シン/機動戦士ガンダム   作:すしさむらい

13 / 72
たくさんのお気に入り登録、ありがとうございます。
これからもガノタの皆さんに「こいつ、わかってねぇな……いっちょ教えてやるか」と思ってもらえる話を続けていこうと思います。

――700お気に入り超えについての御礼


第一三話 0083 ジオンに奪われしもの

 

 

 シン大尉は、かつてガノタとして視聴していた映像を思い出す。0083において、ウラキが搭乗するGP01が、ガトーの乗るGP02を抑えんと挑むシーンだ。

 あの構図を撮影するとしたら、こんな感じなのか、などとジムカスタムで戦場カメラマンと化しているシン大尉。

 

 いま、暴れまわるGP02をクラウンがハイザックで抑え込もうとしている。

 いや、そうではない。

 むしろクラウンのハイザックの動きを見るかぎり、GP02を確実に始末するべく動いているようにしか思えない。

 

(ジオンは、GP02なんかどうでもいいのか?)

 

 ついつい原作の知識に頼ってしまう己の怠惰なガノタ部分をどうにかせねばな、とシン大尉は己を戒める。

 

 GP02が目的でないとすると、ジオンの狙いは何か? 頭の中の全ガンダム作品を光速でブン回すが、それらしきヒントは見当たらない。せいぜい、アスタロスくらいしか引っかからないが、あれは生物兵器だ。

 設計データさえあれば、バイオサイエンスの極地へとたどり着いているこの世界の科学力なら普通にどこでも製造できてしまう。もともとジオン生まれの生物兵器であるはずだから、向こうにもデータはある――『およそ政治闘争において重視されるのは、均衡を崩す何かだよ』という、ゴップ閣下のお言葉通りなら、アスタロスなど不要だ。

 

 では、何が均衡を崩す――

 

 そんなことをシン大尉が思案していると、GP02とクラウンの均衡が崩れた。

 どこからか飛来した凶悪な破壊力を持つ砲弾が、GP02に降り注いだのだ。

 だが、GP02はそれを察知して、例の分厚いシールドで防いだ。

 核運用のための防御兵装として設計されているあのシールドは、しっかりと役目をはたしてGP02を守り抜いた。

 だが、二度目は無理そうだ。派手にシールドは損傷している。

 

(な、なんだ? 砲撃? ザメルがやったのだとしたらおかしいぞ)

 

 ガノタたるシン大尉は、当然この戦場のどこかにザメルが潜んでいる可能性については思慮していた。もしかしたらメルザ・ウン・カノーネかもしれないが、と。

 アルビオンが砲撃でボコられた痕を、シン大尉はしっかりと把握していたが、それはラル隊による間接照準射撃なのだろうと考えていた。

 静止目標たる係留状態のアルビオン相手ならば、ランバ・ラルのような戦争屋による正確な誘導があれば当たって当然か、くらいにしか考えていなかった(ブライトの無事を祈る気持ちはあるが、戦闘中はそういうスイッチは切っておく)。

 

 シン大尉が困惑しているのをしり目に、さらに追加の一発。

 しかし、今度はGP02が両肩搭載のあの特徴的なスラスタユニットを使用してクイックなマニューバで回避した。

 シン大尉は、自分なら避けられずに死んでいたであろうことを直観する。

 

(クラウンが誘導している? だとすれば動的目標に対して先読みして砲弾を置いていることになるが……もしや、あいつニュータイプに覚醒したのか?)

 

 シン大尉はイデオン発動編のクライマックスで小さな女の子の首がはじけ飛んだときと同じくらい、衝撃を受けた。

 同じガノタであるのに、やつが、やつがネオンジェネシスして駅のホームをメガネのイイ女と一緒に駆け上がって、初めてのルーブルしやがったのか!?

 

 サイコガンダムではなく、ただのジムカスタムに乗っているはずなのに、シン大尉は完全に強化人間もびっくりの飛躍した思考に至っていた。

 ガノタたるもの、時にはリミッターが外れてしまうこともあるのだ。

 

「ユニバァァァス!!」

 

 そして、シン大尉のジムカスタムがジムライフルを抱えて飛び出していった。

 

 

 

 眼前のGP02の盾をようやく砕いた。

 クラウン自身が磨き上げてきた技術、そしてシャリア・ブル大尉の鍛え上げられたニュータイプ能力をもってしても、ようやく盾一枚。

 連邦のニュータイプ殲滅の切り札たるEXAMの底力に、ガノタたるクラウン大尉はおおいに敬服するとともに、ますます破壊するべきだ、と覚悟が決まる。

 もしいずれハマーン様がニュータイプとしてお目覚めになられたとき、これが殺しに来るなどという事態は避けねばならない。

 

「人を超えた反応、ニュータイプではなしえない無慈悲さ。さすがはEXAMか」

『――クラウン大尉、すないが援護はここまでだ』

「少佐、もしや状況が?」

 

 シャリア・ブル少佐からのサイコデバイス通信から、彼が戦闘に巻き込まれているらしい空気を感じる。

 

『来たよ、連邦のアレが。間違いない、グラナダの悪魔だ』

「アムロ・レイ!? 少佐、撤退を!!」

『もちろんそうさせて――ビットミサイルを使う!』

 

 どうやらガンダム試作0号機がシャリア・ブル大尉に迫っているらしい。自衛用のビットミサイルまで使用しているということは、相当な至近距離戦になっていることだろう。

 

『すまん大尉、集中力をあいつに向ける!』

 

 シャリア・ブル少佐からのサイコデバイス通信の反応が消える。

 サイコミュ装備最大の欠点は、機械のように常時安定したパフォーマンスを出せないことだ。眼前に強敵が現れてしまえば、そちらに気を持っていかれるのも当然である。

 

(少佐、ご武運を)

 

 クラウンはシャリア・ブル少佐とまた再会できることを祈る。シャア・アズナブルに対抗しうる優秀な男を、ここで失うのはあまりにも痛手だからだ。

 

「――少佐の援護なしでも、仕留めて見せる」

 

 クラウンのハイザック試作型が、仕掛けた。

 執拗にGP02の左側へと回り込むようにホバー移動で迫る。

 シールド破壊と同時に、左腕側の駆動系にダメージが入っているのを確認済みだからだ。

 映像作品のウラキに習い、ここは狙わせてもらう。

 

『ユニバァァァス!』

 

 唐突な混線。

 左足くらいは奪えるか? とGP02にビームライフルを撃ちまくっていたハイザックに対して、飛び出した連邦のMSがマシンガンを連射してくる。

 単なる雑兵の乱射ならば問題ないが――飛び出してきたジムカスタムの射撃は、連射という名の精密狙撃であった。

 

「っ!!」

 

 ハイザックをステップさせてすべての弾丸を回避する。

 コックピット内で上下左右に振り回されるクラウンは、レッドアウト間際だ。

 全身の筋肉とノーマルスーツを使って無理やりポンプ機能を働かせて、頭に血を回す。

 地球の重力め……、とクラウンは丸くて青い星に八つ当たりする。

 

 ウザ絡みしてくるジムカスタムだけならまだしも、ジムカスタムによって生み出された隙を、GP02がビームサーベルを抜いて狙ってくる。

 GP02の推力/質量比は約1870。ハイザックの1087と比べたら倍近くある。

 相手の追撃から退くなど無理無茶無駄である。

 

「なんとぉぉぉっ!!」

 

 宇宙海賊よろしく、雄叫びを上げるクラウン。

 GP02の一撃からは逃れられないと計算し、MODを起動。

 格闘戦コマンドで強引にGP02のビームサーベルをいなし、さらにはGP02の腕にハイザックが絡まる。

 まるで人間の格闘家のようにGP02にまとわりついたハイザックが、そのまま全機体重量と推力を使って、GP02を組み敷いた。

 派手に地面に打ち付けられるGP02、そして砕け散る路面とコンクリート。

 巻き起こる土煙の中で、GP02のバルカンが飛び交う。

 

「そのまま寝ていろ!」

 

 EXAMが搭載されているであろうGP02の頭部にヒートホークを叩き込んでおく。

 これでGP02は機能停止か?

 動かないGP02が万一再起動しても困るため、トドメと言わんばかりにコックピットを潰したいが、ゴキブリのようにしぶとく狡猾な動きをするジムカスタムに邪魔される。

 

「くそっ! さらにできるようになったか、シン!」

 

 かつてア・バオア・クーで殺しあった強敵(友)との再会。

 0083のシチュエーションであることに、クラウンはガノタとして神に感謝した。

 これほどまでにガノタとしての魂を燃やすシチュエーションがあるだろうか。

 

「こい、シン。モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的な差であることを……教えてやる」

 

 クラウンのハイザックがビームライフルを抱えてホバー移動でジムカスタムに迫る。

 ジムカスタムが連射からバーストに切り替え、ハイザックのボディを正確に狙って発砲を繰り返す。

 

「正確すぎるな、お前の射撃は」

 

 だからこそ逆に読める。

 ジムライフルの特性、射線軸、そしてジムカスタムのFCSをすべて熟知しているであろうこその、無駄のなさ。

 その無駄のなさこそが、貴様の弱点だ、シン。

 

「――そこだっ!」

 

 素早くビームライフルを連射。

 シンが素早く反応して、逃げ行く先であろうスペースにビームを置いておく。

 互いにガノタ同士であるからこそわかる、先読み。

 一瞬だけ己がニュータイプのようなふるまいをしていることに、クラウンは苦笑いする。

 

「許せ、直撃だ」

 

 クラウン大尉には見えていた。

 先置きしたビームの先にジムカスタムが飛び込んでいく様を。

 まさに無駄のない回避。

 間髪入れずにこちらの初撃に反応したが故の、死地。

 奴との腐れ縁もここまでか、とクラウン大尉は彼の冥福を祈った。

 

 

 

 180度開脚で素早く地面に倒れこみ、匍匐のままカウンターでハイザックのボディを狙撃するジムカスタム。

 MSが人間と違って、ソフトウェアさえインストールしておけば、機械的制約の限界まで駆動させることを熟知しているガノタとエンジニアによって作られたGマニューバ。

 断じてゴキブリではない。

 

「油断したな、クラウン」

 

 あまり格好のいい姿勢ではないものの、バースト射撃で放った弾丸は、クラウンのハイザックのボディにヒットしていた。

 ただ、装甲の厚みと、直撃間際に避弾経始を意識して機体を傾けたクラウンのワザマエのせいでキルはできなかった。

 

 シン大尉のジムは素早くアポジモータとスラスターを使って跳ね起き、後退して遮蔽物に身を隠す。

 ハイザックがビームライフルのEパックを交換して、遮蔽物もろともこちらを撃ち抜こうとしてくるので、さらに後方へとバッタの如くZ字に移動を繰り返しておく。

 

「やはりニュータイプ、だよな」

 

 先置きされたビームには、さすがに殺されると思った。

 Gマニューバを開発していなかったら、確実に命を焼かれていただろう。

 

「あー、どうする? ジムカスタムはいい機体だが、完全に火力負けしてるぞ……」

 

 シン大尉に検討する時間は与えられなかった。

 ハイザック試作型が、直撃をキメられない新型のビームライフルを撃つのをやめて、腰に備え付けられているマルチランチャーからぽんぽんとミサイルを撃ちだしてくる。

 ミノフスキー粒子下での誘導性能は低下しているものの、近接信管のロケット弾としては有能で、こちらの駆動部に爆風でミシミシとダメージを与えてくる。

 

「あーあー、そうやっていやらしい攻撃しやがって。これだからガノタは」

 

 自分があちらに乗っていたら仕掛けるだろう戦術を、遠慮なく実行してくるクラウンにいらいらが募る。

 まさに同族嫌悪である。

 

『よぉ、大尉、こちらヤザン。青いイフリートなんだが――逃げやがった。まったくよ、お預けかよ』

 

 まだ基地の通信リレーや、トロイホースが残していってくれた通信中継ドローンが生きているらしい。通信は極めてクリアだ。

 

『そちらさんはどうなんですかね、大尉?』

「ハイザックとガチンコでやりあってる。このままだと包囲されるな。生き残っている連中を引っ張ってアルビオンまで後退する」

 

 アルビオンの周りには、残存しているエゥーゴ部隊が集結してクラウン隊のガルバルディαと交戦している。アルビオンの近接防御火器が弾幕を形成していることから、まだアルビオンの指揮統制は崩れていないことが読める。

 

『了解。俺たちはどうすりゃいい?』

「そっちが救出したエゥーゴ連中を率いて、トロイホースの直掩に回れ。マッケンジー艦長には自分から連絡を入れる。敵の攻撃は、もう一波あるはずだからな」

『おっ、最高じゃねぇか。青い巨星の次は、赤い彗星でも出てくんのかぁ?』

「期待しておけ。補給は受けておけ」

『了解。オラっ、隊長様のご命令がでたぞ! 全機母艦にて補給だ』

 

 ヤザンとの通信を終える。

 この通信のさなかにも、空気を読まないガノタが乗っているハイザックが執拗にジムカスタムに仕掛けてきていた。

 今はまさにビームサーベル同士のつばぜり合い。

 こちらの通信だって聞こえる距離だ。

 

「――すっかり熱くなってるな、クラウン」

 

 余計な挑発に乗って、冷静さを欠いてくれないか? などと計算含みの会話を始める。

 同時にマッケンジー艦長に『敵、増援ありと思料。トロイホース隊によるアルビオンとの協働を具申』と打っておく。

 即座に、数分マテ、との指図とシン大尉の合流予定座標が届いた。

 さすがマッケンジー艦長。

 超有能。

 

『――私は冷静だよ、シン』

 

 目の前のクソ有能野郎からもレスがあった。

 

「冷静な奴は自分で冷静だなんていわねぇだろ」

『ガノタは自分をガノタだと思わないのか?』

「うっ」

 

 いかん!? こちらが動揺を誘われた!?

 

 ジムカスタムからバルカンが連射され、それを嫌ったハイザックが距離をとる。

 素ジムとはバルカンの威力が違うのだよ、威力が。

 

「あの野郎――」

『さっさと退いてしまえよ。シン。お前は私に勝てない。戦う理由がないからだ』

「一ついいこと教えてやるよ。自分は昔から兵士でな。戦う理由なんてなくても敵を殺せる」

 

 そう、スイッチを切ればいいだけだ。

 理由の強さも、愛の強さも、自分の前では意味がない。

 最後に立っているほうが個人レベルでは勝者なのだということを、戦場を渡り歩いてきたかつての自分が身をもって知っている。

 

 ――そう考えないと、死んでいった連中が可哀そうだ。

 思いが弱いから負けたのか?

 愛が足りないから負けたのか?

 違う。絶対に違うはずだ

 たった二人で行われる決闘形式でない限り、思いや祈りの強さなど、鉄量と火薬に押しつぶされるだけだ。

 総力戦とはそういうものだ。

 命をコンベアに乗せて出荷し続ける戦争形態に、個人の想いや願いなどの、本来は貴ばれるべき人らしさなどは意味をなさないのだ。

 

『――お前とは、分かり合えるはずなんだがな』

「自分も、そう思うよ」

 

 シールド裏からマガジンを取り出し、ジムライフルの弾を補充。

 ここからはしつこく、粘り強く、やつを追い詰める。

 戦術的にみて、先に兵装の補給を必要とするのはあちらだからだ。

 GP02戦でEパックもザクマシンガン改の弾薬も減らしてしまっているアイツに対して、シン大尉は兵士としてのいやらしい戦い方で勝ち筋を決めるつもりだった。

 

 

 

 

 海鳥が飛び交うシドニー湾を航行するザンジバル級機動巡洋艦『ペールギュントⅡ』からドダイに乗って発進する機体群。

 先を行くのは、アナベル・ガトー少佐のギャン・クリーガーである。ジオンの敢闘精神を形にしたような騎士めいた機体をギレンから与えられたときのことは忘れまい。まさに、自分がジオンの戦士であると認められた瞬間だったからだ。

 シールド裏のダブルビームガン、そして機体を特徴づける身の丈を超える大型ビームランス。

 艦艇すらも大槍で貫くという並大抵ではない戦闘機動を現実のものとすべく実装された大出力スラスター及びアポジモータ。

 

(これがあれば、ソロモンでもっと多くの友軍を救えたものを)

 

 ない物ねだりではある。あの時はリックドムの改良品に試作型の大型ビームバズを持たされたもので挑まざるを得なかった。数限りある弾数で救える味方は少なかったのだ。

 エネルギーCAP技術の遅れという戦略的な失敗を戦術で取り返すのは難しいと体感した苦々しい記憶でもある。

 

 だが、今は違う。

 Eパックの実用化にも成功し、いまやジオンとてビームライフルを使えるのだ。

 いまガトー少佐率いるガトー分遣隊のMS群のザクF2もゲルググ用に開発されたビームライフルのEパック改修版を装備させている。

 ザクの改修機ではあるが、乗り手は一年戦争を駆け抜けてきた強者たち。

 そのような者たちに、ビーム兵器を与えるということが戦力の向上においてどれほどの価値を持つか、ガトー少佐は十分に理解していた。

 

(これならば、任務を果たせよう)

 

 潜水艦群とラル少佐による奇襲攪乱。

 そしてクラウン隊による『護衛機』たるGP02の排除。

 ギレン閣下がほぼ正規戦に相当する戦力を投入してでも敢行した、トリントン基地急襲作戦の完遂まで、あとわずかだ。

 

『こちらブラウエンジェル。ついに目標を確保した』

 

 長らくアナハイム・エレクトロニクスに潜入していた敏腕諜報員であるエージェント、ニック・オービルから秘匿通信が入る。

 すべての攻撃は、トリントン基地にアナハイム社スタッフとして潜入したニック・オービルの任務を達成させるためのブラフ。

 

 トリントン基地、いや、レビルとアナハイム・エレクトロニクス社がたった一人のために戦力と金を惜しまなかった事実。そしてギレン閣下がこれほどの戦力を投入してようやく手に入れる機会を得られるという事実。

投下される命の量と、物量が、ブラウエンジェルが狙う人物の重要性を物語っている。

 

「――まさに、忠義。貴公の退路を必ずや確保しよう」

『頼んだ、ソロモンの悪夢。以上』

 

 かのテム・レイ博士の後継者としてV作戦を引き継ぎ、ビンソン計画の技術草案も企画。ガンダム開発計画においても様々な次世代技術を生み出した天才、モーラ・バシット技術大佐。

 彼女こそが、かの連邦の古狸、ゴップ元帥ですら手に入れられなかった、レビル将軍の懐刀である。

 レビルのエゥーゴ結成にも噛んでいるという、政治的にも重要なこの人物を確保し、ギレン閣下の下にお連れするのが任務だ。

 

(一人の女性をめぐる、総力戦。まるで神話時代の戦争だ)

 

 だが、ガトー少佐にとってはそれもまた一興である。

 もとより、ジオン公国とは神話性に則り生まれたものであり、自らもその神話の登場人物として現れるであろうことに、心躍らぬはずもなし。

 

「各機、傾聴。我々がこれより、星の屑作戦の第一段階を締めくくる。ブラウエンジェル及び彼のパッケージの退路確保及び、回収を目標とし、突撃する」

『了解』

 

 眼下に小さく見えるトリントン基地。

 飛び交うビームや砲弾の閃光、のぼる黒煙と白煙。

 あれこそが、アスタロスも、核も、ガンダムすらも無価値にする、一人の女性をめぐる神話のステージ。

 

「各機、降下用意――降下!」

 

 ガトー率いる作戦の仕上げ部隊が、整然とした隊列でドダイを傾け、一斉に降下する。

 

 

 

 

 マッケンジー艦長は、対空戦の準備を進めていた。

 駐屯地側の航空部隊が、敵増援の空中機動作戦を確認、と知らせてくれていたからだ。

 情報優越はある、とマッケンジー艦長は確信している。

 幸いかな、ジオンの地上部隊のエースを抑えてくれているシン大尉からも、この事態を予想してアルビオンと連携するべき旨の具申は届いていた。

 

「ヤザン隊、補給状況を知らせろ」

『問題ねぇ、です、艦長どの』

「よし、艦砲射撃後、貴官らは突っ込め。お待ちかねの敵のエース部隊だぞ」

『さっすが艦長、物分かりがいいぜ――けど、地上の連中はどうすんだ? 俺らの援護なしだと、エゥーゴさんはやられるかもしれん』

「シン大尉とシャニーナ隊に支援させる」

『少尉ちゃんはさておいて、大尉はどう考えても無理だろ?』

 

 ヤザンが懸念しているのは、敵のエース、おそらく『王冠のクラウン』だろう――との戦いに集中しているシン大尉がシャニーナ隊とともに地上部隊の支援をするなど不可能だということだろう。

 だが、マッケンジー少佐はそうは考えない。

 あの男は酷使すべきだ――というゴップ元帥からのアドバイス通りに、無理筋な仕事をやらせておこうと考えていた。

 つまり、王冠のクラウンをひきつけながら、友軍の戦線に合流させることだ。

 かのシン大尉はなんだかんだでMS隊の運用もうまい。シャニーナ隊との連携及び、残存エゥーゴ隊を任せれば、あわよくば王冠のクラウンを始末するだけでなく、敵を退かせることができるかもしれない。

 

「やらせると決めた――よし、艦砲射撃、開始」

 

 了解、と砲雷科からの応答。

 トロイホース搭載の火砲が、迫りくるジオンの空中機動部隊に向けて連射される。

 大量のミサイルとメガ粒子の雨がジオンの連中に降り注いだが、確認される有効射は期待したほどではなかった。

 

「さすがはベテランだな。ヤザン隊、暴れてこい」

『あいよ。ぶち殺してやらぁ』

 

 ヤザン隊のジムカスタムが突撃していく。

 

「味方にあてるなよ。統制射撃、ミサイル、撃て」

「了解」

 

 砲雷科の発射したミサイルが、ヤザン隊の間隙をすり抜けていく。

 そして、敵が散開。

 ヤザン隊は複数:1を実現すべく、機動的に集中攻撃を始める。

 よし、足止めくらいは確実にこなせそうだな、とマッケンジー少佐は確信する。

 

『――マッケンジー少佐! 聞こえるかね?』

 

 基地司令からの通信? シナプス大佐は確か、基地のシェルター兼統合作戦司令部から駐屯地部隊の指揮に注力しているはずなのだが、なにかあったのだろうか?

 

「はっ、こちらマッケンジー少佐です」

『失礼を承知で頼みたいことがあるんだが――』

 

 言いにくそうなシナプス大佐に、マッケンジー少佐は率直に答える。

 

「大佐、政治的なあれこれの配慮は不要です。大佐がそれを得意としないことは存じております――少なくとも、私の尊敬する教官殿であったあなたは、そういうものが苦手です」

 

 かつて艦艇運用の基礎指導をエイパー・シナプス大佐から手ほどきされたことを思い出す。厳しい指導ではあったが、一介のMS乗りでしかなかったクリスティーナ・マッケンジーを、曲がりなりにも艦長たりうる存在に仕上げてくれたことは感謝している。

 

「そうか、そうだな――では結論からだ。我々トリントン基地が守り通してきた人物が、略取・誘拐された。今は警護についていたエコーズ226とエコーズ303が追撃しているが、すでにシェルターからは連れ出されてしまった」

 

 エコーズ、と聞いてマッケンジー少佐はその人物がいかに重要な人物か把握した。レビル将軍子飼いの特殊任務部隊たるエコーズは、連邦の犬などと蔑まれながらも無数の特殊作戦を成功させてきた忠誠心の化物たちである。

 かつて、キシリア機関と共謀して虜囚たるレビル将軍をサイド3から連れ出したのもかのエコーズであったとは、ゴップ元帥からも聞いている。

 

「――了解。ジオンの狙いは、GP02や、アスタロス、核などではないということですね」

 

 シン大尉め、この三つのうちのどれかかもしれませんなどと事前レクでほざいていたが、全く読みが外れているではないか。

 

「それで、その重要人物というのは?」

『モーラ・バシット技術大佐だ。若く、大柄でたくましい女性だよ。外観データを送るから、地上で確認次第、直ちに救出してくれたまえ』

「了解」

 

 シナプス大佐から送られてきたデータを確認して驚いた。

 若く、と聞いていたが本当に若く、まだ20代であった。にもかかわらず、技術大佐という連邦の人事制度ではありえないほどのスピードで昇進している。しかも、その人事データの取り扱いは特定の士官のみが取り扱える、NeedToKnowの原則に従った情報区分に分類されていた。

 まさに、機密そのものである。

 

 さて、残念なことにトロイホースは歩兵部隊を乗せていないため、こういう事態への対処能力は極めて低い。何なら艦内に突入された場合、CDCに立てこもる以外手がないくらいの少人数体制で任務に従事しているからだ。

 

 しかたなく、次善策を命じることにする。

 

「シン大尉、聞こえるか?」

 

 無線からしばらく応答がなかったが、何度か繰り返すと返事があった。

 

『はい、こちらシン大尉。ちょっと今手が離せないといいますか』

 

 映像が来る。ジムカスタムが銃剣でハイザックを仕留めようとしているが、ハイザックが得体のしれない格闘術で逆にジムカスタムを転がしている。

 

『くっそ! ゲルマン流忍術かよっ! くそクラウンがっ!』

 

 シン大尉が悪戦苦闘する相手は、やはり星一号作戦で連邦のMS部隊を恐怖に陥れた『王冠のクラウン』らしい。

 

「大尉、ニンジャがどうした? いや、それはいい。それよりジオンの意図がわかったぞ」

『えっ? それって今この状態で聞いたほうがいい話ですか?』

 

 シン大尉のジムカスタムが得体のしれない動きをするハイザックの拳に打ち据えられているが、マッケンジー少佐は意に介さないことにした。

 

「奴らの狙いは、モーラ・バシットなる技術士官だそうだ」

『アイェェエ!? モーラ!? モーラさん、ナンデ!?』

 

 やはりな、とマッケンジー少佐は確信する。

 明らかにシン大尉は動揺、いや、困惑している。

 そして間違いなく、モーラ・バシットを知っているな。

 

「貴官は知ってるな、彼女を」

『技術士官ですよっ! ガンダム開発計画にも参加して……いや、確かに姿は見たことないですけども……』

「とにかく、ジオンは彼女の強奪を任務目標としている。すでに拉致され、エコーズが救出作戦を遂行中だ」

『エコーズが!? なんで特殊任務部隊まで出てきてるんですか――』

 

 そこで通信が切れた。

 シン大尉のジムカスタム側の何かが壊れたのか? つながらない。

 よくまぁ白兵戦をやりながらあれだけ会話できるものだと感心した。

 やはり、やつの技量には疑いがない。

 しかし、シン大尉はあまりにも多くを知っている。レビル将軍によって守られてきたモーラ・バシット技術大佐についても、当然のように情報を持っていた。指揮幕僚課程でその存在と運用を学ぶエコーズについても十分知りえているらしい。

 ゴップ元帥の手駒だとは聞いていたが、警戒は必要だな、とマッケンジー少佐は自らの保身のためにも、あまりシン大尉とはかかわらないほうがいいと確信する。

 硬い軍人の殻をかぶって任務にあたっているが、クリスティーナ・マッケンジー個人としては、家に残してきた冴えない彼氏であるバーニィをちゃんと養っていきたいだけなのだ。

 

 

 

 シン大尉はコックピット内で友軍向けの秘匿通信スイッチをいじるが、ダメそうだ。

 すっかり格ゲー時にコントローラのボタンがめり込んだあの状態になっている。

 

「もしもーし! くそッ、ボタンが戻らん!」

 

 モーラ・バシットさんが狙われていると聞いて、あまりにも動揺して力強く応答スイッチを押したのが原因だろう。

 

「クラウンっ! なぜモーラさんを狙う!」

『――貴様には話せん!』

 

 オープンの指向性通信のほうは元気いっぱいだ。別に会話したくないクラウンと好きなだけおしゃべりできる。

 くるくると、まるで体操選手のように伸身宙返りをキメて、10点満点の着地を決めたハイザックに問う。

 というか、ゲルマン忍者の動きを入れているクラウンのセンスに狂気しか感じない。

 お前、体鍛えすぎだろ。常識的に考えて、重力下でその動きはパイロット的にヤバいじゃないかと突っ込みたい。

 

「あーあーそうかよっ! どうせお前はハマーン様のことしか話してくれないもんなッ!」

『なんだとっ! 聴きたいのかっ!?』

 

 そこ食いつくのかよ、と思いつつシン大尉はそろそろ弾が乏しくなってきたジムライフルを単発射撃に切り替える。

 ジムカスタムが、ライフルを抱きかかえて射撃を繰り返し、社交ダンスのようにリズムに乗って戦場を大きく動き回り、ハイザックから少しずつ離れていく。

 マッケンジー艦長から指図された通り、友軍と合流するためだ。

 まもなく、味方との連携がとれそうだが、通信機というかボタンがやばい。

 

『隊長、聞こえていますか? わたしです、シャニーナ少尉です』

 

 頼れる我が部下の声に、シン大尉は安心感を覚える。

 問題は応答してやれないことだ。

 いや、オープンに切り替えればいけるか?

 でも設定を切り替える隙をクラウンが与えてくれない――。

 できるなら、シャニーナ少尉が乗るジムキャノンⅡで弾幕を張って、このうざいクラウンを引きはがしてほしい、と言いたい。

 

『――わかりましたっ。同軸射撃で援護します。隊長なら、大丈夫!』

「ちょっ、おま――」

 

 なぜかわからないが、シャニーナ少尉はこちらの意図を読み取ってくれたらしい。

 それは大変ありがたいが、同軸射撃?

 それって自分と同軸に敵を撃ち抜くってことですよね?

 

「っ!!」

 

 急激な横Gに意識を持っていかれそうになりながらも、シャニーナ少尉のジムキャノンⅡから連射されるメガ粒子砲を回避する。

 クラウンもいかれた反射神経で回避したが、さすが同軸射撃。

 こちらよりも反応がほんのわずかに遅かっただけあって、半身を持って行く。

 

『ハメやがって! 許さんぞ、シン!』

「悲しいけど、これって戦争なんで」

 

 シン大尉は躊躇なくジムライフルを構えて、倒れているハイザックのコックピットを狙う。

 さて、死ね、と引き金を引こうとしたその時であった。

 

『大尉、よけろっ!』

 

 ヤザン少尉のジムカスタムが落ちてきて、シン大尉の機体を弾き飛ばした。

 

「おうふ……」

 

 めり込んだシートベルトのせいで、息が詰まる。

 

 どうやらヤザン少尉は敵の――ギャンクリーガー!?

 なんでそんな格闘オバケがここにいるんだ?

 というか、四肢が青く塗られていることから鑑みるに、それガトーさんですよね? とガノタの素早い推論回路が機能する。

 どうにか伝えねば――お、ラッキー!

 

 ヤザン機にぶつかられたおかげで、通信スイッチのめり込みがなおってる!

 

「ヤザン少尉、君の獲物だろう? 自分が手を出していいのか?」

 

 やりあってはいけない敵キャラランキングに組み込まれているアナベル・ガトーとは、接触すら避けたいのがシン大尉の本音だ。

 できる限りヤザン少尉のプライドをくすぐる感じで通信を送る。

 

『上等だぜ、大尉さんよ。こいつぁオレが仕留めてやらぁ!』

 

 よし、託したぞヤザンっ! と思いきや、ギャンクリーガーがヤザン機を蹴り飛ばし、こちらに突っ込んできた。

 

「ウソぉ!?」

 

 シン大尉はGマニューバを駆使して、ギャンクリーガーから繰り出されるフェンシングスペースノイド代表レベルの連続突きをギリギリで回避する。

 

『むぅ、このジムもエースっ!』

 

 ガトーの激渋な声。

 やったぜ、ガトー様に認めてもらって大歓喜、とガノタらしく喜びたいところだが、今まさに集中力を切らしたら即死なので、ただひたすらにジムカスタムと一つになる。

 俺が、ジムカスタムだ。

 

『クラウン大尉、助太刀しよう』

『少佐、私よりもブラウエンジェルをっ!』

『蛇の道は蛇という。ブラウエンジェルはキシリア様の特殊海兵隊が確保中だ――シーマ・ガラハウ中佐には、今度酒の一本でも持っていかねばらならんな』

 

 なんだろう、しゃべりながら余裕でこちら殺そうとするのやめてもらっていいですか? とシン大尉は論破おじさんになりたい気持ちで一杯であった。

 なにせ、ガトー少佐、今度は殺意満々のシールド裏のダブルビームガンでこちらを狙っているからである。

 ギャンならギャンらしく、サーベルオンリーにしてほしい。

 おのれ、ギャンクリーガーめ。

 あと、ヤザン、あなた僕を助けていただけませんかね? 建物潰して倒れてる場合じゃないですよ、それはジェリド構図だからね。

 

『いずれまた戦場で会おう、連邦のエースたちよ』

 

 クラウン入りのインジェクションポッドを抱えたギャン・クリーガーが、迎えに来たドダイに颯爽と飛び乗り、大空の向こうへと去っていく。

 ガトーの撤退シーンを演出するかのように、ハイザックの残骸が自爆。ガトーの後退する姿を覆い隠した。

 

『クッソ、どこ行きやがった、ソロモンの悪夢!』

 

 機体の姿勢制御を取り戻したヤザンのジムカスタムがシン大尉の隣にダッシュでやってきた。

 

「空の向こうだよ」

『んだよ、それっ!』

 

 舌打ちをしながらもシン大尉のジムカスタムを助け起こすヤザン。

 

『大尉、敵が退いていきます』とシャニーナ少尉からの通信。

 

 トロイホースから提供される戦況マップも敵の攻勢が終わりを迎えたことを示していた。

 

『完敗、だな』

 

 マッケンジー艦長からの通信。

 核でも、アスタロスでも、ましてやGP02でもない。

 なぜか知らないが、モーラ・バシットさんを奪われてしまった。

 まさか0083タイムラインで、モーラさんをめぐる戦争やるなんて予想は、シン大尉にはできなかった。

 くそっ! もっとできるガノタになりたいっ……とシン大尉はヘルメットを投げ捨てた。

 跳ね返ったヘルメットが額にあたり、ううっ、とうずくまる。

 

「艦長、バシット技術中尉の件ですが――」

『中尉ではなく、大佐だよ。いちいち偽装情報を送らんでいい。真実は知っている』

 

 え?

 モーラ・バシット技術大佐……?

 原作では技術中尉で、いい感じの姉御肌の御仁だったはず。キースと仲良しになるという展開もまた、ガノタとしてはリアルで見てみたいシーンだったのだが。

 

「一体、何が起きてるんだ?」

 

 シン大尉は0083を再度脳内再生したが、何一つヒントは得られなかった。

 




おわったぁ! トリントン基地編、終了!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。