仮題:死狂う   作:属物

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第一話【ボンボンとデンジ】

【chain saw man】

 

 

 パン パン パン パン

 パン

 パン

   パン

 

 ラーメンが香る昼下がり、立花食堂の窓から妙な音が飛び込んだ。

 

 爆竹によく似た音だった。

 

「なんだこん音……」

 

 デンジはラーメンを啜る手を止めて耳を済ませる。その耳に聞き覚えのある声が飛び込んだ。

 

「ここのラーメン、ちょっと味酷くないか。なぁデンジ?」

 

「あ、ボンさん!」

 

 デンジの顔が驚くほど明るくなる。メシを口にするときより明るい。まるで顔見知りの人に会った犬のようだ。尾があったら振っているだろう。

 短い付き合いだからか、この場の誰もデンジがそんな顔をする相手を知らない。

 

「誰……?」

 

 特異4課の気持ちを代表して姫野が問いかける。

 

 視線の先はもみあげが妙に目立つ男だった。軍服じみたコートと詰め襟は、頬骨が張った顔とあまり似合っていない。

 そして定食屋にも似合わない。

 

「前飼われてたヤクザとこで世話んなってた人! 

 ポチタと食ったクリームパンすっげぇ旨かったです!」

 

 説明てがらデンジがなにかしらのお礼に頭を下げた。デンジの説明で皆の困惑は更に増すばかりだ。

 

 クリームパン? ヤクザ? 飼われてた? 

 

「飼われ……?」

 

「ヤクザが借金ドブ付けにして、デンジにデビルハンターやらせてたんですよ」

 

 だから再び特異4課の気持ちを代弁するように姫野がこぼした

 今度はデンジではなくボンと呼ばれた男が返した。これで取りあえずデンジの説明は理解可能だ。

 しかし目の前の男がいかなる人物なのかは不明のままだ。

 

「……そうなんだ。貴方は?」

 

「俺はその孫で、それでボンボンのボンです。

 じいちゃんはクソ野郎でして」

 

 懐から取り出した写真にはボンらしき子供の後ろに、スーツとパナマ帽の髭面が写っている。写真だけなら好好爺と可愛がられている孫に見える。

 だが写真を見たデンジの表情が否定を告げていた。今にもうなり声を上げて吠えかかりそうだ。

 

「カタギ食い物にして自分は社会の必要悪だってうそぶくわ、

 薬をバラマいたカネでメシ食わせながら何人コンクリに沈めただの武勇伝語るわ、

 とにかくクソみたいな人でした」

 

 ボンの表情も似たようなものだ。写真のボンと同じく嫌悪感に満ちている。

 ただしその嫌悪は祖父に対するものだけではないようだ。

 

「そんで蛙の子は蛙って言うんですかね。俺も似たようなクソ野郎でした」

 

「……ボンさん?」

 

 顔をゆがめる理由に自嘲と自己嫌悪が混じる。

 これからすることを、それをする自分を心底軽蔑しているからだろう。

 

「悪ぃデンジ、銃の悪魔がお前の心臓欲しがってんだ」

 

 抜いた拳銃が鈍く光った。

 表情に罪悪感が足される。

 何の意味もない罪悪感だ。

 

「死にたくねぇから死んでくれ」

 

 パン

 パン

 パン

 パン

 

 

【chain saw man】

 

【chain saw man】

 

 

 パン

 デンジの額から脳漿が弾ける。

 

 パン

 パワーの血の盾が砕ける。

 

 パン

 アキの胸元から血が吹き出す。

 

 パン

 姫野の肩口が赤く染まる。

 

 ドッ

 パワーのアッパーカットが防御ごとボンの顔を跳ね上げた。

 ボンにダメージはない。だが自動拳銃は明後日の方向に吹っ飛んだ。これでもう撃てない。

 

 なのに銃口がこちらを向いている。

 幾つも幾つもこちらを向いている。

 周りの客全てが拳銃を向けていた。

 

「なんじゃこいつら!?」

 

 周到な罠だった。

 

 ボンが話しかけ注意を引き寄せる。

 デンジとの親しい会話で緊張を解く。

 不意打ちの銃撃でダメージを追わせる。

 ボンに集中させて手下が四方から蜂の巣。

 

「チョンマゲ!」

 

 必要なのは広域を一掃できる範囲と速度だ。

 パワーは狐の悪魔による援護を指示する。

 

「ぐっ……コン!」

 

「アキ君!? アキ君!!」

 

 息するだけで口の端から血がこぼれる。

 気力を総動員してアキは狐を象った。

 

 コバッ

 

 爆風じみた衝撃波と共に、食堂二階の半分が悪魔の口の中に収まった。銃撃犯らもお口の中に同居している。

 

「これで……」

 

「まだ、です!」

 

 アキを抱きかかえる姫野の力が緩む。だがアキは気を緩めてはいなかった。

 

 アキは確かに見たのだ。

 

 ボンが鞘のように片腕を抜き放つ姿を。

 巨大な顎を前に平静そのものの顔を。

 額を刺し貫いて現れる異形の刀を。

 

『早川アキ……私の口にとんでもないモノを入れてきたねえ……!』

 

 ジ

 

 異形の刀は狐の悪魔も刺し貫いた。

 

『人でも悪魔でもなっ……』

 

 刺し貫いて切り刻んだ。

 

 ジ ジ ジ ジ

 

 悪魔の臓物に包まれて異形の怪人が現れた。

 頭蓋を刀に刺し抜かれ、両腕から刀を刺し生やす。

 その姿は後ろで死んでいるデンジの変身と似ていた。

 

 とてもよく、似ていた。

 

【chain saw man】

 

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