シン/機動戦士ガンダム   作:すしさむらい

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生き方の基本とはまず「普通に生きながらえる」ことを目指す。そして、そこを目指すために意志と力を持つべきだとも言えるでしょう

――ヨシユキ・トミノ


第五二話 0083 地球軌道決戦2

 

 地球軌道上の激戦区の端。

 装備開発実験団(※ムラサメ研究所)が用意した、旧式のコロンブス級空母2隻が打ち上げ用ロケットを分離し、受け入れ準備をしていた先発艦艇であるペガサスジュニアに合流する。

 この2隻の旧式のコロンブス級空母は、艦艇に関して何の思い入れもないムラサメ研の技術屋たちによって、コ級試作無人空母壱号、同弐号と呼称されている。

 一年戦争の終結後、ジオンとの経済的・政治的結び付きの深化にともない、地球連邦政府の軍縮徹底が進むのは目に見えていた。

 しかし、連邦軍としてはジオンと揉めた時の最低限の武力を維持する義務がある。

 その結果、徹底的に人件費を削りながらも戦力を維持する方策として、様々な無人化装備の研究開発に予算が振られていた。

 もちろん、その予算とはGP計画その他、様々な有人MS開発計画やガンダムタイプの開発費をとり潰すことで捻出されている。

 

 とはいえ、コ級無人空母壱号、弐号は、完全無人化にはたどり着いていない。

AIを主軸としながらも、今だ機関部門とMS運用に関する整備人員に関しては、どうしても少数の艦艇乗組員に頼らざるを得なかった。

 

 さて、コ級無人空母壱号、弐号には、ムラサメ研究所のマッドサイエンティストたちがその歪んだ知性にて実現させた、第二世代強化人間(※第一世代は、ゼロやアンなどの、試行錯誤結果生み出された強化人間たちを指す)が、100人単位のケントゥリア(※百人隊)を組んで、2ユニット分、乗船し、積載されたMSにて搭乗待機している。

 

「デフュコポォっ!! 見たでござるか!? これで拙者の勝ち確定でござるぞっ。いやはや、拙者やはりNTでござったか、失敬、失敬!」

『さすがですぞ、ゴザール殿っ!』

『小生、感極まって全裸待機にて候!』

 

 コ級無人空母壱号のMSハンガーに詰め込まれているジム改の群れ。

そのコックピットには第二世代強化人間たちが待機――ではなく、一心不乱にシミュレーションモードの対人戦の様子を見守っている。

 既に隊長機以外は撃墜ないし被弾判定で戦うことは許されていない。

 ゆえに、隊長機同士の一騎打ちで盛り上がるしかない。

 

 第一ケントゥリアであるゴザール・デ・ゴザール少尉。

 第二ケントゥリアを率いるギャル・リバイバル少尉。

 両者の空間戦演習は、まさに佳境である。

 大気圏離脱の高G状況下でも難なく遊び――訓練に励めるところが、第二世代強化人間の身体能力の高さを証明している。

 

『いや、全然勝ってねーし。なんならあーしの勝ちなんすけど』

 

 ギャル少尉のバカにした声。

 

『マジオタクってなんなん? すぐ調子乗るじゃん』

『ちょっとパンツ見えたら鼻息荒くしてさ、マジ、チンパンかよっ』

 

 第二ケントゥリオからの猛抗議を受けて、ゴザール少尉はひるむ。

 

「むむむっ! 数字の上でも、戦術状況的にも拙者の機体が優越っ! ギャル少尉の機体は既にボロボロにて候!」

『敗北クッコロキタコレッ!』

『小生は心頭滅却にて全裸待機候!』

 

 第一ケントゥリア連中が異様な熱気に包まれる。

 一方の第二ケントゥリアたちはその熱気に顔をしかめている。

 

『ボロボロなのはそっちじゃん。ゴザルって、そういうとこあるよね? 冷静に見れないっていうか、判断が直情的っていうか――黙ってれば、イイオトコなのに、もったいないよ?』

 

 ギャル少尉からの想定外のコメントに、演習画面内のゴザール少尉のジム改が硬直する。

 戦場においては、致命的なそれである。

 

「拙者が、イイ、オトコ……!?」

『チョロw』

 

 ギャル少尉のジム改が担いでいたバズーカを撃つ。

 音速の砲弾が飛来。

 停止していたゴザール少尉の機体は、あっさりと爆散する。

 

「んほぉっ!?」

 

 奇怪な声を上げるゴザール少尉。

 

『ゴザルどのぉぉぉぉ!?』

『あばばばbっ!』

『全裸待機してたのに……』

 

 第一ケントゥリアの面々が、悲喜こもごもに叫ぶ。

 

『ザッコっ! イキリ乙。んなわけで、今後はあーしらのいうこと聞いてもらうから』

 

 ギャル少尉がふふん、とゴザール少尉を鼻で笑った。

 

「くぅぅぅぅ……拙者、せっかくガンダムの世界に転生したというのに、またしても虐げられることになろうとは……悲しいけど、これって戦争なのでござるな……」

『ウザ。ゴザルはさぁ、すぐファーストガンダムのセリフ言うじゃん。そういうとこキモいぞっ。あーあ、あーしはロックオン様に会いたかったなぁ』

 

 第二世代強化人間――2ndGNTは、ロームフェラ財団他、様々なトラップに引っかかってムラサメ研送りにされた成れの果てのガノタたちである。

 彼ら、彼女たちは総じてガンダムワールドを各自勝手にエンジョイしていたのだが、ガノタというのは愚かしいもの。好奇心のままにこの世界をつつきまわり、結局は悪いガノタたちに捕まってしまったのだ。

 

 ガノタボーナスとして、どのガノタも大抵は並々ならぬ学習速度でMS操縦技能を習得する傾向があるため(※好きこそ、ものの上手なれ理論)、ムラサメ研究所の強化人間プロジェクトには好都合な実験素体たちばかりであった。

 

 ムラサメ研究所のヘンタイ科学者たちにあんなことやこんなことをされて調教――調整されたガノタたちは、いまや十分な使い捨てのコマ――ムラサメ研究所の基幹戦力のMS部隊として編成され、この戦場に合流したのだ。

 

「不覚っ! 拙者、一生の不覚っ!」

 

 ゴザール少尉による苦悶の叫び。

 

『ゴザル殿が泣いておられる……』

『小生、ゴザル少尉殿がさんざんイキリ散らかしていた時から、悪い予感がしておりましたぞ』

『しばらくはパシリ生活でやんす』

 

 あれこれ部下たちに言われているゴザール少尉であるが……。 

 ギャル少尉に敗北し、小ばかにされ、第二ケントゥリアの女性たちに格下宣言をうけているとき、ゴザール少尉はふつふつと沸き起こる衝動に身を焦がしていた。

 怒り――ではない。

 

 むしろ、歓喜。

 

 本来であれば第一ケントゥリオの隊長として怒りに身を焦がし、再戦を誓わねばならぬというのに、ゴザール少尉は喜びを覚えてしまったのだ。

 ギャル少尉のムチムチの肢体に虐げられる自分の姿を想像するだけで、とんでもない昂ぶりを覚えてしまい――同僚にそのような劣情を抱いているなどとは拙者の武士道に反するでござる、と相成りルナマリアちゃんの薄い本に救いを求めてしまうしかない、これは待ったなしでござる、などと錯乱していた。

 

『――各機傾聴。臨時で装備開発実験団MS大隊長を拝命したゼロ中尉だ。そろそろお遊戯はおわったかな?』

 

 ゼロからの通信に、第一、第二ケントゥリアに属するガノタたちが押し黙る。

 すでにガノタたちは調教済みのため、自らの直属の上司の命令には何の疑問も挟まず従うようになっているのだ。

 

『結構。静かになるまでコンマ1秒かからないなんて、成長したね』

 

 ゼロの声を無感情で聞くガノタたち。

 その表情は先ほどまでのMSバトルにともなう動物園的騒がしさのガノタの輝きはなく、何の心理的抵抗もなく命じられた敵を破壊する兵器の面構えになっていた。

 

『じゃあ、皆、そろそろ出番だから。今から殺すべき敵の特徴を教えるから。えーっと……』

 

 ゼロから各機体に送付されたキルターゲット情報。

 ガノタたちの潜在意識が、これらがGの影忍とGガンダムにおけるDG細胞のハイブリッド型であることを把握する。

 

 ある意味で、ガノタにはなんら説明する必要はないのだ。

 ただ、ワードを並べるだけでいい。

 トマト、学園、企業グループ、社長。

たったこれだけで、多くのガノタは勝手にスレッタがミオリネとケッコンしたくて暴れちぎる作品を脳内再生してしまうほどに、業が深いのである。

 

『うん、いいね。いい数字出してるよ』

 

 ゼロの声は既にガノタたちには届かない。

 彼ら、彼女らの自由意思は既に消え、MSパイロットとして最高級に調整された――いわば、生体CPUでしかない存在に切り替わっているからだ。

 いまごろ、ガノタたちの脳内ではバケモノたちをいかに殺すかという一点に置いて、数万のシミュレーションが行われていることだろう。

 

『期待しているよ、僕の弟たち、妹たち』

 

 ハンガーにマウントされていたジム改たちのバイザーが赤く光る。

 深く機体と同化したことを示すサインだ。

 リュウ曰く、ビルドファイターズトライにおける『アシムレイト(※ただのプラセボ効果だが、ガノタには大変よく効く)』と同じだというが、ゼロはガノタ界隈のことなど知りもしないので、何か特殊な神経同調か何かだろうと思い込んでいた。

 

 

 

 ハンガーに収まっていたジム改たちに武装が施されていく。

 いわゆる甲種兵装というやつで、ブルパップマシンガン、予備弾薬に加えてバズーカとシールドを携行する完パケである。

 

『(……!? あいえぇぇ! 拙者、もしや出撃でござるか?)』

 

 そして、急加速。

 Gは体が勝手にいなしてくれるが、眼前の景色のほうが問題だ。

 宇宙空間に飛び出したゴザール少尉は、眼前に広がるバトルフィールドに感動ではなく恐怖を覚えていた。

 当たり前である。

 町を歩いているガノタを適当に捕まえて、ガンダム世界の戦闘に放り込んだら100人中80人は困惑し、恐怖を覚えるだろう。残りの20名は、多幸感に包まれて気絶してしまう可能性が高い。

 

「(オウフッ……なんとなく空気を読んでたら、あれよあれよという間に実戦投入されてしまったでござるよ……)」

 

 

 アニメで観ていた、あの光の線がぴゅんぴゅん飛び交って、なんか爆発したりしているシーンのところがだんだん迫ってきてしまう。

 

「あ、これはオワタでござるぅ」

 

 思わず弱音を吐く。

 そして、いよいよ撃破された味方の破片や、ジオン=連邦共同戦線特有の大量のオープンチャンネル無線が、ゴザール少尉のコックピットに雪崩れ込んでくる。

 

 情報の、飽和。

 ゴザール少尉は思わず目を閉じ、耳を塞ぎたくなる。

 しかし、なぜか体が言うことを聞かない。

 軽快にフットペダルを制御し、精密に操縦桿をさばいている自分がそこにいた。

 ロックオンとAIによる射撃諸元の補正。

モニターに映るは、バケモノの、群れ。

 静かに。

 すべてが静かになっていく。

 ディスプレイ上にて、FCSがマルチロックをしてく。

 ゴザール少尉の眼球が異常なまでに素早く動き、周囲の状況を余すところなく脳髄へと送り届ける。

 もう、ゴザール少尉は消えていた。

 そこにいるのは、ただの兵器であった。

 

 

 

 

 シン大尉は、触手にからめとられそうになっていたヤザン機を援護すべく、ジムライフルを連射する。

 ヤザン機を包囲していた数体のうち、一部を始末すると、ヤザン機が勝手に残りを始末して窮地を脱する。

 

『わりぃ、隊長。なんだか知らねぇが、ザラっとした何かが気になっちまった』

「何の話だ?」

『知るかよ。そう感じたんだ』

 

 まるでNTみたいなことを……いや、ヤザンはNTの萌芽みたいなものが原作でもあったような、などとシンは己にまとわりつこうとするMSモドキに、ライフルを叩き込みながら考えていた。

 

 NTといえば、シャニーナ少尉は大丈夫かと振り返ってみると、シャニーナ少尉率いるジムキャノンⅡ部隊は近接火力支援を継続的に戦場にデリバリーしていた。

 

『ヤザン少尉、いまなんか変な感じしましたよね?』

『ああ……』

 

 あーもう、とシン大尉はヤザンとシャニーナ少尉の会話をうらやましがる。

 どうやら、ほぼ確実に自分にはNTとしての才能がないことがわかりつつある。

 くやしい、というよりもうらやましい、というのがシンのダメなところでもある。

 くやしいと思えば努力するかもしれないが、うらやましいというのでは、嫉妬以上の何かにはつながらない。

 

「ん、なんだありゃ」

 

 シン大尉は戦場における目が非常に良い。

 かつても戦士であり、こちらの世界でも戦士であるのだから、戦場における着眼の良さというものが極めて精緻に磨き上げられているのだ。

 

 いま、シン大尉が着目したのは、後方から増援として到着した装備開発実験団のジム改大隊である。

 

 200機ほどだろうか。

 万単位のMSが展開するこの戦場においては微々たる数であるはずなのだが、あの200機の突撃はすこしばかり優秀すぎる。

 恐るべき衝撃力でバケモノの群れを駆逐していっている。

 いや、しすぎているといってもいい。

 あのまま打通を続けると、すぐにサプライが間に合わなくなる。

 

 それにしても……200人全員がエースパイロットなどという部隊なぞ、シン大尉は知らないし、そんなものを編成する軍事組織も知らない。

 

 

 軍というものは、規格を揃えたがるものだ。

 それは兵器兵装に限らず、人員に関しても同じである。

 兵士は兵士の規格があり、下士官には下士官の規格、将校には将校の規格が設けられる。

 そういう枠組みから外れた特別な部隊を編成する場合は、それらを『特殊部隊』と称して、正規とは違う特別な理由と目的に基づいて訓練プログラムと装備が提供される。

 

 特殊部隊の代表例でもあるシン大尉他、特殊作戦群に所属するアルファ任務部隊の面々とて、重力下から宇宙空間、月の低重力まであらゆるところでMSを用いた緊急展開と戦術級行動ができる部隊(※いつでもどこでもなんでもやります、という雑用部隊ともいえる)としての装備と人員を揃え、トレーニングを積んでいるだけだ。

 

 決して『エースパイロット集めたツヨツヨ部隊』などということはない。

 確かにヤザンは優れたMSパイロットであるし、シャニーナ少尉もそうだ。

 ダンケルやラムサスもいい腕をしているし、シャニーナ少尉を支えるサンダース曹長もベテランらしい堅実さを持っている。

 だが、そういった連中以外のMSパイロットたちが大多数を占めているのもまた事実。

 ヤザン隊、シャニーナ隊ともに、そこにいるのは一般部隊とは異なる各種MOS(※技能のこと)を取得しているに過ぎない、ごくごく普通のパイロットばかりで編成されている。

 

 そもそも、アルファ任務部隊のMS大隊長を務めるシン大尉自身が、そのような人員構成を好んでいる。普通の連中で最大限の戦果を効率よく上げていく組織を目指すという地球連邦軍の統合運用FMを文字通り、愚直に実行しているのだ。

 

 そのようなシン大尉の運用の苦労なんぞ知ったことかと言わんばかりの破壊力を発揮するジム改たち。

 

 このようなイレギュラーが起きると、どうなるか。

 敵の立場に立てば簡単だ。

 厄介な連中が現れたなら、そこに集中するだけだ。

 つまり、装備開発実験団のMS大隊に対して、MSモドキ他、クラーケンタイプやタコタイプが一気に襲い掛かっていくわけだ。

 

「あーもう、装備開発実験団の運用担当は素人か……アルファリーダーよりアルファ101、201へ。イキリ散らかした素人たちが出張ってきた。パンチ力はあるが、スタミナについては考えなしだ。ケツにサプライラインを繋いでやらないと、無駄死にする。意味は分かるな?」

 

 シン大尉が任務要領を配布する。

 それらをもとに、簡単な作戦図がアルファ任務部隊のMS大隊に共有される。

 

『我々のエリアはどうします?』

 

 シャニーナ少尉からの質疑。

 シン大尉はこいつらに引き継ぐ、と先ほど第三軌道艦隊とともに到着した暴れん坊部隊を示す。

 

『うへぇ、エイガー教官の部隊ですか?』

 

 シャニーナ少尉のかつての教官である。

ジムキャノンⅡの搭乗資格及び、ジムキャノンⅡ部隊による近接直協火力支援に関する指揮/指導/運用を学ぶMS近接火力運用課程の術科教官が、かのエイガーだった。

 大砲を担いだガンダムに乗り、ジオンの闇夜のフェンリル隊にボコボコにされた経験からかは分からないが、ケンカはチームでやれ、と口うるさいチームワークおじさんと化しているそうだ。

 

「エイガー大尉になら任せられると思うが」

『ジムキャノンⅡと量産型ガンキャノンの混成部隊なんですよね? 近接格闘戦になったらやばいような』

「それは、あいつらでいいだろ」

 

 シン大尉が示した先には、ジオンのMS中隊の姿。

 典型的なゲルググ中隊である。

 

『そっか……いまは、ジオンが味方なんですよね』

「昨日の敵は今日の友ってやつだ。各機、転進用意」

 

 シン大尉の号令のもと、アルファ任務部隊のジムカスタムやジムキャノンⅡが移動ベクトルを変更する。

 全ての隊員たちがスラスタを最小限に利用して進路を変更できてしまうところは、訓練された特殊部隊らしい動きであった。

 

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