シン/機動戦士ガンダム   作:すしさむらい

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モンターグは歩きながら、横目でひとりひとりの顔をちらちらと盗み見ていた。
「本を表紙で判断してはいかんぞ」と誰かがいった。
全員が静かに笑い、下流への旅はつづいた。

──レイ・ブラッドベリ『華氏451度』


第一七話 0083 Gの激突戦域

 

 

 グワジンの艦橋付近に、それなりの数のジムカスタムと、ジムキャノンⅡが展開していた。

 これらを包囲するようにジオンのMS部隊も待機している。

 とはいえ、緊張感こそあれども、一触即発という雰囲気ではない。

 

 今、ワイアット大将とキシリアのトップ級会談がグワジンの艦橋で行われている。

 

 随行団として待機を命じられているシン大尉は、ジムカスタムのコックピットにてダージリンの風味を楽しんでいた。

 ワイアット大将の随行部隊としてグワジンまで同行するMSパイロットに対しての、大将閣下からのねぎらいである。

 もしワイアット大将に何かあった場合、随行部隊は相手の艦橋を潰してその仇をとる仕事を任されているため、紅茶一杯で命がけの仕事をさせられているともいえる。

 しかし、嫌いではなかった。

 当然のように死ねと言える立場のワイアットが、あえてMS隊を慮っているのだから。

 

(ワイアット無能説を作り出したギレンの野望は恐ろしいですなぁ。くわばらくわばら)

 

 などと、シン大尉はガルダの機関砲の威力がアルビオンの主砲より強かったゲームを思い出した。

 

『隊長、ジオンのあの機体、ご存じです?』

 

 シャニーナ少尉のジムキャノンⅡが、有線通信で話しかけてきた。

 彼女が気にしているのは、特殊な兵装をしたニンジャザクである。そこはかとなく戦装束を思わせる意匠と、影の者の佇まい。

 うそでしょ。Gの影忍!?

 

「――あれはキシリア機関の忍者部隊だ。あまり見るな。心を殺されるぞ」

 

 もっともらしいことを言ってごまかす。

 

『ニンジャ?』

 

 連邦政府における特殊作戦部隊の代表格がエコーズであるならば、キシリア機関の軍事部門である影忍たちはその対となるものたち――なのかもしれない。

 

 そんな忍者部隊が出そろっていることを考えると、ワイアット大将が取引するブツの重要度がわかるというものだ。

 

(ワイアット大将が取引するもの……星の屑作戦の全貌、という話ではなさそうだが)

 

 シン大尉はうんうんとジムカスタムのコックピットで知恵を絞る。

 モーラ・バシットがトリントン基地から奪われた理由もわからないままに、ただゴップ閣下の命令に従ってワイアット大将の護衛に付いているだけだ。

 

 いや、それも思い違いか、とシン大尉は思い直す。

 ゴップ閣下とシン大尉は互いに相互補完関係にあるはずだ。ゴップはその立場上、戦場に身をさらすことができない。そんな彼女――彼の使える手足たるべきなのが自分か、とシン大尉はコックピットのグリップを握る。

 

『――S909へ。ティータイム完了。ゲストをエスコートせよ』

 

 マッケンジー艦長からの命令が下る。

 

「各機、ランチを守る。所定の位置につけ」

 

 戦術状況マップには、各隊が素早く配置についた様子が映っている。

 ヤザン隊やシャニーナ隊、そして支援に来ている空母フゲンからのジム改たちも仕上がった連中であることがわかる。

 

『――大尉、ゲストのエスコートはヤザン隊に任せろ』

 

 マッケンジー少佐からの命令。

 

「はい。それは問題ありませんが、自分とシャニーナ隊は?」

『VIP対応だ。VIPをスパルタンにくくりつけろ』

 

 プランが送付されてきたので確認する。

 なにやら小型の隕石をスパルタンの後部甲板にのせ、ルナⅡに輸送するらしい。

 何だ、何か知っている気がする――と、ガノタの何かが囁いてくる。

 

(ビューティ・メモリ!?)

 

 シン大尉のガノタデータベースから該当する重大オブジェクトがヒットする。

 人類史のすべてを記録として保持するデータの怪物であり、人類救済インターフェイスでもある。

 これは普段岩石に覆われていて、開くためにはガンダムが必要だ。選ばれた、ガンダム。

 いわゆるアムロの遺産というやつだ。

 

(……アムロ本人がいるから開封は問題ないとして、あれをどう使うつもりなんだ?)

 

 シン大尉はガノタとして思考を鋭敏にする。

 トミノが残した膨大な資料を振り返りながら、いかなる可能性があるか推論エンジンをフル回転させる。

 

(ビューティ・メモリによるイデ発動の阻止?)

 

 飛躍しすぎているか? と一瞬、シン大尉は躊躇した。

 確かに第六文明人の集合意識に対抗するためには、地球圏人類の総合知性であるビューティ・メモリを利用する筋もありうるかもしれない。

 だが、それはある意味でビューティ・メモリ――我々が理解できない知性を持つ、新たなる文明人、第七文明人を第六文明人に接触させる、ということにならないか?

 であれば、それはかのトミノによる『イデオン 接触編』と何が違うというのか?

 

(危険すぎるな。こんな手をゴップ閣下が考えるかな?)

 

 そんなことを思いながらも、シャニーナ隊と協力して受け取った『VIP』の岩をスパルタンの後部甲板に固定した。

 超硬度ワイヤをがっちり巻き付けてあるので、ほどくだけでも一苦労だろう。

 

「VIPの直掩は、そちらに任せる」

『了解、大尉』

 

 イオ中尉のフルアーマーガンダムTB以下、スパルタンMS隊がVIPの面倒を見ることになる。

 うらやま……自分もガンダム乗ってみたいな、などとくだらない嫉妬をイオ中尉に向けつつ、引継ぎ指図をしておく。

 

 シャニーナ隊を引率してトロイホースに戻ると、ヤザン隊もワイアット大将を送り届けたらしく、着艦指示を待っていた。

 

『各機、冷却終了次第着艦せよ』

 

 管制からの許可を待ちながら、シン大尉は0083時空について思いをはせる。

 いまや原作と大きく変わってしまっているから参考にはならないが――もしかしたら、と、コロニー公社の新造コロニーが近所を走っていないか確認する。

 

(……いるな)

 

 コロニー再編計画に基づき、ラグランジュ点L1のルウムを復興させるべく、連邦政府肝いりの新造コロニーが輸送されていた。

 連邦政府からすれば、サイド3を抑えるための前哨としてどうしても復興させたいサイドではある。サイド1及びコンペイトウ(旧ソロモン)との相互連絡線を整備するという観点から考えても、まさにルウムは最重要サイドである。

 

(こんな目と鼻の先に前哨拠点を整備されるなんて、ジオン側としたら我慢ならんはずだが)

 

 キューバに核ミサイルを持ち込んだら大変なことになりました、という旧世紀の事例と、ほぼやっていることは同じだ。

 正しいルウム復興の在り方は、ジオンと連邦の共同復興事業とすることだろう。両国の緩衝地帯として設定し、互いに艦隊を駐屯させ、牽制しあえばいい。疑似的な38度線のようになるはずだ。

 そこに住む住民たちにとってはある種の賭博だが、両国が財政出動する以上、もっとも豊かなコロニーになる可能性は高い。

 

(まぁ、政治家同士のネゴがあったんだろう)

 

 そんなことを考えていると、管制から通信が入った。

 

『S909、着艦せよ』

「了解」

 

 シン大尉のジムカスタムがスムーズにトロイホースに着艦する。

 

 

 

 

 ジオン艦隊が突然背後から艦砲射撃をかましてくる――などということもなく、ワイアット特務分遣艦隊及びハンフリー戦闘団はしずしずとルナⅡに向けて航海を進めていた。ラグランジュ点としてはサイド3から最も遠い距離にルナⅡは位置している。

 

 それなりに時間はかかるだろう――ということで、マッケンジー少佐は三交代制を実施し、4時間勤務8時間休憩を繰り返すシフトを敷いた。

 いわゆる、ワッチ制である。

 とはいえ、警戒態勢にないワッチであるので、MS部隊は指揮官のみワッチ勤務となり、パイロットの大半は単純な休暇入りとなっている。

 

 さて、ヨンパーワッチを担当しているMS部隊の指揮官は、もちろんシン大尉であった。

 ハンガーエリアに併設されているパイロット待機所で、超時空おしるこなどをキメながら、定時報告、異常なし、を繰り返していた。

 

 そして、うーんうーんと下手な考え休むに似たり、を繰り返す。

 なにかこう、引っかかるんだよな、とガノタ心がうずいているのだが、それがなんなのか言語化できない。

 うーん、輸送中のコロニー……でも、デラーズフリートはギレンの指示のもと、正規軍として行動しているわけだから、『そうだ、コロニー奪おう』みたいな野蛮な話にはならないはずだ。デラーズさんが頭どうかしてたらありうるが、ギレンが生きている以上、あの忠誠心お化けが独断専行するなどありえない。

 

「もしかして……このまま0083は平和裏に完結してくれたりして」

 

 トリントン基地で死人は出たが、史実に比べれば被害は極小。北米にコロニーが落着することに比べたら、ほぼトゥルーエンドではないかとすら思えてくる。

 

 まぁ、なんかいい感じに歴史が動いてくれたってことで――などとガノタとしてもっとも卑しむべき妥協思考によりかかりそうになった、その時である。

 

『総員、起こし! 総員、起こし! 第一種戦闘配置、繰り返す、第一種戦闘配置』

 

 艦内警報がガンガン鳴り響く。

 何事? と思いつつも、シン大尉はダッシュでハンガーエリアに飛び出し、ジムカスタムに駆け寄る。タラップを制御しながらノーマルスーツのジッパーを上げ、ヘルメットをかぶる。

 

 コックピットに飛び込み、オールスタンバイ。

 モニタに映る景色は、いつもの殺風景なハンガーエリアである。

 

『搭乗次第、MS順次発進。フル兵装でいけっ!』

 

 マッケンジー少佐からの命令を受けて、シン大尉のジムカスタムはジムライフルと予備弾薬を兵装供給システムから回収し、装備。

 そのままカタパルトデッキに出ると、低速射出された。

 

 

 

 

 

「――うそだろっ!?」

 

 シン大尉は宇宙の景色に唖然とした。

 なにやら得体のしれない裂け目が宇宙空間を斬り裂いていた。

 計器類が「宇宙の法則がみだれています」という結論を数式でもりもりと伝えてくる。

 

 そこから現れるは、異形の有機生物たち。

 触手をうねらせた気色悪いバケモノたちである。

 ガノタたるシン大尉は、それがなんであるかの同定を光速で終える。

 

 Gの影忍、百騎夜行編に出てくる、宇宙怪獣どもである。

 

「よ、妖怪!? 外道!?」

 

 シン大尉の中の人は、ガノタなので当然異形生物との戦闘にもイメージトレーニングを怠ったことはない。いつELSと出会いコミュニケーションをとらざるを得ないかわからない以上、常日頃から備えておくものだ。

 

 しかし、である。

 ガノタであるがゆえに、そのイメージは願望にゆがめられてしまうものだ。

 出会うなら、ELSかな? という願望がシン大尉のガノタとしての備えを歪めてしまった。

 ゆえに、宇宙怪獣相手の戦闘についてはイメトレ不足であった。

 どう考えてもこれはMS忍者案件ですが、地球連邦政府にそれがいるなんて話はついぞ聞いたことがない。

 

 続々とワイアット艦隊及びハンフリー戦闘団から射出されてくるMS部隊。

 数多くのジム改、そして少数のジムカスタムとジムキャノンⅡ。主役級はイオ中尉のFAガンダムTBだけである。

 

『――全周波数で呼びかけている。私は、地球連邦軍大将、グリーン・ワイアットである。これは未確認宇宙生物に対する呼びかけである。自然言語を解さない可能性を思慮し、数学的方法、および、NTにより思念通信を敢行している。聞こえるか、未確認宇宙生物よ。我々は人類である。愚かしき歴史を重ね、ようやく宇宙へとその階段を繋いだ、有機生物である』

 

 シン大尉はこのときほどNTでなかったことを悲しんだことはない。なにそれ? NTによる思念通信ってあれですよね? なんかこうイメージが走るあれですよね? くそっ! 全然見えねぇ! あとワイアット大将の手元にいるNTって誰ですか気になります。

 

『た、隊長……なんかすごいのが出てきちゃいましたね』

 

 おびえた様子のジムキャノンⅡ――シャニーナ機から通信が入る。

 

「各機に命じる。不用意に近づくな。射撃戦を中心としろ。もし触手に絡みつかれたら切り払うか、パーツをパージだ。徹底しろ――シャニーナ少尉、自分はワイアット大将がネゴってるあいだに、ゴップ閣下に連絡を取る。あれはやばいやつなんだ」

『はい。指揮を一時代行します』

『おーおー、怪獣退治ってか? 最高だなっ』

 

 高ぶるヤザンは放置し、シャニーナ機に臨時の指揮権を委任して、シン大尉は秘密通信でゴップに連絡を取る。

 見えますか? と訊くと、目を見開いたゴップ大将が映っている。

 

『まず周辺にいる艦隊をすべて増援に向かわせる……私も使える戦力をすべて出す。レビルのエゥーゴと、コリニーの子飼いどもも出させる。ギレンにも連絡を取るが、期待はするな』

 

 さすがガノタたるゴップ閣下。自分が送った『敵』が何なのかを即判断し、必要な手を打つつもりらしい。通信も一方的に切られた。

 これはあれですね、ソーラ・システムⅡくらいは用意していただかないと真面目にまずいですよ。

 

『――通じない、か』

 

 ワイアット大将の失笑ともあきらめともつかぬ声。

 いま展開しているすべての将兵は、ワイアットの言葉に耳を傾けている。

 地球連邦政府は、いまだ宇宙生命体とのコンタクトに関する正式な立法措置をしていない。

 当然、地球連邦軍も同じで、対宇宙生物ドクトリンなど用意していない。

 対処要領がない以上、最上位指揮官の見識と決断力に頼るほかないのが、連邦の将兵なのである。

 

 ただ、あれが何であるかを知っているシン大尉は、必死に作戦プランを設計し、その指図書を部下たちに配布していた。スパルタン部隊や、空母フジ、そしてワイアット大将の特務分遣艦隊MS部隊にも共有する。

 

『未確認宇宙生物よ、我らの愚かな歴史を一つ、教示しよう。かつてのアメリカ合衆国はその制度のうちに自由と平等を内包しながらも、合衆国憲法に大きな矛盾を抱えていた。第一章二条三項である。各州の人口 は、年期を定めて労務に服する者を含み、かつ、納税義務のないインディアンを除いた自由人の総数に、 自由人以外のすべての者の数の5 分の3 を加えたものとする――だ。インディアンを人口に組み入れぬというこの愚かしさ。そして、いま我々地球連邦政府は同じことをスペースノイドに行っている』

 

 あまりにも流暢に語るワイアット大将であったが、その一方で各MS部隊にワイアット閣下の署名入り命令が届く。

 事態の急変に備え、シン大尉のプランにて迎撃戦闘を行え。捕虜は不要。キルミッションであるとのこと。

 シン大尉はワイアット大将のお墨付きが得られたので、マッケンジー少佐に艦砲支援を要請しておく。

 

『シン大尉、各艦艇はワイアット閣下の命令で統制射撃可能。射撃計画が必要ならこちらで用意するが』

「直ちに用意してください。初動で有効射撃をお願いします。観測射なんてやってたらやられますよ」

『了解した。バーミンガムの運用幕僚に企画させる』

「ASAPで。MS隊には迎撃ドクトリンを共有しました」

『あとはワイアット閣下がその弁舌でどれほどの時間を稼いでくれるかだな』

 

 マッケンジー少佐のいうとおりだ。

 通じる、通じないはさておいて、時間を稼げるだけで準備はできる。

 すでに各艦艇は航海をあきらめ、ワームホールから湧き出てくる化物どもに照準を合わせるべく、艦隊形をそろえ始めている。

 

『しかし、我々は今、それが愚かであったことを理解し、歴史のくびきから脱しようとしている。いま眼前のワームホールから現れた未確認宇宙生物を前にして、我らが同族に対して行っている差別の矮小さを否応なく思い知らされているからだ。未確認宇宙生物よ、ぜひ答えてほしい。我ら人類は愚かゆえに自然言語を用いるが、機械語、思念、数論、いずれのアプローチをも受け入れるだけの、土壌くらいはあるものだと信じている――我々は、戦火を交えずに合意形成へと至るコミュニケーションをとりうるのだと、そちらに訴えたい』

 

 その時、真空の宇宙に震える獣の鳴き声が響いた。

 明らかに、思念だろう。

 NT能力のないシン大尉は一瞬「え? 空耳?」と疑ったが、訓練されたガノタらしく「私にも、見えるっ!」などと周りに合わせて動揺したふりをしておく。

 友軍の通信に、恐怖が蔓延する。

 

「各機傾聴、心を読まれるな。あれは恐怖を食らうぞ」

 

 シン大尉は全周囲通信で連絡する。まるで歴戦の戦士のような口ぶりと、さもNTのように相手を分かっているかの如く堂々とした態度に、味方のなかにあった恐怖が薄れていく。

 

『おう、隊長。一言で縮み上がった連中をキメさせたなぁおい』

 

 ヤザンのジムカスタムから有線通信。

 

「ヤザン少尉、先陣は任せるぞ。力量がある奴が敵を一体でも屠れば、士気は上がる。後は持久戦だな……」

『撤退戦はねぇのかい?』

「ワイアット閣下が宇宙怪獣退治でしっぽ巻いて逃げると思うか?」

『ねぇな。増援が来るまでは粘って見せる、か』

「面白いだろう?」

『……大尉、あんたが一番面白れぇよ。いいさ、従ってやる』

 

 ヤザンのジムカスタムが有線通信ケーブルをしまい、そのまま離れていく。

 先陣を切るべく、ヤザン隊が前方展開する。

 

 そして、沈黙。

 宇宙怪獣とこちらの間に動きはなく、ただのにらみ合いとなる。

 もしかして、ワイアット大将の演説に相手がレスを返してくれていたりするのか? などとシン大尉は淡い期待を持ったが――違う、と判断した。

 

 ワームホールを引き裂くかのように、巨大な宇宙要塞級のバケモノが現れたのだ。

 やつらは、これを待っていただけなのだ、と誰もが判断した。

 

『残念だ――全員傾聴。排除しろ』

 

 ワイアット大将の命令と同時に、艦艇から砲撃が開始される。

 無数のメガ粒子と実砲弾、ミサイルによる飽和攻撃。

 

 あまたの化物が消し炭となった。

 

「各機、白兵戦用意。敵は我々を学習し、適応してくる」

 

 シン大尉は敵がこちらの動きとサイエンスを理解し、その身を変性させるのを確認する。

 

『さぁて、死ね』

 

 ヤザン隊が突撃を開始し、さっそく小型のバケモノを仕留める。

 それを見た友軍の部隊も果敢に突撃していく。

 シン大尉はシャニーナ隊を直協部隊としてこき使いながら、ヤザンが打ち漏らしている宇宙怪獣どもを狩りに行く。

 

(ほらみろ、すぐにMS型に変質しやがった)

 

 Gの影忍に出てくる宇宙怪獣ならそうだろうよ、とシン大尉は予測していたが、いよいよ確信へと変わる。

 

 敵の大型個体が分裂し、こちらのMSのような得体のしれない物体に変質し、こちらにシュルリと素早い触手攻撃をかましてくる。

 

 ヤザン隊の部下が触手に貫かれた。

 事前に配布した指図書通り、脱出ポットが射出される。僚機がそれを回収して後方へと下がっていく――よし、初動はまぁまぁか、とシン大尉はジムライフルで敵をバラしながら戦況を判断する。

 

 やつらはELSもびっくりの大物量+並列型情報寄生体であるので、出来る限り接近せずに射撃戦でその生命活動を停止させるしかない。

 

 いや、むしろ殺せるという事実こそが希望であった。

 

 ELSと違って、殺しうる相手である事実は、シン大尉に希望をもたらす。あの手この手を駆使して撃ち殺すなり焼き殺すなり、最悪、切り殺すなり殴り殺せばいいのだ。

 小型種相手なら対MS戦とそう変わらない。

 

 一つ問題があるとすれば、あの宇宙要塞級怪獣をどう処理するか、だ。

 どう考えてもソロモン攻防戦くらいの根性と戦力は必要そうだ。

 

「お?」

 

 シン大尉が担当している宙域の援護火砲が密になり、バケモノどもがあっさりと消し飛ばされていく。

 どうやら、ワイアット大将の戦艦バーミンガムがマゼラン級、サラミス改らとともに猛烈な火力発揮点を形成しているらしい。

 

 そりゃそうか。敵はミノフスキー粒子を撒いていない。ミノフスキー粒子が薄いこの戦域ならば、地球連邦艦隊の統制火力運用システムを基盤とするファランクスシステムによって激烈な破壊を実現できる。

 ワイアット大将が論じていた艦砲火力の有機的連携による集中運用、というやつである。

 

「すげぇな、ワイアット大将」

 

 シン大尉は思わず言葉に出してしまう。

 無能な紅茶野郎と呼ばれて久しかったワイアットが、いかにして大将たる地位につけるだけの度量と能力を兼ね備えていたかを見せつけられている気がする。

 

『MS隊へ。ワイアット閣下からの差し入れを展開する』

 

 電送されてきたデータを開くと、MAPにサプライコンテナの位置が表示される。

 どうやらワイアット大将の特務分遣艦隊にいたコロンブス級からポポポポンッと補給コンテナが散布されているらしい。

 連邦系MSの実弾火器は90mm規格に統一されているし、弾倉もSTANAGマガジンよろしく共通規格を持っている。Eパックも同様である。

要するに、メインアームについては弾切れの心配なし、ということだ。

 

「イオ中尉だけ大変そうだな」

 

 独自規格満載マシンであるFAガンダムTBを駆り、戦場に風穴を開けているイオ中尉を嫉妬半分、やっかみ半分で見るシン大尉。

 

(こっちはちまちまとやりますか)

 

 触手をロールして回避して、ジムライフルで片付ける。

 推進剤も、弾丸も一切の無駄なし。

 

「このジムカスタムすごいよぉ! さすがクゥエルのお兄さん! ユニバァァァスっ!」

 

 今まで機体に恵まれなかった男、シン大尉は、己のいうことを好きなだけ聞いてくれる都合のいい伴侶のごときジムカスタムに惚れ直す。

 

 事実、この機体に乗ってから負けなしである(勝ってもいないが)。

 だが、シン大尉はいつまでも調子に乗っていられないことを熟知している。

 こちらは人間。

 あちらはバケモノ。

 

 疲労しない怪物相手に消耗戦をやるということがどういうことか、朝鮮半島内戦で地獄を見てきたシン大尉の中の人は熟知している。今思い返しても、北のサイボーグ兵士はやばかった、などとガノタである幸せを忘れて最悪な思い出に引っ張られるくらいだ。

 

『隊長、あの要塞級のオバケを何とかしないと、押し負ける気がするんですが』

 

 シン大尉とともに戦場のリカバリーをずっとしているシャニーナ少尉が懸念する。

 

「同感だよ。みえるか、あれ」

 

 ズームして撮影した映像を共有する。

 

『あ、なんか飛ばしてますね』

 

 ベクトル解析によればビューティ・メモリの埋まっている岩塊と、輸送中のコロニーの方角である。

 

「VIP側はスパルタン部隊のビアンカが何とかしてくれているが」

 

 ビアンカのジムキャノンⅡが肩部ビームキャノンで迫りくる触手や小型怪獣をぶち抜いている。艦から有線で粒子供給を受けているらしく、スパルタンの有線インコムと化している。

 

『えぇっ、まずいんじゃないですか? コロニー側に飛んでってるアレがあるってことは……』

「ああ。コロニーの制御を奪われるシナリオだってありうる」

『冗談ですよね?』

「気づいているだろ? あいつら触手でぶち抜いた機体と同化してる」

『――見なかったことに。あ、でも隊長が同化されたら、私が一瞬で楽にしてあげますね。それから敵を巻き添えにして、わたしも死にます』

「おいおい、縁起でもないこと言うなよ……」

 

 シン大尉はわかっていた。

 この戦いがしょせんは前哨戦に過ぎないことを、察していたのだ。

 

(ああ、くそっ! ほんと頼みますよ、ゴップ閣下っ!)

 

 触手をサーベルで切り払う。

 ここにはいない、腹を揺らして歩くあの男にすべて託すしかない、とシン大尉はすがる思いを抱きながら、乱戦に飲み込まれていく。

 




やったぜ。もうめちゃくちゃだぁっ!
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