シン/機動戦士ガンダム   作:すしさむらい

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ガノタの皆様に支えられて、各種お数字が良くなったようです。
この場を借りてお礼申し上げます。
皆様から頂くガノタ力(ぢから)ってのは、半端ねぇっすよ。

―寝て起きたら300お気に入り超えてた記念―

追記 誤字報告、本当にありがとうございました!


第七話 0080 ガンダム開発計画準備委員会

 

 UC0080年、いまだ連邦とジオンとの平和条約はなく、休戦協定状態が続いている。

 しかし、人々は少しずつ日常から戦争を忘れつつあった。

 

 さて、3月も半ばを過ぎてくると、南米特有の暑さが少しだけ和らいできたように思える。

 いや、もしかしたら単に不安感から解放されたからかもしれない。

 シン中尉は、教場の電子掲示板に自分の名前が載っていることをみて安心していた。

 もう教場には誰も残っていない。

 いや、シン中尉以外に一人残っていたか。

 

「シン中尉、三度目の追試でようやく合格か?」

 

 ブライト中尉がやれやれといった様子で、シン中尉に話しかけてきた。

 

「ブライト中尉と違って、自分は座学が苦手でね」

 

 シン中尉の中の人はガノタであるため、座学はガンダム世界の設定を深堀するメシウマ展開であり、学習意欲的には問題がなかった。

 しかし、である。

 シン中尉の中の人が知る世界よりも高度に発展しているのがガンダム世界。

 ゆえに、軍の中級幹部課程を履修するに求められる基礎的な学力の要求水準がかなり高く、苦戦したのだ。

 そもそも、シン中尉の中の人が知るミノフスキー物理学はあくまで『設定』であった。

 一方、ここで求められるのは、学会の学術的批判に耐えうる『ミノフスキー物理学』一般理論を理解して試験に解答できるレベルである。

 優秀な頭脳を持つガノタであれば1日で習得できるのかもしれないが、シン中尉の中の人はそれなりの時間を要してしまい、結構な頻度で座学試験に落ちていた。

 

「いや、シン中尉の経歴は聞いている。むしろよく努力しているほうだと俺は感心している」

 

 中級幹部課程で同期になったブライト中尉とシン中尉は、それなりに良好な関係を構築できていた。

 親友、とまではいかないが、年が近く、ともに一年戦争の最前線を生き抜いた士官ということで、課業後に呑みに行ける程度の関係にはなった。

 中級幹部課程の主流を占める、事務方出身や司令部勤務出身者とは二人とも馬が合わないだけでもあり、はぐれ者どうしの慰めあいでしかないのかもしれないが。

 

「これでようやく指揮演習に集中できるよ」

 

 中級幹部課程では、大尉になるために把握しておくべき最低限の戦術・戦技のみならず、将来を見据えた佐官級の基礎素養を養うことも含まれている。

 特にシン中尉はゴップから厳しく言われていた。

 MS大隊指揮だけでなく、師団・旅団のMSコマンドポストに将来就く可能性がある以上、成績はさておいて、徹底的に頭を鍛えておけと言われている。

 

「シン中尉はMS大隊のBCP代行を星一号作戦でやり遂げたのだろう? ならここでの指揮演習は――息抜きだな」とブライト中尉。

 

 確かにブライト中尉のいうことは一理ある。

 彼もまた臨時飛行長としてワッケイン中佐が指揮を執るトロイホースに搭乗し、元WBパイロットたちを運用していたと聞いている。

 酒の席で聞いたが、あのアムロと揉めに揉めたらしい。

 間に立ってくれるリュウ・ホセイがいなかったらどうなっていたことやら。

 

「あぁ、そういえば明日か? アムロとケンカするらしいじゃないか」

 

 ブライトがにやにやしながら問いかけてくる。

 いったいどこからリークされたのかと思いきや、普通に明日の出欠予定データに『シン中尉、MS教導のため一日欠席』と記載されていた。

 誰を教導するとは書いていないが、ブライトのことだ――アムロから相談されたリュウ経由で知ったのかもしれない。

 

「俺も何度アムロのやつをガンダムから降ろそうと考えたか――だが、やつは調子に乗ってはいるが、腕はある。もしかしたらエスパーかもしれんと思わされる時もある」

 

 そして、ブライトがシン中尉の肩にぽんっ、と手を置く。

 

「シン中尉、貴様ならアムロにいい反省の機会を与えてやれるかもしれんな」

「ブライト中尉、まだあの件を根に持ってるのか」

 

 原作の迷シーンである、ブライトによるアムロ二度殴り事件である。

 酒の席で聞いた話だが、案の定アムロが搭乗を拒否。ブライトがぶん殴って出撃させることがあったらしい(原作では乗るもんか! となっていたが)。

 

「あいつはもう一皮むけるはずなんだ。いやな奴だが――期待はしている」

 

 コミュニケーションをとってみてわかったのだが、ブライトは本当に自分の部下を大事にする気質を持っている。もとより性格が真面目で繊細なのだろう。

 その繊細さがアムロとの対立を生んでいるような気もするが、シン中尉は何も言わないことにしておく。

 

「ブライト中尉、それを口に出してやれよ、アムロ君に。彼はまだ若いんだ。期待していると心を込めて言ってやれば、それだけで自信を持ってくれるぞ」

「――俺たちだってまだ若いよな?」

 

 そうだった。

 すっかりガノタおじさんのようなコメントをしてしまったシン中尉は焦る。

 

「うーん、若いかどうかは、この後にわかるんじゃないか? うまいスコッチをゴップ大将からもらったんだ。一緒にどうだ?」

 

 シン中尉のもとには、ゴップからあれこれと社交グッズが送られてくる。

 いくら軍隊とは言えども、人との関係の円滑さがなければ真の友好関係も忠誠も得られないことをゴップが熟知しているが故の、社交支援である。

 

「いいのか? よろこんでご相伴させていただく」

 

 その夜、ミライさんが妊娠したので結婚することになったとブライトに打ち明けられ、歓喜したシン中尉は高級スコッチを飲み干してしまった。

 

 

 

 南米の太陽がちょうど真上に来た頃、二体のMSが演習場に相対していた。

 一つは、グレー塗装のG3ガンダム。RX-78の三号機である。

 そしてもう一つは、ジム後期生産型である。ジャブローの自動工廠に在庫として積み上げられていたそれを、ゴップが回してくれたものである。

 

 足元には二人のパイロットが、演習前の顔合わせをしていた。

 演習の緊張感――いや、むしろ険悪感が出ていた。

 

 二人がこれから腕を競い合う演習地域は文字通り、密林の古戦場である。

 戦闘によって無残に切り倒された熱帯雨林と、踏み荒らされた泥濘地。

 そこらにザクやズゴックの残骸が転がっており、かつてジオンによるジャブロー襲撃が行われたことがわかる。

 

 戦場の雰囲気がシン中尉とアムロ少尉(昇進した)を飲み込んでいるのであろうか。

 否である。

 

 シン中尉の顔は青白く、あきらかに調子が悪そうだ。 

 強烈な頭痛と、吐き気に襲われていて、もはや生きる屍である。

 

「シン中尉、見損ないましたよ」

 

 アムロ・レイがシン中尉の様子をみて、吐き捨てるかのように言った。

 

「いや、これには事情が……」

 

 ガノタにとって、リアルにブライトからミライさん御懐妊の連絡を受けるなど、孫の誕生を喜ぶジジ様ババ様以上のアレである。

 祝杯が止まることがあろうか。

 

「もういいですよ。よく考えたら、お酒が入ってるくらいが本当に普通のパイロットなのかもしれませんし」

 

 普通かどうかは知らないが、シン中尉は不意に酒飲みながらMSに乗っていたミハイル・カミンスキー氏を思い出した。彼の最後はNT-1に撃たれてハチの巣だったが、この世界ではたのしく酒を飲みながら生き残っているのだろうか。

 

「ほら、そのジムに乗って下さい。ワンパンで仕留めますから」

「うぅ、すまない、すまない」

 

 そうして二人は互いにMSに乗り込んだ。

 演習計画通りの互いに後方にジャンプし、距離をとる。

 

『カウントダウンをしますよ。30秒で』

 

 アムロからの通信と同時に、シン中尉のコックピットにカウントダウンが表示される。

 想定は近接遭遇戦。

 ミノフスキー粒子下の地上戦で頻発する一般戦況である。

 

「うぅ……」

 

 シン中尉は、すでにヘルメットの中で吐いていた。

 戦う前から敗北しているようなものだ。

 

 3,2,1とカウントダウンが0になる。

 

 ジム後期生産型が申し訳程度にサイドステップを踏み、演習用に調整されたG3ガンダムのビームライフル照射を回避する。

 

『へぇ、よけるのか』

 

 シン中尉の筋肉と脊椎が勝手に回避動作を実行しただけであり、本人はほぼ意識を失っている状態だ。

 

 G3ガンダムは即座にジム後期生産型の動きに合わせて射線を変更する

 しかし、二射、三射ともにジムに回避される。

 そしてジム後期生産型の90㎜マシンガンからペイント弾がバースト射撃される(無論、これもシン中尉の体が勝手にやっているだけであり、いわば無意識のガノタの基礎力といえよう)。

 G3ガンダムはジムが嫌がらせのように正確にばらまいてくる弾丸から身をそらす。

 

『意外と精密じゃないか。すこしだけ見直したな。けど』

 

 G3ガンダムがジムの射撃を回避するために、素早く反復斜行を繰り返しながら接近。

 ジムが演習用に制限された出力のビームサーベルを抜こうとしたのを腕で抑え込む。

 そしてジムのコックピットにビームライフルを突き付けて――演習終了である。

 

『シン中尉、なかなかいい腕でしたよ。普通のパイロットがどの程度なのか、肌感覚で理解できました』

 

 アムロの満足げな声がシン中尉のコックピットに届く。

 が、シン中尉の返事はない。

 バイタルこそ正常だが、意識はないのだ。

 これもすべて、ブライトが悪い。

 

『あれ、中尉? そっか、気絶させちゃったのか』

 

 アムロの申し訳なさそうな声が響いた。

 

 その日以来、シン中尉のMS操縦技術は大したことはない、という噂がジャブロー内に広まった。

 もちろん後日、シン中尉はゴップ大将に呼びだされた。

気合の入った平手打ちを食らったシン中尉は、すっかり意気消沈してしまった。

 

 

 

 

 

 UC0080、8月末、シン中尉は中級幹部課程を下から数えたほうが早い成績で修了し、同時に大尉に昇進した。

 式典を終え、さてゴップ大将に報告に行くかと駐車場を歩いていると、ブライトに呼び止められた。

 

「おいおい、挨拶もなしか? シン大尉」

「――あのな、ブライト大尉。あんたはエリートなんだから、自分なんかと一緒にいるところを見られるとよくないぞ」

 

 いわゆる修了席次は雲泥の差だ。ブライトは首席とはいかないが、両手で数えられる順位ではある。

 一方のシン大尉は、墜落寸前の順位だ。

 

「下らん連中のことは気にするな。貴様が本物の兵士だということは、俺が一番知っているつもりだ。アムロにやられたがな」

 

 すっかり飲み友達と化したブライトが冷やかしてくる。

 彼の襟元をみると、大尉の真新しい階級章がきらりと光っている。

 

「お前のせいだろうが……あ、そういえばお子さん、もうすぐなんだって?」

「ああ。俺はしばらく産前産後休暇を取ることにしたよ。落ち着いたら、結婚式をするんだが――貴様も来てくれるか?」

「喜んで。会場でアムロ君に絡まれながら祝杯を挙げてやるよ」

「いやぁ、あの件は正直すまなかった」

 

 ははは、と二人で笑っていると、駐車場に一台のジープがやってきた。

 武装した兵士が二名。よく見知った、ゴップの子飼いたちだ。

 ブライトが察してくれたらしく、シン大尉に別れの言葉をかける。

 

「……結婚式、必ず来いよ」

「ああ。結婚式、楽しみにしているよ」

 

 別れをつげて、シン大尉は、ゴップ大将によって差し向けられたジープにおとなしく拉致された。

 

 

 

 シン大尉はゴップ大将が勤務する統合参謀本部中央庁舎に降ろされ、警備兵に案内されるまま執務室へと通された。

 

「シン大尉、入ります」と入室する。

 

 ゴップ大将が端末に何かを打ち込んでいる作業をしながら、そこの書類を読め、と指示してきた。

 シン大尉は言われるままにソファに腰を下ろし、書類を手にする。

 

「……ラプラスの箱か」

 

 書類には、ビスト財団が保有するラプラスの箱にまつわる金周りの詳細な記録と、関連団体がいかほどあるかの調査報告が記載されていた。

 

 初代地球連邦政府首相が希望を込めて作った、本物の連邦憲章。

 それをダシにして連邦政府やアナハイム・エレクトロニクスとずぶずぶの関係を作り出してたビスト財団だが、財団の本当の狙いは時期を見計らった箱の解放だ――というのがガノタ界隈での常識である。

 この辺りはガノタにおける義務教育レベルの知見なので、シン大尉はすぐに書類の重要性を認識した。

 

「目を通したかね」

 

 執務を中断したらしいゴップ大将が、シン大尉の向かいのソファに腰を下ろす。

 

「はい。現時点ではかわいいものですね」

 

 復興事業まわりの土建業利権や物資納入利権に食い込んで小銭をためているだけで、いまだ箱の解放を企図した動きを読み取れるような金の動きはなかった。

 

「理解はしているようだねぇ。さて、本題だ。政治状況が正史と異なり、ザビ家が存続し、連邦政府と対立しうる双頭の権力構造になっているのが今の人類だ。この状況でラプラスの箱はどう使われるかね?」

 

 政治センスを持ち合わせるガノタならピンとくる質問なのだろう。

 しかし、シン大尉はもとより政治とは縁遠い。むしろ政治にこき使われる側の人間として経験を積んでしまっていた。

 

「ビスト財団がジオン公国に大義ありと判断して、早期にラプラスの箱を移譲してしまう可能性を思慮します。そうなればジオンはラプラスの箱を大義に掲げ、再度連邦政府に挑戦する名分を得ます」

 

 シン大尉の、いかにも杓子定規な解答に、ゴップ大将はまだまだだな、と首を振る。

 

「シン大尉、君はつくづく政治家に向かんな。いいかね、君が考える方向でのラプラスの箱の価値は『すでに失われた』のだよ」

「は?」

「ラプラスの箱がパワーゲーム上で価値を発揮するのは、地球連邦政府のみが統治機構として人類を支配した時だけだ。現在の人類がジオンと連邦、双頭の権力を奉戴している以上、人類は『選択』できるのだよ」

「たしかに」

「ジオン公国が掲げる宇宙移民とニュータイプによる新たなる統治機構と、地球連邦政府が掲げる民主主義に基づく公正な統治のいずれかをね。まぁ、両勢力ともに一枚岩とはいえんが。いずれにせよ、ラプラスの箱の開示は連邦政府の首相が交代する程度のスキャンダルに終わる程度の代物に成り下がる。歴史的にみれば、もはや無価値だ」

 

 ゴップ大将に諭されて、ようやくシン大尉はラプラスの箱のポジションを理解した。

 

「選ぶ選択肢がない時に、選択肢を提示することは権力の新たな脈動を生むが、いまはそうではない。こういう状況にもかかわらず、なぜビスト財団が連邦政府の各事業に根を巡らすことができるか、わかるかね?」

「――さっぱりですね。降参です」

 

 まったく、とゴップ大将があきれかえる。

 

「いいかね、レビルが動いている。本来の連邦憲章を大義名分とした、連邦政府そのものの改革を狙ってね」

「は?」

 

 素っ頓狂な声しか出せないシン大尉。

 

「レビルが、先の大戦を招いたにもかかわらず変わろうとしない連邦政府を内側から改めよう、などと考えているのだよ。バカな考えはやめろと説得したが、奴は聞く耳を持たん。優秀な奴が下手な理想に燃えるとこうなる」

 

 シン大尉はしばし考えこむ。

 

「閣下、その、レビル大将のお考え自体は、悪い考えには思えないのですが?」

「彼はその秘密結社をエゥーゴと名付けたそうだ――」

 

 ティターンズの誕生に対するアンチテーゼとしてエゥーゴが生まれると原作知識を持っていたシン大尉だが、まさかレビル将軍首魁でエゥーゴが生まれるなど予想もしていなかった。

 

「エゥーゴですか。穏やかではないですね」

「完全に傍観者のような口ぶりだな。仕方ないやつだ……」

 

 と言いながらも、ゴップ大将が政治状況を解説をしてくれた。

 

 曰く、レビル派エゥーゴは、いまの連邦軍や連邦政府に不満を持っている官僚や軍人、財界関係者や学識経験者を集めているところらしい。

 そして、自らの派閥に文字通りの『力』を持たせるべく、一つのプランを連邦政府に提出したらしい。

 

 ゴップ大将から資料が放り投げられる。

 あわてて拾いあげてそれを確認する。

 内容は――ガンダム開発計画準備委員会設立であった。

 

「これは……」

 

 コーウェン中将が指揮をとるガンダム開発計画の根回しプロジェクトであった。このガンダム開発計画準備委員会が、アナハイム・エレクトロニクス社のクラブ・ワークスとタッグを組み、GPシリーズを開発。

 これがのちに0083におけるデラーズ紛争とつながっていくのが正史の話だ。

 ただ、現状アナハイムはジオニックを吸収できていないので、どんなMSが仕上がるのかガノタとしては気になった。

 

 プランのドキュメントを斜め読みしてみると、原作通り、最強のガンダムというのを作り上げるプランであった。

 

 アムロ・レイがグラナダ方面で戦果を挙げたG3ガンダムの直系コンセプトとしてのGP01、戦略レベルの影響をMS一機で実現することを志向したGP02、そしてMSと火力コンテナの有機的連携による戦場支配についての概念実証機たるGP03及びオーキス。

 

 これらを開発し、レビル派エゥーゴはMSの運用ドクトリンと開発技術の両方を次世代へと更新する腹積もりらしい。

 

「困ったものだ。レビルもコーウェンも都合のいい話に振り回されおって。ガンダム開発計画の外部委託は試算上、政府直轄事業よりコストパフォーマンスに優れるなどと議会の予算委員会でほざいて、議員どもを煽る姿はまさに道化だったよ。ダシに使われる私の気持ちはわかるかね?」

 

 ゴップ大将がシン大尉にぼやいた。

 ゴップ大将が苦労して作り上げてきた、ジム系MSの大量生産を可能とする自動工廠及びそのサプライチェーンを、レビルたちは猛然と批判したそうだ。

 

 信じられないほど安価に量産できるジムというコンセプトを真っ向から否定。

 この大量生産/大量損耗の物量戦略が原因で数多の連邦兵が死んだのだ、と。

 連邦軍のMS戦略そのものが誤っていたがゆえに、此度の敗戦を迎えたのだと猛烈に批判演説をかまされてしまったらしい。

 

 そして、本来のV作戦通りの性能を発揮する高性能MSであればどうなるのか、と。

 壮大なファンファーレとともに、それなりの演出が入った動画が予算委員会の巨大スクリーンに映し出されたらしい。

 G3ガンダムの性能証明ムービーはなかなかの出来で、ゴップ大将もガノタとして大変感銘を受けたらしい。

 そして、そのムービーの主役を張っていたのがグラナダ方面でのアムロ・レイが行ったガンダム無双だったそうだ。

 

 しかも、である。

 とどめに、先ごろのシンとの戦いのデータを提出してきたそうだ。

 

「連邦の最前線を支えたエースを、16歳の少年がこのように易々と打ち破れるのです! とコーウェン少将の勝ち誇った顔を、貴様に見せてやりたかったよ」

 

 ゴップ大将はストレスのせいか、わなわなと震えている。

 

「さすが元ガノタアイドル、コーウェン少将の形態模写が完璧すぎますね」

 

 ブチ切れたゴップ大将からインク瓶が飛んできたので、慌ててキャッチしておく。

 よけたら瓶が割れて、掃除の兵士がかわいそうだからだ。

 手が、すごく、いたいです……。

 

 しかし、さすがはゴップ大将。

 ゆっくりと深呼吸をして、怒りをお鎮めになられた。

 

「レビルも、コーウェンも政治におけるマネーゲームを全く理解していない――ビスト財団が巡らせた政府系復興事業の裏資金源、MS開発/生産利権を独占獲得したいアナハイム社と月面経済界による政治工作資金が突っ込まれているからこそ、ガンダム開発計画の外部委託がこの予算となることをわかっていないのだ。もし分かっていてプランをぶち上げようとしているのであれば、奴らは文字通り連邦政府に対する反逆者だ」

 

 ゴップ大将が深いため息をついた。

 そして、じろりとシン大尉をみる。

 

「シン大尉、君の仕事はこのガンダム開発計画を頓挫させることだ」

「それは……もしかしてガンダムのテストパイロットをやって、意図的に性能評価を貶めたりすればいいのですか?」

 

 ついにガンダムに乗れるかもしれない、とシン大尉はワクワクしてしまう。

ガノタという生き物は『ガンダム』という機体に執着しているのだ。

 

「……違う、バカ者、逆だ、逆。君はアグレッサー側だよ。手を加えたジムを渡す。ガンダム開発計画準備委員会が概念実証機として提出するGP00を沈めたまえ。ジムに勝てないガンダムを作り出してしまった形にして、計画を終わらせる」

 

 シン大尉はしばし天井をみつめる。

 そして、テーブルにおいてあるコーヒーのマグをとり、合成コーヒーをすする。

 ふいに立ち上がり、何度かその場でスクワットを行い始めた。

 挙句には逆立ちをして部屋を腕で歩き回る(?)奇行までやらかした。

 

「君は、何をしておるのかね?」

 

 ゴップ大将が怪訝なまなざしでシン大尉の奇行を見ていた。

 

「――はい、受け入れました。ガンダムに乗れない、という事実を、なんとか受け入れました」

 

 シン大尉はふぅ、と大きく息を吸って、吐いた。

 いかんせん、ガンダムに乗れないとなると少々冷静さを欠いてしまうからだ。

 

「まったく……とにかく、必ず仕留めろ」

 

 ゴップ大将がはぁ、とため息をついた。

 

「はい。あ、ですが、こう、たまたまなんかガンダムに乗り込まざるを得ないような感じのシチュエーションの時は――」

 

 ガンダム伝統の、緊急事態ゆえに成り行き上ガンダム乗るシナリオを想起する。

 異世界転生なり憑依に備えているガノタならば一万と二千回以上妄想ないしシミュレートしているシナリオである。

 

「ならん。もし一瞬でもガンダムに乗ってみろ。シャニーナ君は死に、貴様も海に沈める」

「そんなご無体な……」

「あたしだってガンダムに乗れてないのに、なんであんただけ乗れんのよ?」

 

 ゴップ大将の中の人が、ゴップを演じ切るのを忘れて、笑顔で最悪のアンサーをかましてきた。ガノタの嫉妬ほど恐ろしいものはない。

シン大尉は絶対に乗らないでおこうと心に決めた。

 

 

 

 

 ゴップ大将と胃が痛くなる会談を終えたシン大尉は、偵察用バイクを拝借してジャブロー軍官学校に向かった。

 士官候補生たちの課業はすでに終わっており、明日の課業に向けた準備時間であった。

 シン大尉は受付でシャニーナ士官候補生を呼び出してもらう。

 

「隊長! わざわざ来ていただいてありがとうございます」

 

 シャニーナ士官候補生は、シン大尉同様の士官服をまとっていた。ただし、階級章だけは士官候補生のそれだ。

 

「シャニーナ士官候補生、今の自分は君の隊長ではないよ」

「隊長は隊長ですよ。あ、幹部中級課程の修了おめでとうございます」

「ありがとう。学校はどうだ?」

 

 ロビーに座りながら話を聞く。

 彼女がMS競技会で優勝した動画や、徒歩行軍演習でくたばっている記録を見せてもらった。

 

「なんとか溶け込んでいるようだな。同期とはうまくやっているか?」

「あんまり……ですね。みんな幼い感じがします。ムーア同胞団でも、隊長の下にいたときも、いつだって殺し合いでした。でもここでは、戦争をお勉強してる感じがするんです。おままごとっていうのは言い過ぎかもしれませんけれど。あ、でも一般教養は好きです。自然科学一般とか、人文科学一般みたいなのです」

 

 文学作品でこれが面白かっただとか、ミノフスキー理論の実験に驚いたとか、そういった話をしていると、シャニーナが日々いろいろな知識を学び、成長しているのだと感心した。

 

「それで、隊長はどうなんですか?」

「ちょっとした任務がある。しばらくは会いに来れないな」

「そう、ですか」

 

 シャニーナがうつむいてしまう。

 

「しばらく、ってどれくらいですか?」

「今みたいに月一で来るのは無理だ」

「夏休暇は――帰ってこられるのですよね?」

 

 ジャブローの夏は11月から始まる。軍官学校の長期休暇は12月半ばから1月半ばというのが慣例だ。

 

「その頃には一度休暇をとって戻ってくるよ。MS戦の指導もしてやりたいし。閣下に頼めば演習機と場所くらい用意していただけるだろう」

「はい、ぜひお願いします。わたし、お会いできるその日まで我慢しますから」

 

 そんなにMS戦の指導を受けたいのかと思うと、胸が熱くなった。

 シャニーナには自分のもっているすべての操縦技術を伝えねばなるまい、とシン大尉は勝手に心に誓った。

 




政治の季節はあと数話で終わらせて、0083にいきたいでござる。
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