メルトの予想は正しかった。ひと時の勝利に酔いしれていたリザードマンの集落に現れたのはデスナイトの軍勢。奥には巨大という一言では言い表せないゴーレム、それだけでなく遠くからもわかる尋常じゃない気配を持った人ならざる者達。
そして、その中央に位置する
メルトはただ眺めているだけだった。決死の覚悟で不死者の王の下へ向かうことを止めなかった。
こうしてわざわざ現れたということは何か目的があるはずだ。そしてあの骨には見覚えがあった。
異形種系極悪ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」所属、ギルド長モモンガ。メルトはその男のことを覚えていた。
何せ当時全盛期の人数である41人で挑まれ、最後の最後で逆転勝ちを決められてしまった過去を持つ。いや、41人をたった一人で追い詰められるというのもどうかと思うが、相打ち覚悟、自爆同然で各々の最大火力を決められてしまったメルトは一度敗北してしまっているのだ。
そしてその面子の一人が今、目の前にいる。恐怖をまき散らしながら居座っている。
あれが本当に元人間なのか?
そういう疑問がふと頭の中でよぎるが、自分のことも考えてしまい自嘲する。
もう自分も人間ではないのだか――
「メルトおじさん」
ふと、キュッと手を握られる感覚が居た。
手元を見ると幼いリザードマンの子供が不安そうに、泣きそうになりながらメルトの手を握っていた。
「僕たち、死んじゃうの?」
震える声で訪ねる幼子に、メルトはにかっと笑った。
「大丈夫、お兄さんが何とかするさ」
ぽんぽんとあやすように頭をなでる。決して安全とは言えない状況ではあるが、ここで暗いことを言うと本格的に子供たちが絶望してしまう。
それだけはさせない。
脳裏に浮かぶのはかつての世界。手の届かない上流階級の役人商人どもが一般市民を苦しめ、その日その日を怯えて過ごした幼少期。
もしかしたらあそこにいる
メルトは覚悟を決めた。
自分の心のよりどころになりそうな場所を潰させるわけにはいかない、と。
決戦は四時間後。死にゆくつもりの彼ら、どうやらクルシュだけ最後の統治者として残すつもりらしい。
…………この四時間の間になにがあったかは割愛させてもらう。何せ二人のリザードマンの交わりがあったりメルトが子供たちを気丈にあやしたりしていたくらいである。
この時にメルトは自分も出ると言い張った。どこのものでもない、それよりも忘れがちだが古代のリザードマンであるメルトは様々な分野にとって貴重な存在であることを主張しながら周りに説得されながらも、その意思は決して曲げることはなかった。
変なところで意地になるメルトだった。そう諦めて彼も前線へと立つ。
「あんたも出てよかったのか?」
「おいおい、みんなの危機に出ないってのは男が廃るってもんだろう?」
「はっ、いうだけ野暮だったな」
「メルト、無茶はするなよ」
そう声をかけてくれるのは『
突然現れたのんびり屋で、子供の面倒をよく見てくれるメルトは今でいう保育士的な感覚で部族の中で慣れ親しまれていた。古代のリザードマンであり子供に様々なことを教えてくれるメルトは狩りの方向ではないにしろありがたい存在だった。
「ところで手に持ってるのは何だ?針みたいに見えるが」
「なんだそれ、お前は素手が専門じゃなかったか?」
「ああこれか」
指摘されたようにメルトの手には大量の針が握られていた。
「これはな、こう使うんだ」
ぷすっ
「え、メルト、はぇ?」
気の抜けた音と共に額に針を刺されたリザードマンがへたりこむ。
何か仕込まれた、そう気づくにはもう遅かった。
「おいどうしぁ」
「なんだほへ」
「ちから、ぬけ…………」
針を投げ、誰かに刺さるたびにリザードマンが倒れていく。その異変に気付くには、メルトは後方すぎた。
「おい、何か様子がおかしいぞ」
「ドウシタオ前タチ、ウッ!?」
メルトが投げた針が、ついに族長たちにも刺さる。その中には当然、シャースーリューもザリュースもいた。
「メルト!何をしているのです!?」
この異変にすかさずクルシュも駆けつけ動かない彼らの身体を直そうと試みるも彼女が知る方法では全く効果がなかった。
「悪いな。足手まといにはここで待機してもらおうと思ってね。今のあんたじゃその麻痺は直すことはできない」
「足手まといですって!正気なの?今、この人たちは」
「死にに行くってか?悪いがそれは認められない。俺が戦う理由は生きるためだからな」
「そんなのって」
「誇りを傷つけても死ぬために生きるってのは感心できないんだよ」
針に塗ってあったのは麻痺の毒、それも下級程度では治せない非常に強い部類のものであった。
そんなものを隠しておいて何なのか?古代の毒でも用いたのかと考える中、メルトはそのまま背を向けて歩いていく。
「待ちなさい!話はまだ終わってません!」
確かに彼は強いことはザリュースからよく聞かされていた。だからこそ先の戦いで自分たちが戦っている間は村のことを任せていた。
今は違う、主力を全て出しきってから降伏でなんとか支配される程度で済まされるのだ。犠牲を必要とする今、たった一人で行くのは相手を侮って怒らせる要因にしかならない。
…………彼女は知らない、今のリザードマン達は知らない、今ここで知っているのはメルトと不死者の王のみ。
目の前のくすんだ緑のうろこを持つリザードマンは
メルトは皆に背中を向けていたが、見守る彼らを、子供たちの方を見た。その目は死にに行く雄の眼ではなく、必ず勝つという強い意志が込められた輝く目をしていた。
そして手を握り、そして親指を立てた。
「任せろ」
ただ一言だけ残して、メルト・ダウン出撃。
ごめんねコキュートス、楽になるのは次回になっちゃった。
ごめんねモモンガさん、無いはずの胃が滅茶苦茶になるよ。