寒いのは苦手だ。冬になると凍えるすきま風が体に染み込んで震えるしかなかった。
冷えるのは苦手だ。手がかじかんで上手く動かなくなる感触は今でも気持ち悪い。
冷たいのは苦手だ。最後に触った手が冷たくて、こうなりたくはなかった。
必死に生きてきた今、ただ楽しめるのは一本のゲームだけだった。
この腐りきった社会で弱者でしかなかった俺は必死に生き延びてきた。
そして今、なんやかんやあって氷漬けにされていた。
何度でも言おう。寒いのは苦手だ。
この冷えた孤独の中で一人ぼっちで居るのは辛い。
ゲームの中に入り込んだらしいが、とある人物たちとの戦いで氷漬けにされてしまってからどれほど経ったのだろうか。
かつん、かつんと上から何か掘る音が聞こえる。
考えるのをやめそうになった時に聞こえた音に首は動かない。何故なら氷漬けだから。
だんだんと光が入ってきた。長らく埋もれていた自分の体が日光に照らされているような気がする。
だんだんと氷が解けているような感覚がする。それに誰かの声も近づいてきている。
どれほど経ったのだろう。少なくとも氷漬けになっていた時間よりもはるかに短い時間ではあるが、ついに氷から頭が抜けた。
「ああ、こんなところで氷漬けだなんて気の毒だ。何者かは知らないがせめて大地に弔ってやろう」
はっきりとそう聞こえた。でも身体は寒すぎてびくともしない。
瞼すら動かない中で俺はずっと氷の中から発掘されることを待っていた。
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とある氷山に来ていたザリュース。旅の一環として感じてみたいと寄ってみて後悔していたのは事実である。
リザードマンにとって寒さは天敵。ではこの世界にはどこまでの寒さが存在していたのか? と興味本位で寄ってみたところ、予想以上に寒かった。
動きが鈍くなりそうだったが、所有していた『
もう引き返そうと思ったところ、足の下に何かを感じ取った。これは単に勘でしかなかったが自分の世界を広げるような気がした。
ばかばかしいと感じながらも気づけば掘り進めていた。
かつん、かつんと寒空に音を響かせる。
雪を掘り、そして氷を掘り進めていくと『その者』を見つけた。そう、氷漬けになったリザードマンを。
一体何があってこのような状態になったのかは知らない。だが氷漬けになって一人ぼっちというのは寂しいだろう。
「ああ、こんなところで氷漬けだなんて気の毒だ。何者かは知らないがせめて大地に弔ってやろう」
ザリュースは聞こえていないであろう氷漬けになっていたリザードマンに声をかけた。
それが届いていたとはつゆ知らず、時間をかけて発掘した彼を持ちあげ、その冷たさにブルッと震えたが我慢して大地へと運んで行った。
ザリュースは知らない。そのリザードマンがまだ生きていたことを。
かつてユグドラシルというゲームにて『公式チート』だの『非公式レイドボス』だの『近接で挑むやつは馬鹿。遠距離で挑むやつは訳わからん死に方する』だの『お前PVP出禁』だの『素手しか使えないデメリットをメリットに変換しやがった』だの言われたリザードマンであったことを。
かつて六大神が彼をNPCと勘違いして挑み、氷漬けで封印せざるを得なくなった化け物であったことを。
そしてリザードマンにとって救世主になることを。
「ぶえっきしょい!」
「うおおおお!?」
土に埋める途中で復活してもまだこの冷たいリザードマンのことを知るのはもう少し先の話である。
~人物紹介~
トカゲさん(アバター名未開放)
前衛職を極め切ったレベル100。大体の攻撃にたいしてカウンターを取れる化け物。
装備には武器が装備できなかったり防御力が低い代わりにダメージカットや肉体を使う攻撃に大量のバフを掛けるモノをつけている。
武器を捨て去り防御もカウンター以外捨て去った彼はほぼ無敵に近い存在になった。たったひとりで大御所ギルドとタイマンできる程度には。
有効打になるのは無差別攻撃だが、それに対してダメージカット99%は付いているのでチマチマとしか削れないため『非公式レイドボス』と呼ばれている。
性格はリアルの社会に飲まれて荒んでおり、心の温かさを求めてある意味でやさしいゲームにのめりこんでいた。
ザリュース・シャシャ
なんかすごいのを拾ったことに気づいていない。
そして勘の言うとおりに動いた結果、物凄いことになる。