トカゲさんはポカポカしたい   作:蓮太郎

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感想が増えるのが楽しみなこの頃。

前回のあらすじ『リザードマンにとって完全勝利!(不穏な影を残しながら)』


9. トカゲさんは神話である

 

「よっ、ただいま」

 

 のしのしとうろこをエメラルドグリーンに光らせて帰ってくるリザードマンが居た。

 

 その名は『メルト・ダウン』、たった一人で死の軍勢をしりぞけた雄である。

 

 何事もなかったかのように戻ってきた彼に、この場にいた者達はぽかんと口を開けることしかできなかった。

 

 死を覚悟した戦士たちを麻痺させて何をするかと思いきや、明らかに格上で抗うことすら許されない相手に立った腕の一振りで勝利し、あまつさえ不死者の王(と推測される)相手に敬語を使わせていた。

 

「何とかなってよかった。麻痺は抜けたか?抜けてなかったら治すアイテム配るけど」

 

 体のしびれは抜けているが、眼前で起こったことが現実なのかと未だに疑っていた。

 

 そこで、動き出した影は三つ。

 

「メルトおじさんすごい!あの大きい昆虫やっつけちゃった!」

 

「おじさん!みんなしななくていいんだよね!」

 

 そのうちの二つはリザードマンの幼い子供である。

 

 うち、一人はメルトに頭をなでられた子供だった。メルトの言葉を信じ、戦場を見守っていた子供の眼には、それはさぞ素晴らしい英雄が映っていただろう。

 

「おお、その緑に輝く鱗、まさしく神祖…………」

 

 そして、前に出たのは『緑の爪(グリーン・クロー)』長老、彼は涙を流しながらメルトの前に跪いた。

 

「ちょ、爺さん!?どうしたんだよ、顔を上げろって!」

 

 その姿にわたわたとメルトが戸惑っていると、ほかの部族の老人、長老らも前へ進んでメルトに跪いた。

 

「間違いない、あの神如きの一撃は…………」

 

「伝承は、ここに生きていたのか」

 

「伝説が今ここに…………」

 

「なんだなんだなんだ!?伝説ってあれか?六大神との戦いか?アレはもういいだろ!ぶっちゃけ課金アイテム使って拘束されて放置されたようなもんだし…………」

 

「やはり、六人の神相手に一人で戦ったと!?」

 

「聞いたままだ、誇張はあると考えていた我らが間違っていた…………」

 

 心当たりのあるメルトはそれらしいことを言ったが火に油、聖杯に聖水とどんどん神聖化が進んでいく。

 

 困惑する若者たちを代表すべく、ようやく麻痺が抜けて体が動くようになったシャースーリューが長老たちへと問いかけた。

 

「長老、一体どうしたんだ?確かに、あの戦いはすさまじかった。間違いなく英雄と言われても当然のものだ。だが、ここまで心酔する必要があるのか?」

 

「馬鹿者!今は口を慎め!知らなかったとはいえ、数々のご無礼をお許しください」

 

「いや、あの、無礼っつったって、俺はできることをしたまでだし。今更大層にされるのも困るんだが?」

 

「この方は、600年前に神々を相手に戦い、多くの亜人を生かしたお方だ!」

 

「あの戦いそんな意味あったの!?いや、確かに突然リザードマンだからって襲い掛かられたけどさぁ!」

 

 メルトは転移直前、雪山で眠ったら冬眠して未来に魂持っていけねーかなーとユグドラシルサービス終了間際に思い、実行していたためかなり長い年月を冬眠してしまっていた。

 

 そして気づけば転移して100年近く眠っており、六大神が転移してきた時期に目が覚めて、世界を放浪している時に彼らとかち合ってしまったのだ。

 

 六大神らもゲームから転移してきた直後でそれまでゲームと現実を区別できず亜人を狩っていた。

 

 そこにひょこっと現れたのがメルトである。

 

 もちろん戦闘を始めた。そしてうろこがエメラルドグリーンに光ったところで六大神らは彼の正体に気づいた。

 

 そこから先は決戦だった。手持ちの課金アイテムをじゃぶじゃぶ使い、何人か犠牲になったところで『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』によってメルトは氷漬けになった。

 

 そして六大神は現実ということを理解し、またアイテムを蘇生に使ったユグドラシル金貨や課金アイテム等を大量に使用したため、これらの改善と新たな敵に備えて国家をつくるきっかけになったと伝承で伝っている。

 

 そして彼らは氷山にメルトを閉じ込めたはいいものの、亜人が滅びれば亜人であるメルトが激怒するのではないかと考え、おいたが過ぎる亜人以外はある程度残すということを決めたのだ。

 

 そう、600年も続く国家創設のきっかけとなり、下手したら亜人絶滅の危機を救ったリザードマンこそ今エメラルドグリーンに輝くメルトなのである。

 

「そ、そんな伝承があったなんて」

 

「当然だろう。もうとうの昔に廃れかけていた昔話じゃ。もはや今の若者は知らんじゃろうて」

 

「昔話より体を動かしたがる小僧ばかりだったからなぁ」

 

 昔を懐かしみながらもメルトの前で跪くのは立やめなかった。

 

「いや、本当にやめてくれよぅ、こういう扱いはなんかこう、むずかゆいと言いうか、恥ずかしい…………」

 

 輝く鱗から光が消えて、いつものくすんだ緑に戻った。先ほどの神々しさはどこへやら、そこに居るのは優しそうでへたれそうなお兄さんである。

 

「おじさん、すごい人なの?」

 

「…………うーん、凄いって言えば凄いかな?」

 

 子供の質問にややためらいながらそう言った。

 

 言えるはずがない、ノリノリだったユグドラシル時代、運営に専用技をねだる代わりに様々な戦場でボスを務めたことを。

 

 なにより、そこでプレイヤーを何千、何万と葬ってきたある種血濡れでハイテンションだった黒歴史があったことを。

 

「我らリザードマンだけでなく世界の危機が起きるかもしれないからか、この方はこの地にいるのだ…………」

 

 未だに理解できていない大人や子供たち、全てを理解したつもりになっている老人。

 

 そしてどう収集をつけなければいいか分からないメルト。

 

「と、とりあえず宴だ!少なくともしばらくは変な奴らは来ないはずだ!俺のおごりだ畜生!」

 

 現役時代、メルトに挑む際にレアアイテムを落とさないためプレイヤーが空き枠にいらないアイテム、例えば使わないポーションやガチャの外れである安酒や宴会用アイテムなど、普段使いしないものを詰め込み対策するということが流行っていた。

 

 故に、宴の類や季節に合わせたアイテムをメルトは大量に所持していたのだ。

 

 これも運営に頼んだ措置、あまりにもプレイヤーに挑まれるためドロップアイテムが溜まりすぎるので余計なアイテムのみを収納する箱を亜空間から取り出せるという設定で無限のアイテムボックスを手に入れていた。

 

 そこに溜まって使う機会のなかった劣化することのない料理や酒をメルトはバーンと取り出す。

 

 あっけにとられながらも、ようやく自分たちの命の危機が回避されたことを理解した彼らは三日三晩の宴が始まったという。

 

 

 





なお、宴の間はザリュースとクルシュはいちゃいちゃしてからかわれてたしメルトは神話の戦いを目撃して惚れた雌たちにめっちゃ言い寄られてしどろもどろしていた。

童貞は卒業しなかった。このへたれ。
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