眼下に広がる荒廃したムラサメ研究所
ブラックライダーにナイフを突き立てるゲルググJの姿を見て、リュウは直ちに射撃を開始する。
弾道計算も正確で、降下時のブレをも加味をしたそれだったが――ゲルググJは素早くブラックライダーから離れて、こちらの射撃を回避する。
どこかに目があるな、と確信する。
ルッグンか何かからの航空情報支援を受けていない限り、こうも素早くこちらに気付き、予測回避をとるなど不可能だ。
だが――最優先はアン少尉の救助。
そこは間違えない。
「ゼロ大尉、ゲルググJは任せた」
『了解』
落着直前の速度減殺用増設ブースターが火を噴く。
ムラサメ研の野外負傷者たちに被害を出さぬよう、施設から離れた森林地帯にジムカスタムを落着させる。
久しぶりのバリュート降下だったが、問題なし。
増設機器をパージし、山林火災に原因になりそうな木々にさっと消火剤をバラまいてから、アン少尉のブラックライダーへと駆け寄る。
一方のゼロ大尉は、ペイルライダーDⅡの突入速度をあまり減殺せずに――そのままゲルググJにぶつかっていく。あれは機体の基本的なフレーム強度に優れたRXシリーズだからこそできる荒業で、RGMシリーズのような、ほぼモノコック構造のそれだと損傷=稼働不能となる。
だが、高速で飛び込んできたペイルライダーDⅡに対して、ゲルググJがアイキドーのような動きでそれを逆に投げ飛ばしてしまう。
そのまま気を引いておいてくれよ、と祈りながら、リュウはブラックライダーの正面に立ち、ひしゃげたコックピットハッチを凝視する。
救助は――無理だ、と即断する。
上半身をパージして内部のカプセルを取り出せるならまだしも、上半身の構造材とコックピットブロックが完全に絡み合ってしまっている。パージしたらひどいことになるのは目に見えている。
打開策を考えるべく、無数のチャートを量子脳に展開して探る。
可能性があるのは――やはり、アレか。
「ドクター・ムラサメ。聞こえますか」
『――聞こえる。地上の敵は片づけたのか?』
ドクター・ムラサメは地下研究施設に退避している。
もともとムラサメ研究所は、かつての松代大本営計画もびっくりな、山間と山中に施設群を建造しているビッグプロジェクトだ。史実におけるオーガスタ研究所がないこの時空では、ムラサメ研とオーガスタ研の機能が合併され、NT研究と装備開発を同時に遂行するアジアの重要技術拠点となっている。
「片づけました。地下施設にしまってある木星からのギフトを使います(※ギレンがかつて連邦政府に提出したもの)。エレベータとMS輸送車を地上に上げて下さい。ブラックライダーを地下搬入します」
『サイコ素材なんぞ使い道があるのかね? そんなことよりアンを回収し、治療したほうが――』
「アンが助かる見込みはありませんよ。だから、賭けに出ます。潰れてますからね――」
押しつぶされて意識はないだろうが、呼吸と脳だけは生きている。
救助しようと瓦礫をどかせば出血性ショック死間違いなしの、最悪の状態だ。
ゆえに、手段は限られる。
木星からもたらされたイデオナイトを使い、アンの魂魄――意思を、イデオナイトで肉体から引きはがす。第六文明人がやったことと同じだ。
あとは、その意思を、ストックされている量子脳に移す。この変換処理は自然言語で行うことは不可能――ゆえに、リュウと基地内の量子計算機及びストックの量子脳の計算領域をメッシュ化してやるしかない。
これらを説明すると、通信を繋いでいた地下の研究員たちが色めき立った。
『――ぜひ、ヤらせてくれっ!』
盛りのついた研究バカたちを焚きつけるのには成功したようだ。
アンを助けたいというリュウやゼロと、新しいステージに研究を進められるというムラサメ研究所のメンツとの間にWinWin関係が成立した。
『ほら、エレベータと車両を上げたぞ。運び込んでくれたまえ。機材のほうはこちらでそろえよう』
わくわくが止まらないドクター・ムラサメの口調にウンザリするところがないでもないが、いまはあの連中のとびぬけて狂った頭脳が必要だ。
サイコ素材と計算資源を使い、魂のソースコードを明らかにする――これは遺伝子工学に次ぐ、新たなるサイエンスの幕開けを奴らは喜んで寿ぎ奉っているわけだ。
リュウはできる限り余計なショックを与えぬよう、ブラックライダーを搬送し、回収車両に載せる。そして随伴してともに地下施設にエレベーターで降下した。
クラウンは自分の汚れ仕事にウンザリしていた。
敵を殺すことに躊躇はないが、何も理解していない子どもを潰さなければならないという現実には腹が立った。見逃してやるためにチャンスを与えたが、あの子は逃げなかった。
こちらとて空中から戦いを観測されている身。
あれ以上の譲歩は無理だった――全く、ままならぬものだ。
あの日、上級士官課程を卒業したクラウン大尉は別室に呼び出された。
そこにいたのはスーツの男たち。
非合法任務を成し遂げねばこの子がとても悲しい目に合う――とキシリア機関の手の者に、女学校の寮を隠し撮りされたであろう、制服姿の尊き御方の写真を見せられたのだ。
思わずキシリア機関のスーツ男の首をへし折りそうになったが、理性で押しとどめた。
クラウンは条件を付け、その仕事を受けた。
一つは、ハマーン様の身の安全の保障。
二つに、すべての盗撮写真をクラウンに提供することだ。
特に二つ目が重要だ。尊き御方の御姿を写し取ったそれはアート。
アートとは審美眼を持つものに許された真善美のマテリアルである。
そして、ジオン公国におけるあの御方に関する審美眼において、クラウン以上の眼力を持つ者はいない。
これはかのギレン閣下もご理解しており、クラウンの前で尊き御方の御名前を一切出さぬ配慮をされるほどだ。
つまり、そのアートはすべてこのクラウンが保持するべきなのである。
キシリア機関に一方的に使われるのは大変腹立たしかったため、懇意にしているギレン閣下の親衛隊情報科に連絡し、無事それらアートをキシリア機関から回収、独占せしめた。
全く、一年戦争さえ乗り切れば、あのお方が健やかに過ごせるだろうと確信していたのに、現実はそうではなかった。
流されるまま、クラウンはこうやって戦争犯罪者連中をひとまとめにした第11特別執行猶予MS戦隊なる懲罰部隊を無理やり率いてムラサメ研究所破壊作戦をやらされている。
兵は殺人と性犯罪を一通りやらかした役満連中なので、誰一人として返すなと厳命されている。
「ゼロ・ムラサメか」
猛烈、と表現しても大げさではない、特殊複合兵装シェキナーによる全力射撃を山中の起伏を利用して防ぐ。
ムラサメ研究所が人体実験を中心とする危険な研究所である旨は知っていたが、ギレン閣下の親衛隊経由でもたらされた情報は、文字通り非道、であった。
不法滞在者であると見なされた地上に住まう人々を無理やり集め、研究所の地下施設で虐殺まがいの人体実験を繰り返す様に、さすがのクラウンも気分を悪くした。
ジオンとて同じ穴のムジナ。フラナガン機関に送られて体をいじられていた尊き御方を、問答無用でお救い致したのも、一分の義憤に駆られたゆえである(99.9%は私欲)。
「さすがは連邦初の実戦仕様強化人間。だが、愛の化身たる私には――敵ではないな」
さっと、懐からアート写真を一枚取り出す。
時が止まる。
そう、この美しきアートを目にした瞬間に、世界の時間は急速に遅くなるのをクラウンは経験として知っていた(※プラセボ効果)。
麗しき御方の、休日の朝。
簡素かつ清涼なパジャマの上着を御着用なされた御姿。
そして、上着からそのままスラリと伸びる、ギリシアの女神も逃げ出すおみ足。
そのおみ足の合流地点デルタ▼にちらりと映る、肌着。
パンツァー・フォオォォォオォ↑↑! と、クラウンの脳と神経と眼球が加速される(※プラセボ効果)。
『バケモノかっ!』
「遅いぞ、連邦の強化人間」
ペイルライダーDⅡのシェキナーの乱射など、止まって見える。
しかし、こちらのゲルググJの反応も――遅いな。
ビームすら遅く感じるこの感覚の中では、ただイライラが募るばかりだ。
もっと早く、もっと正確に動けるはずなのに、それに追従してくれないゲルググJの性能を鑑みると、やはり戦後MS更新計画をマ・クベ中将と進めねばならんな、と確信する。
いまだ試作段階のハイザックを、ジオンの主力機として更新するには、マ・クベ中将のサプライチェーン整備計画をもってしても数年かかるだろう。
『なんで当たらないっ! 僕には見えているのにっ!』
「心眼の鍛錬がたりないのではないか?」
喝っ! とクラウンが目を見開くと、ペイルライダーDⅡによる射撃予測ベクトルが見える。これは歴戦の経験により生体脳が生み出す幻視でしかないのだが、クラウンは素晴らしきアート写真の結果、あらゆる身体機能が向上したように感じられる効果のおかげだと信じて疑わない。
「来たまえ。連邦の強化人間。愛ゆえに躊躇わぬ戦士というやつを、教えてやる」
クラウンは懐にしまってある別のアートをさっと取り出し、凝視した。
そこに写るはクラウンの腕にギュッと抱き着く尊き御方の御姿。
なんたる僥倖。
いまならば、誰にも負けないだろうとクラウンは確信した。
リュウ・ムラサメは確信した。
いける、と。
いま、ジムカスタムはサイコ素材――イデオナイトを手にし、ブラックライダーのコックピット前にそれを差し出していた。
コックピット内にいるリュウは禅とほぼ同義のマインドフルネス状態に移行し、己が接続しているムラサメ研究所の計算資源に処理を走らせている。
魂のコーディングである。
イデオナイト経由での量子脳に対する意識移植。
アンの意識を形作っていた無数の記憶を移すことで、次第に人格らしきものが量子脳に芽生えつつある。
記憶とは複雑なもので、様々な事実(インフォメーション)を解釈によって評価した情報(インテリジェンス)であるため、簡単に事実と評価を分離することはできない。
しかし、人格形成においては、事細かな事実よりも、そう評価した気持ち(エモーション)を重視したほうが、意思の移植、という作業に寄与する。
改めて、生身の人間というのものが、いかに学習を重ねて人格をくみ上げていくのかということを思い知らされた。
そして何よりも――欲望にコーディング規約はないのだ、ということに気付かされる。
こんな小さな子でも、あらゆる渇望でパンパンだ。
それらは部品ごとに独立していて、欲望のネットワークとしてはまだまだ未完成だ。
例えば、身体の変化により愛への渇望と性衝動がネットワーク化されることを第二次性徴と解釈しうる。
量子脳人類の最大の課題はここにある。
ただ量子脳の中に人格を芽生えさせ、意識を生じさせても、それだけでは確実に人類としてのマナーコードからは外れる。
身体の成長という生物的な何かしらの事象によって引き起こされる、各種欲望のネットワーク化アルゴリズムを、量子脳人類は意図的(それこそ魂に対するコーディングとして)実装するか、あるいは有機人類の肉体と接続して、からだの変化に合わせて欲望を育てていく必要がある、とリュウは悟る。
欲望という個別パーツのネットワーク化及び、その処理アルゴリズムこそが、人間の成長であるというポスト構造主義じみた思想が、まさかここで飛び出してくるとはリュウも思ってもいなかった。
『リュウ君、これは――』
ドクター・ムラサメ他、先生方が騒いでいる。
「成功、です」
リュウは仕上げ処理として、アンを移した量子脳に自分しかアクセスできないバックドアを仕込んでおく。
これから何が起こるかは分からない以上、アン・ムラサメと魂でつながれるようにしておく必要があるからだ。
なお、リュウはイングリッドによってバックドアをつけられているので、イングリッドとこの時空でも一蓮托生である。
まったく、量子脳になっても彼女に首輪をつけられてしまうとは思ってもいなかった。
「ドクター・ムラサメ、量子脳を搭載できるボディを探してください。彼女の年齢と欲望に合わせたものがいいでしょう。人の社会で生きられるようにしてやりたい」
『ふむ――ビショップ博士、アレはどうかね?』
リュウはガノタとして先生連中が何を企んでいるか気づいた。
ビショップ博士――本名不詳のジオンからの亡命者は、ジオンでのサイコミュ研究プロジェクト『ビショップ計画』に参画していた。その経歴が名の由来になっている。
『ちょうど都合がいいのがござるよ。それがしは、ちょうど10歳~13歳くらいのガールフレンドを鑑賞するのが趣味でしてな――こちらをば』
量子脳装備たるリュウに嫌悪感を抱かせる特殊性癖プレッシャーをかましてくるビショップ博士から送られてきた写真は、彼が人生をかけて作り上げているヒトクローンの少女たちであった。その特殊な欲望のためにテロメアの長さを調整する遺伝子工学分野にまで精通したキモオタである。
『どれもアン様に使っていただけるカラダですぞ。おぉ、それがしのデザインしたカラダを、アン様がご利用くださるとは……それがしは恐悦至極にござる』
恐ろしく早口である。量子脳の文字起こし補助がなければ聞き取れなかったであろう。
「アン少尉の無意識が、02番を選びました。それを使ってください――ボディと量子脳の接続執刀は、ビショップ博士が?」
『ハァ……ハァ……ヤらせていただきたく存じまする!!』
息の荒い返答だったが、それだけ意欲があるということだろうか。
念のためドクター・ムラサメが持っているビショップ博士の執刀記録を参照すると、小児外科手術に関しては信じがたいことに神の領域に達しているらしい。これほどの人材がいるなら使うほかない。
「では、アン少尉をお願いします」
『ヒャッホィっ! 任されたでござるよっ! さぁ、アン様、それがしとお医者さんプレイでござるぞ』
アンの電子脳を乗せた台車に衝撃を与えぬよう抱えるように持っていく彼の姿に、気遣いを感じた。だが一方で漠然とした不安も感じたので、何かあれば射殺できるように、銃を使える奉仕員に監視させることにした。何かあればすぐに連絡をするように、と伝えておく。
ゼロ・ムラサメ大尉は完全に破壊されたペイルライダーDⅡから離れて、森林にその身を隠していた。
ジオンのバケモノじみたゲルググJに対して、特攻覚悟の一撃を決めるべく接近戦を挑んだのだが――残念ながら派手にやられてしまった。
コックピットを貫かれるかと覚悟を決めたが、敵が『――チャンスをやる。降りて逃げろ。機体には近づくな』と謎の慈悲を与えてきたので、その言葉に従った。
普段なら従わない。
見逃す、などというのは兵隊として失格だと先生から教えられている。
これほどまでに強い敵が、兵隊として失格な行為をするとは普通、考えない。
だが、強化された直感が、敵の言葉が嘘ではないと教えてくれていた。
そしてペイルライダーDⅡは破壊され、ゼロ・ムラサメはサバイバルケースを抱えて森の中、ということになった。
ゲルググJを迎えに来たらしいドダイに、敵は飛び乗って太平洋側へと去っていった。
どうやら、この襲撃計画で生き残ることを想定されていたジオン兵はあのゲルググJ乗りだけらしい。
ほかの兵は……すべて捨駒。死人に口なし、だ。
「困ったなぁ」
ゼロ・ムラサメはサバイバルケースを空けて、銃床折り畳み式のサブマシンガンを取り出して、弾倉を差し込む。
そして、サブマシンガンのスリングを利用して、体に掛けておく。
イノシシやクマが出たらいつでも使えるように、だ。
ゲルググJをムラサメ研から引き離すために、かなり山奥まで来てしまった。
人道や自動車道に歩いて出るのはさすがに無理があるため、救助が来るまではキャンプを設営して過ごすしかない。
ゼロは適当な木々を利用してタープを張り、そこにポンチョをかけて簡易シェルターを作る。夜風と夜露を多少はしのいでくれるだろう。
あとはノーマルスーツの性能を信じるだけだ。
操縦中はシートとの無線給電によって電力が供給されているし、腕部のモバイルPCによれば、いまも99%の充電量を示している。
「ソロキャンプなんて、ムラサメ研に来た時以来だねぇ」
日のあるうちに、取り急ぎ今夜の薪をかき集めておく。
枯れ枝をかき集め、キャンプに積んでいく。
一通りの下準備を終えて、木の幹に背中を預けた。
ゼロはサバイバルケースに入っていた加熱式レトルトパッケージに水を入れる。
水蒸気とともに高熱化するそれをじっと見る。
湯気が消えたら――あちちっ、といいながらパックを開封し、スプーンで超高カロリーラザニアをすくって食べる。
ムラサメ研に入ったころを不意に思いだす。
いつもは施設に誰かいるから思いだすこともないのだけれど、今日は特別だ。
一年戦争前からムラサメ研はあった。
研究所には大別して二つのタスクチームがいて、MS開発実験団と、次世代兵士研究センターが互いに協力しあいながら頑張っていた。
もともと、次世代兵士研究センターに所属していたのが僕――ゼロ・ムラサメだ。
本名は、捨てた。
家族も――忘れた。
漠然とした記憶にあるのは、冷蔵庫の中に食べるものがなくなったときの絶望感だけだ。
母親は、僕を育てるのをあきらめてしまった、という失望感も覚えている。
「――誰か」
誰何しつつ、サブマシンガンを構えて音のしたほうに狙いを定める。
そこには通りすがりのタヌキがいて、さっさとどこかへと走り去ってしまった。
「――緊張しすぎだよね」
ゼロは繊細過ぎる自分の感性にあきれた。
なんだろうな。赤ん坊のころからこうだったのかもしれない。
ずっと些細なことで泣き続けて――母さんは疲れちゃったのかもな。
サブマシンガンを降ろし、再び木の幹に背中を預ける。
日も暮れてきた。
枯れ枝を集めた焚火を起こす。
細い火が、周囲を頼りなく照らしている。
ノーマルスーツの襟元からストローを引っ張り出し、口にくわえて吸う。
フィルター経由で浄化された自らの汗と尿を口にする、というノーマルスーツの機能を初めて知ったのも、ムラサメ研の次世代兵士研究センター時代だった。
次世代兵士研究センターでは、もともと強化外骨格――人型汎用RS(ロボットシステム)の次世代型研究をやっていた。歩兵の装甲化と高火力化というのはずっと続いてきた人類の戦争システムの宿命なので、宇宙世紀0070年頃にはほぼ歩兵個人の装甲化と火力向上は普及済みだった。
だけど、ジオンのギレン・ザビが70年頭に、連邦政府に直訴したことがきっかけで、MSの開発競争が始まった、なんて話はたぶん誰も知らない。ムラサメ研の次世代兵士研究センターの生き残りだけじゃないかな?
木星に、巨大人型遺跡があり、その操縦者は巨人の可能性がある、と。
100mを超える巨大人型遺跡には操縦席らしきものがあり、そのサイズは現生人類とは比べ物にならない、というギレンレポートを受けた連邦政府は、大型異星人との戦闘に備えた基礎技術の確立をムラサメ研究所の次世代兵士研究センターとMS開発実験団に命じた。
けど、当時のムラサメ研はいまみたいなクレイジーな人が足りなくて、スゴク普通の結論しか出さなかった。
大型人型兵器って、コスパ悪いですよね? と。
これにあきれたギレン・ザビがジオンでMS開発を始め、連邦で新RS計画が始まる。
連邦の新RS計画がなかったら、そもそもRX計画もV作戦も立ち上げようがない――なんて話は、たぶん誰も信じないだろう。今作られている歴史書にそういうことは書かれていないからだ。計画に従事したモルモットと親分たちだけが知っている、どうでもいい開発の歴史。
ギレン・ザビが連邦政府にバチバチの戦争を仕掛けたのも、本当は人類に巨大人型異星人との戦いに備えさせるため――その戦訓と運用能力を獲得させ、サプライチェーンを構築・維持させるために、連邦とジオンの偉い層が結託して、互いに血みどろの出来レースを人類にやらせてるんじゃないか? なんて話を先生たちがしていたけれど……さすがに陰謀論だよね。
ジオンはジオン星人役をギレンにやらされている、なんて与太話は、やっぱり与太話にすぎないはずだ。
「あっ」
夜空に救難ヘリらしき影。ヘリのサーチライトがこちらにあたる。
どうやらサバイバルケースに入っている、ソーラーパネル付き救難発信機はちゃんと機能していたようだ。
ふいに、母親を思いだす。
母さんは迎えに来てはくれなかったけれど――
『おーい、ゼロ大尉っ! ケガはないかっ!?』
『貴重なサンプルなんだ。勝手に死なないように』
拡声器越しに聞こえるリュウ大尉とドクター・ムラサメの声。
僕のことを捨てた人もいたけれど、僕を迎えに来てくれる人もいるんだよな、と、ゼロは頼れる友と、クレイジーな先生を歓迎した。