藤丸理代は白昼夢をみる。
「……私は、死んだはず」
ゴルゴダの丘を登り、十字架に貼り付けられて処刑されたはず。
私が人々の原罪を背負い殉教する事で神の教えが広がる……はずだ。
「ええ、あなたは死にましたよ……表向きは」
「ユダ」
私の弟子……いや弟子の体裁で私に近づいた導き手、洗礼者ヨハネ(ヨナカーン)のように。
ヨハネは私に洗礼し、ユダが教団の運営・会計に携わり、そして神の子として、私の最期の旅路の舗装を行った。
ヨハネは、ヘロディアの娘のサロメが彼の斬首を望み、実行された。
私もその後を追うだろうと覚悟した……したはずだった。
「もういいでしょう」
「もういいとは?」
「我が師よ、生まれながらの
人々はあの処刑で死んだと認識された……故に貴方の役割を終えた。
神の子でなく、ただのイエスとして生きていいはずだ」
「ユダよ、それは」
「貴方の苦悩……迷いながらも使命を全うした生き様は神と人理に捧げられた。
働きには報いを与えなければならない……そうでないと『俺』が納得しない」
今まで感情を見せなかった弟子が初めて熱い思いを私に告げた。
私を突き動かしていた信仰の心が薄れている。
いままでできていた奇跡も半分程度しか出せないのを感じた。
「師よ、もはやこの地いやローマの威光が届く場所で生きる事は困難。
故に威光の届かぬ海を超えた大地へ行ってもらいます。
教えはこの地へ置いていただく」
「……ユダよ、弟子達に最後に会っておきたい」
「自分は反対です」
私が懇願するように彼を見る。
ユダは溜息をついた。
「……一度だけです。
追って来れないように
「ユダよ、お前なき後で教団は……」
私は弟子達に教えを解いた。
彼らは純朴であった……ユダのような知識や誰かに教えを授ける力は欠けていた。
その懸念を言うと、
「……ローマ市民権を持ったベニヤミン族(ユダヤ人)のファリサイ派のラビの元で学んでいるパウロという男がいます。我々の教えを弾圧する派閥ですが、今は『貴方の父親』が彼の目を鱗を生やして目を塞いでいます。
貴方の手で鱗を落とし、彼に叡智を授ければいいでしょう。
あとは万事彼らがうまくやる事でしょう」
「お前はどうする?」
「のうのうとこの辺で生きていたら目障りでしょう?貴方についていきますよ。
海を超えないといけないんです、案内できるのは自分だけですし」
私は弟子やマルタ達に最後の別れをし、パウロの目を開かせた。
ユダの手引きに西の海からそのまま進んで行った。
私とユダ以外にもローマに反抗していた人間もいた。
皆、西の海を進み続けることに不安を感じていたが……ギリシャ生まれの学者は 『この大地が平面でなく丸い』と説明し始める。*1
その説明を受けて世界の果てにいって落ちる事はないと一先ずの納得を皆がした。
私は今まで見たことのない地への旅に大きな不安ち大きな冒険心が沸いていた。
ローマは、東に長い陸の道を進んで東の果ての地(漢)へ絹を交換する商隊を派遣しているそうだ……西の海を進めば東の地に辿り着くのだろう。
私は、この船旅で樽に詰めた水をワインに変え、無くならない様に増やしていったり、パンや魚を増やしていくことで飢えや渇きを凌いだ。
大きな波や嵐は、私が鎮めていき、船旅の退屈さはユダの話で紛らわせた。
船旅の終わりに島に流れ着いた。
そこにいる人々は肌が赤銅の様な色で見たことのないものだった。
言葉もローマやその近隣のものとは異なっていた。
聖霊に働きかけ、互いの言葉を理解できるように働きかけた。*2
彼らは『カリブ族』といい、近くにはアラワク族と言う人々がいるらしい*3
私達は、安住の地を見つけたのだった。
この地は、神の教えはなく、自然や祖霊や精霊を祀っている。
「この地の人々は慎ましい。それでいて独特な考えだ」
「ええ、ローマは物が豊かだったが……必ずしも幸福ではなかった。
この地は物の豊かさより、精神の豊かさを重点においている。
だから節度をもっているし、『足りる』を知っているのでしょう」
自然との調和、伝統や文化の継承、世界の流れ(宇宙や自然のサイクル、目に見えない力)を重視している。
私達のユダヤの民はエルサレムがローマ帝国に滅ぼされ、方々へ散っていった。
ユダ以外の弟子達は、私にダビデ王のようになりエルサレムを取り戻す事を望んでいたが……。
確かにこの放浪は苦しみで満ちており、恐らく100年、1000年と永きにわたるであろう……。
我らが『剪定』されぬ為、例えエルサレムに王国を再び作れなかったとしても神の教えを優先した。
故にカリブの民のような満ち足りた日々を送れた事はない。
……この地の日々は自然と向き合う過酷な日々であったと同時に心が穏やかに過ごせた。
素晴らしい日々だった……ユダヤの民、そして神の教えを受けた人々もこのような幸福が訪れることを祈りながら生涯を終えた。
私は『座』というものに辿り着いた。
私の死後観察する事ができた。
パウロはより多くの人々へ教えを授けた……私の神の子としての人生は受け継がれた、無駄ではなかった。
その時の私はそう思っていた。
「神がそれを望まれる(Deus Vult)!」
神の名を元に争いが始まった……十字軍というらしい。
神の名を元にエルサレムを奪還する動き……との事だが、ユダヤの民が虐殺を受けた。
十字軍の遠征先で虐殺、暴行、強盗が起こっていた。
モーゼの十戒の教えはどうなったというのだ?*4
徐々に腐敗していき、金を積めば罪は許されるとまで言い出す始末。
その腐敗を正す為に教団は割れた。
古き方もそれに反省したのはいい。
だが……その教えを押し付け、もともとあった教えを否定していく。
かつて我々がされた仕打ちをそのまま行ったのだ。
そして、私たちが新たに築いた安住の地にも魔の手が伸びた。
歯茎を大きく見せて欲望に満ちた笑みを浮かべる男*5が船から降りる。
「いいぜいいぜ……!
船員達を宥めすかせて船を走らせた甲斐があるってもんだぜ!!
ハッハァッ!辿り着いたぜェ!信念と夢の果て、お宝だらけの新天地によォ!
野郎ども!錨を降ろせェ!……ふっふ、ふっはっはっは!ふっはっはっはっはっはァ!」
「船長!」
「船長!」
「船長!」
「さぁお待ちかねの奴隷狩りだああああ!!
食い物、黄金、男に女ァ!」
やめろ……やめてくれ!!
私や仲間達の末裔も、皆捕まり奴隷にされて使い潰される。
東から多くの船がやってくる。
私の父に感謝の祈りをしながら蹂躙していく。
彼らの先祖から受け継がれた教え穢され、その土地も奪われていく。
神の子としての私なら父の教えを広まり、『剪定』を免れるから良しとするのだろうか?
だが……ただの『ハリス』として生きた私には……やりきれなさ、虚しさが満ちる。
ユダが汚名を背負いながら私の生命を救った意味はあったのか?
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ある日、人理は燃え尽きた。
誰が、何故その様にしたかを把握した。
私は、その所業をした者を裁かない。
神の子の私であれば自分の行う領分でない故に。
故に人理焼却にもそれに抗うカルデアにも肩入れをしないつもりであった。
だが……我が弟子・ユダがそれに抗うのであればその助けくらいはしたいと思う。
だからなのだろう。
彼をサーヴァントとして使役する少女が魔術王を名乗る獣の呪いを受けた時に召喚された……。
彼女に降りかかるであろう悪性情報の浄化やユダがいなくなった後でも自分の足で立てる様にする程度には肩入れをしよう……我が弟子にはそれだけの恩があるのだから。
あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない。
主の日を心にとどめ、これを聖とせよ。
あなたの父母を敬え。
殺してはならない。
姦淫してはならない。
盗んではならない。
隣人に関して偽証してはならない。
隣人の妻を欲してはならない。
隣人の財産を欲してはならない。
昼行灯の次に鑑定屋の世界に行くコテハンは……
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ピーコックニキ
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エンマニンジャ
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野良勇者
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史上最強の大工
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Zさん