〇シン・マツナガが主役だと思った人
→ちがうお話をどうぞ。いっぱい面白いのありますよ
〇シン・アスカが主役だと思った人
→ちがうお話をどうぞ。いっぱい面白いのありますよ
〇飛信隊の信が主役だと思った人
→僕も読みたいです。書いて。やくめでしょ。キングダム×ガンダムって大変すぎる。
◎シン少尉って、ククルスドアンの冒頭で死んだんじゃ……という人
→顔の雰囲気似てましたね。ようこそ。
第一話 ソロモンに慈悲はない
例えばの話、である。
目の前にビグザムがいて、こちらはジム。
こういう状況でどう戦うかを訓練されたガノタ老若男女ならば考えたことがあるはずだ。
各々それぞれに素晴らしい宝物のような解答を持っているだろうが、今、その回答が正しいのかを試さなければならぬ状況に追い込まれそうな男がいた。
シン少尉――厳密にいえばシン少尉の中の人である。彼の憑依先たるシン少尉は、いわゆるファーストガンダムで、ビグザムに殺された哀れな男である。
宇宙世紀0079年某日、シン少尉はチェンバロ作戦の大綱に基づきソロモン内部へと突入する梯団に放り込まれていた。ソロモン内部の進路啓開を主たる任務として放り込まれた兵士たちの一人であり、文字通り損耗を前提とする寄せ集め連中の一人だ。
迷宮のような要塞内通路での遭遇戦の連続。
敵の強固な火力陣地とMSの連携により、突入部隊は無情に削り取られていく。シン少尉もまた、突入時に敵のドムに蹴り飛ばされ、そのまま意識を失っていた。
いっそ死んだほうが楽な現実。
折れてしまった本来のシン少尉は絶望的な状況に生きる気力を失い、心のほうが先に死んでしまったのだ。
ここに、一つの奇跡が起きる。
とある世界線で自衛官をやっていた一人の男――どういう理由かわからないが、死んでしまったガノタ男の魂が乗り移ったのだ。
「ふぁっ!?」
新たなるシン少尉となった彼は、困惑した。意識をもったときのイデよりも、混乱した。
『こちら、B202。おい、死んだふりしてんじゃねぇ。返事をしろ、そこのジム! 搭乗しているS909、バイタルデータと意識レベルは見えてんだぞ!』
数機のボールがディスプレイに表示されている。
ノーマルスーツのHUDに映し出されている作戦状況図やMAPの類は、シン少尉の内なる魂に入り込んだ彼がよく知る、フルダイブVRゲーム『ガンダムワールド』と同じものだった。
「はっ、えー、こちらS909、あの、状況を教示いただきたい、送れ」
混乱しつつも、彼は状況に対応する。
こちらの機体データと搭乗者情報は、近接INS(Info Network System)によって伝達されているようだ。誰がどの機体や車両に乗っているかなど21世紀の米軍でもできていたことであるから、宇宙世紀ならもはや当たり前である。
『――こちらB202。よし、意識レベルは可が出ている。ついてこい。第三混成任務旅団は現在ソロモン内部に浸透中だ。俺たちの任務は内部にあるMS自動工廠と格納庫を奪取し、その機能を保全すること。いいな?』
HUDにガイドラインが表示される。行動順路の共有は極めてシンプルかつ合理的であった。大規模な集団戦闘を意識した連邦のMSは、このような情報共有の共通規格によって連携を容易にしているようだ。
「こちら、えー、S909、了解」
シン少尉は「一体何がどうなっているんだ?」と困惑しながらも、己のサービスタグ情報をHUDに表示しながら応答する。
幸か不幸か、シン少尉の体に違和感はなく、意識もしっかりしている。ただし、急速に何かが失われている気がする――そうだ、自分が何者であるかという大事な何かが……。
「S909、何ぼさっとしてる、さっさとついてこい!」
先行するB202率いるボールとジムの混成部隊にせかされたため、とりあえず随伴する。
しかし、シン少尉は内心大変に困惑していた。
ここはなんだ? ガンダムワールドからログアウトできなくなったのか? などと自分が死んでしまったことなど忘れたかのように、慌てふためいていた。
いや、今は考えても仕方ない。まずは今の状況を――いや、待てよ。
シン少尉の中の人は気づいてしまった。
これは何度見たか覚えていないくらい見た、ガンダムのソロモン戦じゃないか、と。
そうなるとオールドタイプ系ガノタ特有の連想記憶に脳のメモリを持っていかれる。
拙者→シン少尉、搭乗機→ジム、状況→ソロモン内部、結末→アビャァァァ! である。
この思考時間、わずかコンマ数秒。そして原作でシン少尉が登場してから死ぬまでの時間も数秒だったこともまざまざと思い出す。
やばい! このままこのB202が率いる突入部隊に随行したら……この角を曲がった先でビグザムと出会ってしまう! しかも、発進中のビグザムの主砲はなかなか都合よくこちらを向いているはずだ。
「あの、こちらS909、B202、応答願います――」
B202に対して警告をしようとしたその矢先である。
巨大な通路の先に、発進途中のビグザムの姿が目に入った。
しかも、こちらにすでに主砲が向いている。
「注意しろ! 新型だ、デカイぞ!」
慌てふためいてしまい、シン少尉は正しい情報を何一つ伝えられなかった。
ビグザムの主砲がすでにこちらを向いていること。
Iフィールド発生装置搭載型のビグザムにビームは無力であることなど、言わなければいけないことはたくさんあるはずだった。
『新型は一機だけのようだ。あとはドムとザクしかない。やるぞ!』
「ま、待て! 相手の戦力を……!」
今から伝達するから、と言おうとした矢先に、B202以下の突入部隊のボールとジムが乱数機動でビグザムに散開攻撃を仕掛ける。
いくら数的優位があるからといって、これは、ナンセンスだ。
「〇ァック!!!」
シン少尉は己のジムを側道に滑り込ませる。
直後、極太のメガ粒子砲の光が真横を突き抜けていった。
コックピット内に映る戦術状況MAPの友軍機が数多消し飛んでいく。
「あぁぁ……」
B202の残骸が流れていくのを目にして、シン少尉は覚悟を決めた。
「くそ、やるしかない」
生き残るために、オールドタイプの頭脳がフル回転する。
このまま隠れていたところで、ビグザムの火力によって友軍を一方的に削られる→数的不利になり、反転攻勢されて死ぬ。
逃走も無理だ。機体のログの消去方法や戦術システムリンクの切断方法もがわからない以上、逃げ切れない。敵前逃亡→逮捕→懲罰部隊→最前線の捨駒で死去、となるのもナンセンス。
ならば――進めば二つ、とかいう水星のレディの気構えしかない。
今ならまだ突入部隊側の数的優位は崩れていない。
もう2,3射されるとそれも崩れるだろうが、今は、まだ数の利はある。
できるできないではない、やるんだ。
シン少尉のジムがちらりとビグザムの様子を探る。
もう一度、撃たせるしかない。
ビグザムの主砲は連射が利かない。劇中ではそうだったし、原理上も間違いないはずだ。
数秒レベルでの間隔があるはず……。
閃光。ビグザムの第2射。
ビグザムは散開して奇襲をかけんとしていたボールの一群を焼いた。
シン少尉は第1射撃と第2射撃の戦闘ログのゼロ秒以下でチェックする。
約、3秒、ある!
そこからシン少尉の動きは速かった。
いや、ジムの動きが早いというべきか。
もとよりジムの推力/全備重量は944。RX78-2ガンダムは925である。
なんとびっくり、無重力下であればジムはガンダムより速いのだ(数値上は)。
「神様仏様! 南無三! うおあああああぁぁぁぁ!」
祈りとも絶叫ともつかぬ喚き声をコックピット内で叫ぶ。
シン少尉のジムが側道から飛び出し、スラスターを最大出力でふかす。
全身のアポジモーターも推進に回し、機体制御はでたらめだ。
ただ、ひたすらに速度を求めたがむしゃらなジムの戦闘機動。
目指すは、ビグザムの股座である。
ガノタならばわかるであろう。
スレッガー戦法である。
味方への誤射を避けるべく、ビグザムが周りからザクやドムを引き離していた結果生じた、わずかな戦場の間隙をシン少尉のジムは突き進む。
『むぅ! 対空防御!』
混線したのか、相手の声がシン少尉のジムのコックピットに混ざる。
だが、シン少尉は知っていた。
ビグザムの対空防御機構は、あのくだらない足の爪ミサイルのようなものしかないことを。
そして、この発進途上の格納庫という狭い戦場では、それが何の機能も果たさないことを。
案の定、ビグザムの足から放たれた爪は楕円軌道を描く前に格納庫の壁に激突しただけだった。
対空防御システムを設計したエンジニアは責任を問われるだろう。
「その股座にぃぃぃ、ビィィィムゥ! サァァァベル!」
かつて見た、かの黄金の秋を迎える名作のワンシーン、冷凍刑男の死に様の如く、シン少尉のジムが手にしたビームサーベルが、ビグザムの股座を貫く。
「グゥゥレィィト!」
シン少尉は奇声を発しながら、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったままの顔でレバーをガチャガチャと動かす。レバガチャ入力に呼応してAIに登録してある斬撃パターンがいくつか発動する。
シン少尉は、無我夢中であった。
ビグザムの股間の装甲を無残に斬り裂いたシン少尉のジムは、リミッター解除の高負荷に耐えられなくなって機能消失したビームサーベルを廃棄。
構えるは、ビームスプレーガンである。
斬り裂いた装甲の隙間に、ビームスプレーガンを連射する。
きわめて至近距離からのビームスプレーガンの直撃、しかも装甲から露出した機械部品群に対する直接攻撃は、さすがのビグザムでも耐えかねた。
連射したビームの一発が動力部、機関部を破壊したらしく、ビグザムがぐずぐずと火炎を巻き上げながら崩れていく。
『閣下! 脱出するしかありません!』
『ぐぅ、おのれ連邦め! やらせはせん、やらせはせんぞ! 俺のジオンを、やらせはせ……』
きわめて接近していたせいで、相手方の通信が混線する。
この声は、間違いなくドズル中将だ。
しかし、シン少尉の中の人が知っているような、あのおどろおどろしい雰囲気は出ていない。
状況が違いすぎるからだ。いまだ全体の戦況が決定的といえる状況ではない。
ジオン側もまだ予備戦力を抱えた状況なのだ。
ビグザムの危機を察知したらしいザクとドムの部隊が、ビグザムの司令ユニットらしい部分を引き抜いて、そのまま離脱していく。
そして、無茶な接近をしていたシン少尉のジムは、これから大爆発するビグザムの股座付近を漂っていた。
無茶な機動による推進剤切れである。
「うそだろ……」
シン少尉は富野大僧正! ご加護を! とコックピットで叫ぶ。
そして、ビグザムの爆発。
シールドを構えていたシン少尉のジムが、崩壊しつつあるビグザム発進口の一角に吹き飛ばされていく。
しかるのち、崩落。
シン少尉はビグザムを撃墜したが、自らもまた撃墜されたのであった。
遠のく意識の中で、ガノタとしてやらかしてしまったかもしれないことがよぎる。
あれ? このままだとドズル中将が生き残ってしまうし、スレッガー中尉とブライトによるミライさん関係もややこしくなるんじゃないか……え、ハサウェイ生まれない? うーん、ガンダムUCや逆襲のシャア、閃光のハサウェイあたりに深い影響が――
俺(シン)は止まんねぇからよ、お前ら(ガノタ)が止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ! だからよ、止まるんじゃねぇぞ…。