「メルトー、遊んで遊んでー!」
「寝てないで遊べー!」
ある村にて霞んだ緑の色をした鱗を持つリザードマンが子供のリザードマン2人に飛び乗られていた。
ザリュースと旅をして、彼の故郷にて居候をし始め早一年、メルト・ダウンを名乗るリザードマンはすっかり村に馴染んでいた。
面倒見が良いため子供から人気であり、誰よりも強く逞しいリザードマンであるため雌からも人気で、雄からは嫉妬と尊敬の目で見られることがしばしばである。
「分かった分かった。今日も泥遊びか?泥だらけにしすぎたらお母さんに怒られるぞ」
「でもメルトが綺麗にしてくれるもん!」
「他人に頼ってたらダメだぞ?」
まだやんちゃ盛りな子供たちを嗜めながらむくりとメルトは起き上がった。のそのそと自分で頑張って建てた家から出て朝日を浴びる。
霞んだ緑の鱗は光に照らされて少し煌めいているが、本来の力を発揮させると完全にエメラルドグリーンと化して宝石のような色になる。ただ、それは戦闘時になるだけであってこれが普通でありリザードマンとしてはどこにでもいそうな鱗の色をしているのだ。
装飾品も見た目は質素なものばかりな腕輪やネックレス、指輪程度で大した力がないように見える。
しかし、一つ一つメリットとデメリットが釣り合ったものになっているため強大なものには見えないだけである。その使い手であるメルトが本気になった瞬間、効果を発揮するものばかりなのだから。
だからこそ普段は人当たりがいいせいか子供達から『遊んでくれるおじさん』と若干なめられているような感じであったりする。
もし、こんなことを本来のメルトのことを知る者が聞けば『命知らずだろ!』と叫びそうになるだろう。
「メルトー!こっちこっちー!」
「おや、メルトおはよう。遅い目覚めだな」
「おはよう、じっくり寝たい時もあるんだ」
「メルトは寒がりだからな。温まるまで時間がかかるんだよ」
ケラケラとからかわれながら出会うリザードマン達に挨拶をしていく。この程度ではメルトは怒らない。
そもそも寒がりでは無いのだが、暖かくしたいと言うのは間違っておらず藁を束ねたものを布団代わりとして寝ていたりする。
子供達の遊び場は沼地である。近くに森林もあるが魔物が出るため基本的に子供は近づかないようにさせている。
「メルトおじさん!あれやって!」
「どかーんとなるやつ!」
「全く、しょうがないな。泥投げで2人が勝ったらやろうじゃないか」
「「わーい!」」
無論、遊びに本気になる訳はなく足だけで子供に泥をかける程度に手加減はしている。
子供達はどれだけ早くメルトを泥だらけにする事ばかり考えてめちゃくちゃに投げてくるが、たまにパフォーマンスの一環として投げてきた泥を蹴り返したりして良いところは見せてはいる。
30分下あたりで鱗がほとんど見えないほど泥だらけになったメルトと、それなりに泥だらけになった子供達(いつの間にか2人から数が増えていた)が完成する。
「いやー、数には敵わないな!さて、お兄さんは泥を乾燥させるからみんなは体を洗っておいで」
「「「「はーい!」」」」
バチャバチャと体を洗いに走って戻る子供達を横目に、あ、今1人転んだ、メルトはのそのそと沼の縁へ歩いて戻る。
そしてごろんと横になり太陽の光で泥を乾かすのだ。
「ふぁ〜、日向ぼっこすると眠くなるな」
泥で冷えた身体に太陽の暖かな熱が染みるのか、だんだんと眠くなってくる。いつのまにか目を閉じてぐぅぐぅと寝息を立てていた。
どれほどの時間か経ったのか、昼寝をしているメルトは誰かが近づいてくるのを察知して目を開けた。
「また泥を乾燥させてるのか」
「子供達の見せ物の準備と言ってくれ」
「全く、あの子達も困った事だ。メルトが動かなければ働き手が一つ減ると言うのに」
「俺、必要か?そこまで器用じゃないのは知ってるだろう?」
「狩りではお前の方が上手なんだ。この村の誰よりもな」
存在感は普通でありながらその場にあるものを投擲して簡単に獲物を仕留めるメルトにザリュース達は助けられている。
獣を狩りすぎるのも良くないが、適度に取ってくるので文句はなく、いつも大助かりである。ただ、泥だらけにならずともこうして日向ぼっこしていることが多いので少しプラスになっている程度でもあった。
「魚の養殖はどうなった?」
「ああ、順調に進んでいる。兄者もつまみ食いに来るくらいにはな。」
「いいな、ここで育った魚の味は美味いだろうよ」
食べてみないと分からない、と言いたいが上手くいくと信じているためザリュースは何も言わない。
「メルトおじさーん!」
「泥固まったー?」
トテトテと子供達が走ってくる。時間が経ったからそろそろ頃合いだと知ったのだろう。
「お前たち、またアレをやるのか」
「意外と受けがいいんだぜ?」
「全く、泥遊びも大概にしろ。お前も大人だろう」
「子供達が無茶しないのを見守るためでもあるんだよ」
よっこいしょとメルトは起き上がり、伸びるように両腕を上げる。
子供達はその様子をワクワクとしながら見て、ザリュースはまたかと呆れていた。
「いくぞいくぞー。そぉいっ!」
パァンッ!と爽快な音と共に纏わりついていた泥が全て弾き飛ぶ。分かりやすく言うなら腹筋崩○太郎の全身泥纏いバージョンである。
弾け飛ぶ泥を見てキャッキャと子供達は笑い、ザリュースはため息をつく。
「何回見ても何が面白いか分からん」
そんな呟きは誰の耳にも届かなかった。
暖かな子供達との戯れにメルトもにっこり笑っていた。
かつての世界で冷たくなった心を絆してくれるような感覚が心地よい。このような温もりがずっと続けばいいのに────────────
『我は偉大なる御方に仕えしもの。汝らに死を宣告する』
命運をかけた戦いが始まる。
メルト「筋肉パワー!」乾燥泥パーン
リザ子たち「キャッキャッ」
ザリュース「何が面白いんだ…………?」
シャースーリュー「面白いだろ。泥がパーンってなってるんだぞ」
ザリュース「は?」