N.R.Breaker ―ガンダムビルドデューラーズ外伝― 作:Ai-Z
数年ぶりの物書きだったので赤い彗星さんのサポートもあり、何とか1話書き上げる事が出来ました…
さて、長々と話すのもアレですので早速本編へ。太陽の影に隠れた、奪われし者の物語をどうぞお楽しみください。
『はいこれ、プレゼントだ』
『···兄ちゃん、これって?』
『そう、ガンプラだ』
『凄い!!アリオスだ!でも僕、ガンプラ作った事無いよ?大丈夫かな···』
『安心しな。俺が色々レクチャーしてやるからさ』
『······本当?』
『あぁ、一緒にやろう──
ガク────
「──っ!?」
いつかの日を見ていた。
”弟”がガンプラに触れるきっかけとなった時の······
「···これで、終わりだァ······」
赤く染まって、ノイズに塗れたモニター。
視線の前には、紫を纏ったガンダムがいた。
──デスティニーガンダム。
GPデュエル。
数年前に開発された技術『
プラモデルが自分で動かせて、戦える。
この遊戯は大ブレイクした。
揺らり揺らりと近づくデスティニー。
暗礁宙域の巨大なデブリに叩きつけられているのはガンダムハルート。
画面の中で大きくなっていく。
手に携えられたのはアロンダイトだった。
このバトルは、異常だ──
『トカイ·キョウジ』は前を睨んで、睨んで、睨んで。
しかし、力が無い自分は、ノイズまみれのモニターから見ていることしか出来なかった。
弟の名はガクと言う。
今から一年前くらいの話。
『アリオスガンダム』
ガンダム00で一番好きだと聞いていたガンダムを誕生日に受け取り、弟は満面の笑みを浮かべていた。
何より楽しかったのは、キョウジとガクの二人の時間──
ガンプラの組み立て方、加工方法などを教えながら過ごしたあの時間は、今でも忘れられない。
そんなある時に、ガクはキョウジに言った。
あの日の意を決した顔、大事な話だと理解した。
『兄ちゃん、僕、GPデュエルしたい』
「············」
もしあの時、弟を止めていたら。
あの時、共にガンプラバトルに向かっていれば──
尽きない後悔は、沢山あった。
でも、あの時──
「ガクが、楽しみたいって言うなら、やってみたらどうだ?」
GPデューラーとしての過去の自分もいた。
何より、あの第六回全国大会で見た決勝戦。
あの蒼炎に、今だ焦がれている自分もいて。
──兄弟でデューラーなんて、どれだけ熱いだろうか。
キラキラと輝く弟の瞳。
未来を感じられる、そんな目に夢の火を託して。
少し乱暴に、彼の頭を撫でまわした。
才能なんてものがあるわけなく、ガクの初ガンプラバトルは華麗とは言えないものだった。
模型屋のレンタルで借りたガンダムキュリオス。
操作に慣れていないガクは、動くたびに機体がこけたり、変な動きをしたり。
だからこそ楽しくて、愛おしい時間だった。
危なっかしいガクが戦う後ろで、先輩としてサポートして。
最初はレンタル機体で、慣れてきたころには誕生日プレゼントのアリオスを使い始めた。
勝利と敗北を繰り返して、ガクは努力していて。
彼の操縦技術も、制作能力も上がっていった。
キョウジのアドバイスで、相手の動きをよく見るようになった。
突っ込みたい気持ちを抑えて、冷静に対処するように覚えた。
ガンプラだって、橙色の機体カラーを赤く塗って、壊されて直す度に、更なる工夫でガンプラを強くした。
ガンプラを始めて、半年が経った頃。
「兄ちゃん」
あの日と同じように、切りだされて。
今度は何かとキョウジは首を傾げた。
彼はをギュッと握りしめて続ける。
「僕、一人で戦ってみたい!!」
確かにガクは成長した。
しかし、まだまだ兄として不安だった。
そう考えこむキョウジはふと、弟を見て。
震えているガクの背中を押すかのように、今まで一緒に戦い続けていた、
「···わかった」
「────ッ!?」
そういった時のガクの瞳は、まるで星のように輝いて。
可愛らしい弟の頭をいつものクセで雑に撫でる。
もう、元デューラーの自分が教えられることは無いと思ったのも、この瞬間だった。
「雨、降りそうだから気を付けて行けよ」
「うん!!行ってくるよ!!」
ガクの新たな旅立ち。
二度目になる今回は、傍に自分の姿はない。
子供を送り出した親の気持ちを理解した気がして。
これが、最後の選択。
弟の晴れやかな旅立ちとは裏腹に、空はどんよりとした雲に阻まれていた。
ガクが出かけてから三時間程経過して。
屋根を打つ音が今日はとても多い。
あの曇り空からは、運が悪くどしゃ降りの雨が降り注いでた。
遅い。ガクが外から帰って来るのが遅い。
もう少し待ってみるか?そう考えてみるが、しかし不安だった。
何より、傘を持って行ってなかったような気がして。
メッセージアプリを起動して、弟のメッセージを送る。
既読は············つかず。
いよいよ、彼のことが心配になったキョウジは、慌てて用意して。
彼の分の傘も一緒に手にすると、家から飛び出した。
傘を穿たんとばかりに振る、大粒の雨。
生まれていく雫の数は尋常じゃなく、ドンドンと地面に落ちていく。
今日はいつもの模型屋『エウクレイデス』に赴いて。
来客を知らせるベルを鳴らしながら、キョウジは中に入った。
音の気が付いた店主がレジから振り向いて。
「あぁ、いらっしゃい。どうしたんだい?キョウジ君?」
店長の『トウゴウ』だ。
個人経営の模型店を切り盛りしている中年の男性。
人懐っこい笑みからは優しさを溢れさせている。
「トウゴウさん、俺の弟を知りませんか?」
「···そういえば、ウチに今日来たけど、何かあったのかな?すごい勢いでお店を飛び出していったよ」
普段のガクからは考えられない行動。
いつもならそんなことはしない。
何なら、しっかりと『ありがとう』を伝えてから出てくるタイプのいわゆる”いい子”だ。
──様子がおかしい。
「···すみません、トウゴウさん。また来ます!!」
「······気を付けてね」
キョウジはお辞儀してから、再び外へ。
傘を差すことも忘れて駆けだした。
大粒が全身を濡らしていき、服がびしゃびしゃになる。
久しぶりの運動で、噴きだした汗と混ざり合って、全身が気持ち悪くなるが気にしない。
心当たりが一つだけあったから。
辿り着いた公園のベンチ。
雨に濡れて、それでもじっと座っている人影が一つ。
全身に水滴が纏わりついている。
その少年は、紛れもなく──
「──ガクっ!?」
急いで寄り添い、傘を差した。
なるべく冷えないように、もう雨に打たれないように。
びしょ濡れな彼に寄り添って。
「おい······大丈夫か!心配したんだ──」
ぞ、と言い切る前に、ゆっくりと顔が上げられて。
目元には雨で出来たわけではない、水滴のラインが何筋もあって。
鼻からも雨とは違うモノが流れ出ていた。
心配させまいと、笑顔を作ったつもりだったのかもしれない。
でも、その表情はひどく傷ついていて。
「なにも···出来なかった······」
振り絞られるようにガクは言って。
ふと彼の手元に視線を合わせてみたら、赤いアリオスは修復不可能なほどにグチャグチャだった。
それはもはや、バトルではなく虐殺の光景を見ているかのようで。
バトルは決意と選択の繰り返しだ。
そもそも、バトルを始めるのか?どうすれば自分のガンプラと勝っていけるのか?
バトル内の状況判断だってそうだ。時には、思い切りよく攻めるか、防御に徹するか──
でも、この惨状はデューラーに与えられた”あたりまえ”を踏みにじるかのような、そんなものを感じさせた。
元デューラーだったからこそ、キョウジには分かる。
このアリオス、その破壊のされ方は明らかにおかしい。
原因の解明は後に回して、先にガクを家に連れて帰ろうとして。
「ねえ、兄ちゃん」
GPデュエルは残酷な世界だ。
そんなことは、ガクも分かっている。
だからこそ、そんな世界でも彼は戦い続けて来た。
きっと、胸に秘めた想いだってあったというのに。
──そんな顔はしてほしくない。
「僕、やめるよ──」
脳が真っ白になった。
今、ガクが言ったことが理解を拒んで。
しかし、嫌にも状況を整理し始める。
彼は辛そうに続けた。
「あんなの、ガンプラバトルじゃない」
···一体、何があったというのだ。
強敵を目の前にしたときの、ガクの瞳の輝きは忘れていない。
ギラギラとするのだ。
高みに行ってやると、アリオスと一緒に、勝ってやると。
『···ここで逆転して勝ったら、最高に強くて、かっこいいよね?』
サポートに回っていたキョウジに顔を合わせて、目を見つめ合って言われた一言。
未来が溢れるその言葉と、輝く瞳を信じていた。
それが今は、尋常ではない事態が起こっていた。
瞳からは輝きが失われていて、ガクは下を俯くばかり。
次の一言は──
「だから、僕は──」
聞きたくない。
「やめるよ、ガンプラバトル」
その日がターニングポイントだった。
どうやって家に帰ったかも覚えておらず。
ガクから貰ったSDカードのデータを漁って。
破損した動画データ。
無視して再生してみれば、原因を知ることが出来て。
動いていた赤いアリオスが突然、デクの坊になると蹂躙されていく動画。
──許せなかった。
胸のうちに広がるどす黒い感情。
動画を見て、キョウジは思い出していた。
自分がガンプラバトルをしていた頃、密かに
当時は自分には関係がないことだと考えて、おまけに出所も不明な噂というのもあり、無視していた。
それがもし、実在するとしたら──
もうすぐ、弟の誕生日。
その時にあげるつもりだったモノが視線の先にあった。
「······ガク、俺が仇を、取ってやる」
目の前でボロボロのグチャグチャになるハルート。
チートツール使いが蔓延ると噂の場所に生き、バトルを申し込んだ。
あのチートを使われてはこちらが対抗できなくなる。
そう考え、すぐさまトランザムを使用して先手を取ったが──
結果はこのザマだ。
デスティニーが紫色のオーラを纏った思ったら、赤いハルートの動きは普通の速さになって。
相手の機体に
それだけではなく、尋常に速く硬いデスティニー。
普段ならもう少し動けるが、チートツールによって余計に動けない。
······こうやって、ガクもやられてしまったのだろうか。
走馬灯のように流れ出した思い出たち。
「···これで、終わりだァ······」
もしも、誰かが颯爽と駆けつけて救ってくれていたら、彼の運命は変わっていたかもしれない。
もしも、戦うという選択をしなければ、彼の道のりは違っていたのかもしれない。
しかし、彼は、彼らは
振り下ろされたアロンダイト。
その一太刀でハルートは、宇宙の新たなデブリとなった。
無機質に伝えられるシステム音声。
不正と邪悪に包まれたバトル。
ストリートフリーファイトスペースの喧騒は、遠くに聞こえて。
だんだんと燃え上がってくる胸の情動。
目だけはキっと、相手を睨んだ。
しかし、身体は対照的に座り込んで。
下卑た笑みを受けて。
偽りの力、偽りの世界で唯一の王となった男は、嗤う。
周りで見ている外野に見せびらかすかのように。
完全にプラスチックの残骸と化したハルートがバトルシステムの上に置かれており、よりキョウジを惨めな思いにさせていく。
不正に得た力にすら勝てない自分自身。
久々に使われた、傷だらけの自らのカードキーを見つめて。
「N.R.リアクターに、ひれ伏せェ!!」
そんな考えも霧散して。
無反応を示すキョウジに面白くなくなったのか、男は舌打ちしながら去っていく。
N.R.リアクター。
──あれに、対抗できる力が欲しい。
たとえ、自分が堕ちたとして、アレをねじ伏せられるだけの、力が──
バトルを金網越しから見ていた女。
彼女はキョウジの目を見て、確信する。
──彼になら。
「ねえ、アナタ?」
気が付けば、彼に声をかけていた。
眼だけで彼女のことを見るキョウジ。
「···力が、欲しいのかしら?」
──その日、トカイ·キョウジという
「······寄越せ、」
そして、
「力を、寄越せ!!」
トカイ·キョウジという
「私の名前は『ハクア』。アナタのその瞳が、気に入ったわ」
「··················」
女の形をした悪魔は、ニヤリと笑って。
キョウジに手を差し出すと、それを握って立ち上がった。
復讐者はドス黒い炎の熱さを忘れないように、左手を強く握った。