シン/機動戦士ガンダム   作:すしさむらい

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UC0084年、宇宙怪獣の攻撃を退けた人類はつかの間の平穏を得ていた。
しかし、平和とは損害が顕在化していない闘争状態に過ぎず、人の世は万民の万民に対する闘争を資本主義のエンジンを通して継続していた。

連邦、ジオン、そして月面経済都市圏。

UC0087年に、世界を崩そうとする男――ジャミトフ・ハイマンが暗躍を始める。
暗殺でも、権力闘争でもない。
彼はたった一つの方程式の盲点を突き、地球の歴史の逆回転を目指す。

ゴップを失ったシン大尉は、新たなるパートナと仲間たちとともに『最悪すぎるZガンダムの世界』を回避するべく、戦いを始める。


0084 シン大尉と『最悪のZガンダム世界』
第二五話 0084 地獄の窯に火をくべるものたち


 

 

 UC0084年1月初旬。

 月面都市は相変わらずの経済都市ぶりで、ニューイヤーパーティもそこそこに、資本主義エンジンを回すべく老若男女問わず『生産性』のために総動員である。

 

 さて、郊外の一角にそびえる高級マンションに、鋭い眼光を持つ男がスーツケースを手にして吸い込まれていく。

 顔に数多の傷を持つ男は、いつも通りエレベータに乗り、量子キーを差し込む。

 

「へー、こうやって密会してたんですね」

 

 スーツケースだけではなかった。

 顔の傷が目立つ男の背後には、イタリアンイエローの革ジャンを羽織ったシャニーナ少尉が随行していた。

 

「――エッチなことしてたんですか?」

「……」

「してたんですよね。ゴップちゃんから教えてもらいました」

 

 スカーフェイスのシン。

 

 トロイホース部隊ですべての男性から畏怖され、すべての女性から軽蔑される、大きな悲しみを背負った男だ。

 彼はガノタゆえ、言い訳はしない。

 

 大切なものを失った――力も頭を足りなかったせいで、最も頼れる人を失った。

 そして、つい先日は自らの判断ミスで風評も失った。

 風神と雷神の決戦に巻き込まれたシン大尉は、顔に一生消えない傷を負った。

 今の彼には、ボロボロのジムカスタム以外何もない。

 これは大事なものなので、フジオカ技術中尉に頼んで直してもらっている。

 

「でも、別に許してあげます。ゴップちゃんと、しっかりお話ししました。ゴミは分別しなきゃなんだって。わたしが責任をもって分別するところと、ゴップちゃんが仕分けるところ、ちゃーんとお話したんです」

「……」

「結構。余計なことは言わないということを学んで、偉いです」

「……」

「ゴミは貴重なリサイクル資源です。わたしたちでちゃんと管理して、有効活用させていただきますね。そうだ、このゴミに名前をつけようかな。シンさんでどうでしょう?」

「はい……」

「よろしい。シンさんはわたしのものです。ゴミは適切に管理されなければなりませんから」

 

 シン大尉は完全にイングリッドとシャニーナの管理下にあった。もはや自由はなく、エージェントスカーフェイスとしてふるまうしかなかった。

 

(シャニーナ少尉の強さへの渇望はホンモノだ……)

 

 シン大尉は畏怖をもって部下に接している。

 先日の激しいMS演習で、シン大尉はシャニーナ少尉のジムキャノンⅡにボコボコにされた。こちらの射撃をすべて先読みして回避してくるその姿を思い出すと、恐怖が背中を伝って蘇ってくる。

 イングリッドとラーメンを食べに行ったところまでは覚えているのだが、そこから先の記憶があいまいだ。気が付いたらMSに乗せられていて、シャニーナ少尉と地獄の教練と相成っていた。そこでヘルメットが砕けるほどのヤバい演習をしたらしいが――。

 

 青ざめたヤザンが「オレぁ知らねぇぞ……」と言っていた気がする。

 

 意識もうろうとなりながら、サララからもらったジムカスタムをハンガーに収めたことも覚えている。

ボロボロになったことがとても悲しかったからだ。「――自業自得よバカ」ってジムカスタムが語り掛けてくれた気がする。

 ――なにが自業自得なんだ?

 

 

 

 エレベータが開くと、そこにはシックでカラダのラインが際立つドレスを着たイングリッドが優雅に量子演算ソファーに座っている。

 量子演算ソファーは床下と天井に収納されている巨大な計算資源にアクセスするためのインターフェイスであり、量子脳をもつイングリッドだけが使用できる、特別仕様のそれであった。

 

「またエッチな恰好してる」

 

 フンスっ、とシャニーナ少尉がズカズカ部屋に入っていき、クローゼットから適当な服を見繕って持っていく。

 

「あら、シャニーナちゃん。この前は面白かったわ。あれが怒りって感情なのね。あたし、感動しちゃったわ」

 

 イングリッドは首筋の量子同調端子を引き抜きながら、シャニーナに挨拶をする。

 

「これ、着てください」

「いいけど」

 

 イングリッドがその場でするりとドレスを脱いだ。

 下着姿になったイングリッドの姿を特に何も考えずにぼーっとみていたシン大尉の視野が突然ふさがれる。

 どうやらバスタオルを投げつけられたらしい。

 

「あっち向いててください。なんでこう、あの人はデリカシーがないんだろう」

「いいじゃない? 見られて減るものじゃないわ」

「減ります。希少価値ってのが大事なんだと思います」

「そう? 見えたら見えたでエッチだし、見えなくてもエッチな気分になるって話よ。あたし、わかっちゃったな。男ってこういうことを哲学って呼んでるんでしょう?」

「ソクラテスに謝ってください」

 

 シン大尉は不意に、ギュスターヴ・クールベの『世界の起源』というアート作品を思い出した。あの作品を評論したり考察したりすることは確かに哲学的なテーマであるかもしれない――などと二人の高尚すぎて理解できない会話を聞いていた。

 

「はい、シンさん、バスタオルとっていいですよ」

 

 許可を得られるまでとってはいけないとゴミ――ではなく、エージェントスカーフェイスとして調教済みのシン大尉は、そっとバスタオルをとり、畳んでおく。

 

「あたしの隠れ家に来てくれたってことは、あたしのコマになってくれるってことよね? シャニーナちゃん」

 

 すっとイングリッドがシャニーナ少尉を抱き寄せる。

 抵抗しようとするシャニーナだが、義体の恐るべきパワーを振り払えそうにはない。

 

「ちょ」

「あたし、あなたにも興味あるの」

「あっ……」

 

 耳たぶをやさしく触られたシャニーナが、シン大尉の知らない声を出す。

 

「かわいいわね」

 

 イングリッドがそういうと、そのままシャニーナの唇を奪う。

 シン大尉はただ漠然と、この世には美しいものがあるんだなぁと眺めていた。

 ふいに、北海道の大雪原を思い出す。牧場地帯が雪に埋まり、人っ子一人いないあの世界はとても清浄だった。

 あの感覚に近い何かを、シン大尉は感じる。

 

 唇同士が離れ、糸を引いている。

 涙目になったシャニーナ少尉が、イングリッドを見つめている。

 

「……っ、ずるい、女ですね」

「言ったでしょ? あたしは世界を支配する女なの。欲しいと思ったものはちゃんと手に入れる」

「……離してください」

「本当にいいの? シン大尉に見られちゃうわよ?」

「仕方ないです……わたしだって、女なんですから」

 

 血圧が高いのか、シャニーナ少尉の顔が赤い。

 イングリッドがシャニーナを優しく離すと、彼女はそのまま床にへたり込んだ。

 どうやら力が入らないらしい。

 シン大尉は網膜レンズでバイタルをチェックするが、ちょっと心拍数が高いくらいで問題はなさそうだ。たぶん、あの恐るべきパワーで抱き寄せられて血流が悪くなって痺れたか、頭に血が上りすぎてふらついているのだろう、などとシン大尉は判断した。

 

 しばらく休めば回復するだろう。そうだ、温かい物でも用意してやろう――などとシン大尉は観察をやめて、キッチンで紅茶をいれはじめた。

 ワイアット流を遅ればせながら学んだシン大尉の紅茶はうまいとマッケンジー少佐も言っていたし、大丈夫だろう。

 

 ソファでなにやら話し込む二人の前にティーカップを並べ、ポットを置く。

 女性二人の会話に聞き耳を立てるのはガノタ紳士としてよろしくないというマナーがあるので、シン大尉は二人の茶菓子を用意すべく、そそくさとキッチンに戻る。

 

 

 

 菓子を用意しながらヤザン艦長代理から伝えられた伝達事項を反芻する。

 スパルタンを旗艦とするハンフリー戦闘団はレビル将軍のエゥーゴに組み込まれるのかと思いきや、そうではなかった。

 昇進し、地球連邦軍特殊作戦司令部の司令となったモニカ・ハンフリー准将の配下になり、地球連邦軍特殊作戦グループに編入されるとのことである。

 現在は『アルファ任務部隊設立準備団』とされた。

 将来の特殊作戦グループの実戦部隊アルファ・タスクフォースとなる準備として、各隊員は通信教育や大学機関などで教育訓練を受けることとなっている。

 モニカ・ハンフリー准将がルナツーの特殊作戦司令部勤務となってしまったため、将来のアルファ任務部隊の指揮官はマッケンジー少佐が昇任して担当する予定だ。

 

(マッケンジー少佐、大丈夫かな?)

 

 ガノタとして心配してしまう。

 なんでもご自宅で屋根の修理をしていた際に、滑落して腰を痛めたらしい。診断書と傷病休暇申請を代行させられていたヤザン少尉のあきれ顔が印象に残っているが、ヤザンの気持ちももっともだ。

 屋根の修理くらいパートナーのバーニィがやればいいんだとヤザン少尉につげると「そいつも一緒に腰痛なんじゃねぇか?」と言っていた。うーん、二人とも安全管理はしっかりしてほしいものだ。

 

 なお、ヤザン少尉はティターンズからの誘いを断ったらしい。

 二階級昇進扱いとして人事管理を受けるティターンズ隊員に招集されることは、軍事組織的にはホンモノのエリート扱いであり、かなりの有為な人材がティターンズに流れているらしいと聞く。

 

 なぜティターンズ入りしないのかと訊くと「ここのほうが面白そうじゃねぇか」と凶暴な笑みを浮かべていたので、ドン引きして深いことは聞かないことにした。まだ後ろから撃たれる心配をし続けないといけないのか、とシン大尉は胃が痛くなる。

 

「ねー、まだなの?」

 

 イングリッドからの声にこたえて、シン大尉は茶菓子を盛りつけた皿をリビングに持っていく。

 

 

 

 ティータイムを三人で楽しんだ後、シャニーナ少尉だけトロイホースへと戻ることになった。

 なんでも上番士官が員数不足らしく、数合わせが必要とのこと。

 マッケンジー少佐の腰痛騒ぎのせいで、シャニーナが繰り上げ上番となるそうだ。

 

「じゃ、またねー」とイングリッドが手を振る。

「ぐぬぬ、協定忘れてないでくださいよね」

 

 歯ぎしりして帰ってこうとするシャニーナに、シンは茶菓子の土産を渡しておく。

 先ほどのティータイムのときにスチームレンジで簡単に調理した蒸しケーキである。

 艦内待機中に口さみしい時もあるだろうという配慮だ。

 

「――ありがとう、ございます」

 

 歯ぎしりをやめて、ちょっとだけ笑顔になったシャニーナに安心するシン大尉。

 どうやら蒸しケーキはお気に召したようだぞ、などとすっかり召使である。

 

 

 

 イングリッドと二人、リビングのソファに腰かけて、シン大尉は現在の自分たちの状況を説明した。

 だが、イングリッドはすでに事情を知っているらしい。

 

「あのね、シン大尉。あたしは量子脳装備のサステイナブル人類よ? 大抵のことは把握しているし、これから起きることも、おじいさまが残してくれた手記でだいたい知っているいるつもりよ。ところで『ガノタのあなたへ』って何かしら? これだけは量子鍵がなくて読めなかったんだけど」

 

 イングリッドから転送されたデジタルファイルを網膜レンズに表示する。

 量子暗号鍵をシン大尉は知っていた。

 宇野サララ。

 この世界の他の誰も知らない、英雄の名前だ。

 

「これは自分宛だな」

「そうなの? ならあんたにあげるけど」

「保存する場所がない。ここが一番安全なら、ここに保存しておいてくれ」

 

 シン大尉は部屋を埋め尽くしているであろう量子サーバーを視線で示す。

 

「確かに安全かもね。一応、他の拠点もあちこちにあるし」

「そうなのか?」

「セーフハウスってのは、一か所に限らないもんよ」

 

 そして、イングリッドがシン大尉をじっと見つめる。

 

「シン大尉、おじいさまは死んだわ。だから契約を更新するか決めて。あたしは人類を存続させるためにあらゆる手段をとるわ。あなたは、その手伝いをする。必要があればその身も命も差し出す。対価は、シャニーナの幸せ」

 

 シン大尉は跪いて、イングリッドに頭を下げる。

 あの人が残していった大切な存在だが、あの人とは違う存在でもある。

 まだ未成熟な人格であることをシン大尉は察していたし、互いに信頼の情を通じるにはまだ時間と積み重ねが足りない。

 なによりも、彼女はガノタではないのだ。

 それでも、信じようとシン大尉は思う。

 ガノタだからではない。

 人としての情だった。

 

 イングリッドが跪くシン大尉の顎を上げる。

 

「おじいさまから聞いているわ。シャニーナ少尉はNTとしての素質に富んでいるのね。おじいさまの死によって、軍内の庇護を受けられないあなたは、シャニーナ少尉がムラサメ研究所なんかに奪われちゃうんじゃないかって、心配で仕方ない」

 

 指先をシン大尉の唇にあてるイングリッド。

 

「言葉はいらないわ。あたしの量子脳で読み取れるのよ。あなたの情愛ってやつを。あなたは、シャニーナ少尉の恋心に気付いているけれど、それが陽性転移であることも知っている。孤独なムーア同胞団出身の少女兵が、命がけで守ってくれる隊長様に惚れないわけがない――あなたは、戦争から生まれた恋を信じていない」

 

 素敵ね、とイングリッドがシン大尉の唇から指を離す。

 

「抱いてやればいいじゃない? あの子だってとても満足するわよ」

 

 イングリッドは跪いたままのシン大尉の背後に回り込み、そっとその体を預けた。

 シン大尉はイングリッドの熱を感じ取る。

 

「――そんなに、憎いの? 戦争が」

 

 シン大尉にとって、戦争は日常であった。いついかなる時も……ガノタたる中の人があちらの世界にいたときすら、戦争は彼にまとわりついていた。

 

「感じるわ。あなたの憎悪を。これを隠すためにあなたはシャニーナに心を開かないよう心に壁を作り上げている。自己洗脳型心理防衛術っていうんでしょ? 対ミュータント用の訓練を受けた、戦闘チルドレン出身者の思考法。あたしには全部わかる」

 

 無理やり引き出される昔の記憶。

 手に子どもを抱えるサイコヒューマンの母親を射殺する自分の姿。

 抵抗するサイコキネシス使いの子どもの衝撃波を受け流し、レーザーナイフでその首を素早く落とすその姿を。

 動機なき職業軍人として、命令を淡々と遂行し続ける公の奉仕者たる自分の姿を呼び起こされてしまう。

 こうも見透かされるか、とシン大尉は量子脳を持つイングリッドに対抗する術なしと判断する。

 

「ほっといてくれよ。俺はシンになりたいんだ。もう、許してくれ……」

 

 シン大尉の中の人に残されていたネゴシエーションの術は懇願しかなかった。

 

「ねぇ、シン大尉。あたしならあなたの中の人が持ってる、その黒い塊、消してあげられるんだけど」

 

 ぐっと背中に押し付けられるイングリッドの体は柔らかかく、耳元に迫る彼女の吐息がシン大尉の感覚を鋭敏にさせる。

 

「なにもかも好きにしちゃっていいんだよ? あたしも、あの子も、この世界だって。あたしならあなたがガンダムに乗って、女の子といちゃいちゃして、みんなから尊敬される世界を作ってあげられるわ」

 

 イングリッドの甘い囁き。

 シン大尉は、心を奪われそうになる。

 いや、中の人の心はすでに奪われていた。

 しかし、最後に残っていたものがあった。

 あの人がやりたかった、想いの残滓である。

 

「俺は、この先が見たい。サララが見たかった、愛のものがたりの続きを――俺に都合のいい世界なんていらない。俺は、ガノタだから、ガンダムが見たいんだ」

 

 合格、と耳元でイングリッドが告げる。

 体に力が戻り、自由を取り戻したかのように思えた。

 しかし、その逆であった。

 筋肉が緩まり、シン大尉は崩れるように倒れる。

 

「神経ハイジャッキングか……イングリッド様、戯れが過ぎますよ……」

「そう?」

 

 イングリッドが倒れているシン大尉を仰向けにして、そこに跨る。 

 

「すごいわね。あなたの自己洗脳型心理防壁。普通、あたしにここまでされたら身も心も全部差し出すのに」

 

 シン大尉に馬乗りになりながら、イングリッドが顔を近づけてくる。

 

「ねぇ、どうしたらあなたはあたしのものになってくれるの? このカラダでもダメ。利益供与でもダメ。あなたにとって都合のいい世界でもダメ」

 

 イングリッドがシン大尉の頬にふれる。

 

「シン大尉、あたしって、これからもずっと一人で世界と戦わなくちゃいけないの?」

 

 生まれて間もないにもかかわらず、膨大な情報を人の世からかき集め、急激な成長を遂げている彼女の人格はとても不安定だ、とシン大尉は思う。

 人はもっとゆっくり、時間をかけて悪いやつになっていくものだ。冷酷な兵士になるための『スイッチ』を作るだけで数年かかったりもする。

 ましてや彼女の心は常に未来を志向する。サララの憧憬がまるで遺伝子のように組み込まれている宿痾だ。

 その姿を見ていると、ふるえていたあの人を思い出す。

 

 シン大尉はイングリッドが触れている手を取り、そっと抱き寄せる。

 

「約束しますよ。あなたを一人にはしない」

 

 しばらくの間。

 部屋のエアコンの送風音だけが響く。

 イングリッドがシン大尉の手を握り返す。

 シンを見つめるイングリッドが「ウソつき……」とつぶやいた。

 

 

 

 

 トロイホースが滞在する宇宙港に戻るべく、シン大尉はタクシーに揺られていた。

 イングリッドと打ち合わせた、これからの世界の話はとても難しく、一筋縄ではいかないものであった。

 

 まず、イングリッドはサララが残したガンダムシリーズの情報を一通り把握しているということを互いに共有した。ガノタとしては基礎を修めているといってもいい。

 そして、ここからがイングリッド・サララ・ゴップの本領である。

 彼女は、Zガンダムをしっかりと理解していた。

 

 物語の筋書きである、ナイーブでキレやすいボーイがシロッコを殺してファと抱き合う、という話の良し悪しに彼女は興味がない。

 

 イングリッドが興味を示したのは、ティターンズという制度を支える経済システムと連邦の政治システムである。

 彼女は様々な設定資料を読みあさり、ティターンズの実質的リーダーであるジャミトフ・ハイマンの資金源にあたりをつけている。

 大陸復興公社総裁と、地球のインターナショナル国債管理公社総裁を兼務している点である。

 

 ここにイングリッドが目を付けたのだ。

 なぜ大陸復興公社総裁と、国債管理公社の二つの総裁を兼任することで、ティターンズという軍事組織を維持できる大金を生み出すことができるのか、原作にはその説明がない。

 裏金を作り上げている、使途無制限国債を発行している等、原作設定に関する柱書はいつもこの程度しか書かれておらず、多くのガノタはそれで納得するほかなかった。

 

 しかし、イングリッド・サララ・ゴップは違った。

 

 ここに莫大な富の源泉が眠っているという事実を解き明かしたのだ。

 彼女は満面の笑みを浮かべて言った。

 

「ブラック=ショールズ方程式の盲点に、ジャミトフ・ハイマンは気づいている」

 

 そして、彼女は予言した。

 このブラックショールズ方程式の盲点を利用して、ジャミトフは0087年に世界をひっくり返す、と。

 

 そして、告げる。

 

「あたしたちが失敗すれば、最悪のZガンダム世界ってやつを鑑賞できるわ」と。

 

 




※金融工学の専門家の方は、自重よろしくお願いします。ガノタとの約束だぞっ!(絶対にネタの先読み+正解になるため)。
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