シン/機動戦士ガンダム   作:すしさむらい

46 / 72
第四六話 0083 開戦前夜

 

 

 物々しいほどの戦力。

 もう一度地球降下作戦でもやるのか? とガノタなら誤解しそうなほどのジオン艦隊が、フォンブラウン市から発進せんと準備している。

 

 もちろん、建前はある。

 アフリカ方面に対する大規模降下演習として連邦側に通達済みである(※通達であり同意ではない)。

 

 フォンブラウン市との協定に基づきジオンに貸与されている専用宇宙港には、ジオン公国寄りのガノタがいれば、ジオン公国のアベンジャーズかよっ! と興奮するような連中が集められていた。

 

 キシリア機関の実力部隊として再編されたキマイラ隊とシーマ艦隊。

 その支援にあたるクラウン大尉率いる第404機動降下大隊と、ランバ・ラル少佐率いる特殊作戦大隊。

 そしてシャリア・ブル少佐率いる特別運用試験団――通称、フラナガン機関部隊。

 

 このスペシャルな部隊群はフォンブラウン市から地球圏に向かう部隊である。

 今回の作戦はこれらだけにとどまらず、その他、ギレンとキシリアの命令を受けた様々な部隊が投入される予定である。

 

 艦隊も充実している。港ではジオン公国の名のある連中を運ぶために、コンスコン艦隊ほか各方面艦体から抽出された数多のザンジバル級及びザンジバル改級、それをしのぐムサイ級とパプア級、そしてその降下に用いるHLV群が集結し、最後の補給を行っている。

 

『詳細は手元の資料に委ねる。我々がこのブリーフィングで共有すべきは、ただ一つ。』

 

 クラウンは性能試験機として配備された先行量産型ハイザックのコックピット内で、360度全天周囲モニタの視界をチェックしつつ、クセの強い連中を任された隊長の声に耳を傾ける。

 

『A、B、Cの三大パッケージを回収する。それが我々の任務であり、失敗は許されない』

 

 クラウンの手元のタブレットに映るのは、ゴップ元帥、レビル将軍、ワイアット提督の連邦三羽烏であった。

 座乗艦はレビルがアルビオン、ゴップがトロイホース、ワイアットがブランリヴァルである。ペガサス級ばかりが揃っているうえに――直掩にあたっているMS部隊は連邦の中でも最精鋭だろう。

 クラウンはJTF隊長を押し付けられた運のない男――ヘルベルト・フォン・カスペン上級大佐の頭髪が心配になる。

 

 かつてア・バオア・クー戦に徴用された練度不足の少年兵たちを任された彼は、603戦力基盤団というビグ・ラングによるサプライライン構築維持部隊をでっち上げた。

 少年兵の華々しい活躍を、という軍広報部の圧力と、実際の少年兵たちの練度の下限を見極めた妥協的産物のそれは、最前線のMS部隊に対する戦術物資供給を見事に果たした。

 クラウンも、なんどもビグ・ラングからの消耗品コンテナや兵装コンテナに助けられたものだ。

 

『――ここに集められた精鋭部隊で完遂できぬ任務などない、と私は確信している。我らの任務を支援すべく、アフリカ方面軍のマ・クベ大将がオーストラリア西部への大規模陽動作戦を敢行予定であり、また同時に北米方面軍のガルシア大将がジャブローに対して陽動作戦を行う』

 

 カスペン上級大佐の説明をきき、クラウンは眉を顰める。

 これは、どう考えてもまた戦争だな。

 休戦協定違反、となること間違いなしであり、ギレン閣下のなりふり構わぬ焦りを強く感じさせる。

 

『コロニー落としはないのかい?』

 

 ジョニー・ライデン中佐がそう冗談めかして言うと、キマイラ隊の面々からハッハッハと笑い声が飛んでくる。

 

 相変わらずキマイラ隊は狂暴だな、とクラウンは口の端を上げる。

 かつてキマイラ隊と対抗演習した際は、率いていた隊の練度もあって散々な目にあったクラウンだが、今回の任務直前の統合シミュレータ演習では、悪くない結果まで迫れた。

 さすがに、ジョニーは落とせなかったが……とクラウンはガノタとして素直に彼を尊敬する。

 

『汚い戦争を知らないキマイラの坊ちゃん嬢ちゃんたちは威勢がイイねぇ』

 

 シーマ・ガラハウ中佐の冷えた皮肉に、キマイラ隊の連中が黙り込む。

 汚れ仕事を散々こなしてきたシーマ中佐にとって、今回のこの任務もまた、政治家の陰謀の手先となって一仕事してくるだけの話なのだ。

 それに、コロニー落としの話はガラハウ中佐にとって地雷である。

 

「ガラハウ中佐、その辺で。本官とラル少佐は、ガラハウ中佐の心中を十分に理解していますよ」とクラウンは口を挟む。シーマ中佐の心中を考えると、そうせざるを得なかった。

 

『我らもクラウン大尉も、一週間戦争で同胞のスペースノイドを始末した業がある。戦争は、ひどいもんだ。またギレン閣下の胸先三寸のせいで、我々は手を汚すことになるな』

 

 ラル少佐が落ち着いた声でガラハウ中佐を諫言する。

 

『んだよ、オレだけが悪いのかよ……』

 

 すねたようなジョニー・ライデン少佐の声に、カスペン大佐が答える。

 

『いいも悪いもない』と。

 

『戦争に思うところがあるのは当然のことだ。ゆえに、軍人は命令を遵守し、任務を粛々とこなす。貴官らは公国の軍人だ。内心と言論の自由、そして各自の幸福追求権を、国家とスペースノイドたちのために自ら制限することが出来るものたちだと、私は信じている』

 

 良いか、悪いかの価値判断を保留し、政治的意思を強要する手段として力を振るうのだ。

 それが軍隊である。

 

 なお、任務に放り込まれる前に、クラウンはギレンに呼び出されていた。

 その際に、ギレンからきつく言われていることを振り返る。

 絶対に、ゴップ、レビル、ワイアットを捕虜にして連れてこい、と。

 この三者を確保して、無理やりにでも首脳会談もどきを実現するそうだ。

 無理筋過ぎる、とクラウンはギレンを諫めたが――この時点より先に可能性はない、と厳しい顔で言い放つギレンの迫力に押し負けてしまった。

 

『兵士であれ。私の信頼にこたえる必要はない。ただ、兵士であれ』

 

 兵士で、あれ。

 その言葉は癖の強い連中を黙らせるには効果的だった。

 腹に一物ある連中ばかりが出そろっているが、どいつもこいつも、曲がりなりにもジオン公国の兵士なのだ。

 

 だが、クラウンだけはカスペン上級大佐の言葉に心動かされながらも、兵士である前にガノタとしての使命を優先する。

 彼はギレン閣下に量子暗号通信で一つのメッセージを送る。

 ――本当に、これでいいんですか? と。

 ギレン閣下は超人的ではあるが……人であることに変わりはないのだ。

 これからの一大作戦とて、長期に渡る下準備があったとはいえ正しいか間違っているかという巨視的視点で見てみると『わからない』としかいえない代物だ。

 それとなくハマーン様にぼかして相談したのだが、もたらされたお言葉は実に簡潔であり――あなたの好きになさい、である。

 

 機体のチェックを終えて、艦隊に発進命令が下ったとき、ギレンからの応答があった。

 ガノタはガノタらしく、好きにやれ。私も好きにやらせてもらう、と。

 

 

 

 

 グラナダの宇宙港に隣接するリゾートホテルの最上階。

 星空を展望しながら二人の男女がディナーを嗜んでいる。

 低重力で養殖された骨まで食べられる白身魚をナイフとフォークで切りながら、ふたりとも言葉少なく、ただ向き合っている。

 その実、量子脳を用いた近距離通信を行いながら、リュウとイングリッドはフォンブラウン市に集結しているジオン公国の部隊の現況を分析していた。

 

『――やっぱりギレン・ザビは怪物ね』

 

 イングリッドから送られてきたチャット文面には、マユナシのデフォルメされた面構えのスタンプ。たてよ国民、とある。

 

 作戦に動員された兵士たちからすれば、明らかに開戦前夜。

 一年戦争の傷跡もいやせぬままに、待たしても人類同士の殺し合いが始まらんとしているようにも見えるだろう。

 

『パーフェクト、とは言えないが、今の我々が出来る最善手がこれだと思う』

 

 フォンブラウン市のジオン港湾に出入りする月面事業者たちの物資搬入記録などのデータを拾い集める限り、ジオンが地球に対してひと騒動どころか大騒動を起こす準備が万端であることを示している。

 

 ただ……リュウは少しばかり安堵していた。

 撒いた餌にギレンが飛びついてくれた、と評価しても間違いではない……はずだ、とリュウは確信なき判断をする。

 

 実際にジオンの戦力は地球圏付近まで出向くだろうが――その矛先は地球連邦政府ではなく、テレポートしてくる宇宙怪獣のほうである、と信じたい。

 

『地球に降下してまた戦争かよ、とウンザリしていたら、突然人類を守れって命令されるんだろうな、ジオンの連中は』

『吉と出るか凶と出るかは分からないけれど……人をまた殺すよりはマシ、って思うのが大半じゃないかしら』

 

 イングリッドのいうように、ジオン兵が受け取ってくれればいいが。

 連邦憎し、のジオン兵、あるいは逆に、連邦側に反ジオンの志、とやらに毒された連中がいると、ますますこじれてくる。

 

 目の前に迫る脅威があっても団結できない、というのは信じたくはない。

 が、可能性は無いわけではない。

 

 ……どう備えるかは、いくつかの想定シナリオを持っているが……どれもキレイな手段とはいいがたい。

 

 だが、それは枝葉だ。

 大元の計画こそが重要。

 それについては、いまのところは、まだ段取り通りに進んでいる。

 

 まずはゴップに宇宙怪獣ネタを提供する。

 少々予定外ではあったが、アムロ向けの材料をゴップ、いや、サララに読み取らせることに成功したのは怪我の功名。

 

 彼――あるいは彼女は無能ではないため、すぐにギレンとのホットラインで伝達するだろう。信じさせる手段を持たないがゆえに、二人の通信は一方的にゴップがバカにされるような形で終わるはずだ。

 

 だが、ゴップはリュウ経由での宇宙怪獣襲来の確定情報を握っている。

 それを伝えることさえできれば、と考えているゴップは是が非でもギレンとの直接会談の機会を求めるはずだ。

 その機会はある、とロームフェラ財団のカムラン経由で知らしめると――ゴップは様々な公用を後回しにして、アルファ任務部隊を使ってこちらに飛んでくれた。

 

 もちろん、リュウは根回しを怠らない。

 ギレン・ザビが公用でグラナダに出向く機会を用意してやる。

 ロームフェラ財団によるジオン公国戦災孤児支援事業を立ち上げ、就学と生活支援、そして地球圏留学などをサポートする一大組織の発足式に招待。

 

 ギレンの回答は、出席。

 大々的にメディアを呼び、ギレン・ザビに演説をさせるよう調整した価値はあった。

 勘のいいギレンのことだ。

 キシリア機関にそれとなく連邦の要人3人が、月面――グラナダの地下施設に向かっていると仄めかすだけで、ギレンは察しただろう。

 すでにタイムスケジュール通りにギレン・ザビが公邸を出発して座乗艦グワデンに乗り込み、デラーズやガトーと言った親衛隊をぞろぞろ引き連れてグラナダに向かっている。

 

『ほぼ首脳会談なのよね。普通、連邦政府首相の直轄案件でしょ、このレベルだと』

 

 イングリッドが白身魚をきれいに平らげ、新たに運ばれてきた焼きたてのパンをちぎっている。

 

『俺だって本当はそうしたい。だがレイニー・ゴールドマン大統領とはまだ、そこまで気心を通じ合っていない』

 

 かつてのリュウがやったような政界工作に努力を割けていなかった。

 ムラサメ研究所という手勢を確保したがゆえに、その維持と発展に相応の力を割かれてしまうことになり、シン・フェデラル設立のような政党結社活動はとてもできていなかった。

 

 せいぜい、量子脳と未来知見の力でごり押せる経済活動によって生み出した、巨大な富を慈善事業にあてるロームフェラ財団の御当主として、顔見知り程度の関係しか構築できていない。

 

 これは、明らかに失敗していると言える。

 大統領府に絡みつき、首相府を動かして連邦政府そのものをコントロールする権能にアクセスできていないのは、自分の不徳の致すところだろう。

 

 だから、まずは、ここからだ。

 まずは連邦軍の意思を手堅くコントロールする。

 ゴップ、ワイアット、レビルもその頭のキレと人類に対する責任感だけは似通っている。

 宇宙怪獣という共通の脅威に対して連邦軍がどう立ち向かうかなど、この三人が事前に認識を共有できる場を設けられれば……対宇宙怪獣ドクトリンは決め打ちできるはずだ。

 

 そして、そこにジオン公国をオブザーバー参加させる。

 

 ジオン公国の一介の補佐官に過ぎないギレン・ザビが公用の後に、秘密裏にこの三人と会談の機会を持つことは、ギレンにとっては何一つ政治的リスクがない。

 あくまでもジオン公国の君主はデギン公王であり、政治的元首は首相。そして権力の源泉はジオン議会である。ギレン・ザビはデギン公王顧問団総帥であり、首相府から上奏された政策を総覧し、その実施につき助言と諫言を行うだけ――という総帥の地位は、特に議会の授権を擁するものでもなく、罷免権も公王にあるだけだ。

 その公王とて、ギレンがガルマに公国を継がせるために権力の土木工事をしていると理解しているため、罷免権が行使される可能性はゼロ。

 

 条件は、整えたはずなのだ。

 

 この会談の場は――建前上ジオンにとっても連邦にとっても中立の場所がよいが、どちらかといえばオブザーバー参加するジオン公国寄りの地域がよい。

 ゆえに、サイド6は除外。

 ジオン、連邦の協定に基づき、非戦闘地域指定とされているがジオンの風が強く吹いている月面都市群が理想的であった。

 

 いまのところ予定通り偉い連中は動いてくれている。

 レビルのアルビオン、ゴップのトロイホースはすでにフォンブラウン市のアナハイム専用宇宙港に入港し、要人たちは月面横断鉄道経由でグラナダへと向かっている。

 ワイアットは公用としてジオンの首都たるサイド3の地球連邦大使館に向かい、駐在武官らと意見交換会を行い――そのままグラナダにシャトルで向かっている。

 ギレンもグワデンで怖い皆さまを引き連れて移動中。

 

 いけるはずだ。

 

 一世一代の、対宇宙怪獣統一戦線の定立。

 これを成し、万全の備えを以って当たれば――0083における世界を変える一撃の意味を変えることができるはずだ。

 

 対宇宙怪獣統一戦線の定立後、暫時交渉を進めていき、ジオン公国と連邦政府の関係をもう一度再構成し……あわよくば、『新連邦政府』として再スタートを切れないものかと、リュウは夢想する。

 宇宙市民に確たる選挙権を与え、月面に新連邦政府の政治的首都機能(※議会や官庁)を移す。

 地球から宇宙を統治するのではなく、人類の統治機構として宇宙に一歩踏み出した形で進むことはできないだろうか、とガノタたるリュウは、宇宙世紀ガンダムの歴史年表に記載されていた『連邦政府首都が月面に移る』という設定を己の手で実現させたい、と思う。

 

 

 

「こんばんは」

 

 声を、かけられた。

 リュウもイングリッドも、言葉を失った。

 自分たちの警戒網――盗んでいるホテルの監視カメラ映像や人感センサなどのバルクデータに痕跡すら残さぬままに、近づいてきた者がいる、という事実。

 イングリッドが「あら、こんばんは、お嬢さん」と笑顔を向けながら、ドレスのサイドスリットから手を忍ばせ、内もも側に潜ませてある小型ピストルをとろうとしている。

 

「ボクのこと、わかるはずなのです」

 

 リュウはイングリッドの色香を主張するドレスと対比になっている、白く清純なドレスに身を包む女性が、マサキであることを悟る。

 

「マサキ……軍曹?」

「はずれ。ガノタは原作キャラについてしっかりお勉強するべきなのです。この世界で生きていくつもりなら」

 

 三人の視線が交錯する。

 突然の来訪者に戸惑っている、と判断したのか、ウェイターが歩み寄ってきて声をかけてきた。

 

「お客さま、お連れ様ですか?」

 

 NOであるなら警備を呼んで追い出すが、と言外に匂わせている。

 さすが高級レストランである。

 

「――ごめんなさいね。妹が近くに来たから立ち寄ったみたいなの。テーブルを移していただけるかしら?」

 

 イングリッドがすべてのメンズを陥落させる微笑みを浮かべて、ウェイターにお願いをする。このお願いを断れるのは、おそらく紳士お化けのワイアットくらいだろう。

 

「か、かしこまりました。お料理のほうはいかがいたしましょうか?」

 

 ウェイターが顔を赤らめながら、白いドレスのマサキに伺う。

 

「同じものでいいのです。お代は彼に付けておくのです」

「承知いたしました。しばらくお待ちください」

 

 臨時の椅子をさっとテーブルに寄せ、ウェイターがマサキを座らせる。

 別の係員がやってきて、マサキが手にしていたストールとハンドバッグを預かり、ウェイターが厨房とテーブル係に用命を告げんと離れていった。

 

「量子脳装備型ではないわね」

 

 イングリッドがじっとマサキを見つめる。

 文字通り、彼女を透視しているのだろう。

 

「ぶしつけな女なのです」

 

 マサキが自らの体を誇示するかのように背筋を伸ばしてイングリッドに向く。

 

「見たければ、みてもいいのです」

「そんな趣味はないわよ」

「いつもレビルに見せているから、恥ずかしくないのです」

 

 リュウは困惑した。

 レビル将軍がドスケベ爺さんであるなどという情報は持っておらず、独自の身辺調査でも彼の私生活はいたって普通である。息子夫婦から預かっている孫の世話に手を焼いている普通の爺様であるがゆえに、公務後は直帰せざるをえないのだ。

 

「まさか――執務室で……あたし、聞いたことあるわ。中世期のアメリカ合衆国という国で、歩く下半身と評されたビル・クリントン大統領というのがいたの。歴史上はじめて、下半身の放埓さで大統領弾劾裁判にかけられたという、性的名誉勲章の持ち主――そう、歴史は繰り返すのね」

「まてまてまて」

 

 リュウはイングリッドの止まらない妄想を制する。

 この子はちょっと知恵がありすぎるために、一度あらぬ方向に転がり始めると妄想が過激化してしまうのだ。

 いまはレビル将軍の知られざる下半身事情などどうでもよい。

 

「それで、マサキ……中尉は何用で?」

 

 リュウはスーツの襟元を正しながら、量子脳経由で人事情報にアクセスし、彼女の経歴と官職を把握する。

 

「テーブルを移り、料理が来てから話すのです」

 

 マサキがリュウが手に取っていたグラスを当然のように奪い取ると、そこに注がれていたレモングラスの香りが強い甘めのカクテルを、ぐい、と飲み干した。

 イングリッドがその行いを咎めるように見ている。

 

「ちょっと、はしたないんじゃない?」

 

 イングリッドの声がわずかに荒い。

 

「ボクは、欲しいのです。この人が」

 

 マサキがリュウを一瞥する。

 イングリッドが「っ!?」と声を殺しながら、ガタンッと立ち上がる。

 待て、手を出すな、と量子脳経由でメッセージを送りまくるリュウ。

 

「ボクは、リュウとレビルと、してみたいのです」

 

 何を、という肝心の部分が欠落したマサキの言葉に、リュウは頭を抱える。

 ただでさえ厄介ごとを抱え込んでいるのに、いったいこの子の目的は何なんだ、と。

 

 ――間違いなく、ガノタではあろう。

 しかも、やっかいオタだ。

 だが、その目的は?

 ガノタたるもの、ガンダム世界にやってきた以上は、余計なことを一つ二つやらかそうとするものだが……分からない。

 この無邪気、というよりも気弱そうな瞳の向こうに、どんな思いを詰め込んでいるのか――リュウは、マサキが初めて遭遇する苦手なタイプの女性であることに気付かされた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。