ぽいっ
(((((((((((っ・ω・)っ(最新話)
「何をしているんだ」
「隠れてる」
「まあ、確かに隠れているな」
ザリュースが気づいたのは偶然だった。三日三晩行われたリザードマン流の宴はひと段落したのはいいが肝心の主役が行方不明になっていた。
そこで一部のリザードマンが探しに出たところ、巧妙に草や木の枝を体に巻き付けて草むらに隠れているメルトをザリュースが見つけてしまった。
メルトの世界ではギリースーツと呼ばれるものを身に纏い地面を這う姿を見てため息が出る。
本当に種族の危機を救った者の姿なのか?
「全く、雌に迫られて逃げる馬鹿がどこにいるんだ」
「雌に迫られて逃げる馬鹿だぁ?あんたはあの迫力が分かってないな!」
かばっと起き上がる草木を纏ったメルトは叫ぶ。
「飯と酒を飲んでたらいつの間にか女達に囲まれててお酌されてて、よく見たら全員色っぽい目で見てて、しれっと腕を引っ張って寝床に連れてこうとしていくんだぞ!?もはや誘拐だよあれは!いつの間にか全身を数人で持ち上げられて運ばれた時にはヒヤッとしたんだからな!」
重量減らす装備が仇になったかという意味不明なことを垂れ流しているが、何が悪い事なのかとザリュースは思う。
強者が雌を抱いて子孫を残すのは当たり前である。むしろ何故交尾をしなかったのかという疑問の方が大きい。
もしやこいつ雌を抱いた事ないのでは?
「抱いた事ないのかと言いたそうな目をするな!」
顔に出てたのかメルトが叫ぶ。
そう、かつての世界でもメルトは女を抱いた事がない。原子炉の点検員として使い捨ての駒扱いの底辺の人間に女がついて行きたいと思うか?
生命保険にでも加入させていれば価値はあるかもしれないが、それすら払えるかどうかのレベルでカツカツの生活をしていたのだ。
課金がほぼ必須とは言え通信料だけで遊べていたユグドラシルは割と異質だったのかもしれない。
そんな女性関連に乏しいメルトは置いといて、とりあえず見つかったので捜索は打ち切り。
ギリースーツを着たまま寝そべってまだ帰りたくないと駄々をこねるメルトの尻尾を掴んで引きずりながら集落に帰る事で解決した。
「おお、帰ってきたぞ!」
「我らの英雄だ!」
「メルトおじさーん!」
「好きー!抱いてー!」
宴が終わってそこまで時間が経っていなかったので各々の部族は片付けが終わってもまだ残っていた。
主役が帰ってこなければ話は終わらないのだ。
ギリースーツのままとは言え流石に引きずられての帰還は格好つかないので渋々歩いてきた。
到着した途端にワーッと歓声が上がる。
無理もない。本人はここまでするのかと思っているが部族を、種族そのものを救った英雄、いや神のような存在なのだ。
乱雑に脱ぎ捨てられたギリースーツも即座に回収されて『神の衣』として祀られたりする。
これにてクルシュが植物型モンスターと間違われることが少なくなった。
「まだこんなに残ってたのか。もう帰ったと思ってたんだが」
「後片付けが残ってるからな。あと、お前の顔を最後に見たいと言っている」
「まあ、それくらいなら付き合うか」
リザードマン達がメルトの周りにワラワラと集まって一斉に喋りかけてくる。
感謝の言葉を伝えているということはワイあったら流石にごちゃごちゃとし過ぎて何も分からない。メルトは昔読んだ本で10人くらいが一斉に喋ったが聞き分けた偉人が居たことを思い出しつつ何とか対応しようとした。
しかし多勢に無勢。根本的なレベルという大きな差があれど物量でおしくらまんじゅうされたらメルト自身はともかく周りが危ない。
人が集まりすぎることによって起きた事故を再び思い出してメルトは叫ぶ。
「ストップ!みんな一回冷静になって!」
その声は皆に届いたようでピタッと声が止んだ。
「とりあえず並べ!蛇のように一列に!色々と言ってくれるのはうれしいんだけど、何も聞こえないから!」
その言葉に彼らは隣の者と顔を合わせた。
冷静に考えてみたらたくさん言われたら聞き取れるはずもない。そう納得できた賢いリザードマンは彼の前に並んでいく。
分からなかった者はどうなっているかを隣に居たリザードマンにどうなっているかを聞き、状況を把握して列の後ろへ並んでいく。
その列はまさに長蛇の列。後にそう呼ばれるようになるが、メルトの眼をもってして先が見えないくらいに並んだトカゲ顔を見てしまったメルトは頬がひきつった。
そして始まる一人一人の感謝と尊敬と誘惑の言葉のプレゼントと握手会。もうどうにも止まらない奔流に呑まれそうになりながらもなんとか一言言葉を交わしながら握手していく。
たまに情熱的に手を重ねてくる熱っぽい雌もいたが、接触時間が長すぎるということで強引に引っ張られて退場していく。
何十人と会話を交わしたところでメルトはちらりと列の状態を見た。
日は既に落ちかけているのに列が短くなっているようには見えなかった。
「…………流石に日を改めないか?ちょっと時間的に無理そうな気がしてきたぞ!?」
そこに無言で用意されるかがり火。暗くなってもいいように彼らは明かりを用意する。
「お前らぁ!少しは落ち着いてくれぇ!」
流石のメルトもこの長期戦は予想外だった。
戦いと言っても三日前の出来事で体力も気力も回復しきっていたが、一人一人の感謝を真正面から受け取ることはメルトにとってある意味でキツかった。
かつての世界ではどれだけ危険地帯で働こうと誰にも感謝されず、そこで働くこと自体が当たり前だった。
それがどうだ、今では力を得たとはいえ使うべき時に使ったらこうなるのか。
次第に目が死んでいくメルトだが、握手会は夜が明けても続いた。
未だに興奮冷めやらないリザードマン達も一部は寝落ちしていたが、意外に起きている者もいた。
ちなみにザリュースとクルシュはさっさと寝た。
「(ああ、アイドルってこんな気持ちだったのかなぁ?)」
別の意味で生き残るのが大変な業界の事を考え、もう相手したくなくても立場上相手をしなければならない職のことを考えて現実逃避した。
結局、宴はさらに1日延長された。
偵察として少し遠くの影から見ていたシャドウデーモン
「確かに慈悲深いアインズ様に置き換えたらああなるよね」
この言葉を漏らしたシャドウデーモンは粛清されかけた。