シン/機動戦士ガンダム   作:すしさむらい

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第三三話 0087 ダカール強襲阻止作戦(中)

 

 リニアシートに身を預けたシン少佐は、モニタをいじる。

 そこには現在の艦隊の状況が表示されている。

 

 現在、地球軌道に展開する各軌道艦隊が集結し、エゥーゴとティターンズ連合艦隊に現場でどう対処するか、各艦隊司令が現在ミーティング中だ。大方針自体は首相命令が出ており、作戦要綱も参謀本部から届いている。

 しかし、現場は現場の事情というものがある。

 命令違反をするわけにはいかないが、かつての一年戦争や0083事変でともに並んで戦った仲である。何か手はないか、ということでゴップ参謀次官を中心に協議しているようだ。

 

 待機命令を受けたシン少佐は、脳内でZガンダムを再生していた。もちろん、TV放映版と劇場版両方である。すでに世界がわちゃわちゃになっていて、シン少佐が持つ原作知識など何の役にも――立つ、いや、立たせるのがガノタというものである。

 

 原作ではエゥーゴがエイヤでジャブローに降下していた。その理由は――ティターンズの本拠地を押さえる、であった。ガノタ御用達のデータコレクションの記述によれば、ジャブローからの連邦軍司令部移転は既決事項であり、すでに移転が進んでいたそうだ。

 エゥーゴの作戦は、空き巣強盗のような微妙な降下作戦となり、最後は核爆発オチという笑うに笑えない話で終わった。核使用の嫌疑をエゥーゴに向けるティターンズの政略であった、という解釈もあるが、そこらへんは劇中でどうなったか明示されておらず、ガノタ力で読み取るほかない。

 

(どうしよう、全然参考にならない……。そもそもZガンダムがガノタ力を試す仕様なんだよなぁ。フォウ関係の話と、劇場版でファとカミーユが抱き合うシーンしか印象に残らない。『そっか、ヘルメットしてるとキスできないんだ』ってイデオンでもやってたよな――)

 

 Zガンダムを先ほどから20回以上繰り返し光速再生しているシン少佐は、ネロトレーナーのコックピットにて待機中である。

 いつ何時出撃命令が出てもおかしくないほどに、事態は切迫しているからだ。

 原作と違い、エゥーゴとティターンズが連合を組み、その最大戦力をもって、連邦政府首都ダカールを制圧する――文字通りクーデターを企図した動きを見せている。

 

 どう考えても原作以上に過激だ。

 

 よくよく考えてみれば、原作のエゥーゴもひたすらにクーデター行動を繰り返していたわけだし、そこに齟齬はない。

 だが、今回はティターンズも一緒だ。

 しかも、原作のようにエリート意識に凝り固まったティターンズや、ジオンの残党と結託してアナハイムと蜜月なエゥーゴ、といった『皆さん、この組織ちゃんと弱点ありまぁす』という敵ではない。

 

 どちらも、強敵そのものである。ティターンズにはMS教導団がゴリゴリに参加しており、その訓練メソッドは正規軍を凌駕している。エゥーゴとてレビル将軍とともに一年戦争からずっと最前線で戦訓を得てきた実戦部隊ばかりだ。

 

 ――あれ? よくよく考えてみたら、正規軍は数しか勝ってないんじゃ?

 

 シン少佐はコックピット内の全天周囲モニタの一部に、合流した艦隊から届いている人事情報を、フィルタリングをかけて検索する。

 確認したいことは、下士官層――伍長~先任曹長の層の厚さだ。一年戦争、あるいは0083戦役に従事していた連中が多ければ多いほど、ありがたい。下士官は軍隊における背骨であることは、MS戦が主軸になった宇宙世紀だからこそ、より一層顕著になっている。

 

(……まぁまぁ、か?)

 

 シン少佐は胸中でうめき声を漏らす。11.94パーセント。繰り上げて12パーセントである。100人の下士官がいたら、その中の12人だけがヤバい戦場を知っている連中ということになる。

 

 士官、下士官であれば100%戦場経験を有するアルファ任務部隊やイプシロン任務部隊ほどの特殊な例までは期待していなかったが、想定よりも低かった。

 

(実戦経験がありゃ強い訳じゃないけれど……崩れにくいんだよなぁ)

 

 軍隊というものは損耗して入れ替えることを前提にすべてが構築されている。

 無論、人間も例外ではない。

 訓練プログラムも、実戦を経て戦訓を得た内容に基づいて月次ベースで改良をくわえられているため、一年戦争初期には対MS戦のノウハウなどなかった連邦軍も、あっという間にジオンにキャッチアップできたのである。

 

 ただし、いかに優れた訓練プログラムを修了していようとも、いざ命のやり取りが始まる戦場となると、士気というものも馬鹿にできなくなる。

 

 そんな時に頼れるのが、経験ある下士官というわけだ。

 へっぴり腰になってしまった連中に『ついてこい』と言える下士官が一人でもいれば、あっという間に兵隊は立ち直る。そういうものなのだから、仕方がない。

 

『シン少佐、艦隊の方針が決まった』

 

 マッケンジー中佐から資料とともに通信が入る。

 電子ファイルを開き、全天周囲モニタに作戦図を映す。

 

「こりゃまた……横綱相撲ですね」

 

 ダカールに降下できる宙域は限定されている。直接降下を狙う以上、エゥーゴとティターンズ連合艦隊は、そこへと兵力を集中することになる。

 それを、正面から地球を背にして迎え撃つ、というのがこちらの方針だ。

 数の上では有利なので、文字通り正面押しである。

 

『ここでゴップ参謀次官が公式に説得にあたる。なお、私的通信の封鎖はなしだ』

「楚歌ですか。逆にこっちの士気を砕かれるシナリオもありそうですよ」

 

 何せあちら側は年期と気合が違う。ブライトやアムロ、教導団の連中にあれこれ言われたら、こちらの兵とて動揺するだろう。

 

『それでもまずは対話だ』

「了解」

 

 確かに、ガノタたるもの、対話の努力は捨てたらいかんな、とシン少佐がうんうんと頷く。

 ただ、ブライトとかを説得する方法を何一つ思いつかないのもまた、事実ではあるのだが。

 

 

 

 

『アルファリーダー、ネロトレーナー、出――!?』

 

 ガンダム作品の登場人物ならば皆それぞれ格好のいい発進セリフを持つものだ。

 アムロ、行きまーすのようなアレだ。

 しかし、シン少佐はアルファ任務部隊に配属されて以来一度も言えたことがない。

 カタパルトにMSを乗せたら問答無用で強制射出である。

 出撃でやんす、とかいろいろ言わせてほしいのだが、だいたいはMS名を言ったあたりで『射出! 射出!』と管制に追い出されてしまう。

 

 今日もキメ台詞を言えなかったな、などと思いながら、シン少佐は戦況図を確認する。

 各部隊の展開は進んでいるようだ。

 

 実際にコックピット内で見渡してみると、全天周囲モニタにはブルーの枠組みが相当数表示されていて、自機の近くに友軍が散開していることが見て取れる。

 直上には強襲を担当するヤザン隊とスパルタン部隊。下方にはバトルラインを敷くためのシャニーナ隊他、アルファ任務部隊の各艦艇から出払った部隊が編隊を組んでいる。

 

『うちらはアルファ2の援護でいいんだね?』とリウ・メイリン少佐率いるイプシロン任務部隊。

「イプシロンリーダはアルファ2に直協してくれ。アルファ201、ケツもちがついてくれるそうだ」

『アルファ201より、イプシロン101へ。オレのケツに見惚れて落とされるなよ。後味が悪いからな』

『イプシロン101よりアルファ201へ。しっかりと堪能してやるから安心していいよ』

『上等だぜ』とヤザンの鼻が鳴る。

 

 連邦艦隊からもMSが続々と割り当てられた各行動地帯に展開している。こちらの全天周囲モニタにも前進軸が表示されている。もちろん、ティターンズやエウーゴと接触する予測時間もだ。デートの時間が刻々と迫るように胸が高鳴る――なんてことはない。

 

(主力はジムⅡか)

 

 さんざんティターンズやエゥーゴに予算を分捕られていた、というのもあるが、もともと大量配備していたジムシリーズを近代化改修するほうが予算もそれほどかからないという懐事情により、お仲間たちはジムⅡばかりである。

 

 一部のできるパイロットにはちゃんとジムⅢが配備されているようなので、連邦正規軍の兵站部門もそれなりに機能していることがわかる。

 特に、原作で相応に活躍した皆さん――不死身の第四小隊などは、フル装備のジムⅢであるので、ティターンズのバーザムやエゥーゴのネモを相手にしてもやりあえる――でも、ネモ・ディフェンサーは勘弁かなぁ、などと、シン少佐はあれこれ頭の中でシミュレートする。

 

『よぉ、久しぶりだな、S909』

 

 ん、なんだか懐かしい声だな、と思い、隣に並んだ機体を見て仰天する。

 ジムⅢパワードFA(ブルドック)であった。

 

「もしかして、DFo883ですか?」

『そのもしかして、だ。あのとき助けてやった貴様のヒヨコは生きてるのか?』

「今、真下にいる連中の隊長やってますよ。いやー、あの時は助かりました」

「そうか――ヒヨコも化けるものだな。良い動きじゃないか」

 

 DFo883は、かのア・バオア・クーの頭のオカシイ戦いの際に、何度か助けてもらった艦砲射撃を誘導する専門の前進観測士官だ。あの頃はジムスナイパーカスタムで暴れていたが、今回も暴れん坊な機体でご登場のようだ。

 MS戦闘をしながら艦砲を誘導し、決定的な有効射をキメる、文字通り火力計画の成否を担うエリート様がわざわざ来てくれたということは、連邦軍も本気ということだろう。

 

「えーと、あの時は名前を聞きそびれました。こちらはシン少佐。見ての通り特殊作戦グループ所属です」

 

 こちらの機体はネロなので、相手も察しているだろう。

 

『テネス・A・ユング中佐だ。艦隊Fo統括として最前線に観測指揮所を設け、前衛火力調整を行う。いわばクソ仕事だな』

 

 こいつぁたまげたな。原作設定によるならアムロ・レイを上回る撃墜数をたたき出した連邦軍一年戦争期における最高の撃墜王である。

 

 ――が、よく考えれば艦隊Fo(観測士官)ならわけわからんスコアくらいたたき出せる。

 

 有効射による撃墜判定の三分の一がスコアに加算されるからだ。

 だが何よりも評価されるべきことは、それだけ『生き残っている』ことだ。

 当たり前の話だが、艦隊Foを潰せば、ミノフスキー粒子下での艦砲射撃を無価値なものに出来るからだ。

 まず真っ先に袋叩きにされる。

 

 そんな艦隊Foの一作戦単位における死亡率は70%を超えるので、頭のネジが外れているか、強運の星のもとに生まれているものだけが仕事を続けられる。

 

「ユング中佐殿を信じて、我々は突撃するだけですよ」

『――ワイン一本ごとに要請射撃を融通してやる。うまく使え』

「了解。ボス」

 

 テネス中佐のジムⅢパワードFAが離れていく。

 互いの光メッシュ通信は確立しておく。あちらが危機的状況に陥ったら援護してやらねば、と、珍しく戦局全体を見通した思考をするシン少佐。

 なにせ、久しぶりの正規戦である。

 人類同士の正面決戦など、それこそア・バオア・クー以来である(0083事変はジオンの特殊部隊による非正規戦だったので)。

 

『――全部隊、傾聴』

 

 作戦司令部――ホワイトベースⅡからの通信だ。連邦軍はかなり気合が入っているようで、旧ワイアット派の支持層を引き継いでいるとされるステファン・ヘボン中将だ。

 かつてのワイアット中将が英国趣味だったのに対し、ヘボン中将はハンバーガーとコークを愛するアメリカ趣味である。

 

『諸君、私は、ステファン・ヘボン中将である。君たちに、友を討て、と命じる冷酷な男の名前だ』

 

 0083事変では、ルナⅡのワイアット派艦隊を統率して宇宙怪獣とガチバトルをしていた猛将。こちらも彼の艦隊にずいぶん助けられた。懐かしいな、とシン少佐は口元に笑みを浮かべる。

 

『一年戦争以前より連邦軍に籍を置いている私は、諸君らの中の古参将兵同様、エゥーゴ、ティターンズに数多の戦友をもつ。私は非公式に、これから彼ら、彼女らに呼びかけ、武装解除を提案する。もし私の言葉に耳を貸さず――私と諸君らの戦友たちが統制線を越えた場合は、苦渋の決断を下すことになる』

 

 ヘボン中将の覚悟が伝わってくる。

 

『その悔しさと失意を、我々将官に向けてくれて構わない。連邦軍の高官たちが、手練手管で公的組織を壟断した事実は、誰の目にも明らかだからだ。その責任を諸君らに押し付けるような戦いを強いる、我々将官たちの無能を憎んでほしい』

 

 確かにそうかもな、とシン少佐はヘルメットのバイザーに曇り止めを塗りながらヘボン中将の演説に耳を傾ける。

 

『だが、この一戦をもって連邦軍は変わる。諸君らに引きたくもない引き金を引かせる、我らのような軍権を壟断した将官はすべて粛清される。私も含めてだ――。消えゆく老人から最後の命令を伝える。Semper Fi. 常に、忠誠を』

 

 すでに連邦軍から久しく失われていた言葉だ。

 いつしか党派がまかり通るようになった軍隊が、もう一度取り戻さなければならない、もっとも根源的なものが忠誠心だろう。

 ただ、それにふさわしい連邦政府、というものをついぞ見たことがないな、と、シン少佐は情けない政府にも奮起することを期待する。

 

 

 

 作戦開始の端緒となる、両軍統制線の上端にアルファ任務部隊は展開していた。

 

『――繰り返す。もう一度、同じ旗のもとに集い、共に歩むことはできないだろうか? 銃を捨て、友の手を取りさえすれば、まだ間に合う。レビル将軍、ジャミトフ大将、私の手を取ってくれ』

 

 ヘボン中将の非公式な呼びかけはまだ続いている。

 そして、公式な呼びかけを担当するゴップ参謀次官もまた、言葉を尽くしていた。 

 

『武器を捨て、投降信号を出す。それだけのことをためらうな――』

 

 こちらの声は届いているだろう。

 そして、エゥーゴもティターンズも、その言葉には応えない。

 

 信念、というもののせいだ。

 

 ガノタたるシン少佐はよく知っている。理解しあえる可能性があるとされたNT同士でさえ、最後は口論で試合終了。アクシズを落としたあの男は、アムロと口喧嘩しながら果てたのをガノタなら見てきている。

 

 それと同じことだ。

 

 信じるもの、為すべきことをなすという鋼の意志が、こういう結果を招く。

 

「――ブライト中佐、聞こえているか。アムロ君、答えてくれ。頼むから、一線を越えさせないでくれ」

 

 伝わるかどうか分からない、プライベート通信のほうに連絡を入れる。

 当然、既読サインはつかない。

 

(そう都合よくはいかないよな)

 

 シン少佐は部下たちの配置とバイタルを確認する。

 士気がまともなのは、ヤザン中尉くらいか。

 

「あー……撃つなよ。ガチの無駄死にだぜ、こりゃ」

 

 シン少佐は祈った。

 祈ったところでどうしようもないとわかりながら、トミノ神に祈りをささげる。

 最初に一発が撃たれたら、そこから先は――地獄坂を転がり落ちるだけだ。

 

「!?」

 

 シン少佐は目を見開いた。

 正面から一機、来る。

 回避は――間に合わない、と判断したシン少佐のネロ・トレーナーはシールドを構える。

 そこに。一条のビームが着弾する。

 

「パプテマス・シロッコかっ!」

 

 シン少佐は撃った相手を視認していた。

 ガノタたるもの、たとえ星の向こうから狙撃されようとも、敵のMSくらいは識別できるものだ。

 

(メッサーラかっ!)

 

『――火器自由使用。繰り返す、火器自由使用』

 

 艦隊AIが狂ったように同じ文言を繰り返す。

 OKクソ野郎。

 いまの一発は歴史を変えたぞ馬鹿野郎っ!

 

 シン少佐が何かを命じるまでもなく、アルファ任務部隊は所定の作戦行動に入る。

 容赦なき、敵の殲滅である。

 

 同様に、連邦軍の艦隊から計画射撃。

 対抗するようにエゥーゴ、ティターンズから突撃支援射撃が届く。

 

「各機、乱数機動だ! 弾幕が来るぞ!」

 

 シン少佐は命令を出しながら、切りかかってきたバーザムをいなす。

 

「おいっ! 投降しとけよっ!」

『できるかっ! ジャミトフ閣下をむざむざ処刑させるわけにはいかんっ!』

「そんなこと……」

『ないと言い切れるのか! 腐り果てた政府だぞっ!』

 

 圧倒的な気迫のこもった蹴りを食らい、そのまま吹っ飛ばされるシン少佐のネロトレーナー。

 

(くっそ。マジもんのエリート部隊じゃないか)

 

 本気で行かないと、やられる。

 部下を守れない――そう判断したシン少佐は、当然のように心のスイッチを切る。

 素早く機体を制動し、フェイントを入れて一射。

 先ほどのバーザムの胴をビーム粒子で貫いた。

 

「アルファ全機、イプシロン隊、戦線を浸透し、アーガマ隊を押さえる」

 

 シン少佐がそう命じると、ヤザン機から応答が入る。

 

『こちらアルファ201、すでに接触中っ!』

 

 直上の戦域に頭を向けてみると、すでにアーガマのネモ、ネモ・ディフェンサー部隊とヤザン隊、イオ隊が交戦していた。イオのラムダガンダムが容赦なくネモを打ち落としている。

 ヤザンは――ウラキ、キースのコンビとやりあっている。

 

「――早いな。さすがブライト。気力も装備も充実しているうちに、脅威を排除するって腹か」

 

 ブライト中佐の考えることなどわかる。

 奴は戦巧者ではないが、勝ち筋を確実に拾ってくる堅実な戦い方を好む。

 いまならアーガマクルーも搭載MS部隊も気力、体力ともにイケイケだ。

 とくに、アイツがな。

 

『――そこっ!』

 

 通信機は切れよ、とシン少佐は光通信を利用した相対位置フィードバックを利用して、アムロの白式のビームを回避。

 ここまでは事前にプログラムを組んでおいた挙動なので、シン少佐には何の負担もない。

 そう。

 アムロ・レイは優しさを持つNTだ。

 敵味方に分かれて、非道な殺し合いをするには……優しすぎる男だ。

 だから、最後まで話し合いを受け入れようとするだろう。

 つまり、通信ポートが開いているわけだから――常時、やつの位置をこちらは把握できるし、やつの手癖をさばいていけば、何とかなる(勝てるとは言っていない)。

 

『また、避けるっ?』

「悪いな、アムロ君。ネロトレーナーはいい機体なんだよ」

『馬鹿にして……。あなたはそうやっていつも他人を見下して、人を馬鹿にすることしかできないんだ!』

 

 よーし、乗ってくれた。

 感情的になってくれれば、多少はやりやすい。

 このままこっちの通信ジャックによる位置情報取得がバレませんように、と祈る。

 

「なぁ、アムロ君。そんなエゥーゴがどうって柄じゃないだろ? 思想で戦争しても世はよくならないって」

『――何を言ってるんですか、あなたは。これは僕の仲間が生きるか死ぬかの決戦なんですよ。投降して、本当に無事でいられるなんて信じるほど、僕たちは政府を信じちゃいないんです』

 

 文句を言いながらサーベルで切りかかってくるのはちょっと遠慮していただけませんかね。

 ネロトレーナーのサーベル出力は白式とそう変わらないから受けられるが、性能差があったら死んでますからね。

 

「先に投降した連中はちゃんと無事だぜ? 地球の僻地勤務になってはいるが」

『――それは、普通の人だからだっ! リュウさんが、どうなったか知らないからのんきなことを言えるっ!』

 

 リュウさん!? あ、そうか、ホワイトベースが地上に降りる前に拿捕されているから、リュウ・ホセイは普通に生きているのか。

 

「どうなったって、ブライトから聞いてるぞ。軍に残ったって……」

『ちがうっ! リュウさんは僕をかばって、ムラサメ研究所に送られたんですよっ!』

 

 シン少佐は心のスイッチが壊れそうになったが、持ち前の無神経さで無理やり抑え込む。

 

「そうか」

『そう……か? それ、だけですか? 頭の中いじくりまわされて、廃棄処分にされたって記録を、僕はみたんですよ。あなたは、やはり何も知らないから――そうやって、何も考えずに政府の犬になれるんだっ!』

 

 怒気そのままのラッシュ。

 相手の怒りの呼吸に合わせてライフルを撃ち合い、互いに回避しあい、淡々とリズムよくバトルダンスをキメていく。

 

 こちらのライフル射撃の間隙を縫うように迫る白式の目に赤い走査線が表示される。

 あの白式――バイオセンサーが動いているな。

 

 どちらのステップがリズムに乗り遅れるか――遅れたほうが死ぬだけの、簡単なダンスゲームのステップを踏みながら、シン少佐は白式の通信ポート経由でゴップ参謀次官お手製のマルウェアを忍び込ませる。

 

 見える戦闘と、見えない戦闘を同時にやるのが、シン少佐の戦術である。

 まともにやってあのアムロ・レイに勝てるはずがない。

 

 事実、そろそろデス・ダンス大会のステップに出遅れつつあるのはシンのほうだ。

 紙一重で回避できていた攻撃が、だんだんと掠めるようになってきた。

 アムロは――戦いながら、さらに成長している。

 これが、ホンモノのニュータイプか。

 

『――隊長っ! シャニーナ機がやべぇっ!』

 

 イオ大尉からの通信。コードで呼んでいないからこそ、切迫感を理解した。

 アムロの連撃を回避しながら、シン少佐はシャニーナ大尉の位置を把握する。

 

(Zガンダムっ!?)

 

 まだ出来てないはず――いや、アナハイム驚異の技術力だ。こちらの得ていた情報通りに仕上がってくるわけがない。

 

「――アムロ、悪いな」

 

 シン少佐は白式に忍ばせたマルウェアを起動する。

 機体の制御を失った白式が、その場に漂う。

 もちろん、通信も途絶だ。

 問題は、アムロがシステム介入だと気づいてマルウェア除去を開始することだ。

 おそらく――MSに関するエンジニアリングを一通りかじっているヤツなら、1,2分で気づくだろう。

 それだけの時間を稼げただけ、マシ――とシン少佐は白式を放置して、シャニーナ大尉のネロトレーナーに絡んでいるZガンダムへと突貫する。

 

「動きが素人だぞ、ゼータっ!」

 

 シン少佐からすれば、アムロよりはるかに単純な動きをしているZガンダムの背後に回り込むなど造作もなかった。

 だが、背中に目でもついているのか、仕留める前に離脱された。

 そして、変形して距離を離して――MS形態に戻り、狙撃をかましてくる。

 いやらしい戦い方だが、まだ仕上がっていないな。

 怯えからか、近接格闘を決められるにも拘わらず、遠距離戦をつい選択してしまう悪癖が出ているようだ。

 単純な乱数機動で回避し、シャニーナ機の損傷を確認する。

 

――無傷?

 

 どういうことだ。

 損傷がないのに、シャニーナ機の動きが鈍い。

 

「シャニーナ大尉、どうした?」

『す、すみません隊長。あのガンダム――なんだかすごく気持ち悪くて。怯えてるんだと思うんですが、その気持ちがゾワゾワとわたしを犯してくるんです』

 

 NT同士の共鳴が悪い方向に現れているな、とガノタたるシン少佐は理解した。

 おそらくあのゼータガンダムの乗り手は、あいつだ。

 

「シャニーナ大尉は下がれ。あれは君に向かない相手だ。俺のケツを狙ってくるほかのやつを頼む」

『了解……あまり、無理しないでくださいね』

 

 シャニーナ機と部下たちが下がっていく。

 こちらの背後に回り込んできたネモ・ディフェンサーを押さえてもらう。カイかハヤトだろうな、あの動きは。

 

「――カミーユ・ビダン君だな。ティターンズ最新のMSに乗ってはしゃいでいるが……心は怯えているぞ」

 

 おいおいアムロとカミーユを同時に相手取るなんて――ガノタならば幾度もこのような事態に備えた脳内シミュレートを繰り返している。

 シン少佐のプランは極めて単純。

 とにかく、どちらか先に落とす、である。

 

「――悪い、アムロ君」

 

 シン少佐は迷わず、クラッキングで動けない白式を狙い、ライフルを撃つ。もちろんガノタとして配慮すべく、白式の腰を狙っておく。白式はちゃんとした機体なので、センサーがしっかり反応し、脱出ポッドで放り出されて戦争からご卒業だろう。

 

 しかし、Zガンダムが割り込んできてシールドで防がれる。

 

『卑劣漢めっ! 投降しようとしているヤツを撃つなんて、それでも戦士かよっ!』

 

 残念、最善手だったんだぜ、カミーユ君。

 そこの白式は投降の意志一つないスーパーエースなんで、脱出ポッド状態にしておいたほうが助かったんだよ、わかれよ……。

 

 あと、こちらは兵士だ。

 必要なら死体に爆弾仕掛けるようなクズ行為だって辞さない、ガチ勢だよ。

 

「ったく、修正してやるよ、カミーユ・ビダン君」

 

 ネロトレーナーは肩部ムーバブルフレームに直結している追加スラスタを小刻みに吹かしながら、Zガンダムに迫る。

 しかし、Zは可変機の特性を駆使して、すぐに距離を取り、こちらを間合いに入れさせてくれない。

 まさに機体性能で勝ち目なしというやつである。

 

「こんなもんか」

 

 シン少佐のネロトレーナーは、Zガンダムの追撃をやめて、さっさと引いていく。

 

『逃げるのかよっ!』

 

 戦闘機状態のZガンダムが背後から追いすがってくる。

 数秒もしないうちにすれ違うな――と、ガノタナレッジで瞬時に交錯時間を導出する。

 本当に――若いな、カミーユ君。

 

「――!!」

 

 シン少佐は、かみしめた奥歯が砕け散るのを感じながら、ネロトレーナー必殺の急旋回をかます。肩のスラスタを左右バラバラに動かすことによって実現されるこのマニューバができる機体は、ネロトレーナーを除くとGPシリーズくらいなんじゃないか、いまこの時代だと(Fbとか02)――あ、ジムカスタム高機動型も?

 

 そんなガノタ特有の無限探求を行いつつ、ライフルを構えるネロトレーナー。

 

 そして、飛行機は急には止まれない。

 

 すり抜ける形になったゼータが、急制動をかけるべくMS形態に変形する。

 ガノタクイズのおなじみの、Zガンダムの変形時間は何秒? というやつだ。

 

「0.5秒、なんだよな」

 

 もちろん、あほみたいに戦場を練り歩いてきたシン少尉が狙いを定めて撃つ速さは、それよりもはるかに速い。

 シン少佐が淡々とトリガーを絞る。

 粒子が飛び、ゼータの背中に直撃。

 変形途中のバックパックを吹き飛ばされたZガンダムがふらふらとどこかへと飛んでいく。

 

「あー、よかったー。カミーユが経験積んでたら死んで――ヴぁぁぁああ!?」

 

 シン少佐は激しくコックピット内で揺すられる。エアバッグが緊急展開し、首や腰椎を痛めないようにサポートを決めてくれるが、残念ながらピキーンと、腰がアウトな悲鳴を脳髄に伝えてきた。

 

「いっ!! アムロ・レイっ!」

 

 まるでニュータイプのように言い放っているシン少佐だが、明らかに腰の痛みをごまかせていない。さすがに、ガノタと言えどもダメなときはダメである。

 

『よくもやってくれたな……ガンダム一つ落としたくらいで慢心するところが、あなたらしいですよ、シン少佐――脱出ポッドはエラー吐いてませんよね?』

「わぁあぁぁぁ、やめろ、バカバカっ!」

 

 背後から羽交い締められるネロトレーナー。

 もちろん絡みつくは白式である。

 

『今回は、僕の勝ちです』

「テメェ! 誕生日プレゼントまたハロだからなっ! 覚悟しとけっ!」

『――本当に次の誕生日が僕にくるなら、楽しみにしてます』

 

 直撃判定となる、背後から胸部にかけてのビームサーベル刺突。

 腹部に格納されているインジェクションポッドが射出される。

 もちろん、中に乗っているシン少佐は「うわぁぁぁぁ」と叫びながらぐるぐる回っている。

 

 くそっ、制動をどうやってかけるんだっけ……などとぐるぐる回るコックピットの中で、シン少佐はあれかこれかとモニターを叩く。

 

『シン少佐っ!』

 

 軽い衝撃。回転が止まる。

 

「シャニーナ大尉か?」

 

 逆襲のシャアの時の赤い彗星よろしく、モニターは全滅である。

 かろうじて声だけはわかる。

 

「よ、よかった! 無事ですね!」

「アムロの野郎に奥歯砕かれたくらいだ」

 

 本当はカミーユ相手だが、負けたのが悔しくてみみっちい冤罪を擦り付けておく。

 

「そうですか。あのクソガキ、絶対許しません」

 

 いや、あなたも似たような世代ですよシャニーナ大尉、とは言わない。

 

「悪いがトロイホースⅡまで戻してくれ。予備機が必要だ」

「本気で言ってるんですか? 味方はもうボロボロですよ?」

 

 え? こっちが死ぬ気でアムロとカミーユ抑えたのにおかしいだろ!?

 

「何が起きている? こっちはモニターが死んでるんだ」

 

 確かに戦闘中は余裕がなくて全体をみれていなかった。アルファ任務部隊とイプシロン任務部隊については目を配っていたが、少なくともアーガマ隊を押さえることには成功していたはずだ。

 だいたい、アーガマ隊はラーディッシュ級つれてて、そこからグレー塗装されたネモ・ディフェンサー隊が飛び出してるの見えたからな。アレ、ホワイトディンゴ隊だろっ!? そんなのまで引き連れているからチートだチート。

 抑え込めただけアルファ任務部隊とイプシロン任務部隊をほめてほしい。

 

『ティターンズとエゥーゴ部隊が精強過ぎて、どんどん戦線が崩れています。今、バニング大尉他、古参のジム乗りが穴を手当していますが、どれだけ持つかといわれると――あ、ガンダムMk2です。ちょっと落とすんで、このまま待っていてくださいね』

「ちょっ! ジェリドかカクリコン、あるいはエマさんが乗ってるんだから手間かかるんでやめとけ!」

『エマ、さん? 誰ですか、その女……確認しなくては』

「あびゃぁぁぁっ!」

 

 シン少佐は、その時、逆襲のシャアでアムロにインジェクションポッドをつかまれた赤い彗星がどのような身体的苦痛を受けたのか、実感することができたのである。

 




これカミーユがマークⅡだったら死んでたな……。
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