KAMEN RIDER WISEMAN IN FAIRY TAIL   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

お久しぶりですはい。

続き書けたで候。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


第十七話 妖精の尻尾vs幽鬼の支配者④

「くっ……また増えてきた!」

 

 カナが放ったカードが、黒い人影の胸を貫く。

 

 幽鬼の支配者のマスター・ジョゼが生み出した幽兵――シェイドは、輪郭を崩し、黒い霧となって消えた。

 

 だが、その向こうから、さらに数体の影が押し寄せてくる。

 

「マックス、右!」

 

「分かってる!」

 

 砂が巻き上がった。

 

 振り下ろされた黒い腕を押し返し、そのまま敵の身体を包み込む。

 

 マックスは砂を握り潰すように片手を閉じた。

 

 シェイドが消える。

 

 その直後、横から伸びてきた腕を、辛うじて身を引いてかわした。

 

「ちっ……!」

 

 肩で息をしながら、再び魔法を構える。

 

 黒い軍勢の向こうでは、超魔導巨人ファントムMkⅡが、空中に巨大な魔法陣を描き続けていた。

 

 煉獄砕破――アビスブレイク。

 

 あれが完成すれば、ギルドだけでは済まない。マグノリアの街まで、破壊に巻き込まれる。

 

 分かっていても、こちらには巨人に手を伸ばす余裕がなかった。

 

「よそ見するな! 目の前の敵に集中しろ!」

 

 カナが叫ぶ。

 

 中にはナツ達がいる。

 

 彼らを信じて、こちらはギルドを守る。それが今、自分達に出来る事だった。

 

 だが、手元のカードを持ち直した時、指先が僅かに震えた。

 

 戦い始めてから、何度魔法を使っただろう。

 

 額を流れた汗が、顎から落ちる。

 

 その一瞬を狙い、低く滑るように近付いていたシェイドが飛びかかってきた。

 

「っ!」

 

 振り上げられる黒い腕。

 

 カードを投げるより早く、白い刃が横から割り込んだ。

 

 シェイドの身体が、斜めに裂ける。

 

 霧となった影の向こうに、一人の少年が立っていた。

 

「……悪い。ちょっと寝坊した」

 

 カナは、その顔を見つめた。

 

 白い銃剣。見慣れた指輪。つい先日、ギルドに入ってきたばかりの新人。

 

「ソウタ……?」

 

「よっ」

 

 奏太が軽く手を上げる。

 

 その声を聞いて、ようやく目の前にいるのが本人なのだと実感した。

 

「あんた、病院にいたんじゃ……!」

 

「いたよ。さっきまで」

 

「さっきまでって……!」

 

 言いかけたカナの横を、シェイドが抜けようとした。

 

 奏太が銃口を向ける。

 

 銃弾が黒い身体を貫き、敵は足元で霧となった。

 

「話は後で聞く。今は、俺にも手伝わせてくれ」

 

 その後ろから、人影が駆け抜ける。

 

「ソウタだけじゃねえぞ!」

 

 ジェットの蹴りが、一体のシェイドを吹き飛ばした。

 

 体勢を立て直す前に、ドロイが追い付き、拳を叩き込む。

 

「俺達も戻ってきたぜ!」

 

「お前らまで!?」

 

 マックスが目を丸くする。

 

 そして、二人の間を抜けようとした敵の前へ、実体を持った文字が立ち塞がった。

 

「立体文字――鉄!」

 

 レビィが指を振り下ろす。

 

 重い文字が、シェイドを押し潰した。

 

 消えていく影を確かめてから、彼女はカナ達を振り返る。

 

「もう大丈夫。私達も戦えるよ!」

 

 カナの視線が、四人の顔を順に辿った。

 

 最後に見た時は、まともに立つ事さえ出来ないほど傷付いていた。

 

 その四人が、今は自分の足でここに立っている。

 

 安堵が込み上げた。

 

 続いて、言いたい事も込み上げた。

 

「……大丈夫って、本当だろうね? 無理して抜け出してきたんじゃないだろうね?」

 

「ソウタ君が回復魔法をかけてくれたの」

 

「回復魔法?」

 

 カナが奏太を見る。

 

「……あんた、そんなのまで使えるのかい」

 

「まあ、一応」

 

「一応で済む魔法じゃないんだけどねぇ……」

 

 呆れた声で言いながら、レビィの肩に手を置く。

 

 レビィは小さく頷いた。

 

 ジェットも、ドロイも、顔色は悪くない。

 

 カナはようやく、短く息を吐いた。

 

「なら、頼むよ。見ての通り、こっちも手一杯だ」

 

「ああ」

 

 奏太は頷き、周囲を見渡した。

 

 傷付いた仲間達が、それでも武器を手放さずに立っている。

 

 壊されたギルドの前で、倒れた者を庇いながら戦っている者もいた。

 

 病室の窓から見た時より、その光景はずっと生々しかった。

 

 壁の破片。割れた窓。床から外へと投げ出された家具。

 

 少し前まで、ここで皆と食事をしていた。

 

 ナツとグレイが喧嘩を始め、エルザがそれを止める。誰かが笑い、誰かが呆れる。

 

 自分もそこに混じっていた。

 

「……ソウタ?」

 

 小さな声に振り返る。

 

 ギルドの方に、ミラが立っていた。

 

 既にルーシィへの変身を解いた彼女が、こちらを見つめている。

 

 奏太と目が合っても、すぐには言葉が出てこないようだった。

 

「ミラさん」

 

 呼びかけると、彼女の唇が僅かに動いた。

 

「……目が覚めたのね」

 

「はい。ついさっき」

 

 奏太が答える。

 

 ミラは一歩近付いて、その顔を見た。

 

 それから、腕へ。銃剣を握る手へ。しっかり地面に立っている足へ。

 

 怪我が残っていないか、確かめるような視線だった。

 

「身体は? 痛いところはない?」

 

「もう大丈夫です。魔法で治しましたから」

 

「でも……」

 

 ミラは言いかけ、口を閉じた。

 

 奏太は、彼女が何を心配しているのか分かった気がした。

 

 病院から出てきたばかりの人間が、大丈夫だと言って、そのまま戦場へ来たのだ。

 

 簡単に安心出来るはずもない。

 

「無理して起きてる訳じゃありません。ほら」

 

 奏太は空いている右手を、握って開いた。

 

 痛みもない。動きも鈍くなっていない。

 

「レビィ達も治せたし、ちゃんと動けます」

 

 ミラは、その手を見つめた。

 

 やがて、張り詰めていた肩が少し下がった。

 

「……良かった」

 

 小さく零れた声に、奏太は笑おうとした。

 

 だが、続く言葉を聞いて、笑みが止まる。

 

「四人とも眠ったままだったから……本当に、心配したのよ」

 

「……すみません」

 

 今度は冗談にしなかった。

 

 ミラが自分達を気にかけてくれていた事は分かっていた。

 

 それでも、こうして顔を見て言われると、眠っている間の彼女達の気持ちを、ようやく少し想像出来た。

 

 ミラは首を横に振る。

 

「謝らなくていいの。帰ってきてくれたんだから」

 

 その声を遮るように、近くで魔法が炸裂した。

 

 二人が振り向く。

 

 後退してきた仲間が、足を引きずっていた。マックスが、その前に立って敵を押し返している。

 

 奏太は銃剣を握り直した。

 

「……話は、全部終わってから聞かせてください」

 

「ソウタ」

 

「今度は皆と一緒に戦います」

 

 ミラは、彼の顔を見た。

 

 そして、ゆっくり頷いた。

 

「無茶はしないで。怪我をしたら、ちゃんと下がるのよ」

 

「はい」

 

 奏太は答え、仲間達の前へ出る。

 

 ハーメルケインガンを左手に持ち替え、ワイズドライバーのシフトレバーを操作した。

 

 黒い手形のハンドオーサーが、左手側へと切り替わる。

 

〖シャバドゥビ・タッチ・ヘンシ〜ン! シャバドゥビ・タッチ・ヘンシ〜ン!〗

 

 戦場に、低い声音の変身待機音が響き渡った。

 

 ジェットが振り返る。

 

 ドロイが、敵を押し返しながら口元を緩めた。

 

「……その音、今は頼もしいな」

 

「普段は頼もしくないのかよ」

 

 奏太は軽く返すと、左手の指輪を顔の横へと掲げた。

 

「変身!」

 

 宝石のカバーを下ろし、指輪をベルトに翳す。

 

〖チェンジ! ナウ!〗

 

 オレンジ色の魔法陣が、奏太の身体を通過した。

 

 白いローブが風を受け、裾を揺らす。

 

 白い魔法使いが、再び戦場に立った。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 踏み込んできたシェイドの腕を、ワイズマンは身を沈めてかわした。

 

 銃剣を振り上げる。

 

 黒い身体が裂け、霧が頭上を流れた。

 

 さらにもう一体。

 

 突き出された腕を剣の腹で逸らし、その懐へ入って蹴りを叩き込む。

 

 吹き飛んだ敵を、銃撃で撃ち抜いた。

 

「……なるほど」

 

 仮面の奥で、奏太は目を細めた。

 

 一体ずつなら、倒せる。

 

 動きも見えるし、銃剣も魔法も通る。

 

 だが、相手は一体ずつ来てくれない。

 

 正面の敵を倒せば、横から。横を向けば、後ろから。

 

 自分が避けた敵が、そのまま後ろの仲間へ向かってしまう。

 

「マカオ、左だ!」

 

 ワイズマンが叫び、銃弾を放った。

 

 仲間の背後へ回っていたシェイドが、胸を撃ち抜かれて消える。

 

 だが、その間に別の二体が近付いていた。

 

 片方を斬る。

 

 残る一体には、横から飛んできたカードが突き刺さった。

 

「全部一人で見ようとするんじゃないよ!」

 

 カナの声だった。

 

「悪い、助かった!」

 

 答えながら、ワイズマンは周囲を確かめる。

 

 守る場所が広い。

 

 前へ出て敵を減らそうとすれば、別の場所が薄くなる。引いて守り続ければ、いずれ囲まれる。

 

 これでは、皆が息をつく時間を作れない。

 

「……なら、こっちも人数を増やすか」

 

 ワイズマンは一度後退し、ハンドオーサーを右手側へと傾け直した。

 

 右手のコモンウィザードリングを翳す。

 

〖デュープ! ナウ!〗

 

 白い身体が、淡い光に包まれた。

 

 その輪郭が左右へと分かれる。

 

 一人、二人、三人。

 

 同じ仮面とローブを持つ魔法使いが、合計四人、並んでいた。

 

「……え?」

 

 近くにいたレビィが、目を瞬かせる。

 

 右を見て、左を見て、もう一度真ん中を見る。

 

「ソウタ君が……四人?」

 

「おい、増えたぞ!」

 

「いや、見りゃ分かるって!」

 

 ジェットとドロイまで声を上げた。

 

 四人のワイズマンが、同時にそちらを向く。

 

「驚くのは後にしてくれ」

 

「今は敵が来るぞ」

 

「ほら、右」

 

「後ろもだ」

 

「全員喋るな! 余計ややこしい!」

 

 ドロイの声に、本体のワイズマンが小さく笑う。

 

 すぐに、銃剣を構えた。

 

「俺は前を減らす。そっちは皆の援護を頼む」

 

「了解」

 

「任せろ」

 

「そっちこそ、突っ込みすぎるなよ」

 

「……分かってるって」

 

 白い影が、三方向へ駆け出した。

 

 一人は、カナ達の前へ。

 

 一人は、傷付いた仲間達のいる場所へ。

 

 そして一人は、ギルドの入口へ。

 

 残った本体が、正面の敵へと向き直る。

 

 それぞれが別々に動き始めた事に、レビィは息を呑んだ。

 

 同じ動きを映しているだけではない。

 

 左のワイズマンは剣で戦い、右のワイズマンは銃を使っている。

 

 入口へ向かった一人は、倒れている仲間を起こしていた。

 

「幻じゃ……ないんだ」

 

 彼女の目の前で、分身の一人がシェイドの腕を受け止める。

 

 銃剣を捻り、相手の腕を外側へ流した。

 

「レビィ!」

 

「う、うん!」

 

 空いた胸元へ、立体文字が突き刺さる。

 

 シェイドが崩れた。

 

「助かった。次も頼む」

 

 分身が言う。

 

 レビィは頷き、もう一度指を構えた。

 

 驚いているだけでは、せっかくの魔法を生かせない。

 

「ジェット、ドロイ! ソウタ君が止めた敵を狙おう!」

 

「おう!」

 

「任せろ!」

 

 分身が敵の攻撃を受け流し、ジェットが横から飛び込む。

 

 蹴りで体勢を崩した敵を、ドロイが殴り飛ばした。

 

 レビィは彼らの動きを追いながら、抜けてくるシェイドへ文字をぶつける。

 

 今度は、誰か一人が囲まれなかった。

 

 別の場所では、分身が負傷した魔導士へ肩を貸していた。

 

「歩けるか?」

 

「……ああ。悪いな」

 

「入口まで行こう。そこで治せる」

 

 迫るシェイドを、片手の銃撃で撃ち抜く。

 

 分身からの呼びかけに、本体のワイズマンが振り向いた。

 

 入口には、他にも傷付いた仲間が集まっている。

 

 彼はカナへ視線を送った。

 

「少しだけ、前を頼めるか?」

 

「ああ。治療かい?」

 

「その方が早く、皆も楽になる」

 

「任せな。こっちには、あんたが三人も残るんだ」

 

 カナはカードを構え直した。

 

 ワイズマンは仲間達の間を抜け、ギルドの入口へ戻る。

 

 ミラが負傷者を支えていた。

 

「ミラさん、皆をここに集めてもらえますか。回復魔法を使います」

 

「ええ。お願い」

 

 ワイズマンは右手をベルトに翳した。

 

〖ヒール! ナウ!〗

 

 柔らかな光が、仲間達を包み込む。

 

 裂けていた傷が塞がり、苦痛に歪んでいた顔が緩んだ。

 

 腕を押さえていた魔導士が、恐る恐る指を動かす。

 

「……痛く、ねえ」

 

 膝を曲げ、足を伸ばす。

 

 先程まで歩くだけでも辛かった身体が、素直に動いた。

 

「おい……これ、もう治ってるぞ!」

 

「俺もだ。息が……楽になった……」

 

 驚いた声が重なる。

 

 ミラは傷があった場所を確かめ、ワイズマンを見上げた。

 

「本当に、治せるのね……」

 

「ええ。他にも怪我をしてる人は?」

 

「奥にもいるわ。今、呼んでくる」

 

 ミラが駆け出す。

 

 その間、ワイズマンは別の仲間へ向き直り、再び回復の光を灯した。

 

 敵に向けていた魔力が、今度は仲間の傷を癒していく。

 

 足を引きずっていた者が立ち上がり、腫れた腕を庇っていた者が拳を握った。

 

「ソウタ、助かった!」

 

「これなら、まだやれるぞ!」

 

 武器を持って戻ろうとする仲間に、ワイズマンが頷く。

 

「カナの所へ行ってくれ。前に出すぎず、皆で守るんだ」

 

「おう!」

 

 治療を終えた者が、一人、また一人と戻っていく。

 

 迎えたカナが、すぐに守る場所を指示した。

 

 ミラも、次の負傷者を連れてくる。

 

 分身が守り、本体が治す。

 

 それまで敵に押されるばかりだった戦場で、少しずつ、仲間達が態勢を立て直していった。

 

「……ミラさん。もう痛む人はいませんか?」

 

「ここにいる人は、これで皆よ。……エルザは、中で眠っているわ」

 

「エルザも怪我を?」

 

 ミラは頷き、ジュピターを受け止めた事を短く伝えた。

 

 ワイズマンは入口の分身へ声を掛ける。

 

「少し、中に入る。ここを頼む」

 

 眠るエルザの側へ膝をつき、回復の魔法を使った。

 

 光が、傷付いた身体を包み込む。

 

 苦しげだった呼吸が、静かになった。

 

 奏太はその顔を確かめ、ミラへ頷いた。

 

「……今は休ませておきましょう。また怪我をした人がいたら、俺を呼んでください」

 

 ミラは頷いた。

 

 倒れた仲間を見守る事しか出来なかった時間を思い出し、ほんの少し、目元が緩む。

 

「ありがとう、ソウタ」

 

「皆に、色々してもらいましたから」

 

 ワイズマンはそう答えて、銃剣を構え直した。

 

 前へ戻る彼の背中を、ミラは見送った。

 

 そして、入口の分身へ顔を向ける。

 

「貴方も、怪我をしたら言うのよ」

 

「……俺達の事まで?」

 

「勿論」

 

 分身が少し首を傾け、それから頷いた。

 

「じゃあ、気を付ける」

 

 ◆◆◆

 

 

 本体のワイズマンが、銃剣を振り抜いた。

 

 目前のシェイドが消える。

 

 その向こうに、黒い影が密集していた。

 

 後ろを気にする回数が減った分、敵の並びが見える。

 

 仲間のいる場所。分身の位置。そして、誰もいない空間。

 

「カナ! 前の連中を、少し下げられるか!?」

 

 カナがこちらを見た。

 

 続いてワイズマンの視線の先を見る。

 

「あの爆発を使うのかい?」

 

「ああ。敵が固まってる。今ならまとめて減らせる!」

 

「分かった。合図しな!」

 

 カナが周囲へ声を張った。

 

「前に出てる奴、一旦下がれ! ソウタが大きいのをやるよ!」

 

「大きいのって、あれか!?」

 

「巻き込まれるなよ!」

 

 声を掛け合い、仲間達が後退する。

 

 ジェットが、近くにいた負傷者を支えて駆け戻った。

 

 レビィが文字を置き、敵の進路を一瞬塞ぐ。

 

 前衛を引き受けていた分身は、銃撃を続けながら後ろへ下がった。

 

 敵が、それを追う。

 

 ワイズマンは最後まで、その位置を見ていた。

 

 分身が横へ跳ぶ。

 

 味方の姿が、狙う場所から消えた。

 

「今だ!」

 

 右手をベルトへと翳す。

 

〖エクスプロージョン! ナウ!〗

 

 敵の群れの中央に、魔法陣が浮かび上がった。

 

 直後、圧縮された魔力が解き放たれる。

 

 ドォンッ!!

 

 轟音。

 

 爆炎が膨らみ、黒い軍勢を呑み込んだ。

 

 仲間達が、風圧に顔を庇う。

 

 熱を感じる距離にいながら、爆発そのものは彼らへ届かなかった。

 

 崩れたシェイドの輪郭が、炎の中で黒い霧へ変わっていく。

 

 だが、範囲の外にいた一団が、爆発を避けて横へ流れようとした。

 

「そっちも見えてる!」

 

 ワイズマンは狙う場所を変える。

 

〖エクスプロージョン! ナウ!〗

 

 二度目の爆発が、その先で起きた。

 

 さらに、奥へ。

 

 仲間から離れた場所へ、続けて魔法陣を出す。

 

 ドドォンッ!!

 

 爆発が連なり、こちらへ押し寄せていた黒い列が、途中から途切れた。

 

「……うわ」

 

 ドロイが呟く。

 

 ワイズマンと、その先の爆炎を交互に見た。

 

「俺達を逃がした時にも、それ使えりゃ良かったのにな」

 

「……あの時は、残ってる魔力じゃ無理だった」

 

 奏太の声が、少し低くなる。

 

 ドロイはすぐに顔を向けた。

 

「責めてんじゃねえよ。助けてくれたのは分かってる」

 

「うん。分かってる」

 

 レビィが、二人の間から前を見た。

 

 病室で聞いた説明を思い出す。

 

 自分達を逃がせるだけの魔力しか、残っていなかった。

 

 それでも、奏太は前に立ったのだ。

 

「……今は、私達もいるからね」

 

 ワイズマンが、彼女を見る。

 

「また魔力がなくなりそうだったら、ちゃんと言ってよ」

 

 ジェットが頷く。

 

「今度は俺が運ぶからな」

 

「俺だって運べるぞ」

 

 ドロイも続いた。

 

 ワイズマンは三人を見て、それから小さく息を吐いた。

 

「……頼りにしてる」

 

「そこはもっと素直に言えよ!」

 

「今、素直に言っただろ!」

 

 短いやり取りの間にも、黒い霧は流れていく。

 

 視界が開けた。

 

 先程まで足を置く場所もないほど押し寄せていた軍勢に、大きな空白が出来ていた。

 

 マックスが、驚いたように息を吐く。

 

「……随分、減ったな」

 

「喜ぶのはまだ早いよ。でも、今のうちに休める奴は休みな!」

 

 カナが周囲を見渡す。

 

「立てる奴は、怪我人と交代! 固まって守るんだ!」

 

 仲間達が動き始めた。

 

 水を渡す者。周囲を警戒する者。交代して前へ出る者。

 

 ほんの僅かでも、息を整える時間が出来た。

 

 ワイズマンは銃剣を下ろさず、その様子を確かめる。

 

 よし。

 

 何とか、皆の負担を減らせた。

 

 だが、湖の向こうから新たな影が現れる。

 

 一体、また一体。

 

 黒い軍勢が、空いた場所を埋めるように近付いてきた。

 

「……まだ来るのか」

 

「ジョゼが作ってるんだ。倒しても、また増やされる」

 

 カナが答えた。

 

「ジョゼって、ファントムのマスターか?」

 

「ああ。うちのマスターと同じ、聖十大魔道の一人だよ」

 

 ワイズマンは、遠くに聳える巨人へ視線を向けた。

 

 あれだけの軍勢を作り、まだ増やせる魔導士。

 

 その上、街を消す魔法まで準備している。

 

「……そいつは厄介だな」

 

 銃剣を握る手へ、力が入った。

 

 向こうへ行って、止められれば。

 

 そんな考えが、一瞬頭を過ぎる。

 

 だが、振り返れば、治療を終えた仲間達が、ようやく守りを固め直したところだった。

 

 分身達も、次の敵を迎え撃つために構えている。

 

 ここを離れるには、まだ早い。

 

「中には、ナツだけが行ってるのか?」

 

「グレイとエルフマンもいる。三人で動力源を探してるはずだ」

 

 エルフマンの名前に、ギルドの入口にいたミラが顔を上げた。

 

 仲間達の傷が癒えても、巨人の中にいる弟の姿までは見えない。

 

 彼女の視線は、湖の向こうへ向いた。

 

 奏太は、巨人をもう一度見た。

 

「……なら、任せよう」

 

 カナが頷く。

 

「こっちは、あいつらが戻ってくる場所を守るんだ」

 

「ああ」

 

 ワイズマンは右手を上げ、分身へ合図する。

 

 前へ出すぎない。

 

 守る範囲を広げすぎない。

 

 仲間達と、並んで戦う。

 

 四人の白い魔法使いが、銃剣を構えた。

 

「よし。もう少し、付き合ってもらうぞ」

 

 迫る黒い影へ向けて、本体が一歩踏み出す。

 

 今度はその隣に、ジェットとドロイがいた。

 

 後ろでは、レビィが次の文字を描き始めていた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 同じ頃。

 

 超魔導巨人の内部では、エルフマンが一人の魔導士と対峙していた。

 

 大地のソル。

 

 エレメント4の一人であるその男は、不自然に身体を曲げ、エルフマンの拳をかわした。

 

「……っ!」

 

 右腕に宿した獣の力を、そのまま横へ振るう。

 

 だが、ソルの身体は再び形を変え、攻撃の下をすり抜けた。

 

 その直後、足元が崩れる。

 

 踏ん張ろうとした脚を取られ、エルフマンは膝をついた。

 

「立派な腕ですねぇ。ですが、それだけですか?」

 

「うるせえ!」

 

 床を蹴り、殴りかかる。

 

 仲間が、外で戦っている。

 

 ナツもグレイも、この巨人を止めるために動いている。

 

 自分だけが、ここで止められる訳にはいかない。

 

 振り抜いた拳が、壁を砕いた。

 

 ソルには、当たっていなかった。

 

「……随分と、不自由な接収をなさる」

 

 耳元に、声がした。

 

 振り向くより早く、攻撃が腹へ突き刺さった。

 

 エルフマンの身体が、床を転がる。

 

 獣の腕をつき、どうにか立ち上がろうとする。

 

 その姿を、ソルは薄笑いで眺めていた。

 

「全身を変える事は、出来ないのですか?」

 

 エルフマンの動きが、止まった。

 

 指先へ、力が入る。

 

 砕けた床の破片が、掌の中で崩れた。

 

「……黙れ」

 

 低い声が零れる。

 

 ソルの笑みが、深くなった。

 

 エルフマンの脳裏に、小さな妹の姿が浮かぶ。

 

 伸ばした手。

 

 止められなかった、自分の身体。

 

 思い出すまいとしてきた光景が、目の前の景色へ重なった。

 

「黙れって……言ってんだろ……!」

 

 エルフマンは、震える右腕を持ち上げた。

 持ち上げた拳を振り抜く。

 

 だが、その前に、人の形をした砂が盛り上がった。

 

 白い髪。見覚えのある顔。

 

 エルフマンは息を呑んだ。

 

 拳が、止まる。

 

「……リサーナ……」

 

 妹の姿をした砂の像。

 

 本物でない事は、分かっていた。

 

 分かっていても、その顔へ拳を振り下ろす事が出来ない。

 

「おや。どうなさいました?」

 

 ソルの声が、すぐ横で聞こえた。

 

 次の瞬間、石を纏った拳がエルフマンを殴り飛ばす。

 

「があっ!」

 

 床に転がった身体へ、岩の塊が降り注いだ。

 

 右腕を上げて防ぐ。

 

 一発を砕き、二発目を受け止める。

 

 だが、起き上がるより早く、ソルが迫った。

 

「貴方は、またそうやって目を逸らすのですか?」

 

「……黙れ!」

 

「可哀想な妹さんだ。守ってくれるはずの兄に――」

 

「その先を、言うんじゃねえ!!」

 

 エルフマンが叫ぶ。

 

 力を解放しようとした。

 

 右腕だけではない。身体全てへ、獣の力を行き渡らせる。

 

 それが出来れば、この男を倒せる。

 

 だが、妹の顔が再び目の前に現れた。

 

 今度は、一つだけではなかった。

 

 いくつもの砂の像が、エルフマンを囲む。

 

 胸の奥が、冷えた。

 

 自分の身体が大きくなっていく、あの日の感覚が蘇る。

 

 獣の力に呑み込まれ、姉も妹も分からなくなった。

 

 あれだけ強い力を得ても、守れなかった。

 

 力を呼び起こしかけた腕が、震える。

 

 ソルが、その様子を愉快そうに眺めた。

 

「……やはり、無理のようですね」

 

 攻撃が、エルフマンを打ち据える。

 

 背中から壁へ叩き付けられた。

 

 石が砕け、外の光が差し込む。

 

 起き上がろうとした腕へ、岩と砂がまとわりついた。

 

 胸へ。脚へ。

 

 重い拘束が、少しずつ身体を覆っていく。

 

「どうです? 動けないまま思い出す過去というものは」

 

 ソルが笑う。

 

 エルフマンの視界へ、もう一度妹の姿が浮かんだ。

 

 小さな頃は、よく泣いていた。

 

 その度にリサーナが慰めてくれた。

 

 自分は兄なのに、妹に励まされてばかりだった。

 

 強くなりたかった。

 

 姉と妹を守れる、強い男に。

 

 だが、獣の力を使おうとしたあの日、自分は大切なものを壊してしまった。

 

 戻ってこない妹。

 

 泣いていた姉。

 

 墓の前で交わした言葉を、忘れた事はない。

 

 それなのに、今も自分は動けない。

 

 顔まで岩に覆われようとした時、声が聞こえた。

 

「エルフマン!!」

 

 姉の声だった。

 

 顔を上げる。

 

 壁の崩れた先。巨人の腕が、見えた。

 

 その巨大な手に、ミラが捕らえられていた。

 

「……姉ちゃん?」

 

 外では、ジョゼの声が響いていた。

 

 ルーシィに化け、自分を欺こうとしたミラを、彼は見逃していなかった。

 

 幽兵を押し返したからといって、敵のマスターまで手を引いた訳ではない。

 

 入口を守るワイズマンの分身が、仲間を庇ってシェイドを撃ち抜いた、その隙だった。

 

 巨人の手が迫る。

 

 ミラが顔を上げた時には、もう巨大な指が目の前にあった。

 

 仲間達が叫ぶ。

 

「ミラ!」

 

「くそっ、あの手を離させろ!」

 

 魔法が飛んだ。

 

 だが、巨人の指を開かせるには至らない。

 

「ソウタ!」

 

 カナに呼ばれ、本体のワイズマンが振り返った。

 

 巨大な手に捕らえられたミラが、苦しげに顔を歪めている。

 

 ワイズマンは、咄嗟に右手をベルトへ伸ばした。

 

〖テレポート! ナウ!〗

 

 白い姿が、巨人の手の側へ移る。

 

 すぐに、次の魔法を使った。

 

〖バリア! ナウ!〗

 

 閉じようとする指の間へ、防御壁を差し込む。

 

 巨人の力が、防御壁を軋ませた。

 

 ワイズマンは腕に力を込める。

 

「ミラさん、しっかり!」

 

 彼女へ伸ばした手を、巨大な指が阻んでいた。

 

 今は、これ以上握り込ませないよう支える。

 

 同じ時、崩れた壁の向こうで、エルフマンが声を上げていた。

 

「姉ちゃん!!」

 

 立ち上がろうとする。

 

 身体を押さえる岩が、動きを阻んだ。

 

 ソルは巨人の手を見やり、笑う。

 

「ミラジェーン……かつては魔人と恐れられた魔導士でしたね」

 

 男は、エルフマンへ視線を戻した。

 

「また、ご家族を失う事になるのでしょうか」

 

「エルフマン! 逃げて!」

 

 ミラが叫んだ。

 

 姉は泣いていた。

 

 自分を心配して、逃げろと言っていた。

 

 エルフマンの視界が、滲む。

 

 もう、こんな思いはさせない。

 

 姉の涙を見ながら、そう誓ったはずだった。

 

 なのに、また自分は立ち止まっている。

 

 怖いから。

 

 あの力を使うのが。

 

 自分を見失い、大切な人を傷付けるのが。

 

「……姉ちゃん」

 

 エルフマンは、右手を握った。

 

 岩が軋む。

 

 今、自分の手は、誰を守るためにある。

 

 姉はまだ生きている。

 

 手を伸ばせる場所に、いる。

 

 失った後に泣くのは、もう嫌だった。

 

「俺は……もう……」

 

 肩を押さえる岩に、亀裂が走る。

 

 ソルの笑みが薄れた。

 

「……おや?」

 

「もう、姉ちゃんを泣かせたくねえんだ!!」

 

 魔力が噴き上がる。

 

 右腕だけではない。

 

 胸へ。脚へ。背中へ。

 

 押し込めていた獣の力が、全身へと広がった。

 

「エルフマン!? 駄目、その力は……!」

 

 ミラが息を呑む。

 

 あの日と同じ光だった。

 

 止めようとした彼女の声を聞きながら、エルフマンは前を見た。

 

 姉を守る。

 

 そのために、強くなる。

 

 自分の中にある力から、今度こそ逃げなかった。

 

「全身接収――!!」

 

 拘束していた岩が、砕け散った。

 

 膨れ上がる身体。獣の腕。床を踏み締める、大きな足。

 

 獣王の魂。

 

 人の姿を離れた巨躯が、ソルの前に立つ。

 

「……なっ……!」

 

 ソルが後退した。

 

 その顔から、先程までの余裕が消えていく。

 

 エルフマンは一歩踏み込んだ。

 

 振り下ろした拳が、ソルを捉える。

 

 床が震えた。

 

 逃げようと形を変えた身体へ、さらに腕を叩き付ける。

 

「ま、待ちなさい! これは、貴方のためを思って……!」

 

 ソルの声が上ずる。

 

「過去を乗り越えるための試練を、私は――」

 

 言い終わる前に、拳がその身体を打ち抜いた。

 

 吹き飛んだソルが壁へぶつかり、崩れた石の中へ落ちる。

 

 それでも、彼は魔法を放った。

 

 石膏が獣の身体へまとわりつく。

 

 エルフマンは腕を振るい、力任せにそれを砕いた。

 

 ソルが目を見開く。

 

 その目前へ、獣王が迫った。

 

 最後の一撃。

 

 巨人の内部に、重い衝撃が響き渡った。

 

 ソルが倒れる。

 

 今度は、起き上がらなかった。

 

 エルフマンは荒い息を吐き、その姿を見下ろす。

 

 それから、外へと顔を向けた。

 

 ミラがいた。

 

 巨大な手に捕らえられたまま、こちらを見ていた。

 

 エルフマンは、彼女の方へ進む。

 

 崩れた壁を越え、姉へと手を伸ばす。

 

 ミラの身体が、小さく強張った。

 

 あの日と同じ姿。

 

 自分達の声が届かなかった、獣の姿。

 

 大きな腕が、彼女へ伸びてくる。

 

「……エルフマン……」

 

 彼女が呼ぶと、獣は顔を向けた。

 

 その手は、ミラを掴まなかった。

 

 彼女を押さえ込んでいた巨人の指へ、掛けられた。

 

 力が込められる。

 

 軋む音がした。

 

 巨大な指が押し開かれ、ミラの身体が自由になる。

 

 ワイズマンは、ようやく防御壁を解いた。

 

 落ちる前に、もう片方の腕が受け止めた。

 

 優しい手だった。

 

 あれほど激しく戦っていたのに、抱き上げる力は、驚くほど慎重だった。

 

「……姉ちゃん」

 

 聞こえたのは、弟の声だった。

 

「ごめん……怖い思い、させて……」

 

 ミラが顔を上げる。

 

 獣の顔を、見つめる。

 

 目の前にいるのは、弟だった。

 

 自分を見て、声を聞き、自分を守ってくれた弟だった。

 

「……ううん」

 

 ミラは首を横に振った。

 

 大きな身体へ、手を添える。

 

「謝らなくていいの」

 

 声が震えた。

 

 堪えようとしても、涙が頬を伝っていく。

 

 エルフマンが、困ったように彼女を見た。

 

 ミラは泣きながら、笑った。

 

「ありがとう。助けてくれて……」

 

 大きな腕が、少しだけ彼女を抱き寄せた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「ミラさん!」

 

 地上へ戻ってきた姉弟に、ワイズマンが駆け寄った。

 

 エルフマンは、既に人の姿へ戻っている。

 

 その顔にも、腕にも、傷があった。

 

 ワイズマンは二人の無事を確かめ、右手を翳す。

 

〖ヒール! ナウ!〗

 

 光が、姉弟を包み込む。

 

 エルフマンは息を吐き、傷の塞がった腕を見た。

 

「……お前、いつ戻ったんだ?」

 

「少し前。遅くなって悪かった」

 

「いや……」

 

 エルフマンは首を横に振った。

 

 その横で、ミラが弟の袖を握っていた。

 

 ワイズマンはその手を見て、二人の顔へ視線を戻した。

 

「……助けてくれたんだな、エルフマン」

 

「ああ」

 

 短い返事だった。

 

 だが、ミラがそっと頷く。

 

「この子が、守ってくれたの」

 

 カナも側へ来た。

 

 姉弟を見て、少しだけ口元を緩める。

 

「……やったじゃないか」

 

 エルフマンは、気恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

 ミラはまだ、その袖を離していなかった。

 

 その時、マックスの声が上がる。

 

「おい! あの巨人……動きが遅くなってねえか?」

 

 皆が顔を上げた。

 

 空中に文字を描く巨大な腕。

 

 止まってはいない。

 

 だが、確かに、その動きは先程より鈍くなっていた。

 

 ミラが目を細める。

 

 ソルが倒れた直後からだ。

 

 四つの元素を使う魔法と、エレメント4。

 

 その繋がりに気付き、彼女は息を呑んだ。

 

「……エレメント4が、動力源なのね」

 

 カナが振り返る。

 

「ミラ?」

 

「あの四人を倒せば、巨人を止められるはずよ」

 

 エルフマンが顔を上げた。

 

「火の奴は、ナツ達と一緒に倒した。ソルも、もう倒したぞ」

 

「なら、残りは二人だ」

 

 ワイズマンが巨人を見上げる。

 

 まだ、中にはナツとグレイがいる。

 

 彼らへ、この知らせを届けなければ。

 

 カナが仲間達へ声を張った。

 

「聞こえたね! 止める方法が分かったよ!」

 

 疲れた顔が、上がる。

 

 銃剣を構えるワイズマンの隣で、エルフマンも拳を握った。

 

 ミラは弟の袖から、ゆっくり手を離す。

 

 その背中を、今度は俯かずに見つめた。

 




続けて投稿しますー。

では、また∠( ゚д゚)
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