分かっていても、その顔へ拳を振り下ろす事が出来ない。
「おや。どうなさいました?」
ソルの声が、すぐ横で聞こえた。
次の瞬間、石を纏った拳がエルフマンを殴り飛ばす。
「があっ!」
床に転がった身体へ、岩の塊が降り注いだ。
右腕を上げて防ぐ。
一発を砕き、二発目を受け止める。
だが、起き上がるより早く、ソルが迫った。
「貴方は、またそうやって目を逸らすのですか?」
「……黙れ!」
「可哀想な妹さんだ。守ってくれるはずの兄に――」
「その先を、言うんじゃねえ!!」
エルフマンが叫ぶ。
力を解放しようとした。
右腕だけではない。身体全てへ、獣の力を行き渡らせる。
それが出来れば、この男を倒せる。
だが、妹の顔が再び目の前に現れた。
今度は、一つだけではなかった。
いくつもの砂の像が、エルフマンを囲む。
胸の奥が、冷えた。
自分の身体が大きくなっていく、あの日の感覚が蘇る。
獣の力に呑み込まれ、姉も妹も分からなくなった。
あれだけ強い力を得ても、守れなかった。
力を呼び起こしかけた腕が、震える。
ソルが、その様子を愉快そうに眺めた。
「……やはり、無理のようですね」
攻撃が、エルフマンを打ち据える。
背中から壁へ叩き付けられた。
石が砕け、外の光が差し込む。
起き上がろうとした腕へ、岩と砂がまとわりついた。
胸へ。脚へ。
重い拘束が、少しずつ身体を覆っていく。
「どうです? 動けないまま思い出す過去というものは」
ソルが笑う。
エルフマンの視界へ、もう一度妹の姿が浮かんだ。
小さな頃は、よく泣いていた。
その度にリサーナが慰めてくれた。
自分は兄なのに、妹に励まされてばかりだった。
強くなりたかった。
姉と妹を守れる、強い男に。
だが、獣の力を使おうとしたあの日、自分は大切なものを壊してしまった。
戻ってこない妹。
泣いていた姉。
墓の前で交わした言葉を、忘れた事はない。
それなのに、今も自分は動けない。
顔まで岩に覆われようとした時、声が聞こえた。
「エルフマン!!」
姉の声だった。
顔を上げる。
壁の崩れた先。巨人の腕が、見えた。
その巨大な手に、ミラが捕らえられていた。
「……姉ちゃん?」
外では、ジョゼの声が響いていた。
ルーシィに化け、自分を欺こうとしたミラを、彼は見逃していなかった。
幽兵を押し返したからといって、敵のマスターまで手を引いた訳ではない。
入口を守るワイズマンの分身が、仲間を庇ってシェイドを撃ち抜いた、その隙だった。
巨人の手が迫る。
ミラが顔を上げた時には、もう巨大な指が目の前にあった。
仲間達が叫ぶ。
「ミラ!」
「くそっ、あの手を離させろ!」
魔法が飛んだ。
だが、巨人の指を開かせるには至らない。
「ソウタ!」
カナに呼ばれ、本体のワイズマンが振り返った。
巨大な手に捕らえられたミラが、苦しげに顔を歪めている。
ワイズマンは、咄嗟に右手をベルトへ伸ばした。
〖テレポート! ナウ!〗
白い姿が、巨人の手の側へ移る。
すぐに、次の魔法を使った。
〖バリア! ナウ!〗
閉じようとする指の間へ、防御壁を差し込む。
巨人の力が、防御壁を軋ませた。
ワイズマンは腕に力を込める。
「ミラさん、しっかり!」
彼女へ伸ばした手を、巨大な指が阻んでいた。
今は、これ以上握り込ませないよう支える。
同じ時、崩れた壁の向こうで、エルフマンが声を上げていた。
「姉ちゃん!!」
立ち上がろうとする。
身体を押さえる岩が、動きを阻んだ。
ソルは巨人の手を見やり、笑う。
「ミラジェーン……かつては魔人と恐れられた魔導士でしたね」
男は、エルフマンへ視線を戻した。
「また、ご家族を失う事になるのでしょうか」
「エルフマン! 逃げて!」
ミラが叫んだ。
姉は泣いていた。
自分を心配して、逃げろと言っていた。
エルフマンの視界が、滲む。
もう、こんな思いはさせない。
姉の涙を見ながら、そう誓ったはずだった。
なのに、また自分は立ち止まっている。
怖いから。
あの力を使うのが。
自分を見失い、大切な人を傷付けるのが。
「……姉ちゃん」
エルフマンは、右手を握った。
岩が軋む。
今、自分の手は、誰を守るためにある。
姉はまだ生きている。
手を伸ばせる場所に、いる。
失った後に泣くのは、もう嫌だった。
「俺は……もう……」
肩を押さえる岩に、亀裂が走る。
ソルの笑みが薄れた。
「……おや?」
「もう、姉ちゃんを泣かせたくねえんだ!!」
魔力が噴き上がる。
右腕だけではない。
胸へ。脚へ。背中へ。
押し込めていた獣の力が、全身へと広がった。
「エルフマン!? 駄目、その力は……!」
ミラが息を呑む。
あの日と同じ光だった。
止めようとした彼女の声を聞きながら、エルフマンは前を見た。
姉を守る。
そのために、強くなる。
自分の中にある力から、今度こそ逃げなかった。
「全身接収――!!」
拘束していた岩が、砕け散った。
膨れ上がる身体。獣の腕。床を踏み締める、大きな足。
獣王の魂。
人の姿を離れた巨躯が、ソルの前に立つ。
「……なっ……!」
ソルが後退した。
その顔から、先程までの余裕が消えていく。
エルフマンは一歩踏み込んだ。
振り下ろした拳が、ソルを捉える。
床が震えた。
逃げようと形を変えた身体へ、さらに腕を叩き付ける。
「ま、待ちなさい! これは、貴方のためを思って……!」
ソルの声が上ずる。
「過去を乗り越えるための試練を、私は――」
言い終わる前に、拳がその身体を打ち抜いた。
吹き飛んだソルが壁へぶつかり、崩れた石の中へ落ちる。
それでも、彼は魔法を放った。
石膏が獣の身体へまとわりつく。
エルフマンは腕を振るい、力任せにそれを砕いた。
ソルが目を見開く。
その目前へ、獣王が迫った。
最後の一撃。
巨人の内部に、重い衝撃が響き渡った。
ソルが倒れる。
今度は、起き上がらなかった。
エルフマンは荒い息を吐き、その姿を見下ろす。
それから、外へと顔を向けた。
ミラがいた。
巨大な手に捕らえられたまま、こちらを見ていた。
エルフマンは、彼女の方へ進む。
崩れた壁を越え、姉へと手を伸ばす。
ミラの身体が、小さく強張った。
あの日と同じ姿。
自分達の声が届かなかった、獣の姿。
大きな腕が、彼女へ伸びてくる。
「……エルフマン……」
彼女が呼ぶと、獣は顔を向けた。
その手は、ミラを掴まなかった。
彼女を押さえ込んでいた巨人の指へ、掛けられた。
力が込められる。
軋む音がした。
巨大な指が押し開かれ、ミラの身体が自由になる。
ワイズマンは、ようやく防御壁を解いた。
落ちる前に、もう片方の腕が受け止めた。
優しい手だった。
あれほど激しく戦っていたのに、抱き上げる力は、驚くほど慎重だった。
「……姉ちゃん」
聞こえたのは、弟の声だった。
「ごめん……怖い思い、させて……」
ミラが顔を上げる。
獣の顔を、見つめる。
目の前にいるのは、弟だった。
自分を見て、声を聞き、自分を守ってくれた弟だった。
「……ううん」
ミラは首を横に振った。
大きな身体へ、手を添える。
「謝らなくていいの」
声が震えた。
堪えようとしても、涙が頬を伝っていく。
エルフマンが、困ったように彼女を見た。
ミラは泣きながら、笑った。
「ありがとう。助けてくれて……」
大きな腕が、少しだけ彼女を抱き寄せた。
◆◆◆
「ミラさん!」
地上へ戻ってきた姉弟に、ワイズマンが駆け寄った。
エルフマンは、既に人の姿へ戻っている。
その顔にも、腕にも、傷があった。
ワイズマンは二人の無事を確かめ、右手を翳す。
〖ヒール! ナウ!〗
光が、姉弟を包み込む。
エルフマンは息を吐き、傷の塞がった腕を見た。
「……お前、いつ戻ったんだ?」
「少し前。遅くなって悪かった」
「いや……」
エルフマンは首を横に振った。
その横で、ミラが弟の袖を握っていた。
ワイズマンはその手を見て、二人の顔へ視線を戻した。
「……助けてくれたんだな、エルフマン」
「ああ」
短い返事だった。
だが、ミラがそっと頷く。
「この子が、守ってくれたの」
カナも側へ来た。
姉弟を見て、少しだけ口元を緩める。
「……やったじゃないか」
エルフマンは、気恥ずかしそうに頬を掻いた。
ミラはまだ、その袖を離していなかった。
その時、マックスの声が上がる。
「おい! あの巨人……動きが遅くなってねえか?」
皆が顔を上げた。
空中に文字を描く巨大な腕。
止まってはいない。
だが、確かに、その動きは先程より鈍くなっていた。
ミラが目を細める。
ソルが倒れた直後からだ。
四つの元素を使う魔法と、エレメント4。
その繋がりに気付き、彼女は息を呑んだ。
「……エレメント4が、動力源なのね」
カナが振り返る。
「ミラ?」
「あの四人を倒せば、巨人を止められるはずよ」
エルフマンが顔を上げた。
「火の奴は、ナツ達と一緒に倒した。ソルも、もう倒したぞ」
「なら、残りは二人だ」
ワイズマンが巨人を見上げる。
まだ、中にはナツとグレイがいる。
彼らへ、この知らせを届けなければ。
カナが仲間達へ声を張った。
「聞こえたね! 止める方法が分かったよ!」
疲れた顔が、上がる。
銃剣を構えるワイズマンの隣で、エルフマンも拳を握った。
ミラは弟の袖から、ゆっくり手を離す。
その背中を、今度は俯かずに見つめた。
続けて投稿しますー。
では、また∠( ゚д゚)