シン/機動戦士ガンダム   作:すしさむらい

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※注意事項
お話の中で『Gotham』が出てきます。
あー、こいつついにバッ〇マンとクロスしやがって……

という読み違えを起こさぬよう、事前にGothamについて説明します。
『Gotham』
これは現実に存在する軍事意思決定のプラットフォームです。
連結する様々なサブシステムAIで構成され、軍事機関・情報機関に様々なリスク情報やインシデントを警告したり、意思決定を『促す』、次世代の戦争指導OSを目指す素敵なものでございます。

もしこれをご覧の政府関係者やPMSCS経営者がございましたら
https://www.palantir.com/platforms/gotham/
より、お問い合わせください。専門チームが回答してくれます。

以上、ダイレクトマーケティングでした()


第三二話 0087 ダカール強襲阻止作戦(上)

 

 伝統を汲んで人工大理石風のプレートで外壁を覆われた『ニューホワイトハウス』は、首都ダカールの新緑に浮かぶ権力の城であった。

 

 中世期――かつての西暦における20世紀には、アフリカ西海岸にはみ出たダカールはすでに砂漠化が著しく、日々砂嵐や干ばつに悩まされていた。

 そして、宇宙世紀という新しい時代を迎え、技術も文化水準も当時と比べ物にならない時代になったときもまた、砂漠化に悩まされていた。

 コロニー落としの影響である。

 

 地球連邦政府はその設立趣旨に自然環境保護主義を採用している。

 巨大な統治システムに組み込まれた環境保護的アルゴリズムに基づき、新たなる首都をダカールに決定し、首都近郊からテラフォーミング技術を利用した環境再生を始めたのはつい最近の話である。

 

 さて、土壌改良と水質改善が始まったばかりのダカールに建設された大統領官邸は、今後の地球連邦政府がアフリカ大陸をどのように環境再生を行うかのモデルケースとして作られている。

 すでに敷地全域の緑地化は完了しており、清流が横断する自然公園を併設したその姿は、人工的に作られた植物園の技術的最先端ともいえる様相である。

 

 

 

 ツアー客たちが、ニューホワイトハウスの1階を回覧していた。

 

 一般市民向けの見学ツアーように解放されている正面玄関と1階部分は、レッドカーペットや古典的彫刻、連邦政府広報が用意した各種芸術品などが展示されており、連邦政府が正統なる人類文化の継承者であり、保護者であることを強く見学者に印象付けてくる。

 

「――2階への出入り口は、正面玄関から入った中央階段のセキュリティゲートを経由するか、政権関係者だけが知る地下経由でのエレベータと階段しかないのは、公然の秘密ですね」

 

 地元の大学生が団体客に対して行うガイドの決まり文句を聞いた団体客はそういうものかと驚いたり、納得したり、秘密の壁通路がないか壁を凝視したりする。

 

 平和条約を反故にするという荒事を為した地球連邦政府は、今日も泰然自若。

 大衆は日々の生活に埋没し、何一つ変わるところはなかった。

 

 

 

 

 さて、地下階に設置されているシェルター内にある会議室にて、連邦政府大統領レイニー・ゴールドマン大統領はリュウ・ホセイと対談していた。

 壁面に用意された各種モニタには、Palantir社が旧世紀に開発した GothamOS(交通カメラ、監視カメラ他市中の各種センサや、官民の人工衛星、軍の各部隊や情報部の観測情報を解析し、意思決定を支援するシステム)の発展形によって解析された情報が常時表示されていた。

 

 リュウ・ホセイはそのモニターの情報を、とても穏やかな表情でみつめている。

 

「リュウ君、君は本当にGothamUCが好きだな」とゴールドマン大統領。

「嫌いになる理由がないですから。私はGothamOSと縁がありましてね」

 

 リュウ・ホセイはこちらに来る前、かつての北韓内戦でGothamOSからの情報支援を受けて核ミサイル発射を阻止したことを思い出す。

 そして、こちらの世界に来てからのGothamUCにも当然縁がある。彼女が残してくれた地球連邦政府の民主主義をアップデートするための切り札だからだ。もちろん、ゴップによってGothamUCの起動用量子キーは秘匿されていた。しかし、幸いリュウ・ホセイは手に入れることができる立場にあった。

 

「かつてのGothamOSは、あくまで戦略意思決定を支援する道具でした。しかし、GothamUCは違う。人類を存続させるための守護神ですからね」

 

 ゴールドマン大統領と組み、相応に時間をかけてインフラを調達し、GothamUCのソースを理論試験機から移植した。

 これは電子妖精の助力がなければ不可能だった。

 

 GothamUCと連携し、金融政策を出力する巨大AIである Board of Governors of the Federal Reserve System をサブシステムとして運用することで、いかなる政策でCDOの暴落タイミングを確定できるかを算出できた。

 

 ただ、古びた半大統領制に基づく儀式性民主主義――選挙という儀式を要する古典的民主主義を存続させている連邦政府の権力を担うためには、どうしてもレイニー・ゴールドマン大統領の助力が必要だったが――リュウ・ホセイの中の人はガノタであるので、当然彼の想いを理解し、それを利用する術策をくみ上げるのも容易であった。

 

『リュウはん、ティターンズとエゥーゴを解体するための軍令、起案できたで』

 

 リュウ・ホセイの脳内にインジェクションされた補助量子脳に同居する電子妖精が起案した内容はシンプルの極みだ。

 上級司令部に出頭しない限り不名誉除隊させる――ただそれだけだ。

 ティターンズであれ、エゥーゴであれ、法体系的には地球連邦軍に所属するがゆえに、最も一般的な人事情報――給与支払いや退職後の軍人恩給制度、医療保険などなど、これらはGothamUCと連結されたAI-Driven EFF Social Security Policies Systemにて管理されている。

 

 不名誉除隊すれば退職後の年金も、医療保険も、給与だって失う。

 

 しょせん軍人など、戦う公務員でしかないことを嫌というほど熟知しているリュウ・ホセイの中の人は、ティターンズやエゥーゴとて人の子であることを利用して解散させることにする。

 

「ゴールドマン閣下、電送した人事粛清起案を首相府にお願いできますか」

「もちろんだとも。リュウ・ホセイ大統領首席補佐官」

 

 ゴールドマン大統領が官邸内のシステムを経由して、首相府にリュウ・ホセイから提案された粛清人事に関する軍令案を転送する。

 

 数分ののち、地球連邦軍の人事管理AIが同内容を布告。猶予期間は一週間であるので、来週にはエゥーゴとティターンズの半分以上は連邦軍に復帰するだろう――とGothamUCが予測をたたき出す。

 

『大統領はん、これでようやくひと段落や。人類の滅亡は当面、なんとかなったな』

 

 リュウ・ホセイが脳に住まわせている電子妖精が、大統領のイヤホンに語り掛けてくる。

 姿かたちは見えないが、この数年、ともに政変を起こすべく活動してきた同志であるのでゴールドマン大統領は電子妖精に感謝する。

 

「本当に助かった。ギレン・ザビがいつ再度の総力戦を実行するかの予測変数を君たちがもたらさなければ、地球連邦政府は終わっていたよ」

 

 ゴールドマン大統領が頭を下げる。

 

「閣下、頭を上げてください。頭を下げるのはこちらです。大統領閣下が信じてくださらなければ、我々はもっと強硬な手段に訴えねばならなかったのですから」

 

 リュウ・ホセイと電子妖精は、数年前からゴールドマン大統領とともに再度の大戦を阻止すべく活動していた。

 

 ギレン・ザビが人類の未来を見据えていることは、政治家ならば誰でも理解していることであるが、彼が目指す理想世界――『今日よりも悪くならない明日』を知るものはそう多くない。

 ゴールドマン大統領とて、ギレン・ザビと直接会談した回数は限られており、しかもそれは政治家同士の対話であった。

 ゆえに、なぜギレン・ザビが身命を賭けてジオン公国を維持し続けているのかの動機は一切知りえなかったのだ。

 

『いやぁ、ギレンはんはホンマもんやからなぁ。人類に期待しすぎっちゅうか何ちゅうか』

「ゴップ閣下と根底では同じですからね。役割分担をしていただけです。ゴップ閣下は許す人であり、与える人だった。ギレン・ザビは糾弾し、奪う人をやっている。そのどちらも今日よりも悪くならない明日のために必要なことだからです」

 

 リュウ・ホセイはどこか懐かしむようにゴップのことを語る。

 ゴールドマン大統領もゴップ閣下には政治的に恩があるので深く頷く。

 

 もし、ジオン公国と連邦政府の平和条約が成立していたら――GothamUCがはじき出した結論は、人類の破滅であった。

 

 予測によると――平和条約締結後、地球連邦政府は軍縮を開始。

 金融危機の影響で権力基盤を失ったエゥーゴとティターンズもまた、軍縮も相まって衰退し、連邦政府が穏やかに腐っていく流れを止める役割を果たせなくなってしまった。

 それでいながら余剰資源で地球からの脱出を図ることもなく、ただいたずらに地球人口を増やし続ける――ギレン・ザビは一年戦争以前に時計の針が戻っていくのに失望し、いよいよアクシズ落としとブリティッシュ作戦を同時実行する巨大軍事作戦を行う。

 

 リュウ・ホセイの中の人は、これを逆襲のギレンなどと呼んでいた。巻き戻っていく人類の時計の針を戻すために、歴史に逆襲しているのだ、とよく電子妖精に話している。

 

『あとはシン・フェデラルの地盤を固めて、地球連邦政府をころりと内部から更新せなあかんね。このGothamUCを使って』

 

 電子妖精がようやくや、と万感の思いを語る。

 

「そうだな。長かったよ。回り道ばかりで、取り返しのつかない犠牲を積みあげてきた」

 

 リュウ・ホセイは失った仲間たちを幻視する。かつてアムロ・レイは劇場版の第三部で「取り返しのつかないことをしてしまった」と後悔していたが、あの気持ちをリュウ・ホセイの中の人はどういうものか知っている。

 

 ゆえに、ここにいるのだ。

 

「ゴールドマン大統領、あと少しです。エゥーゴとティターンズを解散させ、盤石な体制の地球連邦軍を用意することでジオンの機先を制します。そして、儀式的民主主義を排し、GothamUCを用いた無意識民主主義の実装により、地球連邦政府は、ようやく『一般意思』を取り戻す」

 

 リュウ・ホセイの中の人は知っていた。選挙による儀式的民主主義は民主主義のエントリーモデルに過ぎず、完成形ではないということを。

 選挙という一瞬の時間の切り抜きに、大衆の一般意思など本当に含まれているのだろうか?

 本来の一般意思は、飲み屋でこぼされる政治家への悪口や、日々のSNSトレンドに流れていくジャンクデータ、あるいは街角のくだらない無駄話の中にこそ『連続体』として存在するはずだ。

 

 かつてギリシアのアテネなどでは、たまたま投票でしか一般意思を集約することが技術的にできなかった。

 しかし、今は宇宙世紀だ。先進的なデータ入力装置(各家庭に当然のようにあるハロなどの電子愛玩ロボ群や、コロニー内や市街地にばらまかれている各種カメラやマイク、センサー群から送られる世界情報収集監視システム)をGothamUCに接続する。

 ゲームバーでのMSパイロット体験ゲームのデータを収集してアルゴリズム開発や、教育訓練、リクルートに使用している時代なのだから、民主主義の入力装置だけが投票による議員選出のままで停滞している等、狂気の沙汰に思えてくる。

 

 すべてが繋がれば――人は日々投票行動をせずとも、GothamUCのアルゴリズムに基づき、人々はその意見と意思を無意識に政策決定へと反映することができる。

 

 これにより、権力闘争に明け暮れる議員は不要となり、Gothamから出力される政策決定を連邦政府の巨大官僚機構が粛々と遂行することで、大衆の一般意思による、大衆のための連続体としての民主主義が成立する。

 

 確かに大衆の愚かしさ――スペースノイドへの差別主義や、地球至上主義、あるいは狭量な人種差別主義が政策に反映される可能性がないとは言えない。

 これは――Gothamに接続されているNT達に補正を委ねるしかない。

 未来を『観る』彼ら、彼女らなら、必ず正してくれるはずだ。

 かのフル・フロンタルですら時の最果てに絶望しながらも、器として宇宙移民の未来を導こうとしたことを、リュウ・ホセイの中の人は知っているからこそ信じた。

 

「閣下、地球連邦市民は地球連邦市民を統治する能力を欠いているわけではありません。統治する手段を間違えているのです。大衆が望む経済政策や社会保障政策とて、それを実現する手段があるのに、意思決定する手段がないだけなのです」

 

 中央上院議会における2年に一度の投票?

 しかもその投票率は40パーセントを下回ることがままあり、宇宙移民者はもとより除外されている――ただの欠陥的儀式だ。

 リュウ・ホセイの中の人はそれを民主主義とは呼べないと確信していた。だからこそ儀式的民主主義と蔑んでいるのだ。

 

「やり遂げよう、リュウ・ホセイ首席補佐官。私は首相府と連携し、GothamUCによる統治を社会実装するよう推進していく――だが、GothamUCの意思決定アルゴリズムが本当に人類に資するのか、それを立証する手段を持たない。君は――何か知っているのかね?」

 

 ゴールドマン大統領の懸念はもっともであった。

 何らかの情報を入力すると、突然整然とした答えを返してくるGothamUCであるが、なぜその意思決定が導かれたのかは説明がない。

 人がわかるのは、ただそれが正しいということだけである。

 

「これは政策命題に対するゼロ知識証明です」と答えるリュウ・ホセイ。

『P vs NP問題について解決するアルゴリズムいつの間にみつけたんや? という疑問はもっともな気ぃするけどな』

 

 二人の回答を聞いて、ゴールドマン大統領が腑に落ちない顔をしている。

 

「私は確信したいのだよ。GothamUCから出力される答えが、ただのデルファイの神託なのか、それとも演算された結果なのかを」

 

 それについて、リュウ・ホセイは確信をもって答える。

 

「演算された結果ですよ。なにせ、GothamUCはNTの生体脳も利活用していますから、かなり正確に未来を『観て』判断しています」

 

 かつてムラサメ研究所で行われていたおぞましい実験の成果を、無駄なく再利用させてもらうことでGothamUCは完成した。

 ある意味、ムラサメ研究所なくしてこれはなしえなかったのだ。

 

「そう、か。もし一年戦争前にGothamUCがあれば、みな助かったのにな――」

 

 大統領の言葉に、リュウ・ホセイは黙って頷いた。

 そうだ。

 これがあれば、誰も死なずに済むのだ、とリュウ・ホセイは失った仲間たちのことを思い浮かべ、静かに心で涙を流す。

 

『リュウはん……』

 

 リュウ・ホセイの頭に、電子妖精の心配する声が響く。

 

「(大丈夫だ。俺は、やりとげるよ)」

『せやな。ガノタは、なんでもできるんや。うちもおるしな』

「(そうだ。一人でガンダムになれなくても――)」

『――二人ならガンダムになれるんや。やったろうやないか』

 

 リュウ・ホセイの中の人と、電子妖精は誰にも知られぬ合言葉を交わす。

 絶対に、成し遂げる。

 たった二人だけの、誰にも知られない、たった一つの冴えたやり方を。

 

 

 

 

 

 

 トロイホースⅡのミーティングルームに招集された各級指揮官らは、モニター前に立つゴップ参謀次官から任務の説明を受けていた。ゴップ様のお姿を拝めるらしいと期待してやってきた若い将校らもいたが、ブリーフィングの内容を聞くことで元気もションボリである。

 

「――以上が、エゥーゴ/ティターンズ連合によるダカール強襲作戦の概要よ。情報部もなかなか優秀ね。さて、我々は地球軌道上でこれを迎え撃ち、未然に奴らの軍事クーデターを阻止するのが任務ってことになるわ」

 

 イングリッド・ゴップ参謀次官の横に、原作Zガンダムでおなじみの黄色いノーマルスーツ姿のシン少佐が立っている。先日のアムロ・レイとの戦いであばらにひびが入った彼は、生気のない顔をしていた。

 

「参謀次官殿、クーデター阻止、とおっしゃいましたか?」

 

 最前列で聞いていたアルファ任務部隊司令のマッケンジー中佐がベレー帽をいじりながら問う。

 

「ええ、マッケンジー中佐。どちらも連邦艦隊による対反乱鎮圧作戦として実施されるわ。ご存じの通り、人事に関する公告でエゥーゴ、ティターンズからそれなりの兵が離脱。それでも覚悟がキマってる連中が義によって降下つかまつるってとこね」

 

 マッケンジー中佐はなおもベレー帽をいじる。

 

「つまり政府は、かつてともに戦った仲間を討て、と我々に命じているのですか?」

 

 マッケンジー中佐の不満に、そうだそうだ、と同席している士官たちが同調する。

 

「そうね。気持ちの問題の窓口くらいはあたしが引き受けてあげる。けど、ここにいるのは職業軍人のプロフェッショナルたちでしょ? あとどのくらい文句を聞いてあげたら、動いてくれる?」

 

 ゴップ参謀次官の言葉に、いままで盛り上がっていた連中が黙る。

 マッケンジー中佐が、はぁ、と深いため息をついてから言葉をつづける。

 

「――我々はアルファ任務部隊です。やれと言われれば、確実にやり遂げてみせます。気持ちの問題はさておいて、ですが」

 

 マッケンジー中佐がそう告げると、ゴップ参謀次官が結構、と頷いた。

 

「アルファ任務部隊は予定宙域に向かってちょうだい。あたしも武装解除の勧告をするために同行する。あんたたちが戦場に立つなら、あたしも一緒よ」

 

 仕方ないか、と席についていた将校たちは渋々といった様子で納得をみせる。

 マッケンジー中佐もベレー帽をかぶり直し、赤い特殊制服の襟元を正す。

 

「了解、参謀次官殿の命令に従います」

 

 マッケンジー中佐が敬礼すると、ミーティングルームに詰めていた面々も背筋を伸ばし、敬礼する。

 文官たるゴップ参謀次官は胸に手を当てる文官の敬礼をしながら、こう答える。

 

「ごめんなさいね、汚れ仕事を押し付けちゃって」

 

 

 

 

 後味の悪さを残しながらも、ブリーフィングを終えた士官たちが続々とミーティングルームから退出していく。

 後に残ったのは、マッケンジー中佐とシン少佐、そしてゴップ参謀次官だけである。

 

「すみません、司令。いやな役目押し付けてしまって」

 

 シン少佐が頭を下げると、気にするな、とマッケンジー中佐。

 

「誰かが不満の声を代弁する必要があった。仕方あるまい」

 

 自らの肩をもみながら、マッケンジー中佐がつかれたように答える。

 

「しかし、エゥーゴとティターンズが手を組むとはな」

 

 互いに別の関心に従って活動していた組織同士が、ここにきて結託するというのには、さすがのクリスティーナ・マッケンジー中佐も予想していなかったようだ。

 

「もともとあの人たちは思想面では似通ってるから。手段が違うから距離を置いて互いに別組織を作ってたけど、いざ急展開したら、手を握ってもおかしくない連中よ。どっちも、地球連邦政府はダメだし、地球はゆりかごなんだから、出ていかなくちゃ、って考えは同じね」

 

 イングリッドが両組織のキャッシュについての資料を開く。

 資金の流れは、かつてレビルやジャミトフがあの手この手でかき集めてきたスポンサーたちのみならず、地球圏の環境団体やスペースノイドの独立主義者、月面企業体など多岐にわたっている。

 

「イングリッド様、マユナシ・エクイティ・ファンドとGoPファンドもあるんですが……」

 

 シン少佐がエゥーゴとティターンズの連合軍にザビ資金とゴップ資金を見出す。

 

「あっちもこちらも政治屋だから、リスクヘッジくらいはしないと。ホントにあいつらのクーデターが成功しちゃう可能性も0じゃない。なら、それに備えてネゴるチャンネルは持っておかないとね」

「これだから政治は嫌いだな」とマッケンジー中佐。

「それは人間が嫌いって言ってるのと同じじゃないかしら? 司令。あたしたちはいつだって利益衝突してしまうわ。そこを調整するのが政治って仕事。マッケンジー中佐だって、バーニィがほかの女と浮気したら怒るでしょ?」

 

 マッケンジー中佐はやれやれ、と首を振る。

 すっきりとした微笑みを浮かべながら、彼女が答える。

 

「――怒る? 何をバカなことを……ノーマルスーツなしで宇宙に放り出すだけだ」

 

 シン少佐はとゴップ参事官は「そう……ですか」と、予想だにしない彼女の過激な発言に、愛と嫉妬の恐ろしさを学んだ。

 こりゃ人類から戦争をなくすのは難しいですね、とシン少佐とゴップ参謀次官は視線でやり取りする。

 

「……んんっ、えー、とにかく、そんな感じで人の世に争いは尽きないので、まずはエゥーゴとティターンズの戦力を削って、さっさと投降させるのが先決ね」

「しかし、平和条約問題はどうするので?」

 

 マッケンジー中佐が棚上げ中、と書かれたモニターの課題を指さす。

 過激化する平和推進運動――として、カボチャをかぶった連中が踊り狂っているデモシーンが繰り返し表示されている。

 

「平和主義運動も盛り上がってるみたいだけれど、これって下野しちゃった元ティターンズ派やエゥーゴ派の大衆運動よね。みんなの一般意思なのかどうかは、あたしにはまだ分からないわ」

「うーん、自分は平和条約締結に大賛成ですけどね。平和になれば、自分たちがMSに乗ってドンパチしなくていいので」

「――シン少佐、貴官の見通しの甘さは治らんな」

 

マッケンジー中佐とゴップ参謀次官がやれやれとかぶりをふる。

 

「平和条約を結んだからハイ平和、サヨナラ連邦軍、とはならないのが世の常でしょ」

「そうですかねぇ。ジオンと互いに軍縮条約を毎年更新して、互いに防衛費負担を減らしていくって政策に、庶民は大賛成すると思いますよ」とシン少佐。

 

 なにせ、シン少佐自身がそれを望んでいた。給与からバリバリ天引きされる防衛特別税がなくなれば、シン少佐はこの世界にあるミリタリーグッズ――すなわち、リアルガンダムグッズへのさらなる予算をゲットできるからだ。なお、軍縮で自分が予備役編入――つまり、解雇される可能性は頭からコロリと抜け落ちている。

 

「――うそ、そんな風に考えるの?」

 

 イングリッド様には思いつかなかったことらしい。

 

「なぜそんなに簡単にギレン・ザビを信じられるんだ、貴官は。奴が必ず約束を守り続けると考える根拠は?」

 

 マッケンジー中佐も不思議そうな顔でシン少佐をみている。

 言われてみれば……とくに根拠はない。

 ただ、なんとなくギレンなら結んだ条約を守ってくれるような気がする、というだけであった。

 何とも言えない、憐れみのような視線を受けて、シン少佐は羞恥に震えた。

 

 

 

 

 

 数日後、アルファ任務部隊はイプシロン任務部隊と合流『させられた』。

 ハンフリー准将によるアルファ任務部隊への増援だ。手持ちの戦力を増強してやろうという気遣いだったのだろうが、艦橋のマッケンジー中佐は目に見えて不機嫌だ。

 

(そもそもイプシロン任務部隊の司令と、マッケンジー中佐は性格が合わないんだよなぁ)

 

 シン少佐はブリッジの司令席に腰掛ける、不機嫌な彼女を見る。

 ブリッジの空気感はあまりよろしくなく、ただ艦長のイワン・パサロフ少佐だけが黙って電子書籍を読んでいる。それはそれで服務規律違反だが、いいのか?

 

 こちらの艦隊に合流したイプシロン任務部隊のグレイファントムから、艦橋に通信が入る。

 

『やっほー、クリス、久しぶりね。彼としっぽりやってる?』

「マイスター中佐、やめてください。部下が見ています」

『やーね、相変わらず堅物だこと。ヤザン中尉から聞いてるわよ~子作り大作戦だっけ?』

「中佐っ!」

 

 だぁーん、と司令席を強打する音が響くが、艦橋の空気は緊張するよりも弛緩していく一方である。

 

『ちゃちゃっと産んどいたほうがいいわよー。あたしみたいになる前にさ』

 

 イプシロン任務部隊の司令、エイミー・バウアー・マイスター中佐は一年戦争時に夫を失っていることを、クリスもシンも知っている。シン少佐の中の人も、ガノタとして彼女の真意を痛いほど理解している。クリスに、幸せになってほしいだけだ。自分のようになるなと言っているのだろう。

 

 だが、それはあいさつ代わりにやる会話ではないような気がしないでもない、と普段から空気を完ぺきに読みこなしていると確信しているシン少佐は思った。

 

「――この戦争が終わったら元気なキッズをゲットしますよ」

『いいわねー。あ、シン少佐、うちの子が挨拶したいって』

 

 どうもイプシロン任務部隊はこちらと違って、あまり軍隊の雰囲気でやっていないようだ。どちらかというと、小規模な地方部隊のノリがすごい。

 

「はぁ」と急に通信に参加させられるシン少佐。

『おっすー、シン少佐』

 

 中華系のレディがモニタに映し出されて、シン少佐はとぎまぎした。

 

「げ、リウ・メイリン少佐……特殊作戦グループにいたんですか」

『そうそう、うちもさっき知ってさー。シン少佐と過ごした激しい夜を思い出しちゃったよー。またしようね!』

「ふっ、望むところだ!」

 

 幹部上級課程の時に知り合った女性MSパイロットだ。中の人のガノタナレッジ的には、極東MS戦線という媒体に登場していた素敵可愛いツヨツヨパイロットである。

 中華戦線でガチバトルをしていた猛者で、幹部上級課程のMS運用シミュレータでは何度もボコボコにされている。夜な夜な個人演練に付き合ってもらった借りを返してやらねばならんな。

 

「じゃ、またあとでっ!」

「おー」

 

 通信が終了する。

 マッケンジー中佐が「……またシャニーナ大尉が大暴れするな」と額に手を当てる。

 

 確かにその通りだ。

 リウ・メイリン少佐は自分よりも凄腕。

 間違いなく、シャニーナ大尉の大暴れにも耐えうるだろう。

 シャニーナ大尉相手だと、単機バトルで負け越すこともこのごろ多くなっているシン少佐。

 

 まったくもう、仕方ないですね。このわたしが特別指導をしてあげますね――などと生意気なことを言うようになってきた彼女を鍛えなおすいいタイミングかもしれない。

 

 ふっ……MSパイロット道は長く険しい、ということをあの子の体にわからせてやってくれ、リウ・メイリン少佐――などと、シン少佐は新たなるバトル・レディに期待を込める。

 

「司令、シャニーナ大尉が火器使用許可と出撃許可を求めています。いかがしますか?」

 

 お、さっそくシャニーナ大尉にやる気の炎がついたか、とシン少佐はニヤリと口元を歪ませる。

 あの子はわしが育てた最強のつわものよ――という師匠の真似事をしているつもりなのだが、周りからはただの馬鹿の薄ら笑いにしか見えない。

 

「……グレイファントムを撃沈しかねん。ヤザン中尉に拘束させろ」

「了解――ダメです、ヤザン中尉から返信『カラオケで忙しい』です」

 

 はぁー、と深い息を吐いたマッケンジー中佐が、こちらをみる。

 

「何でしょうか、司令」

 

 表情筋に気合を入れ、キリリとした眼差しを向けるシン少佐。

 

「――シャニーナ大尉との実機演習を許可する。すこし相手をしてやれ」

「了解、しっかり鍛えてやりますよ」

 

 颯爽と艦橋から退出。

 背後に、ブリッジクルーたちの敬意のこもった眼差しが向けられているような何かをシン少佐は感じた――ふっ、さすがにちょっとエースの風格を醸し出しすぎたか、自重自重、などと前髪をさっと払う。

 

「バカにつける薬はない、か」

 

 などと、マッケンジー中佐がこぼした。たぶん、意味不明な政策決定をする首相府や連邦議会への皮肉だろう――と、シン少佐は醸し出しすぎたエースの風格で回りに反地球連邦政府的な影響を与えてしまう己に驚いた。いやぁ、乱世、乱世。

 

 

 




書くためにZガンダム見てたら、面白くて投稿遅くなっちゃった……。
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