シン/機動戦士ガンダム   作:すしさむらい

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明けましておめでとうございます。
今年もきゃっきゃと楽しんでいこうと思います。


第四一話 0082 ギレンとクラウン

 

 

 ハッピィニューイヤー、とアン少尉から送られてきた一枚の画像。

パーティ会場でとったものらしく、ドクター達やゼロも写り込んでいる。

 リュウ・ムラサメはそれをドラケンEの視界良好なコックピットで閲覧していた。

 

『あんちゃん、次はココとココで切ってくれ』

「あいよ」

 

 写真を閲覧していた端末をしまう。

 

「作業員退避お願いします。カット用意」

『安全確認っ! 作業範囲っ! 人なしっ!』

「カットしまーす」

 

 リュウの操るドラケンEがレーザーカッターを手に、現場の施行管理者の指示に従い、鉄骨のカット作業を行う。

 当然、鉄骨は設計に基づきプレカットされたそれが届くのだが、現場の諸事情によって加工が必要な時もある。

 リュウはその作業を手伝っていた。

 建築業というのは有資格者による作業を前提としているので、何をするにも技能資格が必要だったりする。この点、MS乗りたるリュウはMOS(軍内の技能資格)を持っているので、任務に基づく民間協力であれば、このような溶断の手伝いくらいはできるのだ。

 

 基礎工事の補修を終えたムラサメ研究所は、すでに地上構造物の骨格をくみ上げる上棟作業中。

 現地の建築会社が動員をかけたドラケン系ミドルMS重機やトロール社の作業用プチモビを大量投入して、突貫工事を進めている。

 

 ――リュウは、ゴップ主催のニューイヤーパーティには参加しなかった。

 特に大きな理由は、全く制御できていない感情的なあれこれ、である。

 次いで、シン大尉との接触機会はできる限り減らしたほうがいい、というリスク管理的な判断である。

 

 そして何よりも――0083を改変する、という大きなタスクがある。

 こちらの時空に来てから隙あらば、あの意味不明な事象……宇宙怪獣のことを考えていた。Gの影忍のアレであることは分かっているのだが、そもそもGの影忍ではその正体が明らかにされることもなかった(※中の人が金剛玉石以降を読めずにこちらに来てしまっているせい)。

 

 今ならわかる。

 あの0083は意図的にギレンが宇宙怪獣を地球圏に現れるよう仕組んだのではないかという点だ。

 そもそもモーラも連邦、ジオンなどという組織体に拘泥する輩ではないし、ギレンとてジオン公国という組織にこだわりを持っているわけでもない。

 

 あの二人は、ただ二人の思惑のために動くだけだ。

 決して、ジオン国民や連邦市民のための忠誠心からあの立場で仕事をしているわけではない。ただひたすらに、人類のことだけを考え、必要があれば何でもやる政治オバケなだけだ。

 

 つまり、あの二人は人類の未来のために宇宙怪獣を呼び寄せた、ということになる。

 あの時の餌は『ビューティ・メモリ』が持ち合わせていた特級テクノハザードであるDG細胞への対処法であった。

 

 そもそも――とリュウは思案する。

 リング・オブ・ガンダムのビューティ・メモリーが月の遺跡として発掘された、ということは、月には文字通り、黒歴史関係の遺跡が大量に眠っているのではないか? いや、それだけではない。

 

 おそらく、地球連邦軍のジャブローとて、おそらく本来の目的はロスト・マウンテンの探索用地下坑道基地なのではないかとすら思えてくる。

 

 前のシンが残した記録にも、それらしきデータが残っている。

 0087対応で後回しにしたようだが、ジョン・バウアーを調べ上げようとしていた痕跡があるのだ。

 

 ジョン・バウアーもまたガノタであることは分かっている。カムランとのデータがそれを如実に物語っている。

 

 だが、奴の真意は不明。

 前のシンが集めたデータは部分の集合に過ぎず、全体像はまだ見えない。集められたものは、彼が連邦政府――そう、軍ではない、政府の側の重鎮として歴史を調律している様々な証左を集めたものでしかない。

 

 そのなかに、ジョン・バウアーがジャブロー地下施設造成計画を隠れ蓑にして大量の試掘を行っていることも分かっている。

 

『おーい、次はこれだぁ』

 

 また指示があったので、リュウは思考を中断してカット作業に入った。

 

 

 

 

 

 UC0082年1月初頭、リュウは明確な企図のもとに、ムラサメ研究所を動かすことを決断する。ゴップ元帥のもとでのニューイヤーパーティを楽しんで帰ってきた先生方を、ドクター・ムラサメに頼み、会議室に集めてもらう。

 

 そして、ドクター・ムラサメに会議室で、さも自分が考えましたという雰囲気でプレゼンをさせた。

 

「――つまり、我々はこの『ビューティ・メモリ』をジオンのキシリア機関から手に入れ、これを解析。これまで繰り返された宇宙について記録された膨大なデータを取り出すっ! どうかね? 高まってきたのではないかね?」

 

 こちらが大量に引き継いできた各種画像やデータを惜しげなく晒すプレゼン資料と、各員の手元にある膨大なサイクリック宇宙の実証データ。

 

 どの先生もドクター・ムラサメの言葉に熱中しているらしく、手元の電子端末をずっと触りながら、興味深そうにプレゼン資料をちらりと見上げている。

 

 ここにいる頭のネジが飛んでいる先生方であろうとも、今すぐには納得すまい。

数日は――議論を重ね、思考実験を繰り返し、納得できないところを見つけ、それをまとめ上げるだろう。

 人としての倫理観をどこかに置いてきた連中ではあるが、その学問的な意味での性能は間違いなく品質保証付きだ。

 

「――あのぉ」

 

 熱気のあまり汗をかきそうなくらい熱くなっている会議室で、一人の青年が手を挙げた。

 普段通りの作業服を着たゼロ大尉である。

 

「なにかね、ゼロ大尉」とドクター・ムラサメ。

「その『ビューティ・メモリ』は、どうやって手に入れるんですか? キシリア機関ってことは、ジオンの高度機密ってことだと思うんですが」

 

 実にまっとうな質問である。

 隣に座っているリュウ・ムラサメもうんうん、と頷く。この会の仕掛け人である事実は心理偽装で秘匿をかけている。

 

「うむ。ゼロ大尉。それは政治の領分だな。ゴップ元帥に策がある、と内々の連絡があった。我々が積みあげた量子脳研究のメソッドを――ジオンに渡す」

 

 あ、はい、とだけ言ってゼロ大尉は質問をやめた。

 興味が薄れたらしい。

 彼といろいろ話をしていて悟ったのだが――ゼロは幻想の『普通』にあこがれている。

 政治の話は普通じゃないから、興味ない、という得体のしれないロジックを持っているようだ。

 

「いいのか?」とリュウが尋ねる。

「どうでもいいかな。僕は言われたことをこなすだけだよ」

 

 そのままゼロは、手元のPCでマンガを読み進める。

 一体何がどうこじれてそういう思考に至っているのか分からないが、考えてみるに、彼なりの幸せになりたいという思いの実装方法なのではないか、とリュウは推察していた。

 普通に恋をして、普通に結婚して、普通に家庭を築きたい――という幻想。

 これが本当は奇跡のように難しい試練なのだということをリュウは実感しているのだが、ゼロはそう思っていないらしい。

 

「――よし、他に質問はないようなので、各自ブレストにかかることとする。解散」

 

 急ぎ足で先生たちが会議室から退出していく。

 全員が新しく得た情報をもとにそれぞれの学問領域を伸張できる期待感に胸を膨らませているように見える。

 

「リュウ大尉」

 

 つまらなさそうにマンガを読んでいるゼロ大尉がこちらを向いた。

 

「もしさ、MSのサイズが大型なのは、巨人と戦うためだって言われたらどう思う?」

 

 いきなりの直球質問に、リュウ・ムラサメは黙る。

 

 もし人型汎用兵器――いわゆるRS計画の系譜を追求するなら、宇宙世紀の機動歩兵はミドルサイズMSからプチモビあたりに落ち着くはずだ。

 

 兵器の発展の歴史からしても、そうならなければおかしい。

 小型で高火力を実現し、最低限の生存性を維持しながら量産可能な兵器、というのが歩兵装備の進化として正しいあり方だからだ。

 

 歩兵が着用する装甲化されたパワードスーツ。これこそが歩兵が戦場の支配者に返り咲くための必要装備である。

 

 だが、現実はそうではない。

 

 技術的に、ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉を小型化できない、などというのもギレン・ザビが意図的にバラまいたブラフとしか思えない。

 炉の小型化が出来ない、という事態を引き起こす制約条件が見当たらないからだ。

 

 核融合炉設備が大型化してしまうのは、融合炉の問題ではない

 

 発生した熱エネルギーを電気エネルギーに変換する装置群や、燃料装置群、冷却装置群などと言った機能装置が大型化を招く原因である。

 

 かつてのZマシン(旧暦2003年に核融合を達成したアメリカ、サンディア国立研究所)の時点ですでに核融合炉自身は相応に小型化されていたうえ、JT60SA計画のそれも融合炉自身は巨大ではない。

 

 LPPFusion社やトヨタの核融合炉はもっと小く、文字通り炉だけなら車に積み込むこともできるだろう。

 

 そして……あれから軽く百何十年たっている宇宙世紀は、もっと進んでいる。

 しかもミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉は、旧世紀の核融合炉施設のかなりを占めている、エネルギー変換装置その他を不要とする技術である。

 

 融合炉からミノフスキー粒子の不思議力で電気エネルギーを直接取り出せる。

 つまり、機能装置群不要である。

 それで小型化できないとはどういうことなのか、素人のリュウでも疑問が浮かぶ。

 

 まともに考えたら、あの18m級のサイズには何か意図がある、としか思えないのは当然のことだ。 

 

「巨人、か。それはその、ファンタジーに出てくるやつか?」

「――ごまかさなくていいよ。僕にはわかる。リュウ大尉は巨人を知ってる」

 

 心理防壁が甘かったのか? とリュウは焦る。

 

「わかりやすいなぁ。簡単なブラフに引っかかるなんてさ」

 

 ゼロが漫画を閉じて、立ち上がる。

 いつもの微笑だが、どこか心配そうだ。

 

「リュウ大尉、向いてないよ。君に政治は」

 

 彼はそれだけ言い残して、会議室を後にした。

 会議室の清掃を任されているパートのおじさんとおばさんが入ってきて、リュウ大尉もまた追い出された。

 

 

 

 

 

 サイド3の公王府――ザビ家独裁の象徴、と国民の一部から揶揄される異形のタワーに一人の男が吸いこまれていく。

 

 クラウン大尉は背筋を伸ばし、レッドカーペットが敷かれた廊下を端正な歩調で進む。もちろん、親衛隊の兵が、クラウンの周りを固めている。

 護衛、ではない。

 親衛隊の目的は、常にギレン・ザビに危害を与える因子を未然に排除することである。

 つまり、警戒されているということだ。

 身体検査もしつこく行われ、針一つも携帯できないほどだ。

 

「閣下、ゲストをお連れしました」

 

 ギレンの執務室前で親衛隊の兵士が声をかける。

 入れ、という声が返り、兵士たちが扉を開く。

 

「クラウン大尉、入室許可が出ましたっ!」

 

 促されるままに入室すると、背後の扉が閉まった。

 

 赤を下地に金の装飾が施されたフロアカーペットに白い壁紙。

 地球の自然木を利用したと思われる執務机の向こうに、椅子に腰かけるギレン・ザビ閣下の姿。

 

 閣下の趣味である火遊び――薪を利用した暖炉は、新しい薪が組まれているものの、まだ火はついていなかった。

 

 クラウンは、ギレン閣下に背筋を伸ばした敬礼をする。

 

「楽にしろ、クラウン大尉」

 

 ギレン閣下が執務席から立ちあがり、棚の上にあったウィスキーの瓶を手に取る。

 そして、暖炉脇のカウチに座る。

 

「遠慮するな。貴様も初めてではないだろう」

「はっ」

 

 クラウンは空いているカウチに腰掛け、ギレン閣下が用意してくれたグラスを手に取る。

 そこにはすでにワンショット分が注がれていた。

 

「ソーダでいいか?」とギレン閣下。

「軟水を」

 

 ふっ、と鼻を鳴らし、ギレン閣下がチェイサーの水をサイドテーブルに置く。

 彼自身はソーダボトルを自身のテーブルに置いた。

 ギレン総帥に堂々とモノを要求するのはクラウンの特権であり、同時に面会時のマナーコードでもある。

 率直であれ、がギレン閣下とサシで呑むときの絶対条件である。

 

「地球の空気はどうだったかね?」

「最悪でしたね。そもそもハマーン様が吸っておられる空気ではな――」

「――マ・クベから届いた地球のスモークチーズだそうだ」

 

 話を遮られ、テーブルにどこからともなくチーズが置かれる。

 一口貰うと、なかなかしっかりとした燻製が効いていて、よかった。

 

「これ、なかなかのものですね」

「地球の畜産能力が復活しつつある、ということだ。我々のコロニー落としを受けてなお、地球の産業は衰えを知らない」

 

 暖炉の上に飾ってあったデギン公のデジタルサイネージが消え、統計情報を投影したモニタに変わる。

 

「見ての通りだ。ジオンが勢力下においている北米、アフリカはどれほどの地域振興政策を実施しようとも復興は遅々として進まない。一方、連邦の各地はそうではない。これをみろ」

 

 中国北方の万里の長城の写真である。0079年当時はアジア戦線と重なり、万里の長城も相当な被害を受けた。土塁や擁壁だけのところでなく、明朝時代に整備された長城もまた崩れ落ち、廃墟と化していた。

 

 そして0082年現在の写真では、明朝時代に整備された長城部分は復興し、地球の特権階級たちの観光スポットになっているようだ。お忍びで訪れているらしいマ・クベまで映っている。どうやら彼の趣味と実益を兼ねた実地調査結果らしい。

 

「マ・クベの調べでは、極めて精巧な贋作、らしい。ある時点のデータをもとに3Dプリンタで作ったのかと疑念を持つほどに」

「連邦はそんな技術を持っているのですか? それをこんな遺跡に? どうかしてます」

 

 ギレンはくっくっくと、気味の悪い笑い方をする。

 

「奴のせいだよ」

 

 モーラ・バシットのプロフィールがモニタに表示される。

 ガノタとして当然見知った顔であるし、こちらに来てからも数回顔を合わせている。

 主に、ギレン閣下の執務室で。

 

「モーラさんの悪だくみですか。なるほど、ということは――この万里の長城は、ナノマシンによる復元ですか」

「試験運用だろう。分子構造を学習/模倣/破壊する超技術。黒歴史生まれのものに違いない」

 

 まいったな、とクラウンは頭を抱える。

 できる限りモーラとギレン閣下の政治ゲームには参加したくない、という欲がある。

 クラウンにとって、ハマーン様の成長とつつがない余生だけが心配事である。

 とはいえ、もし仮にハマーン様の御子などが誕生した場合は、子々孫々そのDNAをお守りする義務があるため、仕方なくギレンやモーラのやり取りに首を突っ込んでいる。

 

「間違いないでしょう。閣下、我々は連邦とジオンの二つの政体を人類が選択できるようにする、という基本課題は達成しました。今後の計画を再確認させてください」

 

 原作のガンダムでは、地球連邦政府の一人勝ちの結果、0083のテロリストを利用した連邦内パワーゲーム、0087~0100年まで続く散発的なジオン残党を利用した連邦内パワーゲーム、そしてマフティー騒乱など、ひたすら内部でのパワーゲームを続けていく。

 

 この原作を熟知しているモーラ、そして高次の何かから啓示を受けて原作世界の不毛さを知るギレン閣下、ガノタたるクラウンは、微妙な関係性を互いに構築しながら、共同で『未来につながる歴史』をグランドデザインし、そこに近づける活動を続けている。

 

「閣下、ジオンとしてのゴールは超長距離星間航行による銀河播種計画であることは間違いないですか?」

 

 クラウンはジオン公国という組織体が最終的に何を目指しているのかを知っていた。

 

 ザビ家による一党独裁、などと言われているが、その実態は単にザビ家を神輿に掲げた宇宙移民たちのお祭り騒ぎだ。それを演出している音頭取りがギレン総帥というだけの話である。

 

 このお祭り騒ぎを実のあるものにする、というのがギレン総帥の目標であり、その実というのが、銀河に旅立つことなのだ。

 

 ある意味で単純明快。

 ただ、物事はそう単純ではなかった。

 

 外宇宙に進出するならジオンで勝手に進めればよく、いちいち地球と戦争をする理由などないはずなのに、実際はそうならなかった。

 

「無論だ。だが、障害がある」

 

 太陽系から最も近いプロキシマ・ケンタウリへと送り出した、V2無人探査機――原作におけるV2ガンダムの完成形たるミノフスキー・ドライブ搭載型超長距離無人探査機の航海記録が表示される。

 

 そして、そのすべてがアルファ・ケンタウリ到着後、消滅している。

 

「――これ、何度見ても気分が悪くなりますね」とクラウン。

 

 0070年の『V2計画』の成果は、あった。

 0078年初頭に届いたデータは、アルファ・ケンタウリの観測結果ではなく宇宙怪獣との戦闘記録と、その観察データであった。

 

 当時地球連邦軍の少将だった若きレビル、ムンゾ共和国の若き政治家だったギレン、地球連邦議会の議席を狙うべく、政治家のもとに政策秘書として潜り込んでいたジョン・バウアー、そしてこの三者に知恵の実を与えたモーラ・バシット(※当時幼女)による、極秘裏の探査計画。

 

 そのほとんどは、モーラ・バシットが木星のワームホールから引っ張り出した無数のV2無人機とミノフスキー・ドライブ搭載型通信衛星に依存するものであり、予算、と呼ぶべきものはほぼ掛かっていない。

 また、計画に関与しているものも極めて少なく、各自子飼いの技術スタッフが数名程度である。

 

「この宇宙怪獣をどうにかしないと、未来なんてないのですよね」

 

 Gの影忍に出てきたバケモノがいる、という可能性をガノタたるクラウンは念頭に置いて行動していたが、まさか地球圏外に進出する足かせになっているとは思ってもいなかった。

 そうそう都合よく人類を地球圏の外に巣立たせてくれない、ということである。

 クラウンもここまでは知っていた――というよりも、無理やり巻き込まれて知らされた、というのが正しい。

 

「クラウン大尉、一つ教えてやろう。宇宙怪獣を構成するセルをDG細胞という」

 

 ギレンがワンショットグラスを傾ける。

 ガノタたるクラウンは、思わずギレンをじっと見てしまう。

 

「DG細胞ですか。それはモーラさんがそう言ったので?」

「あやつがもつDG細胞の特性と、V2計画で手に入れた観測データが合致したそうだ」

 

 クラウンはガノタとしてすぐに仮説を立てる。

 原作の放送順序では、GガンダムはVガンダムの公開後に新シリーズとして展開されていた。鬱になっていたトミノ大僧正がガンダムでプロレスせい、と宣託を下したかどうかの真偽はさておいて、宇宙世紀シリーズがひと段落ついた後に生まれた代物であることは間違いない。

 

 では、ガンダム時空としての時系列はどうだったのだろうか? 宇宙世紀(UC)が先なのか、未来世紀(F.C)が先なのか、という点だ。

 

 クラウンは察した。

 そして、涙した。

 

「ふむ? モーラは貴様が涙を流すはずだ、と言っていたが本当だったな」

 

 ギレンが興味深そうにこちらを観察している。

 クラウンは制服の内ポケットからハンカチを取り出し、涙をぬぐう。

 

「しばらく……しばらく、お待ちを」

 

 クラウンとてガノタ。ガンダムシリーズはすべて愛している。

 

 その一つであるGガンダム――これが原作通りのエンディングを迎えていないのが原因だと悟る

 

 おそらくシャッフル同盟が失敗し、レインとドモンの愛の力を以ってしても厳しい状況に置かれたのだろう。結果、デビルガンダムの暴走は阻止できなかった。

 

 イデオンと同じく意思エネルギーを糧に好き勝手するDG細胞は、精神エネルギーを追い求め特級テクノハザードとしてそのまま銀河のかなたまで広がった。

 

「そうか――我々は、ただ思いだしているだけなのか」

 

 クラウンは察する。Gガンダムの最終回に、ガンダムやザンボット3他、ガンキャノン、F91にZ、V2、GP01Fbやリガズィが映りこんでいたことを。ガンダムファイターたちが乗っていたあれらを、我々は――ただ兵器として思いだし、車輪の再発明をしているだけなのかもしれない。

 

 持ちうるすべての兵器を投入して――失敗したのがGガンダムの未来。

 それがこの時空なのか。

 

 だが希望がないわけでもないだろう。

 東方不敗他、ファイターたちや取り込まれた人々が最後の力を振り絞り、地球に息をひそめて隠れていたであろうほんの僅かな人類に希望を託す形で、DG細胞群を外宇宙へと放り出したのかもしれない。

 

 そうでなければ、地球がいまDG細胞汚染されていない理由を説明できないからだ。

 

 ただ、ガノタとして悲しくて仕方なく――こぼれる涙を抑えられなかった。

 そうか……もしかしたら、とクラウンは納得する。

 いま闇に紛れて潜むGの影忍たちは、かつてのモビルファイターたちの技術を受け継いだ、地球に残った最後の人類の守護者たちの末裔なのかもしれない、と。

 

「――このDG細胞は精神エネルギーに反応し、寄ってくる。0078年時点の飼いならされた大衆の惰弱な精神エネルギーをもとに計算しても……0080年には確実に宇宙怪獣どもが地球圏に舞い戻ってくるであろうことが予測された」

 

 目を赤くしたクラウンはギレン総帥を見る。

 TVアニメの悪役じみた理由でギレン・ザビがコロニー落としのような虐殺の蛮行を為すとはとても思えないクラウンは、ただ彼の言葉に耳を傾ける。

 

「ゆえに、役割分担を行うこととなった。私は人口を調整し、レビルとジョン・バウアーは地球連邦軍と政府を正しき未来に誘導し、モーラは戦争被害を調整する、と」

 

 つまり、ギレン閣下はコロニー落としでも毒ガス散布でも何でもやり、とにかく人類を減らす責任を負わされたのだ。

 それを平然とやってのけてしまうクレイジーさに、大衆はカリスマを見出すのかもしれない。

 

「笑うかね? 私は人類史の道化役だよ」

 

 宇宙怪獣対応のために、とりあえずジオンを掌握し、人類を消す必要があった、という彼の横顔は、ただの疲れ果てた男の姿だった。

 

「笑えませんよ。誰かはやらなければならない役ですから。閣下が下りたら、次は私の番かもしれませんし」

 

 クラウンが告げると、ギレンが自らのショットグラスにダブルを注ぐ。

 

「私には見える。このギレンがやらなければキシリアが、キシリアがやらなければ、他の者が――それこそ、シャア・アズナブルあたりがそういう役割を与えられるだろう。これは人類の宿痾だ。かのイエス・キリストとやらも、自らの教えで無数の戦争を引き起こし、人口を調整せしめたそうじゃないか」

 

 ギレン閣下にとって、スペースノイドやアースノイドの峻別に興味はない、というのは間違いなさそうだ。大衆を扇動するために用いたスペースノイド優良種云々という理屈も、思考停止した信者たちを振り回すための小道具に過ぎないのだろう。

 

 ただ、為さねばならぬゆえに、こうしてどうでもいい一介の大尉相手にショットグラス片手に愚痴る……クラウンは、そんなギレンを憐れむほかなかった。

 

「私にこのような話をなさる、ということは――もしや、宇宙怪獣の地球圏到来が近いのですか?」

 

 クラウンが恐る恐る尋ねる。

 ギレン閣下は愚痴るだけの男ではない。

 こちらを呼びつけたということは、やらせたいことがある、ということだ。

 

「0083年のどこかだろう。戦前ほどの人口は戻っていないが、一年戦争に起因するジオンや連邦に対する巨大な憎悪や、NTのような存在が現れた結果、想定した以上に時間を稼げない結果を惹起してしまった」

 

 だから、またやるしかないが――同じ手段はとれない、ともギレン閣下が言った。

 

「こちらから休戦を破れば、連邦市民の憎悪とジオンの厭戦気分自体が強大な精神エネルギーとなり、宇宙怪獣を呼び寄せるだろう。世界など思うようには動かせんのだ」

 

 そしてギレンはワンショットのウィスキーを一気に飲んだ。

 体には大変悪い飲み方である。

 

「――クラウン大尉、量子脳を知っているか?」

 

 酔いが回ったらしいギレン閣下が、普段の鉄面皮を崩し、ただの疲れたおじさんの顔に戻る。

 

「はい、多少は」

 

 もちろん知っている。ガノタたるもの、ガンダム00は履修済みである。

 

「ゴップ元帥がな、そのノウハウを渡す故、ビューティ・メモリをよこせと言ってきた」

 

 クラウンはギレンの言葉をかみ砕くのに時間を要した。

 Gガンダムの失敗の結果、DG細胞が銀河に飛び散ったとする。

 この間、DG細胞の脅威からいったん解放された地球残存人類は、おそらく人口制限を行い強力な統制政府を作り上げ、自らのやらかした事象について記録をのこしたであろう。

 

 人工統制の世界がリングコロニー。記録がビューティ・メモリと言ったところか?

 

 だが、原作ではアムロの遺産、というキーワードが出ていた。

 Gガンダム→リングオブガンダム→宇宙世紀、であるなら、ビューティ・メモリのアムロの遺産というワードが唐突すぎる気もする。

 

 だが、ガノタたるもの、各種宇宙理論には通暁しているもの。

 サイクリック宇宙論であるならば――宇宙はメビウスの輪の如くループしているので……と、クラウンは思索を深め、そして悟りを得た。

 

 アムロの遺産とは、ガノタが知るアムロ・レイのことを知悉するもの――原作宇宙の情報を持つ者のことだと気づいた。

 

 つまりガノタであり、かつビューティ・メモリにアクセスすることによる情報爆発を処理できる量子脳を保持する存在が、キーパーソンとなる。

 

「閣下、量子脳ノウハウを手に入れるべきかと」

 

 クラウンは酔いの回った頭でありながら、たどり着いた結論が誤りでないだろうことを確信する。

 

「よかろう。フラナガン機関あたりが量子脳のテストをしたいと言い出しそうだがな」

 

 クラウンはNTの素養を持つハマーン様が拉致され、生体脳から量子脳への置き換え手術を受けるさまを想像し、恐怖に身を震わせた。

 思慮が浅かった。これだから政治のゲームは難しいのだ。正しい結論が必ずしも自分を利するわけではない。

 

「閣下、お約束ください。彼女のことは――」

「保障しよう――クラウン、君はジオン公国の英雄だよ、まったく」

 

 ギレンがショットグラスを掲げる。

 クラウンはそれにグラスを合わせた。

 

 UC0082年1月下旬、クラウンはフラナガン機関にてジオン初の量子脳人類へと改造された。

 

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