シン/機動戦士ガンダム   作:すしさむらい

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Zガンダムの第一話はやっておきたかった、という回


シン少佐とグリプス戦役(0087)
第二九話 0087 グリーンノアの和約(上)


 

 星屑が輝く宇宙に巨大なスペースコロニーの群れが浮かび上がる。

 サイド7。

 ラグランジュ点L3に位置する、ジオン公国から最も遠いサイド。

 

「ロベルト中尉、隊の展開はどうか?」

 

 0087年3月2日の作戦タイムスケジュールを、赤く塗られたマラサイを操るシャア・アズナブル大佐は淡々とこなしていた。

 定時報告時刻が迫ったので、配下の状況を確認する。

 

『団長、問題ありません。機種転換したばかりの連中でも、三日で手足みたいに動かせたんです。マラサイはハイザックよりイケてますね』

「しっかり面倒を見ておけ。ロベルト中尉はどうか?」

『一年戦争からの古参ばかりですから、問題ありませんよ、団長』

「油断するなよ、ロベルト中尉。平和の祭典とはいえ、それを快く思わん連中が何をしでかすかわからんからな」

『了解』

 

 シャア大佐率いる特任MS戦闘団が、サイド7の周りを旋回する。

 

『シャア大佐、ニュースサイド7ナウです。もう少し映える感じに動いていただけますか?』

「了解した。これでは道化だな」

 

 シャア大佐たちは、あえてパフォーマンス用にスラスタを多めにふかし、その光芒を大きくする。

 マラサイの群れの航跡が、無数の流星のように映る。

 サイド7で放映されている自分たちの姿を、シャア大佐はHUDに表示する。

 精鋭部隊のパフォーマンス飛行、といった様に、赤い彗星は口の端を上げる。

 コロニーから自分たちの航跡を指さす子どもたちのカットが挟まる。

 パフォーマンス警備としては、ちゃんと効果を発揮できているようだ。

 大戦終結以来、ザビ家との政治協定に基づき一介のMSパイロット、そしてジオンの英雄として振舞い続けてきたシャア・アズナブル大佐にとってこの程度のことは造作もないことである。

 

 彼の考えていることはただ一つ。早くララァのもとに帰ることだ。二人目が生まれるので、本当はガルマの護衛など放り出して帰ってしまいたい……が、ザビ家との契約があるため、反古にはできないのだ。

 

 いま、ジオン公国公王、デギン・ザビから平和条約締結のために特命全権大使を任されたガルマ・ザビが、ここサイド7に入港している。

 ガルマ他、政府要人たちも続々とサイド7のバンチであるグリーンノアに続々と乗りつけている状況だ。

 ジオンの護衛のみならず、連邦軍も――特に、今回の平和条約締結に並々ならぬ決意を語っていたジャミトフ・ハイマン大将率いるティターンズが、厳戒態勢で臨んでいるのを確認できる。

 

『団長、グワダンです』

 

 ロベルトから知らせを受けた方角を拡大する。

 巨大な赤い艦艇がサイド7のグリーンノアに近づいている。艦自体が大きすぎるため、どうやら港の外で待機するようだ。

 あちらはあちらで、ガトー中佐率いる護衛MS部隊を展開しているのがわかる。青く塗られたノイエ・ジールの識別信号がそれを示しているからだ。ノイエ・ジールユニットは第二世代MS規格を採用しているジオン系MSならば、どの機体でも着込むことができる拡張火力装備である。

 

「過剰防衛と言われかねんな、あれは」

 

 シャアは警戒心旺盛な独裁者のありようを見て、なぜか漠然とした不安を覚えたが、ニュースサイド7からのさらに派手な動きを求める要請があったので、それを振り払った。

 

 

 

 

 少年と少女が、緑樹の整備されたハイスクールのキャンパス内を進む。

 

「カミーユ、ねぇ。カミーユ」

 

 少女が呼びかけるが、カミーユはどこか不満げに答える。

 

「いうなよ、カミーユってのが俺だって」

 

 などというカミーユに、少女はばかばかしいと言い切る。

 二人はそのままキャンパスを出て、レンタカーエリアにたどり着くと、エレカに乗り込んだ。

 

「また港に行くの」

 

 カミーユが運転する車内で、少女があきれたように言う。

 

「ファまで付き合う必要はないんだぜ」

「ふーん、じゃ、私、降りるわ」

 

 ファがへそをまげたように言うと、カミーユは訂正する。

 

「わるかったって。付き合ってくれてうれしいよ」

 

 二人を乗せたエレカは、コロニー外周を周回するリニアカー乗り場へとたどり着いた。

 エレカを駐車エリアに停車し、二人でリニアカーへと乗り換える。

 カミーユは、コロニー外壁を周回するこの交通機関が好きだった。宇宙を感じることができるし、自分が地球と陸続きでないところに立っている人類なのだということを自覚させてくれるからだ。

 

「あ……」

 

 カミーユは宇宙を駆け抜けるMSの流星群を見た。

 赤いマラサイに率いられたモスグリーンのマラサイたちの群れが、カミーユたちの乗るリニアカーの傍を流れていった。

 

「すごい数ね。ジオンのなんでしょう?」

 

 ファがカミーユの腕をとって身を寄せる。

 一年戦争から7年近くが経つ。サイド7も戦場になったことがあるというが、戦後移民組のファやカミーユにとって戦争は遠いものだった。

 しかし、こうやってジオンの軍隊を間近に見ると、それが本当にあったことなのだということを感じざるを得なかった。

 

 

 

 カミーユとファが港に着くと、カミーユは一目散にベイエリアに向かった。

 

「絶対規制されてるって」

 

 ファがあきれたようにカミーユについていく。

 いま、サイド7では平和条約締結の式場としてお祭り騒ぎでありながら厳戒態勢であるという、両極端な状況であることをファは知っていた。平和になるならそれでいいし、お祭りにカミーユと行けるなら何の不満もない――少なくと、グリーンノアに住む普通の人たちは、ほとんど似たような気持だった。

 ちょっとした大きなイベントがあるので盛り上がってきたな、というところである。

 

「あ、すごい。あれエゥーゴの最新鋭艦だぜ」

 

 カミーユが港を見下ろすことができる展望室の窓に張り付く。

 視線の先には白い大型艦が映っていた。

 昔、6年くらい前に放送されていた人気アニメ『機動戦士ガンダム』に出てくるホワイトベースになんだか似ている気がした。

 

 あんなの地球連邦政府のプロパガンダアニメだよ、などと斜に構えていたカミーユのほうがなんだかんだでハマってしまい、今ではすっかりガンダムマニアだ。

続編が出ないからということで、カミーユはいつもプチMSに乗ったり、入港した軍艦を見に行くことで欲求不満を妄想に転化しているらしい。

 そんなことするくらいなら、わたしをもっと見てくれればいいのに、とファは不満に思う。

 

「なんて船なの?」

「アーガマ、ってアナハイムのカタログに書いてあった」

 

 ここからカミーユのガンダムマニアとしての語りが始まる。

 地球連邦軍といってもピンキリあり、レビル将軍が統括する軍団『エゥーゴ』か、ジャミトフ大将が率いる特別軍事機構『ティターンズ』の二つが、連邦軍の中でも選りすぐりの連中で構成されている、とのこと。

 比率的には、エゥーゴが全連邦軍の1割くらい、ティターンズも1割だそうだ。ただし、エリート具合はティターンズのほうが上らしい。

 

「ふーん。じゃ、残りの八割はどうなの?」

「さぁな。表の雑誌にも、アングラ系の内部リーク系でも全く注目されてないから、大したことないんじゃないか。例の宇宙怪獣事件だって、ほとんどレビル将軍とジャミトフ大将が仕事してて、正規軍のゴップ元帥なんてさっさと死んじゃったし」

 

 ガンダムマニアは早口になるので、ファは話の半分も聞き取れなかった。

 わかったことは、普通の連邦軍が大したことない、ということくらいだ。

 

「へー。うちの裏のお兄さんも、連邦軍に入ったけど暇そうだもんね」

「ヨシオカにいさんは自治政府軍だよ。軽歩兵だし」

「どゆこと?」

「だからー……」

 

 カミーユ曰く、歩兵や戦車、ヘリみたいな補助的な兵力の運用をするのが自治政府軍というものらしい。連邦政府から補助金を受けて、各サイドや地球の地域政府が責任をもって養成するらしい。バンチ警察で対応できないときに出てくるのが自治政府軍なんだという。

 地球連邦軍が大規模な地上戦をやるときの、軽歩兵戦力の供出元でもあるそうだ。

 

「おなじ地球連邦軍の制服きてるのに、へんなの」

「連邦法に書いてあるんだよ。各自治政府軍は連邦政府首相の命令で、補助軍として組み込まれるって」

「え、じゃあヨシオカにいさんは、戦争になったら戦わなくちゃいけないの?」

「そういうこと。けど、軽歩兵に出来ることなんて今の戦場にはほとんどないから、あいかわらずいつも通り、コロニー内の警備任務したり、暴動対応するくらいじゃないか。地球の歩兵は地球出身者で固めるらしいし。風土病の抗体とか、地理に明るいとか……地元のことは地元でってことだよ」

 

 そういえば、ヨシオカにいさんは今日も駆り出されていると聞いた。ハイスクールでてバイト暮らしをしていた人が、思い付きで軍隊に行くって聞いたときは、無理だろうと思ったけれど……人は何とか適応していくものらしい。

 コロニー内で人の集まる大きなイベントをやるときは、自治政府軍も総動員される。

 

「もしかしたら、軍ロビーのほうに行ったらブライト艦長とかに会えないかな? サインもらったことあるんだよ」

「え? でもいま警備厳しそうだけど……」

 

 大丈夫だって、とカミーユが面会パスを見せる。

 

「あ、そっか」

「そうさ。うちは親父も母さんも、軍関係だからな」

 

 カミーユがこどもっぽい笑みを浮かべる。

 

「もー、どうなっても知らないわよ」

「いや、まじで大丈夫だって」

 

 すっかり期待に胸を膨らませたらしいカミーユが、軍ロビーに向かっていく。

 そんなカミーユを、ファがあわてて追いかけていった。

 

 

 

 グリーンノアの軍用ベイエリアに入港したアルファ任務部隊は、今回の平和条約締結に参加するゴップ参謀次官の護衛任務に従事していた。

 とはいえ、ゴップ参謀次官は式典までの間、トロイホースⅡの専用室にて休息されるとのことなので、隊員達はワッチを組んで上番組と休憩組に分かれていた。

 

 現時で休憩組になっているシン少佐は、港の軍用ロビーにあるカフェテリアで紅茶を楽しんでいた。招集があればすぐ艦に戻るよう言われているので、アルファ任務部隊の休憩組は港近辺をうろうろする以外ないのだ。

 

 あー、もうめちゃくちゃだよ、と紅茶をかたむけながら、シン少佐は網膜レンズに流れる各サイドの暴動情報を眺めている。バカな増税から始まった住宅ローン未払い問題、そしてこれから波及したCDOの不良債権化が全く止まる様子がない。

 

 家を失った移民組は移民先のコロニーで暴れまくる。

 金融恐慌を受けて融資の流動性を失い経済活動を止めた月企業――に就労していたホワイトカラーたちも、雇止めにあって暴れまわっている。

 経済エンジンたる月面企業群に、燃料たるキャッシュを回せなくなるのが金融危機の特徴である。貸した金が返ってくるかわからないという不信感が、キャッシュの流動性を失わせるのだ。

 

 この結果、3か月後の売上を担保とした今月の給与支払い用融資が受けられない、などといった、わけのわからない現象が起きる。

 

 信用売買が成立しなくなった経済市場では、現金一括主義のみがまかり通るため、何をするにしても日払いや都度払いをせねばならず、ひどいコロニーでは水道料金や電気料金の請求が毎日あるという。

 

『――ねぇねぇ、知ってる? 企業口座ってホントに桁溢れするみたいよ? 口座分けて管理しなきゃいけないって面倒ねぇ』

 

 カフェに入ってから続けているゴップ参謀次官との悲惨な雑談――経済と引き換えに、ゴップ参謀次官の口座が国家予算を超えつつあるという異常事態に関するボヤキを聞いていた。

 

「ちなみになんですが、CDSを売ってた保険会社は潰れてないんですか?」

『保険料支払いで潰れてるに決まってるじゃない。あたしが潰した保険会社と投資銀行の数は紙一枚じゃ収まらないわよ』

「――ちゃんとキャッシュは入るんですか?」

『世の中うまくできてて、再保険制度ってのがあるのよ。かの伝統あるバークシャー・ハサウェイなんてのが有名ね。保険会社の保険会社っていうと、わかるかしら』

「……わかりたくないですねぇ。CDSは本当にゼロサムゲームなんだなぁ」

 

 勝者の利益と敗者の不利益を足すとゼロになるゲームである。

 

「ところで参謀次官どの。いくら積んだら参謀次官の椅子買えたんです?」

『んー、安かったわよ。政治家だってお金に困ってるタイミングだったし。買収はすぐだったかな』

「買収って……言葉を選んでくださいよ。寄付金ですよね?」

『あー、それそれ。ねぇ、知ってる? 連邦政府の議員って、実家が太い議員以外は、みんな政党からもらうお金に依存してるんだって。だから政党のボス猿や、お金持ち議員は強いのねぇ――議席において大多数を占める数合わせ議員はみんな泣いて感謝してくれたわ』

 

 いや、それはつまり、あなたが政党のボス猿と同じ役割を果たしたということですよね? とシン大尉は顔が引きつる。連邦議会の過半数は確実に押さえているのではないか? と思うと、イングリッドの桁違いの財力に恐れを抱く。

 それでいいのか、連邦政府と連邦軍よ……いや、ダメだからこうなったのか。

 

『ま、いまはジャミトフが頑張ってるし、もしかしたら戦争は回避できるかもね。この隙に、もらえるポスト全部もらっとこうかしら。この海軍戦略研究所の専務理事ってのも買っちゃお』

 

 ネットショッピングをするようにポストを買う彼女の姿は、まさに魔女なのだろうな、などとシン少佐は思った。

 ジャミトフも手持ちの政治資金を使って議会工作をしているらしい。ジオンとの自由貿易協定の締結、貿易規制の撤廃、金融危機に関する相互協定や、通貨危機に備える条約などを成立させるべく奮闘中とのこと。

 そういった戦争回避のための大政策の前に、軍事組織の一政治任用職の人事決議などはさっさと片づけられる些事にあたり、あっさりとイングリッドの参謀次官就任が承認されたそうだ。

 

「――あ」

 

 シン少佐は一方的にゴップ参謀次官からの通信を切った。ふんすっ、というスタンプが届くがそれどころではない。

 

 港のロビーに、ジェリドとカクリコン、そしてエマ中尉がいるのだ。

 原作と同じく、ジェリドが二人を迎えに来ているらしい。よく来てくれた、などとあいさつをしている。

 

「やばい(×1000)」

 

 すっかり金融危機のことに頭を奪われていて、バチギレボーイがティターンズのメンズにデュクシする可能性があることを忘れていた。

 これは――完全に神の啓示ですな、とシン少佐はカウンターの決済端末を操作して、会計を済ませる。ただでさえ少ない口座の中身が、さらにゼロに近づいて悲しかった。ゴップ参謀次官の懐具合と比べると、ガチ格差社会というものを痛感させられる。

 

 低重力エリアなので、地球でバキバキに体を鍛えてきたシン少佐にとって、予定のインシデントエリアまで跳躍することは容易であった。

 

 I Can Fly.

 

 すたっ、と誰にも注目されぬまま、ロビーの中央に降り立つ。そもそもたいして存在感がないのが、シンという存在のメリットであり、デメリットである。

 

 ――来るっ!

 

 かのアムロ・レイの如く、白い稲妻がシン少佐の額に走る。

 本当は、長年のジム搭乗によって破壊された腰椎が着地の衝撃に悲鳴を上げて、これアカンやつですわ、という痛みの信号を脳に届けただけである。

 だが、ガノタとしての心力が、そのような情報をニュータイプのそれに変換してくれる。

 なお、痛みは消えない。

 

「――カミーユっ! ねぇ、カミーユっ! 会えやしないわよっ!」

「行ってみないと分かんないだろ?」

 

 キャッキャとティーンエイジャー二人が軍用ロビーに降り立った。

 シン少佐は胸が高鳴った。ファ様のおみ足がグゥレイトォ!!

 あと、カミーユが想像以上に美少年でトゥンクッ、と心臓がはねた。

 

 ジェリドたちティターンズ組が、キャッキャと騒いでいる二人に注目する。

 そして、ジェリドが例のダメワードをつぶやく。

 

「女の名前なのに……なんだ、男か」

 

 腰の痛みに一瞬悶絶していたせいで、シン少佐は阻止すべきタイミングに遅れてしまった。

 だが、ガノタたるもの、そのような出遅れシナリオにも備えているものである。

 

「おい、誰が女の名前だって?」

 

 カミーユではない。

 シン少佐である。

 彼はかつかつとジェリドに向かって詰め寄っていく。

 

「な、なんですか少佐?」

 

 明らかにうろたえた様子のジェリド中尉に、シン少佐は、イケルっと内心で確信する。

 

「貴様、自分の名前をバカにしただろう? 言っておくがシンは女だろうが男だろうが関係なく使えるぞ。うちの近所のばあさんは梅田しん――そして、李信って男は中華の大将軍だ。そしてシンシンはパンダだ、この野郎」

 

 ガノタならば知っているだろう。ジェリドは決して「カミーユ? 女の名前なの(略)」とは言っていない。あくまで、女の名前なのに男、と述べただけである。

 

 そう。『誰が』とは明示していないのだ。

 

 たまたまあの場にいたのがキレやすい上にNTな美少年だったがために、原作ではわけのわからんことになってしまった。

 しかし、ここには、このシンが義によって立っているのだ。

 

「少佐、因縁はやめてくれませんかね」

 

 ケンカ慣れしていそうなカクリコンが前に出てくる。

 

「カクリコン、やめなさいっ。この人、戦闘神経症なのよ。まともな判断が出来てないんだわ……」

 

 エマ中尉がカクリコンを止めようとする。

 

「一般将校にケンカ売られて黙ってられるか。ここ、グリーンノア1はティターンズの拠――」

 

 シン少佐は問答無用で手を出した。

 鋭いストレートがカクリコンの顎に決まり、彼がダウンする。

 あわてて駆け寄り、カクリコンを介抱するエマ中尉。

 

「貴様っ!」とジェリドが激高し、拳を向けてきた。

 

 シン少佐はそれをあっさりとからめとり、そのまま肩関節を外しておく。

 

「ぐわぁっ!!!」

 

 激痛に悶えて、崩れ落ちるジェリド。

 よし、これで一日くらいはMSに乗れないだろう。ガンダムMK2墜落問題は処理完了。

 この世界の医療技術は恐ろしいくらい進んでいるので、数時間で脱臼くらい完治させかねないからな。

 

「っ! 少佐、御覚悟!」

 

 エマ中尉まで参戦だ。

 さすがにガノタたるもの――男女平等が原則である。

 繰り出された近接格闘術をすべて受け流し、するどい平手打ちを頬にキメる。

 内心で「ごめんなさいぃぃぃっ!!(×∞)」である。

 低重力下ゆえに壁まで吹き飛ばされるエマ中尉。

 そのまま流れていったエマ中尉を、ファが駆け寄って介助する。

 

「なんてやつだっ! 卑劣漢めっ!」

「カミーユっ、ダメよっ!」

 

 え? とシン少佐が振り返ると、正義の怒りに燃えるカミーユ少年がこちらにむかってとびかかってきているではない。

 え?

 え?

 えぇ……?

 

「ま、待つんだ、少年っ!」

 

 慌てふためいたシン少佐は、ガードが遅れる。

 その隙を、カラテとジュードーを嗜むカミーユ少年が見逃すわけもなく――

 体重のしっかり乗った正拳突きがシン少佐の鼻っ柱に飛んできた。

 

「ふぉぼぉッ!?」

 

 情けない大人の声を漏らしながら、シン少佐は吹き飛ばされて、ロビーの壁面に打ち付けられる。

 キ、キクぅ、などとダメージを負いつつも、まだ意識ははっきりしている。

 しかし、ここで再度立ち上がろうものなら揉め事が継続してしまうと悟ったシン少佐は、やられたふりをしてそのまま壁際に沈む。

 薄目を空けて、その後の様子をみてしまうのは、ガノタなので仕方ないことだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

 カミーユが肩を外されてうずくまるジェリドに声をかける。

 

「す、すまないな、少年……助けられちまった。将校に殴りかかるなんて、お前さん、男だな」

「――肩、戻しますから」

 

 ジュードーの心得もあるカミーユが、ジェリドの腕をとり、はっ、と気合を入れる。

 

「うっ!」

 

 ジェリドがうめき声をあげるが、ゴキリという音ともに、関節が戻る。

 

「はぁ、はぁ……ありがとな、少年」

「少年じゃないです。カミーユ。カミーユ・ビダンです」

「カミーユか。後で一杯おごらせてくれ。男同士の礼の仕方ってのがあるんだ」

 

 ジェリドが連絡先をカミーユに渡している。

 

「でも、俺、未成年なんで」

「なら、クソ高い天然物のコーヒーでどうだ? 良い店知ってんだ」

 

 ジェリドがカミーユの頭にぽん、と手を置く。

 

「なら、それで」

 

 どこか恥ずかしそうにカミーユが言った。

 

「おう、男の約束だぞ」

「は、はいっ!」

 

 年上の兄貴にでも出会ったかのような素直さに、シン少佐は驚いた。

 そうか。カミーユは両親から愛されたくて――いや、誰かから愛されたい年頃だったんだよな。見た目が美少年だから、それにコンプレックスをもって、男らしさのようなものを追い求めていたカミーユに、ジェリドは『男だな』と認める言葉をかけてやった。

 それが効いたんだろうな――などと、シン少佐は予想だにしない展開を見ることができて、うちなる神に感謝していた。

 

「――え、ジェリド中尉はガンダムに乗るんですか?」

「おうよ。今度カミーユにも見せてやるよ」

「ありがとうございますっ! 俺、機動戦士ガンダム大好きで……」

「お、奇遇だなぁ。オレも同じさっ。セイラさん、わかる?」

「わかりますっ。でも、僕はフラウ派でして――」

 

 いいねぇ、コーヒーハウスが楽しみだぜ、などと言ってティターンズ勢はシン少佐を放置して去っていった。

 

 ティターンズ一同が遠のいたのを確認したシン少佐は「やれやれ」などと言いながら立ち上がった。

 

「これ、カミーユとジェリドが親友コースなのか?」

 

 なんだろう、クラウンみたいにはうまく行かないもんなんだなぁ――まだまだガノタとしての修業が足りねぇってことか、などと、やりきったイイ笑顔を浮かべながら、垂れていた鼻血をポケットティッシュで拭う。

 

『――シン少佐、聞こえるか』

 

 感慨にふけっていたシン少佐に、マッケンジー中佐からの通信が入る。

 

「はい、こちらシン少佐」

『シン少佐、港湾局から通報があった。直ちに艦の司令室まで出頭しろ。貴様、また何かやったな?』

「え、またなんかやっちゃいました?」

 

 なお、出頭後即座に部隊懲罰会議にかけられ、ジャガイモの皮むき二週間の刑に処されたのは、また別の話である。

 

 

 




0087は原作に沿いつつ(?)、ゆっくりやっていきます。
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