「歓喜天……まったく厄介な秘仏に手を出した物だ」
スミスが説明し始める。
ナンディケーシュヴァラ、歓喜自在天とも言われ、仏教の守護神である天部の一つである。
ヒンドゥー教のガネーシャに相当する尊格で、ガネーシャと同様に象の頭を持つ。
象頭人身の単身像と立像で抱擁している象頭人身の双身像の2つの姿の形像が多いが、多くは厨子などに安置され、秘仏として扱われており一般に公開されることは少ない。稀に人頭人身の形像も見られる。
欲望を抑えきれない類の衆生に対して、まずは願望を成就させてあげることで心を静めさせて仏法へ心を向かわせる役割を持つ。
験をえれば、商売繁盛、金運向上、男女和合、勝負事の勝利などが可能であり、また敵を呪い殺す法さえ記されている。
「ご利益与えるから入信しろってことか?」
「正しい手順で式を打てば利益は入るよ……欲を満たして更に欲の沼に浸かるバカには助け船出すかは出さないよねって話だ。
しくじればその代償を支払う羽目になる、それ故にプロの術師は使わない。
悪意を持って用いれば歓喜天は見捨てるし眷属が落とし前をつける場合もあるからな。
大掛かりに引っ掻き回せば自分に返ってくる場合はあるからな、よく言うだろ『人を呪えば穴二つ』。
そういう認知が働く。歓喜天が後ろ盾があるうちはバックファイアを受けないが見捨てられたら自滅するわけだ」
歓喜天に対して『願掛け・断ち物』は絶対にご法度だ。(願掛け断ち物とは『〇〇する代わりに〇〇します』の類の、一言でいえば契約類似の行為)
歓喜天は約束を破れば罰を下す神だが、上記の2つをして破ると一般信者でも遠慮なく罰を下す。
従って、願掛け等をしたい場合は細心の注意を持って専門の僧侶に相談する必要がある(※まともな坊主は薦めるわけがない)。
含光記『毘那夜迦誐那鉢底瑜伽悉地品秘要』では、器に非ざる者には妄りに伝授してはならず、器に撰ばれざる人物は障難が有り、智者は迦誐那鉢底の法を修めて速やかに悉地を得ると説かれている。
「悪気がなくてお供物間違えたとか水こぼしたとかなら素直に謝れば問題ないが……まぁ人間同士でも悪気なく失敗したやつを死ぬまで追い詰める真似は真っ当な度量を持つやつはしないだろ?
適当に利用してやると舐めてかかればメンツをかけて落とし前をつけると思いたまえ」
「極道の世界と通じる部分があるっすね」
(※武士だろうとヤクザだろうと宗教だろうとメンツが大事)
なお、修法は複数ある。
浴油供……油で歓喜天を沐浴させる。銅器に清浄な油を入れて人肌レベルまで暖めて、その油を柄杓などで汲んで、歓喜天の像に油を注ぐ。108回を1セットで1日に7回行う。
華水供……浴油供に対する供養法。初夜(午後6時~10時)の供養法。天部の諸尊は、午後には食を摂らないので、飲食物を供えずに、寅の刻(午前2時~4時)に汲んだ水を意味する、井華水を閼伽香水(あかこうずい)として供える。もしくは、その水に花を浮かべて供え、供養する。なお、古来、寅の刻に汲んだ水は水量が盛んで、水に虫が湧いていないといわれ、極めて清浄な水であるため、諸仏諸尊に供する水として最適であるとされている。
酒供…… 酒器に酒をいれて歓喜天に供えることを言う=酒器に(香酒)を入れて歓喜天に供えて息災を祈る法。
水歓喜天供……歓喜天の障疑をこうむり、修法が成就しない際、または障疑を被らぬよう定期的にこの法を行うことがある。香水を十一面観音の像に掛けたあと、その香水を男天で単身六背の歓喜天の像にかける。障疑を起こすビナヤキャをなだめ、供養する法でもある。また聖天行者、信者はかならず聖天に対しての勤行、修法の際に軍茶利明王、十一面観音の真言を唱えることが必須である。
「こういう修法を使うのに問題がある。
『そもそも正しいのか』という問題がある。
口伝だと伝言ゲーム失敗する危険もあるし文面でも伝わり切れない部分もあるだろう。
武術なり刀鍛冶と違って検証やら稽古を気軽にやれないのもあるしな。
百歩譲って正確だとしても、だ。
『それを正確に実行しなければならない』。
儀式ってのは星の位置やら風水やら手順やらマグネタイトの注ぎ方やら注意しなければならない。
それを毎回毎回やるのは困難だ……。
まぁ魔力(MAG)さえあるなら素人でもできる手段はあるが」
「ほう……そんな手段は聞いたことがないぞ。
貴様、言ってみろ」
神社仏閣を見にいくのが趣味であるエヴァンジェリンは、興味深い様子でスミスに尋ねる。
「再現性があれば安定して儀式ができます。
ならば機械に儀式のデータを記録して必要な時に出力すれば簡単に再現できますよ」
「そんなこと、出来るわけがないだろう」
「ウチの氏神の中島君はフロッピー一枚に悪魔召喚の儀式を纏めたプログラムを作成して古今東西の悪魔を使役していましたよ。
機械に代行させる事で悪魔を従わせられる力量があれば数体まとめて動かせますし」
悪魔召喚プログラムを作り出した中島朱実やスティーブンは鬼才であった。
「近衛木乃香嬢は、歓喜天の内容は知らずとも直感的にまずい状況なのを察知したんだろう……この手の道での天分の才を持っているようだ。
それが幸福かどうかは傍に置くが。
……歓喜天の勘気に触れないようにするには十一面観音を持ち出すのが丸いんだが。
穏便に出せない!
悪魔の使役はどうにかなるが、目的の奴をピンポイントで呼ぶスキルはない。
一番確実なのは孔雀(ピーコックニキ)を呼べればいいが、生憎、クルージング船の除霊の仕事中でジャックとローズのお守りに忙しいだろう」
「ジャックにローズ……どこかで聞いた事が……」
「普段は孔雀は東京ボンデージに在籍しているんだが、今回は蒲田エクソシズムのバカップルと合同で仕事をしていて……。
今回のバカップルのテーマは『タイタニック』でな主人公とヒロインなりきって船の船首で両手を広げるヒロイン背後で抱きしめる名シーンをやっていたが……」
「「「ああ!」」」(※タイタニックが1997年に放映)
「とりあえず、本人の様子を見ない事には対策は取れないな」
「さっちゃん一人に行かせるのは……」(※ヨンヒ?今おねショタで忙しい)
「護衛をつければいいよ。
それくらいは出来るよね、スミス?」
昼行灯の次に鑑定屋の世界に行くコテハンは……
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ピーコックニキ
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野良勇者
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史上最強の大工
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Zさん