ジェイムズ・P・ホーガン
ギレン・ザビは手勢を配置につかせ、お節介な女を一人引き連れて会談の場へと足を踏み入れた。
月の地下遺跡、エイハブ・リアクターの自動製造工場跡に設けられた臨時の会場は文字通り殺風景であり、壁を囲む事務官や参謀たちの群れもなく、席に茶などを給仕する係の者もいない。
野戦指揮所に備えられているような簡素なテーブルが一つ。
それを囲むように折りたたみイスが並べられており、そこにはすでに連邦軍の高級将校たちが雁首を揃えていた。
戦争紳士のワイアット、戦巧者のレビル、そして連邦の金策狐であるジャミトフの姿。
それぞれを支えるシンパ的なスタッフが何名か控えているが、その者たちはただ無言で将官たちの背後に控えているだけだ。
ギレンは男ばかり集まったこの場を見て、かつての名著を思いだす。
戦争は女の顔をしていない、というスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの大作である。
ギレンはこのソヴィエト女性が記した著作を何度も読み直し、戦争と個人、という観点から深い啓蒙を授かっている。
そもそも、人間は戦争の大きさを超えているのだ、とギレンはこの本から学んだ。
夫を殺され、敵を憎みながら、捕虜にパンを分け与えることができたという事実に、ギレンは人の可能性を見る。
戦争などという政治現象の一端を切り取った物語が、人間という存在がいかに偉大なものであるかを教えてくれる。
そこに描かれた体験としての戦争――あるいは戦闘は、教養によって育まれた常識的な戦争評論やアプローチを超越する。
人間はいかに戦い、いかに苦しみ、いかに思ったか――と、ギレンは個人としての人間が抱く美しき内面世界に思いをはせる。
とはいえ、この本を男の戦争観に対する女の戦争観を提示した、などというストレートな解釈が旧世紀にはまかり通っていたらしいが――彼女の著作を本当に手に取っていない連中が戯言を抜かしていたか、あるいは旧世紀を生きた人類が想像力と品性を欠いた存在だったのどちらかであろう。
ただ、読書家のギレンではなく、政治家としてのギレンにとって、戦争は女の顔も、男の顔もしていない。
国家総力戦以後の戦争には即物性しか存在せず、工業製品が人間の死体の山を製造するだけのシンプルな世界観だ。
正規戦、非正規戦、超限戦などと様々な戦略概念が生まれていったが、いざそれが現実に実装されるときは、常に工業製品による人間と社会資本に対する破壊効率の追求でしかなかった。
知恵ある人々が戦争を法制化し、人道化しようと試み、実際にそれを成そうとした。
だが蓋を開けばいつも同じだ。
兵器が製造され、それをランニングさせるために人が大量動員される。
それだけのことだった。
直近のジオン独立戦争においても、ギレンがやったことはシンプルの極みである。
1、大量のMSと艦艇、その他兵器を製造、配備する状況を生み出す。
2、それを運用する人員を集め、訓練し、戦地へと送り込み、死ねば補充する。
3、1と2を滞りなく進める権力と組織と世論を作る。
これだけである。
ギレンにとってこの3つは特別なものではなかった。
人類が工業化以降に行う戦争に付きまとう作法のようなものだ。
「そもそも、大衆にとっての戦争とは――」
ギレンは挨拶もなく、会談の場に集まった連邦軍の高官たちにカリスマ性を多分に含む大きな低音の発生で、圧をかます。
「損害の顕在化を、そう評論しているにすぎない」
ギレンがゆっくりとパイプ椅子に腰かける。
「戦闘が起き、人が死に、何かが壊れる。かようなわかりやすい損害をメディアを通して目にしたとき、大衆はそれを戦争だと評価しているに過ぎない」
ギレンの言葉は続く。
「だが、ここに集まっている諸君はそうではない」
ギレンのよる大衆性の否定。
「さぁ、はじめようか。我らこそ戦争を語るにふさわしい」
会議の場が命のやり取りの場へと変える。
ここでの発言と交渉の結果次第で、万単位の命が消える――そうなるようにギレンは会談をリードすべく、慎重に発言を選ぶ。
言葉により、自分を演出する。
振る舞いにより、議場を演出する。
そして、役者たちを使って歴史を演出する。
今回は粒ぞろいの役者を揃えてみたが――どうなるか。
見えない未来のほうが、面白い。
ギレンはそう思いながら、のこのことやってきたレビル、ゴップ、ワイアットとその随員たちを眺めた。
ワイアットは大げさな自己演出を躊躇なく実行するギレンに感心していた。
なるほど、独裁者の地位を獲得するために大衆の支持を得なければならぬ立場というものは、こうも己を道化にせねばならぬのか、とわずかばかりの同情すら混じってしまう。
ギレンが述べた、大衆にとっての戦争は、損害の顕在化を評しているに過ぎない、という意見について思うところがないわけでもない。
そもそも、地球連邦政府が地球連邦軍を生み出した根本には、世界の現状を万人の万人に対する闘争状態であるというホッブス的世界観を前提にしているところがある。
地域文化も違えば、信仰も違う人々を、地球連邦政府という一つの旗のもとにまとめ上げるという壮大なロマンを実現するためには、すべてを調停する巨大な暴力装置を生み出し、人々の間に生じる紛争を強引に殴り倒していくストロングスタイルが求められる。
その暴力装置が地球連邦軍である。
逆説的だが、人々はこの暴力装置によって初めて、人類の統一平和とやらを知ることになった――損害が顕在化していない世界(地球連邦軍があの手この手で紛争の根を断ち切ってきたが、それはメディアによって喧伝されない=大衆が知覚できない)を与えられた大衆は、徹底的な抑圧と私権制限を受けながらも、戦争という自然状態から隔離されたのだ。
ワイアットは机の上で組んだ手をみながら、口を開く。
「紳士的決着を」
その一言で、通じると確信していた。
この場に集まっているものには、いちいちワイアットがあれこれと補足説明をする必要がないがゆえに、ある意味、もっとも慎重に言葉を選ぶ必要がある。
紳士的決着――この一言にどれだけの情報が込められているか、を考えるとワイアットですらその情報密度の濃さに眉をひそめたくなる。
11世紀のイングランドに対するノルマン・コンクエト以前の世界、いわゆるローマ帝国統治時代のブリタニアのころからインブランドの地域社会を形作ってきた不労所得を有する資産家階級たるジェントリの誕生から、12世紀以降の戦争貴族としての紛争解決ルール(慣習的戦争法)の成立への寄与と、名誉革命に代表される 革命の実践。
その発展形たる19世紀から20世紀の不戦条約、ハーグ陸戦協定などの戦争の法制化(開戦と終戦の法文化)と原則的違法化の歴史――を前提に、一年戦争のジオンの行為が革命戦争であり、その闘争が永続している状態であると現況を認識。
そのうえで、ジオンの戦争行為の違法性を認めさせつつ、ジオンを地球連邦政府へ再加入させ、革命闘争を合法的に継続させるという、提案である。
いわゆる、革命の内包である。
ここの首を並べている連中ならば、いちいちこのような説明は不要であろう。
「ギレン閣下、あの戦争はジオンに何かをもたらしたのかね?」
ワイアットはどれほど考えてもジオンの革命戦争の着地点が見えなかった。
一年戦争は人類史はじまって以来、最大の消耗戦かつ総力戦であった。
イモ栽培していた農地に、重機で埋め立てられていく避難民や村人たちの遺体。
あの世で腹いっぱい食えよ、と顔を伏せるのは遺体処理作業をやらされている捕虜となったジオン兵たち。
そんな埋め立て作業が間に合わないほどに、人が死んだのが1年戦争である。
田畑や市街地に転がっている未回収の遺体が常にあった。
雨が降ると、死体が泣いているように見えるのだ。
ワイアットはそれをみて、我々は何一つ歴史から学ばぬままにここに至ってしまったと深く後悔した。
「――ガス抜き、ですな」
ギレンの言葉に眉を顰める連邦の将官たち。
だが、ワイアットだけは違った。
かつてフランスで生じたアンシャンレジームに対する革命闘争は、貴族に対するギロチン刑や大衆動員による国民戦争概念を誕生させるなど、ある意味で反動的なまでに血を流すきらいがあった。
つまり、革命の熱というのは、大衆にバイラル的に広まると激情と結びつき――理性の光ではなく、衝動による破壊を生み出すという、極めて一般的な話をギレンが『ガス抜き』と表現したに過ぎないことをワイアットは悟る。
「2000年代問題にケリをつけたわけですか、ギレン殿は」
ワイアットは人類史のターニングポイントである2008年と2009年を研究済みである。
SNSなるものに「いいね」と「リツイート」なるものが実装された年だ。
この日より、世界から大衆が消失し、群集に変わっていく。
あらゆる個々人が感情をまき散らし、倫理を振りかざし、信じたいものだけを信じる素晴らしき分断社会の誕生である。
かつての合衆国憲法を起草したジェイムズ・マディソンはこのような前提にさらされても、なお耐えうる民主主義など設計していなかった。
ジェイムズ・マディソンが設計した民主主義は、議会政治という仕組みにより何事を決めるにも時間と妥協と調整を必要にしたものであった。
この民主主義システムは意思決定の世界たる議会政治の場を、群集の移ろいやすい激情や世論からある程度隔離するものでもある。
しかし、2009年以降、もとは世界中の人々にコミュニケーションの機会を与えようという希望のもとに生み出された仕組みが、ジェイムス・マディソンが設計した民主主義に致命的な一刺しを与える。
SNSの「いいね」や「リツイート」の仕組みは、バイラルによる激情をスピーディに拡散し、「互いへの敵意」に燃えやすく、それゆえ「共通の善のために協力するよりも、互いに苦しめ、反発し合う傾向のほうがよほど強い」複数のチームや党派へと分裂してしまう、我々人間の傾向をいともたやすく促進した。
世界各国はその影響により、民主的かつ自由な国家であればあるほど、群集化が深刻化し、自らの所属する国家と制度に対する不信感がひたすらに高まる時代を迎えた。
同時に、独裁的で強権的な国家もまた、その強権の足場を群集化によってゆすぶられ、ともすれば内戦へと至るどうしようもない状態へと歴史の筆を進めてしまった。
世界は、動揺した。
ゆえに、世界は、最も強力なリヴァイアサン(究極の怪物)にすべてを任せることにした。
そうして、怪物たる地球連邦政府が生み出されたのは周知の事実である。
「ミノフスキー粒子とコロニー落とし。これで我々は、ようやく未来へと進める」
ギレンが鼻で歴史を笑う。
コロニー落としで海底ケーブルを物理的に消し去り、ミノフスキー粒子と戦争によるデブリで通信衛星に深刻な不具合を与えた一年戦争。
世界中を繋いでいたインターネットのインフラを根底から破壊し、つながるために生み出された技術によって分断されてしまった世界を強制的にリセットするというギレンのやり方は、残虐非道でありながらも、人類が破滅に向かっていく世界を強制的に方向転換させるものであるともいえなくもない。
「ようやく、我々は相手の物語に耳を傾けられる、ということですな」
レビルが議論を前に進めるべく、静かに述べた。
「そう。我ら人類は、ようやくたどり着いたのだ。抵抗と転覆しか生み出さぬ世界の構造を乗り越え、ニヒリズムとアナーキズムへの逃避を超越し、統治の時を迎えたのだ」
ギレンに付き従っているセシリア・アイリーンが、会場に設置されているケーブル類がむき出しの簡素な野戦用大型モニタに、とあるドキュメントの表題を映し出す。
『ジオン公国の連邦政府加盟に関する要望事項』
そっけないフォントによって書かれたその文字をみて、ワイアットは苦笑するしかなかった。地球連邦の国力を総動員してなお屈服させることができなかったジオン公国は、確かに交渉において要望事項をのたまう権利くらいはあるだろう。
だが、ワイアットには分かってしまった。
手練れの政治家であり、戦略家であるギレンが、まさかこのような着地点を簡単に提示するはずもない。
「もし、この要望事項について審議すると言ったらどうなるのですかな?」
いままで黙っていたジャミトフが口を開く。
ワイアットにとって、経済屋として手腕を発揮しているジャミトフとは、互いに学究の徒としての友情をはぐくんではいるものの、軍内派閥としてはいまいちそりが合わず、友人でありながら大敵ともいえる関係だ。
そして、残念なことにワイアットから見て、ジャミトフは戦争について研究不足であった。
「馬鹿な質問はやめたまえ、ジャミトフ君。ギレン閣下はこの場にいるだけで随分と妥協してくださっているのだよ」
ワイアットはジャミトフを制する。
何を言っているのか? と怪訝な顔をするジャミトフのウブな様に、ますます戦争には向かない男だな、と首を振る。
「――ゴップ閣下の特殊作戦群どれほどもつかね?」
レビルが控えていたアムロ・レイに問う。
あの人の部隊がいるので、数時間は稼げるはずです、とアムロが答えている。
コンペイトウのエゥーゴも動くということだろう。
ワイアットもまた、手元の端末でルナⅡ駐留艦隊に対し、直ちに地球軌道へと向うよう命令をこしらえる。
こうなるかもしれない、という予見はあったため、ルナⅡ艦隊はすでに補給も万全。直ちに出航し、2時間も待たずには最大船速で予測交戦宙域にたどり着くだろう。
ギレンの要求をのまないなら、再度、戦争。
わかりやすいまでの恫喝外交には、実力行使で妥協を促してやるほかない。
「おやおや、穏やかではありませんな、諸君」
ギレンがにやりと手を組みながら笑う。
「――閣下のご要望は、直ちに首相府に送付し、返答するよう伝えます。我々は……」
ワイアットが席を立とうとすると、背後に冷たく硬質の感触。
どうやらいつの間にやらサブマシンガンを携えたスーツ姿の連中に包囲されてしまったらしい。
キシリア機関の対人工作部隊だろう、とワイアットはあたりをつける。
なお、レビルの傍に控えていたアムロは、クノイチに抑え込まれている。さすがのニュータイプでも、クノイチには歯が立たぬらしい。どうせならマッチョなスーツ男に銃を突きつけられるよりも、クノイチの世話になりたいものだと紳士の嗜みとして思わないでもない。
「――外交関係に関するウィーン条約は、まだ生きていると思うのですがね、閣下」
ワイアットが手を上げながらまっすぐにギレンをみる。
このような修羅場に出くわしても毅然として振舞える真の紳士であろうとするのが、ワイアットである。
「……なんのことやら。使節団などここにはございませんからな。皆、それぞれの公用の合間に茶会をしにいらしただけのこと。無論、この私もです」
ギレンが席を立つ。高慢なプレッシャーが彼の立ち姿から醸し出される。
一介の将官と、歴史に名前を残す大政治家ではやはり紳士としての格が違うか、とワイアットは少々気圧される。
「イエスか、ノーか。猶予は3時間ですな。君、あれを」
ギレンが合図をすると、セシリアが質実剛健を旨とする野戦モニタ通信機にケーブルがつながったもをテーブルにどんと置いた。
ホットラインだな、と会場にいた将官たちは察した。
「――たまには、こういう安全な席で歴史を動かしてみるといい。人類とやらを救うお膳立てはした。あとは諸君らの好きにしたまえ」
ギレンが冗談にもならないことを真顔で述べ、そのまま背を向ける。
「……ビューティメモリーを狙ったのは君の手のものかね? ワイアット大将」
ギレンの言葉に、ワイアットは首を振る。
「さぁ? ただ、もしそれが事実なら、管轄外の連中の独断専行というやつです。地球連邦軍のまともな士官なら、ジオンの本拠地たる月にあるアレを狙うなど、考えることすらしませんよ」
ワイアットの答えに、鼻で笑うギレン。
「そう、か。貸してやるからあとで返せ、とそのバカに伝えておいてくれるとありがたい」
ギレンはそう言い残し、カツカツと足音を立てて消えていった。
残されたのはキシリア機関の工作員たちに包囲された将官と随行員たち。
ワイアットはため息をつき、レビルに視線を送る。
「……政治屋との関係はよくない。君がやれ」
つれない返事のレビル。
続いて、ジャミトフに視線をおくるワイアット。
「――議会はこちらが引き受けます。ワイアット閣下は行政府を」
「両方やってくれても構わんのだが」
率直にって、ワイアットは軍政畑の人間だ。生の権力闘争の現場である政界の作法については正直、素人である。
「笑えませんよ。いいですか? いつまでもそれぞれの専門畑で専門作物を育てていればいいだけの人生など、今日でおしまいなんです。私も、あなたも、試される順番が来たということです」
ジャミトフが目元を手で覆い、疲れた声を発する。
「……一年戦争による大破壊を被った地球を復興するためには、月とサイド3の工業生産能力が必要なのはお分かりですよね? この数年間、地球圏経済はジオン系企業に金を払い続けてきたと言っていい。そしてジオンは、連邦政府の復興需要という巨大な外需によって、すでに戦前以上の経済力を得ています」
ジャミトフの説明を受けずとも分かってはいた。民間経済の回復を最優先とする連邦政府の方針は確かに正しく、人々もそれを支持している。
その結果、連邦軍の再建計画など遅々として進んでいないのだ。
つまり、ジオンによる再度の地球降下作戦を阻止することは不可能。
戦力差がありすぎるのだ。
一年戦争時に文字通り大量生産されたジムを申し訳程度に近代化改修したジム改を主力とする連邦軍に対して、ジオンはゲルググ系の改修機と主力としている時点ですでにMS戦闘における勝負は決まったようなものである(しかも、噂ではハイザックなる次世代型ザクまで試験配備が始まっているとか)。
物量で押す、というシナリオもアウトである。
かつて大量育成されたジム乗り、ボール乗りの兵士たちは軍を辞めて、普通の市民生活に戻って久しい。今更、棺桶に戻って死ねなどと動員をかけようものなら、政権が倒れかねない。
「――分かっている。首相府と大統領府はこのグリーン・ワイアットが説得してみせよう」
ワイアットは自身を鼓舞するかのように大仰に言ってみせる。
内心は不安と恐れが渦巻いていたが、紳士たるふるまいを自らに課し続けていたワイアットはそれを微塵も感じさせない自己演出にも長けている。
「まぁ、気楽にな。人類を背負うなどと仰々しく構えるのも肩がこる」
ワイアットがホットラインの通信機に手を伸ばそうとすると、レビルが声をかけてきた。
励まし、であろうか?
「一年戦争の重圧を一手に引き受けたレビル閣下の気持ちが、いま分かったところです」
ワイアットは社交辞令を返しておく。
「そうかね。ところでワイアット君。ギレンにやられっぱなしというのも悔しかろう」
何を言い出すのだレビル閣下は? とワイアットが怪訝な顔をしていると、レビルが手元の端末に写っている木星の古代遺跡の発掘現場の写真を見せてきた。
「?」
「ギレンを驚かせる隠し玉、というやつでな。ワイアット君がしくじっても、手はまだある」
レビル閣下が手がある、ということは何か戦略兵器を用意しているということだろうか? とワイアットは眼前の髭の爺様をみやる。
そこにあるのは思慮深く、謙虚ないつものレビル閣下の面構えであった。
「……なら、先輩に尻をふいて頂けると信じて、大風呂敷をかますことにしますかね」
「そうそう、気楽に、大胆に、だ。ワイアット君」
そういって席に戻ったレビルだったが、彼が椅子に腰かけた刹那に深い憂慮の表情を浮かべたのをワイアットは見逃さない。
秘策はあるのだろうが――それは使わないに越したことはないなにか、か。
となると、ソーラレイシステムか、あるいはコロニーレーザー、核兵器と言った大量破壊兵器を使うシナリオをレビル閣下が考えている可能性が高い。
そのような決断を英雄として名高いレビル閣下にやらせるのは、さすがにはばかられる。
ええい、なるようになる、とワイアットは覚悟を決めて、首相府に繋がるホットライン通信機を手に取った。