これからもガノタのみなさまに「いや、そうじゃない」と喧々諤々に議論いただけるよう旬(※ガンダムは40年以上前から続く伝統芸能だけど、いつも今が旬なんだよ)のネタをお届けしてまいります。
―お気に入り数100超えてうれC記念文―
はい、0080~はじまりますよ。
第六話 0080 ジャブローのモグラたち
宇宙艦隊寄せ集めニューイヤーパーティもそこそこに、ジャブローにこいと呼び出されたシン少尉は、二日酔いの頭痛を抱えながら連絡機にのってジャブローに降り立った。
地下空港に降り立った旅客(そのほとんどは事務官たちだった)は、ぞろぞろと公務ゲートに向かっていく。
だが、シン少尉は連絡機のタラップを降りた後、待機するように命じられていた。
1月の南半球熱帯雨林は容赦なく暑いが、地下要塞内に入ってしまえばそれなりに過ごしやすく――もなかった。
ジャブロー防衛戦の影響で、あれこれとインフラ系にダメージを受けているらしく、地下要塞の環境は完ぺきからは程遠かった。
地表に比べれば多少冷涼ではあるが、蒸し暑さが消えるほどではなかった。
しばらくすると、1台のジープがやってきた。
迎えの兵士がこちらを確認する。
「シン少尉ですね。お迎えに上がりました」
シン少尉は息をのんだ。相手は、アムロ・レイであった。
もとより明るさとは程遠い少年だった彼だが、どこか暗い影を感じさせる。
「――ご苦労、少尉候補生たる曹長」
さっとアムロの身なりを見て判断する。MSパイロット徽章に加えて、様々な作戦の従軍章と撃墜殊勲賞があった。曹長の階級章に加えて、短期将校課程の徽章があることから、今現在、士官昇任のための教育を受けていることもわかる。
とはいえ連邦軍の人事制度だと、やはり大尉までしか行けないキャリアである。アムロ君がそれを理解しているのかどうかは定かではない。
「どうぞ」
シン少尉はジープの助手席に乗り込む。
アムロが運転席に乗り込み、電源ボタンを押した。
電気自動車特有のモーター音を鳴らしながらジープがジャブローの巨大要塞内を疾走する。
「少尉は、ア・バオア・クーの戦いに参加を?」
「あぁ、曹長は?」
「僕はグラナダ方面ですよ」
「それはホワイトベースで?」
何気なく質問しただけだったが、どうやらよくない問いだったようだ。
運転席のアムロの表情は険しい。
「少尉殿は、煽ってるんですか?」
「いや、気に障ったならすまない。ずっと戦場にいたせいで、いろんな事情をキャッチアップしていないんだ」
「……僕はもともと、サイド7の避難民だったんです。だけど、ジオンの奇襲を受けて――逃げ出すために乗ったホワイトベースは、あっさりと拿捕されたんです。大気圏突入時を狙われて――今でも覚えてますよ。赤いザクと四本スパイクのザクにボコボコにされて……本当にひどかった」
シン少尉は目を見開いた。
まさかホワイトベースが拿捕されていたなんて想像もしていなかったのだ。
となれば、ガルマが生存している理由も筋が通る。
ア・バオア・クーで黒い三連星と取っ組み合いをやらされたことも、だ。
ホワイトベースが地球に降りるかどうかで、ジオンの名高きエースたちの生き死にが大きく変わってしまうことを、シン少尉の中の人は当然把握していた。
あの大気圏突入時の戦いこそが、歴史介入の大きな結節点なのだ。
「ホワイトベースとMSは鹵獲されました。ジオンの連中は僕らみたいな素人たちには興味がなくて、そのままランチを与えられて放置です。漂流していたところをサラミスに拾われなかったら、死んでいましたよ」
「そうか。すまない、つらいことを思い出させた」
「本当にそうですよ――セイラさんだけがジオンに連れていかれたんです。一番きれいだったから、ひどい目に合ってるんじゃないかって心配で」
アムロの表情が暗い理由がわかった。どうやらセイラさんだけが拉致同然に連れ去られてしまったことに責任感を覚えているらしい。
それは明らかにキャスバル(シャア)が手を回したことだろうが、それをアムロ君に告げたところで彼の気持ちが明るくなるかどうか、さすがにガノタでも確信をもてなかった。
「僕が……僕が、ガンダムをもっとうまく使えたら、セイラさんは無事だったんだ」
アムロが自分を責める様子に、シン少尉は投げかけるべき言葉を探す。
「――アムロ君は、いまもガンダムという機体に乗っているのかい?」
当然そうだろうよ、とガノタマインドで決めつけるわけにはいかない。
「そうです。だって、僕がガンダムを一番うまく扱えるんだから」
おぉ、やっぱり! とはいかない。
むしろシン少尉は困惑する。このアムロ君は――まだ明らかに未熟。
ランバ・ラルとの死闘の他、原作にある心折れる体験を重ねていないせいで、明らかにただMS操縦がうまい子どものままだ。
「君は、いまいくつなんだい?」
シン少尉はついガノタとしての質問をしてしまった。
アムロは1年戦争当時15歳で、11月4日が誕生日、という設定がある。
が、それは一年戦争終結時に15歳だったのか、そもそも15歳で、1年戦争中に16歳になってしまったのか、よくわかっていないからだ。
当の本人から聞けるなどというのは、ガノタ冥利に尽きるではないかという焦りと高まりで、話の流れをぶった切る質問をしてしまった。
「え? あ、16になりました」
「そうか」
何とかガンダムらしい会話にせねばならぬ、とシン少尉は頭をひねる。
「若いな。自分が運命にあらがえると信じている年頃だよ」
「……わるい、ですか?」
不愉快そうに尋ねてくるアムロ君に、シン少尉は大人として答える。
「信じきってみせろよ、少年。大人はすぐに自分と他人をあきらめる」
ガンダムUCを光速再生し、それらしき応答を練りだした。大人がバナージ君に説教をし続ける物語構造の部分をお借りすることにしたのだ。ガノタたるもの、作品の構造解析はお手の物である。
「――シン少尉は、MSパイロットなんですよね?」とアムロ。
「ん?」
あまりに唐突な問いにどう答えたか迷っていると、アムロがさらに続ける。
「僕は、強くなりたいんです。後で、手合わせお願いできませんか」
「言っておくが、自分はただのジム乗りだぞ」
「だからです。普通のパイロットのレベル感を知っておきたいんです」
(――ウソだろ? これもしかして自分が『アムロわからせ』をやれってことなのか? ランバ・ラルのかわりに?)
ガノタたるもの、原作のメインを張る人物に軽く扱われた場合の身の処し方というものを日ごろから用意しているものだ。
シン少尉は、月の繭がBGMとして流れる中「わーっ!」と金魚のオモチャを投げ捨てるソシエお嬢様のシーンを複数回再生し、冷静さを取り戻す。
「アムロ君、シミュレータと実機、どちらをお望みだ?」
「もちろん実機ですよ、シン少尉。あ、でも普通のパイロットだと、MSを用意するのも大変ですよね――シン少尉の用意ができたら、連絡してください」
アムロ君はすっかり煽りキャラになってしまったらしい。やはり成長には経験が必要なのだな、とシン少尉は改めて学んだ。
それからしばらくアムロと元ホワイトベース乗組員たちの話をしてもらった。
皆まだ軍籍にあるらしく、これからの身の振り方はまだ決まっていないらしい。
ただ、もともと職業軍人だったブライトとリュウ・ホセイは今後も勤務を続けるらしい。
そして、当然アムロも短期将校教育を受けて軍に残るようだ。
「僕は、たぶんMSに乗るくらいでしか役に立てないんですよ」
「そう卑下するなよ、曹長。ついでに自分は除隊する気満々だ」
せっかくの終戦。自分のしらないガンダム世界がこれから出来上がっていく。
こんな絶好の機会なのに軍に身を置くなんて馬鹿げている。
日雇いの仕事でもしながら世界を放浪して、この原作から離れていく未知のガンダムの世界を連邦やジオンという枠組みではなく、生活者として体験したかったのだ。
「……普通のパイロットは、気楽でいいですね」
「お、そうだな」
感情的な怒りの突沸を避けるべく、初めてのルーブルはなんてこたぁなかった♪ 的な鼻歌を鳴らす。TV版シンジ君並みにアムロ君が煽ってくるが、シン少尉は耐えた。
そしてアムロが運転するジープが、やたらと警備が厳重なゲートを通過した。
シン少尉もアムロも網膜及び静脈認証で身分を調べられた。
「ここは一体……自分は除隊申請について答申をもらいに来ただけなんだが」
「あ、すみません。お伝えするのが遅くなりました。シン少尉はこれからゴップ大将閣下と面談していただきます」
いや、それ先に言おうよ、とシン少尉はコミュニケーションがへたくそなアムロ曹長にあきれ返った。
統合参謀本部から離れた、どこか得体のしれないビルに入る。
「僕はここまでです」とアムロ。
シン少尉は、アムロと別れた。
統合参謀本部から離れた、どこか得体のしれないビルに入る。
引率の警備兵とゴップ大将の付将校であろう少佐に長い廊下をぐるぐると連れられて、簡素な応接室に案内された。
「ここで待て。あと、これを腕につけろ」
「はっ」
シン少尉はスマートウォッチらしき何かを身につけさせられた。
これが何なのかは全く見当もつかない。
付将校の少佐に命じられて、待合室で待機する。
無論、警備兵たちは室内でこちらを見張るように立っているので、シン少尉は起立のまま待つことにした。
「いやぁ、ご苦労、ご苦労。お待たせした」
ふくよかな中年男性がよっこらしょと言わんばかりに入室してきた。
警備兵たちが執銃の敬礼。
シン少尉も挙手の敬礼で迎える。
「はい、はい、どうもどうも」
ゴップ大将は適当に答礼すると、どっこいしょとソファに腰かけた。
これが連邦軍の軍政と兵站をすべてになうシステムを作り上げた傑物……にしては、どこかこう、愛嬌があるおじさんなのが、ゴップであった。
「さて、シン少尉どうして私が君をここに呼び出したか、わかるかね?」
「はい、いいえ、わかりません」とシン少尉。
「そっかぁ。じゃ、不都合なことからだね。まず、君の除隊申請は無理。却下」
あまりに無体な回答に、シン少尉は固まってしまう。
「さて、君たちも、もういい」
「はっ」
警備についていた兵士たちも退出した。
部屋にはシン少尉とゴップ大将の二人だけだ。
「腕のそれは、ちゃんと緑の光がついておるかね?」
ゴップ大将に確認されたのは、先ほど渡されたスマートウォッチのようなものについてだった。
有無を言わさずつけるほかない状況だったので、もちろんグリーンランプOKである。
「はい、問題なさそうです」
「よしよし。さて、これをみてほしい。こいつをどう思うかね?」
捕虜取り扱い記録がモニターに映し出される。
日付まさに今現在のものだ。
モニタには、クリス中尉と談笑するバーニィの姿。もちろん、アルも面会を許されているらしく、二人と楽しそうにバーニィ釈放後の話をしている。
「!!」
「結構。実に結構だ」
そして、ゴップ大将は通信を入れた。
しばらくするとサンドイッチと白ワインが応接室のテーブルに並べられた。
配膳を終えると、兵たちは一礼して下がっていった。
「すまないねぇ。ランチがまだだったのだよ。君の分もあるから、遠慮しなくていい」
「はぁ」
二人で黙々とサンドイッチを食べ、白ワインを互いに注ぎあった。
「それ、もう外していいよ。さて、君と私の認識をすり合わせしよう」
ゴップ大将がシン少尉にスマートウォッチもどきを外すように指示した。
シン少尉は言われた通りにそれを机の上に置く。
そしてゴップ大将による尋問が始まった。
彼はシン少尉に矢継ぎ早に質問していく。
まるで百人一首の如く、ゴップの問いに素早くこたえて手札を見せていかねばならないものであった。
結論から言おう。
ゴップ大将は宇宙世紀だけにとどまらず、すべてのガンダムに通じる研磨されたガノタであった。
「すでに正史から大きくずれているのは共通認識のようだねぇ」
「はっ」
「結構。私も年だ。おそらくはF91の舞台となるUC123までは生きられまい。ゆえに、だ」
モニタに見知らぬ年若い少女のプロフィールが表示される。
「私は電脳化し、脳殻をこちらの義体に移すことになるだろうねぇ」
「は? いや、他意はないのですが、その、なぜ性別も変更するのですか? いえ、それ以前に神経素子にマシニングする技術の実装などは……」
「少尉、私はね、元々は女なのだよ。ガノタ系アイドルをやっていたのさ」
え、おっさんの中身は女の子ってことですか、たまげたなぁ、などとシン少尉は混乱した。
「まったく売れなくてね。最後は自暴自棄になって自殺さ」
「失礼しました」
「いや、いい。私はこれから鬼畜の所業を行うだろう。電脳化技術の確立と義体開発のために、ジオンからNT研究の技術情報を何としてでも確保し、リユースサイコデバイスをも確保するだろう」
「はっ」
ただ、シン少尉としてはゴップ大将がなぜそこまで延命と保身にこだわるのか、そこが気になって仕方なかった。
「驚かないのかね」
「これだけ手の内を明かされたのです。もう逃げられないし、あなたの味方にならねば消されるだけです」
「話が早くて助かるよ。君が気にかけているあの子を使わないで済む」
ゴップ大将が満足そうにうなずく。
「閣下っ! お願いです、どうか、どうか彼女だけは……」
ゴップ大将から、笑みが消える。
「シン少尉、私に忠誠を誓え。そうでなければ、あの『奇跡の子』をコリニーやジャミトフに渡す」
「――選択肢は、ないじゃないですか」
シン少尉は黙るしかなかった。
あの時、必死に心肺蘇生を施した結果か、イデの意志なのかは不明だが、シャニーナ伍長は意識を取り戻してくれた。
当然ながら、さらなる集中治療が必要とのことで、後方に送られることとなった。
しかし、後日、お見舞いに向かうべく調べてみるとジャブローの病院にいることがわかった。
サイド6などの戦傷病療養エリアではなく、なぜ連邦軍の本部――?
そして、その疑問はガノタ変換により動揺に変じた。ガノタは陰謀に敏感になるよう調教されているものだからだ。
「いいですよ、あなたにこの命、差し出して見せますよ」
シン少尉が吐き捨てるように言うと、ゴップ大将が満足げにうなずく。
「ですがね、自分はあなたが権力と長寿に固執する理由くらい、知る権利があると思うんです」
シン少尉が睨むようにいうと、ゴップ大将が口角を上げる。
「私はね、人類に地球から巣立ってもらいたいのだよ」
ゴップ提督は、スペースコロニーの開発や小惑星改造技術、生産規模を年次で拡大更新している自動化工場と生産管理AI群について語った。
結論だけをまとめるならば、人類はすでに恒星間航行すら可能な技術水準に片足を突っ込んでいるのだから、地球というゆりかごを踏み出して進むべきだというのが彼の主張だった。
シン少尉は、まさかゴップ大将がそんなジオニストのようなことを考えているなどとは思っていなかったため、ため息をついた。
「だからですか。あなたは……あなたは戦争を一方的な勝利で終わらせるわけにはいかなかった」
原作のような終わり方をすれば、究極的に行き着く先は連邦政府の緩慢なる腐敗死と、宇宙戦国時代の誕生だ。
人類は前進するのではなく、細分化されて衰退するだけの未来。
クロスボーンガンダムDUSTで描かれた、錆びた歴史の果てに到達するだけだ。
「実に、クラウン君はよく踊ってくれたよ」
ゴップ大将は諜報部が監視しているというクラウンの資料をシン少尉に手わたした。
ジオン勲功十字章に輝く彼のきらびやかな経歴は、ゴップ、ギレン、キシリアによるパワーゲームのコマとして使われただけの悲しい履歴でしかないことを思い知らされる。
「彼の、ハマーン様への想いは本物ですよ。まるで、それを踏みにじるような……」
「それが彼の愛なのだろう? 私にはわたしの愛がある」
ガノタ同士は殺しあうのがアイサツ。
だまし、だまされるのもまた、ガノタのアイサツなのだ。
「クラウンはザビ家を相手取るつもりだろう。だが、まだ青い。純情なカーン家などいずれすぐ潰されるな」
今すぐにでもクラウンに知らせてやりたいが、目の前の古豪たる政治狸が何かのネタに使うことなのかもしれないと考えると、うかつな行動はできそうにない。
「さて、シン少尉、趨勢をどう見るかね?」
「ジオンの辛勝、連邦の敗北といった感じでしょうか」
「結構。実に結構。人々には連邦が負け、ジオンが辛勝したかのように見えるだろう」
ゴップ大将が、白ワインを再度すすめてきたので、シン少尉がグラスで受ける。
天然物の白ワインの、颯爽とした甘みに心を溶かされる。
「だが、本当に勝利したのは人類の未来だよ。逼塞するだけのガンダム世界の歴史を変えること。人々が次のステージへと移行できる手助けをすること――それが、ガノタとしての私の祈りであり、願いだ」
そして、ゴップ大将が熱く語る。
いつかガンダム00劇場版のように、人類以外の知的生命体と接触する機会もあるだろう。その際、我々は戦いというコミュニケーション手段を確保したうえで、さらに別の手段でコミュニケーションをとらねばならんのだと畳みかけてくる。
壮大な話であった。だが理解はできた。
ガノタとして修練を積んでいなければ詰んでいたな、とシン少尉は一人うなずく。
「君は、愛というものが、どういうものかわかるかね?」
ゴップ大将が白ワインのグラスを傾ける。
ただのおっさんのはずなのに、どこか色気がにじみ出ている気がして、シン少尉は動揺した。
「許しだよ。私は、人類を許すためにガノタをやっている」
そこからのゴップのガノタ語りは、シン少尉も面白く感じた。
人々の集合無意識をニュータイプと高度に発展しているAI、そして電脳の力で政策に反映するという民主主義そのもののアップグレードプラン。
いわば、集合無意識による投票不要の直接民主制の実現をゴップ大将は狙っているようだ。
そして、ゴップはそれをやり遂げる鉄の意志があるらしい。
「私はね、人が人々を統治する代表民主主義よりも、人々が人々を統治する新たなるメッシュ民主主義を作り、ジオンの統治とは違うアルゴリズムを人類社会に実装したいのさ」
「――仮にですが、原典原理主義のガノタがいたら、ゴップ大将の思惑には乗らないと思うのですが」
シン少尉はゴップ大将ほどの構想力を持たない。元々の世界でも任務を与えられ、それを完遂することに最適化した人生だったからだ。自ら任務を生み出す思考法というものはとうに放棄していた。
しかし、ガノタとしてガンダム世界の歴史に関する嗅覚くらいは持ち合わせていた。
ゴップ大将の考えは、どこかのガノタには到底受け入れられない話だろうこともわかる。
ガノタはガノタであり、ニュータイプではないのだ。
「構わんよ。生きているガノタは、例外なくガンダムを語り、行動する権利がある」
ゴップの生々しいまでのガンダム世界への愛を、どうとらえたらいいのかシン少尉にはわからなかった。
本物のパワーゲームを遂行するガノタというものが、妖怪にしか思えないのだ。
「さて、私の忠実なる部下、シン中尉よ」
すぐに電子辞令が交付され、階級が上がった。
「君はジャブローに残り、中級幹部課程を履修したまえ。大尉までしか上がれん予科練上がりのままでは、私の私兵として使えんからな。キャリアコースを修正する」
そうか、シン少尉は予科練上がりだったのかといまさらながら経歴を把握する。
そこからのキャリアレーンのチェンジは、将来的に佐官の道が約束されたことを意味している。
将官になれるかは、まだわからない。将来、指揮幕僚課程を履修できるかに依存するからだ。
「最悪ですね。いかにも官僚主義的だ」
「悪党で結構。シャニーナ君のことはどうするかね?」
「この通りです」
シン少尉はプライドも何もかもかなぐり捨てて、頭を下げる。
本来、かのユキチ・フクザワが述べたように『ガノタは、ガノタの上にガノタを作らず』のはずであるが、ここは軍隊だ。
階級章がものをいう。
「ふん、頭を上げたまえ。君が私に従う限り、私はお前の願いを聞こう」
露悪的にことを進めるゴップ大将に、シン中尉は苦笑する。
まったく、理想に燃えた現実主義者ほど恐ろしいものはない。手段は択ばず、権力の行使をためらわないからだ。
「――正規の士官学校にねじ込んでください」
「よかろう。回復次第、ジャブロー軍官学校で遊ばせておこうじゃないか。以後、私からの呼び出しがあれば最優先で対応しろ。さもなければ、消すだけだ――以上」
ゴップ大将が立ち上がったので、シン中尉が敬礼して見送る。
大将と入れ替わるように、付将校の少佐と警備兵がやってきた。
「シャニーナ伍長のところに案内する。ついてこい」
彼らに付き従う形でついていくと、ジャブローの中にこんな施設があったのかと思える優雅な内装の建物に案内された。
付将校に訊ねると「ゴップ閣下の迎賓館だ」とのこと。
軍の所有物ですらなく、ゴップ大将の私的な物件がジャブロー内にあり、しかもそれが政治的パワーゲームに使用されているとは……。
まったく、ヤバい奴の私兵になってしまったものだとシン中尉は頭を抱え――いや、そうじゃない!
たしかに、シャニーナ伍長との再会もうれしい。
でも、そうではないのだ。
最大の課題――『アムロわからせ』をどうするのか、ゴップ大将に相談するのを忘れていたのだ。
病室に入る前に、シン中尉は申し訳ないなぁと思いつつ、ゴップ大将から渡された秘密通信端末でコールする。
『――何かね』
「すみません、あの、アムロ君わからせの件なんですが」
さんざん嫌味は言われたが、機体を借りられることで決着がついた。
これは、ガノタの、ガノタによる、ガノタのための歴史改変チャレンジである(※あらすじより)。