KAMEN RIDER WISEMAN IN FAIRY TAIL 作:Gussan0
続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
「エレメント4を倒せば、巨人を止められる……」
ミラの説明を聞き、ワイズマンは湖の向こうを見た。超魔導巨人の腕は、ソルが倒れた事で確かに鈍くなっている。しかし、空に描かれつつある魔法陣は消えていない。
「残りの二人を、ナツとグレイに探してもらわないとな」
「ああ。俺も戻る」
拳を握るエルフマンへ、ミラが目を向ける。先程まで傷だらけだった腕にも、立ち上がった足にも、もう震えはない。奏太のヒールは傷を塞ぎ、弟を再び戦える状態へ戻していた。
それでも、送り出す怖さまで消えた訳ではない。ミラは言いかけた言葉を呑み込み、弟の顔を見た。
「……気を付けてね」
「おう」
今度は、その背中を引き止めなかった。
「知らせが間に合うといいけどね!」
カナの放ったカードが、近付いてきたシェイドを撃ち抜く。ワイズマンも銃剣で一体を斬り払い、後方に控えていた白い使い魔を呼び寄せた。
「中にいるナツとグレイを探してくれ。伝えたい事がある」
「待って。これを持っていって!」
レビィが紙へ走り書きする。エレメント4が巨人の動力源である事。そして、火と土の二人は既に倒した事。必要な情報を短くまとめた紙を、ワイズマンが使い魔に持たせた。
「頼んだぞ」
小さな白い姿が湖へ飛び立つ。その下では、治療を受けた仲間達が戦列へ戻り、ワイズマンの分身と共に幽兵を押し返していた。
巨人を止める役目は、中へ入った仲間に託す。こちらは、それまで誰一人として通さない。
「さあ、こっちも続けるよ!」
カナの声に応じて、仲間達が前へ出る。ワイズマンも銃剣を構え直し、迫る黒い影へ向き直った。
◆◆◆
「……何で、ここだけ雨が降ってんだ?」
巨人の外側へ出たグレイは、低く垂れ込めた雲を見上げた。雨粒が頬を叩き、石の足場には水溜まりが出来ている。遠くで続く戦いの音と、空をなぞる巨人の腕が、彼を急かしていた。
「……ここから先へは、行かせません」
雨の向こうに、傘を差した女が立っていた。青い髪に、深い青の衣服。静かな眼差しからは敵意さえ読み取りにくかったが、この状況で道を塞ぐ理由は一つしかない。
「ファントムか」
「エレメント4、大海のジュビアです」
「そうか。なら、丁度いい」
グレイは拳に片手を添え、構えた。
「仲間を傷付けてくれた礼、まだ返してねえからな」
ところが、ジュビアは動かない。こちらの顔を見つめたまま、頬を赤くしている。
「……ジュビアの、負けです」
「は?」
「では……失礼します」
「待て待て待て!」
傘を傾けて立ち去ろうとする彼女に、グレイは慌てて声を掛けた。戦う前から敗北を認める敵など、初めてだ。罠かとも考えたが、背を向けかけた顔は妙に恥ずかしそうだった。
「お前、エレメント4なんだろ? この巨人を動かしてるのも、お前らか?」
近付くグレイを見て、ジュビアの胸が跳ねる。怒っているはずの黒い瞳から、どうしても目を逸らせなかった。
「……お名前を」
「あ?」
「貴方のお名前を、教えてください」
「グレイだ。グレイ・フルバスター。それより、聞いてんのか?」
グレイ。その名前を胸の中で繰り返すうち、ジュビアの手が動いた。
もう少し、側にいてほしい。そう思った途端、彼の周囲に水が膨らむ。
「水流拘束――」
「っ!?」
透明な球が、グレイを丸ごと包み込んだ。口元まで水に覆われ、彼が息を止める。それを見たジュビアは、はっとして手を伸ばした。
「……あっ」
苦しませたい訳ではなかった。だが、魔法を解くより先に、水球の内側を白い筋が走る。みるみる広がった氷が表面まで達し、次の瞬間、球が内側から砕け散った。
飛び出したグレイが片膝をつき、大きく息を吸う。
「……いきなり何しやがる!」
返事がない。ジュビアは、彼の背後できらめく氷の欠片に見入っていた。グレイは濡れた上着を脱ぎ捨て、立ち上がる。
「こっちは時間がねえんだ! アイスメイク――槍騎兵!」
魔法陣から放たれた氷の槍が、ジュビアの肩や腹を貫いた。しかし、血は流れない。貫かれた場所が透明な水へと崩れ、槍が通り抜けると、再び女の姿を取り戻す。
「……ジュビアの身体は、水です」
「身体そのものが、かよ」
ただ水を操るだけではない。斬撃も刺突も、その身体を素通りしてしまう。
グレイが次の手を考える間に、ジュビアが片手を向けた。
「水流斬破!」
薄い水の刃が雨を裂く。横へ跳んだグレイの背後で壁が切れ、石片が足場へ落ちた。グレイは着地と同時に氷の斧を作り、踏み込んで振り抜くが、刃はやはり水を散らすだけだった。
そのまま伸びてきたジュビアの腕をかわし、手を触れる。接触した部分から氷が走ると、彼女は初めて腕を引いた。凍った先端が砕け、足元で水へ戻る。
凍らせる事は出来る。ただ、一部を封じるだけでは、すぐに抜け出されてしまう。
「……ルーシィ・ハートフィリアを渡してください」
間合いの向こうで、ジュビアが口を開いた。
「そうすれば、ジュビアからマスターへお願い出来ます。この戦いを、終わらせるように……」
「断る」
グレイの返答に、迷いはなかった。
「仲間を傷付けて、ギルドを壊して。その上、ルーシィまで渡せってか?」
雨の中、ジュビアを真っ直ぐに見据える。
「あいつは俺達の仲間だ。俺が倒れたって、お前らには渡さねえよ」
ジュビアの手から、傘が滑り落ちた。グレイは次の攻撃に備えたが、彼女は両手を胸元へ寄せ、愕然とした顔でこちらを見ていた。
「……ルーシィのために、そこまで……」
「あ?」
「……恋敵……」
「何?」
命を懸けてでも守る女。その言葉だけが、ジュビアの頭の中で大きくなっていく。仲間だから、という肝心の部分は、既にどこかへ抜け落ちていた。
「ルーシィ……許せません……!」
「何でそっちに怒ってんだよ!?」
彼女の周囲で、白い湯気が上がる。足元の水が泡立ち、身体に触れた雨粒まで蒸気へ変わっていた。グレイが異変を悟るより早く、水の刃が迫る。
「アイスメイク――盾!」
作り出した氷の表面が、音を立てて溶けた。
「熱っ!?」
咄嗟に身を投げ出すと、崩れた盾を熱い水流が突き抜ける。防いだ腕にも熱が残り、グレイは歯を食いしばった。
「急に沸かしてんじゃねえ!」
ジュビアは聞いていない。続けて振るった腕から水が鞭のように伸び、足場を薙いだ。グレイは一撃をかわし、次の一撃を氷の壁で逸らす。だが、触れた部分から氷は溶け、長くは保たなかった。
巨人の内側へ続く入口まで下がる。攻撃の方向を絞ろうとしたところで、ジュビア自身が水へ変わり、床を滑って進路へ回り込んだ。
「逃がしません!」
「誰が逃げるって言った!」
グレイは水流を飛び越え、着地と同時に両手を床へ向けた。氷が足場を走り、人の姿に戻りかけたジュビアの足を捕らえる。
「捕まえたぞ!」
踏み込んだ彼の前で、ジュビアが体勢を崩した。反射的に受け止めると、腕の中の顔が真っ赤になる。
「……グ、グレイ様……」
「……様?」
思わず聞き返した隙に、抱えていた身体が水へ変わった。熱で足元の氷も解け、ジュビアはするりと腕から抜け出してしまう。
グレイは空になった手を見て、顔をしかめた。今の一瞬まで、戦っている相手の調子に乗せられている。
「……ジュビアは、貴方を傷付けたくありません」
「さっきまで散々攻撃してただろうが」
「それは……その……」
口ごもる彼女を前に、グレイは空を見上げた。雨脚が再び強まっている。巨人の魔法陣も、まだ消えていない。こんな所で足止めされている場合ではなかった。
「……ったく。いつまで降ってんだ。この雨、鬱陶しいな」
ジュビアの表情が変わった。
「……雨が、お嫌いですか」
「あ? そりゃ、戦いづらいだろ」
グレイには、ただそれだけの話だった。濡れた足場は滑るし、視界も悪い。早く仲間の所へ戻りたい今、降り続ける雨は邪魔でしかない。
けれど、ジュビアには、聞き慣れた言葉だった。
また雨だ。あの子が来たからだ。
幼い頃、晴れてほしくて、何度もてるてる坊主を作った。窓辺へ一つずつ並べ、明日こそはと外を見ていた。それでも、雨は止まらなかった。
皆が遊びに行く時、自分だけは呼ばれない。声を掛ければ困った顔をされ、やがて誘う事も出来なくなった。好きになった人からも、同じ言葉を聞いた。
雨が嫌だと。一緒にいると、いつも降っているからと。
「……やっぱり、貴方も……」
「おい?」
足元の傘が雨に打たれている。先程まで熱かった胸の奥が冷え、懐かしい痛みだけが残った。ようやく顔を上げたジュビアの身体から、再び湯気が噴き上がる。
「ジュビアを受け入れてくれたのは……ファントムだけです」
声が震えた。雨が降っても、そこにいていいと思えた場所。自分を魔導士として必要としてくれた場所。それまで失ってしまえば、また一人になる。
「ジュビアは……負けません!」
膨れ上がった水流が、グレイへ殺到した。飛び退いても、水は逃げる先へ回り込む。腕を掠めた熱に動きが鈍った瞬間、太い流れが彼を呑み込んだ。
足が浮き、背中が巨人の壁へ叩き付けられる。押し寄せる水に口を塞がれ、息が出来ない。肌を焼く熱と水圧の中で、グレイは必死に両腕を動かした。
片手を握り、もう片方を添える。師匠から教わった構えを、流れに押されながら作る。
水の身体を貫いても、傷にはならない。ならば、逃げ場ごと凍らせる。
仲間を守るために、ここで止まる訳にはいかなかった。
「……アイス、メイク……!」
水の中に白い光が灯った。グレイを押さえていた流れが鈍り、壁際から氷へ変わっていく。ジュビアは目を見開き、さらに熱を上げた。新たな水を送り込む。それでも、広がる白を押し戻せない。
凍り付いた流れを砕き、グレイが前へ出た。ようやく吸い込んだ空気が喉を刺す。彼はそのまま床へ両手を向けた。
「――氷欠泉!!」
足場から、巨大な氷が噴き上がった。水へ変わろうとしたジュビアの身体を冷気が捉え、白い柱が宙へ跳ね上げる。周囲の雨粒まで凍り、砕けた氷と共に散った。
投げ出されたジュビアの身体が、足場の外へ落ちていく。力が入らなかった。指先を動かそうとしても、水に戻る事さえ出来ない。
見上げた灰色の空が、遠ざかる。
ああ。やっぱり、自分は――
「手ぇ出せ!!」
声に導かれ、腕を伸ばした。その手を、誰かが掴む。
落下が止まり、腕に重みが掛かった。ジュビアが顔を上げると、グレイが縁から身を乗り出していた。片手で彼女を掴み、もう片方の手を床に突いて踏ん張っている。
「……どうして……」
「いいから、動くな!」
グレイが腕に力を込める。縁まで持ち上げられたジュビアの肩を支え、そのまま足場へ引き上げた。二人は濡れた床に座り込み、しばらく息を整える。
「……危ねえな。下まで落ちるところだったぞ」
離された手に、まだ感触が残っていた。今まで戦っていた相手が、落ちていく自分へ迷わず手を伸ばした。ジュビアは自分の指先を見つめ、それから彼へ顔を向ける。
「……グレイ様」
「あ?」
何かを言おうとして、止まった。
頬に、光が当たっている。
雨音が聞こえない。いつからだろう。ゆっくり顔を上げると、切れた雲の向こうに青が広がっていた。
傘を差さなくても顔が濡れない。空を見上げても、目に雨粒が入らない。頬を撫でた風は少し温かく、遠くの景色まで、はっきり見えた。
「……雨が……」
「やっと止んだか」
グレイは何でもない事のように言い、立ち上がる。ジュビアは、その隣で空を見続けた。
窓辺へ並べたてるてる坊主。一人で待ち続けた時間。その時、どれほど願っても見られなかった色が、今は目の前にある。
「……これが、青空……」
瞳が滲んだ。こぼれた涙に気付き、グレイが振り返る。
「おい。泣くほど痛むのか?」
「……違います」
ジュビアは首を横に振った。泣きながら笑っている。それが自分でも不思議なのに、涙を拭っても、また頬を伝っていく。
「ジュビア……初めて、見たんです」
グレイは少し眉を動かし、空を見てから、彼女へ目を戻した。
「……そうか」
それ以上は聞かなかった。その短い返事が、ジュビアには嬉しかった。隣にいる人も、差し伸べてくれた手も、明るい光の中にある。
この人が、雨を止めてくれた。
そう思うと、胸の奥がまた熱くなった。今度は水を沸かすほどの怒りも、身を縮めるような痛みもなかった。
「で。まだやる気か?」
グレイに尋ねられ、ジュビアは彼を見上げる。青空を背にした顔を見た途端、頬まで熱くなった。
「……ジュビアは……もう……」
言葉が続かなかった。張り詰めていたものが緩み、そのまま身体から力が抜ける。
「おい!?」
グレイは慌てて支え、顔を覗き込んだ。呼吸はしているが、呼び掛けても返事はない。
「……何なんだよ、こいつ」
最初から最後まで、振り回されっぱなしだった。頭を掻きながらも、崩れた縁から離れた場所へ彼女を寝かせ、落ちていた傘を拾って側へ置く。
そこで、小さな白い影が足場へ降りてきた。
「……お前、ソウタの使い魔か?」
頷いた使い魔が、紙を差し出す。グレイはそこに書かれた文字を追い、巨人の腕を見上げた。先程より、明らかに動きが鈍っている。
「エレメント4が動力源……なるほど。だからか」
火と土は既に倒れた。そして、ここで水も倒した。残るのは、風の魔導士だけだ。
「ナツにも知らせてやってくれ。こっちは終わったってな」
紙を返すと、白い使い魔が再び飛び立った。グレイもジュビアを一度振り返り、巨人の内部へ続く道を駆け出す。
雨の止んだ足場に、傘を傍らに置いた彼女が残された。
◆◆◆
「また遅くなったぞ!」
地上で、マックスが声を上げた。魔法陣を描く巨人の腕が、さらに鈍くなっている。
「……誰かが、もう一人倒したんだ」
カナの言葉に、ワイズマンも頷いた。グレイか、ナツか。どちらにせよ、中の仲間は前へ進んでいる。
あと一人。それを倒せば、街を消す魔法を止められる。
ワイズマンは迫るシェイドを斬り払い、右手を上げた。合図を受けた分身が左右へ散り、幽兵に押されかけた仲間を援護する。
「皆、もう少しだ! ここを抜かせるな!」
カナの声に応じ、仲間達が構え直した。その背後、ギルドの入口から声が届く。
「……随分と、賑やかだな」
「エルザ……!」
赤い髪を見つけたミラが駆け寄った。エルザは自分の腕を握り、指の動きを確かめている。
「もう、起きて大丈夫なの?」
「身体は動く。……誰か、回復魔法を使ったか?」
「俺だ」
ワイズマンが銃剣を少し上げると、エルザは顔を向けた。
「ソウタ。お前も目が覚めたんだな」
「ああ。おかげで、今は働きっぱなしだけどな」
「そうか。助かった」
口元に僅かな笑みが浮かぶ。だが、湖の向こうへ目を向けた時には、もう戦う者の顔へ戻っていた。
巨人と、描きかけの魔法陣。岸を埋める幽兵。その様子を見ている彼女へ、ミラが状況を伝える。
「エレメント4が動力源なの。ソルと火の魔導士は倒したわ。今、もう一人も倒れたみたい」
「……残りは、一人か」
「中にはナツとグレイがいる。使い魔を飛ばして知らせた。エルフマンも戻ってる」
ワイズマンの説明を聞き、エルザは頷いた。止める方法が分かっているなら、まだ間に合う。仲間達が道を開いている間に、自分も出来る事をしなければならなかった。
「ここを任せていいか」
問われたワイズマンが周囲を見る。カナが頷き、レビィ達もそれぞれの持ち場で応じた。治療を受けて立ち上がった者達が、今も前線を支えている。
「ああ。皆と守る」
エルザは剣を手に取った。踏み出した足に、痛みで膝が折れる気配はない。傷を癒してくれた魔法と、ここを守るという言葉が、彼女の背を押した。
街を消す魔法を止め、戦っている仲間を連れ戻す。そのために、妖精女王は再び戦場へ向かった。
また投稿しますー。
では、また∠( ゚д゚)