シン/機動戦士ガンダム   作:すしさむらい

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ゴップの法
第一条 ガノタは、いかなる場合でも令状なしにガノタを逮捕することができる。
第二条 ガノタは、相手がガノタと認めた場合、自らの判断でガノタを処罰することができる。
第二条補足 場合によっては、抹殺することも許される。
第三条 ガノタは、人間の生命を最優先とし、これを顧みないあらゆる命令を排除することができる。
第六条 ガノタの夢を奪い、その心を傷つけた罪は特に重い。
第九条 ガノタは、あらゆる生命体の平和を破壊する者を、自らの判断で抹殺することができる。

――ゴップさんが一時妄想した法。機動刑事ジバンのぱくり。


第一二話 0083 ガンダム試作2号機

 合戦、という言葉がある。

 物理的な戦いの集合を表す言葉としては極めて適切であり、いまトリントン基地は合戦状況であった。

 アルビオン隊やトリントン基地駐屯部隊のジーラインとドム・トローペンが。

 あるいはジーラインとゴッグやズゴック、ハイゴッグが。

 または、駐屯部隊のジムやガンタンクが。

 瓦礫と砂礫の中で、互いの生死をかけて磨き抜いてきた戦技と戦技、あるいは戦術と戦術をぶつけ合っている。

 1:1で無敗を誇っていたエースが袋叩きにされて沈み、100戦連敗の雑兵が集団戦術でエースを落とすことがままあるのが合戦というもの。

 

「そろそろ潮時か」

 

 合戦の風向きを読むことにかけては一流であるランバ・ラル少佐は、自分たちの出番はここまでだと悟る。

 戦場を撹乱し、エゥーゴとやらのガンダムモドキをいくつも仕留めはしたが、そろそろ残弾も推進剤も引き際であるサインを出している。

 クランプ、コズンらも核貯蔵施設を襲うふりをしながらトリントン基地の対空火器を相応に始末したようだ。

 

「――白昼堂々降下されたし」とランバ・ラルは符牒を送る。

 

 切り込み部隊としての仕事は果たした。あとは後続に任せる、と判断したラルは部下たちに命令を飛ばす。

 駐屯地内での暴れ仕事はこの程度にして、戦線を移動させる――敵部隊を誘引し、空挺降下するクラウン隊の降着点を確保するのだ。

 

「クランプ、コズン、手はず通りにやる。モドキどもを釣るぞ!」

『了解』

 

 ラルの号令一下、後退するイフリート・ナハトを追うようにドム部隊が後退作戦に移行する。

 

 

 

 まるで忍者集団が統制の取れた動きで去っていくような様をみて、スレッガー・ロウ大尉は舌打ちをした。

 

「誘ってやがるな……」

 

 アルビオン隊のジーライン部隊の損耗を確認する。

 機体性能に助けられていることもあり、ドム・トローペン部隊の襲撃で犠牲になった連中はまだ両手で数えられる範囲だ。

 だが、兵站という意味ではほぼ全滅に近いと言ってもいい。

 技量がおかしいドムどもを始末するために、ありとあらゆる火力をばらまく必要があったからだ。

 基地の損害も、どちらかといえば自分たちでやらかしてしまっていると言っても過言ではない。

 高機動に走り回るドム連中に弾丸やビームをばらまけばそうもなる。

 

『おいおい、そっちの手が空いたなら、港湾エリアに増援くれよっ』

 

 カイ少尉からの焦り混じりのぼやきが届いた。

 

「お前らでもう少し粘んなさいな。こっからが本番だぜ」

『冗談だろっ? こっちの状況みてんのか? 援護にきたガンタンクの弾が切れたらこっちは終わりだって――」

「補給トラックは向かわせてあるから、頑張れ」

『そんなぁ……」

 

 カイ隊とハヤト隊には申し訳ないが、スレッガーは敵の追加攻撃に備えるべく決心した。

 

「艦長、対空ミサイルは?」

『オールスタンバイ。近接信管でバラ撒いてやるさ』

「了解、頼むぜぇ」

 

 スレッガーは、敵の次の手が空挺作戦であろうことは読んでいた。

 こちらをさんざんかき回し、部隊の連携を引き裂き、あげく補給を必要とするこのタイミングを作り出すのがニンジャドム共の仕事だったに違いない。

 だからこそ、やつらは核兵器貯蔵施設を狙う偽装をかけながら、その実質、基地の対空火力を潰すチマい手仕事を丁寧にこなしやがった。

 

「ま、いい仕事だったけど……うちの艦長の読み筋で寄り切り勝ち、ってとこかね」

 

 基地の対空火力は確かに潰された。

 しかし、こちらにはアルビオンがある。

 ペガサス級強襲揚陸艦は文字通り強襲作戦のために作られた艦艇である。

 ゆえに、その対空火力は生半可なものではない。

 重力に縛られて自由落下してくるだろう敵のお客さんたちを、ブライト艦長が盛大な花火でお迎えするだろう。

 

「なら、俺ちゃんたちは立て直しかね」

 

 スレッガー大尉は、敵の陽動作戦にのこのこ引掛り、適当な撃ち合いをさせられながら基地から引き離されているウラキ隊とキース隊に喝をいれる。

 

「こらこらこらっ! 坊っちゃんどもはオツムの使いかたってのがわからんのかい?」

 

 エゥーゴだエリートだといったところでこんなもんかねぇ、と苦笑しながらスレッガーはヒリヒリと感じる上空からのプレッシャーに備えて、部隊再編を手掛け始める。

 

 

 

 ブライト少佐はアルビオンの艦橋で、じりじりとした焦りに苛まれていた。

 混戦状態の戦場についてではない。そこはスレッガー大尉が何とか仕切り回してくれている。

 

 相手の意図が読めないからだ。

 

 ジオンにとってここを奇襲する目的はなんだ?

 戦闘の本質が相手方の企図の破砕である以上、ジオンの意図を見抜けなければ勝利はない。

 しかし、ブライトには全くそれが見えなかった。

 核武装のために貯蔵施設に搬入されたアトミックバズーカ関連の部品を狙っている?

 それにしては、ドム部隊の引き際が鮮やかすぎる。

 空挺降下部隊の誘導?

 そうであるならば、なぜアルビオンを叩かない? 基地の対空火力もそうだが、強襲揚陸艦の対空火力もまた驚異のはずなのに、だ。

 いや、そもそもなぜ空挺部隊が来るのだ。

 空挺作戦の趣旨は、その機動力を以て敵の拠点や連絡線を砕くことだ。

 いま空からこちらに殴りこんでくるということは、このトリントン基地にある何かを狙っているはず。

 

(核弾頭、GP02、アスタロス、どれだ?)

 

 どれかではなく、すべてかもしれない。

 そうであるならば、やはりアルビオン隊は後退するドム部隊対応を適当にいなしつつ、基地防衛を優先するべきだ。

 

「艦長、航空偵察情報来ました。敵、降下開始とのこと」

「よーし、観測射撃、用意」

「よし」と砲雷科から返答。

「撃て」

 

 アルビオンのミサイル発射管から垂直発射された一群のミサイルが雲の向こうに吸い込まれていく。

 秒も経たず、航空部隊からの電送が届く。

 

「観測情報、来ました。修正よし」

「よし。空挺破砕射撃を開始する。計画射撃」

「了解。第一ミサイル群、よし」

「撃て」

 

 ブライトの指示に基づき、ミサイルが発射される。

 ミノフスキー粒子のせいで精密誘導は厳しいだろうが、観測機からの情報である程度の有効射撃にはなるはずだ。

 

 しかし、ブライトの目論見は外れた。

 

 激しい揺れ。

 視界が真っ白になり、ブライトはシートベルトにぐったりと体を預ける。

 ブリッジクルーたちも同様である。

 

「そ、損傷確認」

 

 もうろうとした状態で、ブライトは艦に何かが起きたはずだと確認をとる。

 

「多目的垂直発射管、大破」

「甲板損傷甚大、内部火災発生」

「MS格納庫に人的損害。整備に負傷者が出ています」

「ダメージコントロール急げ!」

 

 ブライトは指示を出しながら、損害の原因を考える。

 おそらく、いや、間違いなく発射したミサイル群を狙われた。

 しかも、発射直後に。

 至近爆発を起こしたミサイルによって、アルビオン自体が深刻な損傷を被ったわけだ。

 

「スレッガー大尉、なにか見えたか? スナイパータイプか何かだと思うが」

 

 ブライトはMS部隊側に情報を求める。

 

『やばいぜ艦長! 超長距離砲撃で正確にミサイルを狙いやがった』

「意味が分からん、砲撃?」

 

 砲撃とは確率論である、というのは古来からの常識である。

 ある散布界に対してどれほどの有効が生じるかは文字通り投射火力と確率で計算されるものだ。

 しかし、いまそのように乱数的に砲弾がバラまかれいるか? 

 否である。

 

『射撃発揮位置の捜索はやるが――絶対に次弾が来る。艦橋はやばいぜ』

「くそっ。総員、CDCに移動だ」

 

 ブライトたちは艦橋から緊急タラップで艦中央にある戦闘指揮所に移動する。

 さっさと行け、と部下たちを急かし、最後にブライトがタラップに飛びこんだとき、再度の衝撃。

 タラップを降りていたブライトはその身が放り出され、激しく壁面に打ち付けられた。

 やばい、と部下たちが身を挺してブライトをかばったが、艦長の意識はなかった。

 

 

 

 トリントン基地より十キロ以上離れた岩場地帯に、ザメルと護衛のザクⅡ改の部隊が潜んでいた。

 

『シャリア・ブル少佐、いい一撃だ。木馬は戦闘不能。事実上の撃沈だ」

 

 680mmカノン砲という化物じみた大砲を背負った大型MSザメルのコックピット内で、シャリア・ブル少佐は一息つく。

 

「了解。引き続きラル隊の戦果を期待する」

『そちらもな。ここから先はクラウン隊に観測を引き継ぐ。以上』

 

 ラルからの通信を終えると、シャリア・ブル少佐はサイコミュシステムの履歴データを確認する。

 いまの集中力なら、誤差は微小。

 十分に有効な精密砲撃ができるだろう。

 

 もともと機体サイズが大きかったこともあり、コックピット周りにサイコミュ関連機材を積みかえたザメルは、今やビット砲弾を撃ちだすニュータイプ用砲撃MSとなっていた。

 かつて星一号作戦にてブラウ・ブロによるオールレンジ攻撃で連邦艦隊にダメージを与えた実績があるシャリア・ブル少佐を買っているギレン総帥が、今回の任務のために特別に用意した機体である。

 ミノフスキー粒子下での精密誘導が困難である問題を、サイコミュ技術はある程度まで克服してしまう。

 シャリア・ブル少佐は、かつてのGPS誘導砲弾の如く運用可能なビット砲弾の実戦テストもかねて、そして公国の重大局面であるとのギレンの言葉を信じて、ここに派遣されていた。

 

「木星船団から外されて、MS乗りにされたときはどうしたものかと思ったが……こうして戦果を挙げることで公国に貢献できるのも、すべては総帥の深謀遠慮のおかげかな」

 

 生粋のギレン派であるシャリア・ブルにとって、この総帥直々の特殊作戦に従事できることは望外の喜びであった。

 一年戦争時代の旧式MSであるとはいえ、サイコミュ技術に関する様々な試験兵装を搭載しているこのザメルを任されていることも、シャリア・ブルのプライドをくすぐる。

 自分はモルモットだが、後に続くニュータイプたちが手に取る武器を作っているのだと思うと、歴史の先端に立っているような気がしてくるのだ。

 

『少佐、こちらクラウン隊、もう地上が見えています』

「了解。こちらはいつでも撃てるぞ」

『先ほどの砲撃は見事でした。期待しています』

 

 自身と同じく十字勲功章もちの男、クラウン大尉。同じ勲章を持っているというだけでなぜだか仲間意識が湧いてしまう。

 ともにジオンのために戦う戦士なのだと思うと、気合も入ろう。

 

「了解、要請を待つ」

『頼みます、少佐』

 

 期待されることは好きだ、とシャリア・ブル少佐は思う。

 それにこたえることで、人に必要とされているような気がしてくるからだ。

 ニュータイプとしての鋭敏な感性のせいで、本当に自分を必要としてくれるかを分かってしまうシャリア・ブル少佐にとって、この任務は久しぶりに心が休まる一時であった。

 便利な戦争の道具と思われているかもしれない。

 だが、かかわっているすべてのものたちが、自分に期待し、求めてくれる。

 その喜びが、シャリア・ブルのニュータイプとしての力をより一層高める。

 

『――少佐、見えますか? 私の敵が』

 

 クラウン大尉からの通信。

 シャリア・ブルは静かに目を閉じて、彼に同調する。

 ピリピリとした余裕のないクラウンの気配を探るのはそう難しいことではなかった。

 しずかに、確実に彼の意識を読む。

 

「見える、こちらにも見えるよ、君の敵が」

 

 そして、シャリア・ブル少佐はクラウン大尉を通してこちらに向けられている敵意に気付く。

 

「なんだ……こいつは?」

 

 思わず言葉を漏らす。

 クラウン大尉が対峙している敵、GP02の敵意は、明らかにクラウンではなく、同調しているシャリア・ブル少佐自身に向けられていたからだ。

 

『こいつを倒します。少佐のお力なしでは、無理です』

「――わかった。任せておけ」

 

 シャリア・ブルはまがまがしい敵意を向けてくる、彼方にいるはずの敵を倒すべく、ビット砲弾を発射した。

 

 

 

 

 少々出遅れたか、とクリスティーナ・マッケンジー少佐は戦火に傷ついたトリントン基地を見る。

 彼女が指揮を執るペガサス級強襲揚陸艦トロイホースは、今まさにトリントン基地の増援にやってきたばかりだ。

 本来であれば元よりエゥーゴと連携作戦をとれたはずなのだが、エゥーゴ側の意地に譲歩してしまったが故のこのざまである。

 

『艦長、聞こえますか?』

 

 先行偵察という名目で飛び出していったシン大尉から通信。

 

「問題ない。ばらまいた中継通信ドローンは機能しているようだ」

 

 本格的な地上でのMS運用機能を実証すべく、トロイホースには各種指揮通信強化装備が搭載されている。

 無人ドローンを飛ばし、光通信ネットワークを展開することで、疑似的に近接INSを実現し、戦域に展開するMSと司令部に情報共有を確立する運用試験もまた、トロイホースの任務である。

 

『では、映像をどうぞ』

 

 シン大尉から映像が送られてきた。

 彼が搭乗しているジムカスタムからの主観映像である。

 

 だが、違和感がある。

 

 偵察に行くといって飛び出した彼から本来届くべき映像は、サブフライトシステムに乗って空から撮影しているそれであるべきだ。

 しかし、現実はどうだ。

 どう見ても戦場のど真ん中。

 エゥーゴの、損傷しているジーラインを助け起こしている映像が見える。

 

「……なにを、している、大尉」

『えー、威力偵察、ですかね』

 

 確かにそうかもしれない。

 いまシン大尉は正確なジムライフルのバースト射撃でハイゴックを撃ち抜いているからだ。

 挙句、急接近してきたゴッグのコックピットを、ジムライフルに着けているビーム銃剣で貫いている。

 見事な銃剣格闘である――ではない。

 

「大尉、貴官の腕前は中々だが、そうではない。貴官の任務は、敵の意図を探り出し、そこに本艦の戦力を集中するよう誘導することだ」

 

 すでにトロイホースの周りにはベースジャバー概念実証モデルに乗ったヤザン隊のジムカスタムたちが飛行待機している。

 この戦力を決定的なところに投入させるのが、偵察に出たシン大尉の本来の任務である。

 ところが、あの男は何を思ったか地上に飛び降りてエゥーゴ部隊を救出、援護している。

 

『あー、えー、誘導はちゃんとやります。というか、ほら、みえますか艦長』

 

 シン大尉のジムカスタムから送られてきた映像に映っているのは新型のザクタイプだった。

 

『ハイザック試作型です。あれのせいでこの様ですよ』

 

 文字通り、エゥーゴのジーラインたちはハイザックと、それが率いるガルバルディα隊に蹴散らされていた。

 ジオンの水陸両用部隊と激しく接戦を繰り広げていたはずの港湾エリアはすでに沈黙。

 増援されたジオン空挺部隊と水陸両用MS部隊の挟撃にあってすりつぶされたようだ。

 まだ数機のジーラインが粘っているが、どこまでもつかはわからない。

 

『艦長、率直に言いますよ。完全にぼろ負けです。トロイホース隊を回すのはやめたほうがいい』

「エゥーゴを見捨て、追撃戦に備えろということか?」

 

 マッケンジー少佐はベレー帽に手をやりながら問う。

 毅然とした態度を維持できているか自信がなかったからだ。

 味方を見捨てて、戦略上正しいことをやらなければならない立場にあるのはわかっているが、どうしてもMSパイロット時代の癖が抜けない。

 それに比べてあの大尉はどうだ。

 いつもは、やれ歓迎パーティだキャンプだとバカみたいなことばかりやってこちらをイラつかせてくるだけなのに。

 今は、味方を見殺しにしても戦力を保持し、万全の態勢で追撃戦に備えろと言っている。

 

『マジかよ大尉。オレはやりてぇんだよ。そのハイザックだっけ? 強そうじゃねぇか』

 

 ヤザン少尉が文句を言い出す。

 この狂犬の手綱をちゃんと握っておけとゴップ閣下に言われてはいたが、どうしたものか。

 

『ヤザン少尉の出番は、あっちだな』

 

 シン大尉から、青いイフリート・ナハト率いるドム・トローペン隊に蹂躙されているジーライン隊の映像が届く。

 

『おうおう、いい動きじゃねぇか、あのイフリート』とヤザン。

『と、いうことで艦長。トロイホース隊であちらの戦場を援護してやってください。ドムの動きを見てくださいよ』

 

 シン大尉にズームされた映像を確認すると、ドム部隊は推進剤を節約しながら移動しているらしいことがわかる、

 射撃戦でも、マシンガンの連射は極力手控えているらしい。

 

 なるほど。

 

 味方を見殺しにはできない、と思ってしまう冷徹になりきれない自分を慮ってか、シン大尉が逃げ道を用意してくれたようだ。

 まったく、いらぬ気遣いばかりうまい男だ。

 シャニーナ少尉がやたらとシン大尉を推す理由がいままでわからなかったが、少しわかった気がする。

 

「なるほど、単なる拘束が目的か。よし、トロイホース隊はあのイフリート率いる隊を蹴散らす。拘束されている友軍を解放するのが目的だ。深追い不要。どうせ退いていくからだ」

 

『そんじゃあ、オレぁ行っていいんだよな、艦長』

「ヤザン隊、出ろ。ほどほどに狩りを楽しんだら直掩に戻れ」

『了解。おら、お前ら出番だぞっ!』

 

 ヒャッハーッっとヤザン隊が飛び去って行く。

 そのトロイホースに残っているMS隊は、直掩のシャニーナ隊だけである。

 

「シャニーナ少尉、どうした? 普段のような口数がないが」

 

 シン大尉が戦っている映像が来ると、ことごとく解説を入れなければ気が済まないシャニーナ少尉が、黙り込んでいるのが不気味だった。

 

『すみません、なんだか頭が痛くて』

「体調不良か? まったく。サンダース曹長、貴様が代行し、シャニーナ機は艦内に戻れ」

『こちらサンダース、了解』

 

 まだシャニーナ少尉は士官学校を出たばかりで経験が浅い。

 シン大尉が頼れる下士官を探してきて付けたらしいから、大丈夫だろう。

 

「よし、本艦もヤザン隊の援護に向かう。進路変更」

 

 とーりかーじ、と操舵手から声が飛ぶ。

 わずかなブリッジクルーのみで運用するべく、数多のAI補助を実装した空飛ぶ計算機であるトロイホース。

 この実戦データの収集もまたマッケンジー少佐の任務である。

 

「さて、ジオンのベテランたちに、お手合わせいただこうか」

 

 マッケンジー少佐がそういうと、ブリッジクルーたちが『応っ』と声を張った。

 

 

 

 

 

 

 行ってくれたか、とシン大尉はラル隊の方向に飛んでいくトロイホースを見送り、視線を戻す。

 意図的に映像共有を切っておく。

 知られても困ることではないが、あれこれとマッケンジー艦長に聞かれると厄介だからだ。

 

「さーて、あれをどうしたもんか」

 

 先ほどはハイザック試作型とその一派にコテンパンにされたことにしたが、事実は違う。

 

 暴走したGP02が敵味方関係なく、暴れまわっているだけだ。

 

 幸いにも、スレッガー大尉が意識を失う前に、アトミックバズーカ関連が収められている貯蔵施設を身を挺して封鎖してくれたおかげで、最悪の事態は回避できている。

 

 それにしても……予想していなかった。

 ゴップ閣下から流してもらっていた情報でも、ガンダム開発計画は普通に核装備――いわゆる原作準拠だと思える情報しかなかった。

 資料で見知っていたGP02の外観も、のちのリック・ディアスに近いそれであったから、まぁ奪われなけばいいか、くらいの感覚で備えていたシン大尉は、己の計算の甘さを呪う。

 

 ガノタなら気づくべきだったのだ。

 戦略級の影響力を持たせるべく生み出されたガンダム試作2号機に、どんなものが盛り込まれるか。

 まだまだガノタとしての修業が足りんな、とシン大尉は苦笑するしかない。

 

「あれ、EXAMシステムだよな……」

 

 デュアルカメラを赤々と輝かせるGP02の姿を見て、そう直観する。

 のちのNTDに繋がっていく、対ニュータイプシステム。

 原作準拠であるならば、ニュータイプが戦場にいればそいつを殺すべく、勝手にバーサーカーになる欠陥システムでもある。

 

 それに真っ向から立ち向かっているのは、クラウン率いる部隊だ。

 ハイザック試作型なんていう旧ガンプラ、マリンハイザックの説明書にしか載っていないものを引っ張り出してくる、クラウンのガノタぶりに感心する。

 おそらく、アイツはこういう事態に備えて開発を進めるよう本国で走り回っていたに違いない。

 股間オレンジのジムでガンダムと決闘させられていたこちらとはずいぶんと違うな。

 

(ということは、この戦場にニュータイプがいるってことになるが……)

 

 あのハイザック試作型は違う。

 というか違っていてくれないと困る。

 カイかハヤト――は残念ながらゴッグの体当たりを食らって意識消失。

 アムロのやつは内陸部の演習場からまだ帰ってきていない。

 残る消去法としては――

 

(自分かっ!?)

 

 ニタァ、と気味の悪い笑みを浮かべるシン大尉。

 

(ついに来たか。人の革新、ネオンジェネシスがよ)

 

 歓喜のあまり、シン大尉は別の作品の言葉まで持ち出してしまっている。

 そもそもGP02が『すでに暴れている』戦場にやってきたこと。

 今もGP02に無視されている事実を正しく認識できないほどに、シン大尉は舞い上がっていた。

 

「いやぁ、乱世、乱世」

 

 などとシン大尉は意味不明な嘆息を繰り返しながら、EXAMシステムを破壊するべくやってきたでだろう、クラウンの激闘をのぞき見していた。

 

 

 

 




やっと次回でトリントン終わりだよ。
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