「皇帝、ですか」
「ええ」
ヴィクトールの孫娘であるリン。
彼女は文武両道の才媛である。
男子勝りの筋力で大剣の達人である。*1
面談前も大剣『ムーンライト』を振り回して稽古をしていた。
「誉ですね。私の祖父も大祖父レオンから伝承法で受け継ぎましたし。
例え選ばれなくとも陛下の剣として戦っていく所存です」
シゲンは最初以外は一言も発せずリンの話を聞いた。
リンが退出した後、文官はジェラール2世を読んだのだが……
「おや、サボりですか」
「それではリン様が皇帝に?」
「いえ、彼のいる場所は見当がついています」
シゲンが向かったのはアバロンの城下町。
子供達に竪琴を使った歌を披露する美丈夫……ジェラールの孫であるジェラール2世がいた。*2
背中に大剣『デイブレード』を差している。
「いい歌ですね」
「陛下……」
「何故、君は竪琴を手に取るのです?」
「昔から好きなんです」
「ですが、今は剣が必要な時代ですよ」
「もちろん、誰かが傷つくなら私は剣を取ります。
ですが戦いが終われば竪琴を取りたい…」
「なるほど……キミの話はわかりました。
失礼します……『また』」
シゲンは話を終えると城に戻って行った。
選定会議を開き、シゲンは……
「次の皇帝は……ジェラール2世とします」
周りから理由を聞かれて、シゲンはこう答えた。
「皇帝の力は絶大です。
クジンシー殿から聞いて次でカタをつけようと考えています。
堕ちた七英雄(クジンシーは除く)を倒した後、強大な力を持った皇帝が残ります。
七英雄を勝る存在……統治形態がそのまま行くと……皇帝が七英雄の再来となり過ちを繰り返す危険があります。
私が皇帝になる前から『皇帝の力が必要ない』バレンヌ帝国をどうしていくかを考え、その計画は進んでいます。
力にも皇帝の座に興味のないジェラール2世こそが最後の皇帝に相応しいでしょう」
シゲンは再びジェラール2世の元を訪ね、皇帝に指名した。
その時こう言い放った。
「ジェラール2世、クジンシー殿は言っていました。
『これ以上の伝承法はできない』と。
故に貴方が帝国最後の皇帝になります。
討ち死になどせぬようゆめゆめ警戒を怠らないように」
実際の所は、知識経験は伝承はできる。
だが長く受け継げ続けると人生経験以上に戦いの記憶が注がれれば、皇帝の人格形成の多大な、いや致命的な影響を受ける危険度が増す。
七英雄を殺すためだけの戦闘マシンになり、人の心もわからぬ存在になるのではという危惧はまちがってはいないからだ。
だから敢えて『伝承できない』とクジンシーは告げた。
大急ぎで戴冠式の準備をしている。
「これは陛下、ご機嫌麗しゅう」
「リン、心にもないことは言わないでくれ、アウもだ」
「皇帝命令では仕方ないな」
ジェラール2世とリンとは幼馴染で血族であったので仲はいい。
サラマンダーのアウはコムルーン島からアバロンまで旅して帝国大学に入学してきた変わり者でジェラールは彼から外の事を聞いていた関係で仲がいい。
ジェラール2世は、自分が外征する際にリンとアウは同行してもらおうと考えており既に説得は完了している。
そしてクジンシーにも協力してもらおうと考えていた。
「しかし賑やかだな……サラマンダーの族長就任の宴はささやかなものだったが」
「この大陸の大半の領土は帝国領よ。
それなりの事が必要よ」
「ええ、アッシ達も地下都市の面々も今回は注目しているでござんす」
「クジンシー殿!」
クジンシーが新皇帝であるジェラール2世の元に赴く。
彼1人ではない……
「ご立派なチキンがあるし、綺麗なネーちゃんがイケてる踊りをしているぜ!」
「うわー綺麗ー」
「ハンゾウ、いい歳して品がないぞ、アイルもキョロキョロするな」
クジンシーの黒犬隊の仲間であるジウンノテ、アイル、ハンゾウも来ている。
アイルは相変わらずほんわかしている……下級市民出身故に豪奢な文化など実は体験していないのもあるが。
ハンゾウは忍者の前では立派な棟梁をしているが根はお調子者である。
ジウンノテは相変わらず真面目な体調気質は変わらない。
「でも彼女の体幹はしっかりしているし、いい筋肉をしているわ」
リンはエメラルドのような淡い緑の髪も踊り子の肉体を評価する……皇帝の家系なのに文化的コメントがないのは……。
ジェラール2世は踊り子の初めてなのに既知感のある踊りを美しいと感じた。
代わりにジェラール2世は評価していく。
「踊りの美しさ、曲との調和も取れている。
そして観客を惹きつける華がある」
「ありがとうございます、陛下」
「君のことは聞きたい」
ジェラールの真っ直ぐな言葉に驚く踊り子。
側から見ると二代前の失踪した皇帝のような言い回しになっている。
リンはジェラールを揶揄う。
「陛下、お手付き?」
「いや、基本バレンヌ地方から出ていない故に遠くの地方の話が聞きたいのだろう、俺が同じ言葉をかけられた」
「私はリコリスと申します。
先代皇帝のシゲン様に誘われて……」
オライオンが歴史から消えて長い年月が経った。
偶々、マーメイドに寄ったシゲンは素晴らしい踊り子がいるという話を聞き彼女から話を聞いて他の場所へ行きたいという願いを叶えてアバロンに招いていたのだ。
バンパイアレディはクジンシーのヒソヒソ話をする。
「いやぁ青春よね」
「言い方が年寄りめいているでござんす」
「シャラップ!で、どう思う?」
「どう、とは?」
「このあと事件が起こる!とか」
「大国の新皇帝就任式典で起こったらメンツは丸潰れでござんすよ、平穏になるようにインペリアルガードを始めとした帝国兵が死ぬ気で抑えるでござんしょう」
「わからないよー?
長い時を経て嫌われ者のクジンシーが復活して皇帝陛下の命を狙う!とか*3
我こそは皇帝レオンの血筋の正統後継者!とかなのる不審者が反乱を起こすとか*4
帝政反対!と拳銃で暗殺とか*5」
「アッシはそもそも死んでいやせんし、帝国歴4000年とかならともかくジェラールやヴィクトールはまだ生きてやすし、あの2人が隠し子なんてやれるタマじゃござんせん。
最後のは論外……」
『帝国主義侵略へ鉄槌を!」
来賓の1人が突然拳銃を取り出してジェラール2世へ発報しようとする!
銃声がなる。
「全く、お前がアホな事を言ったせいで現実になった……が解せない。
これだけの精度の拳銃は地下都市でしか管理していないはず。
武装商船団にマスケットは提供してやすが……」
クジンシーが反応して拳銃を取り出してテロリストの腕へ銃弾を叩き込む。
だがそれだけで終わらなかった。
複数の人間が襲いかかる……青い忍び装束をしたミスティック、神官のようなラーマなど人の心を失った存在が無数に襲撃してきたのだ。
「雲身払車剣!」
ジェラール2世がデイブレードを用いて大車輪のように旋回して纏めて切り裂いていく。
胴体ごと真っ二つになる敵もいるが……それでも来賓やジェラール2世を襲おうとするが……
「
「フライ・バイ!」
「怪我人はいやしまーす!」
「チキンは纏めて叩きにするぜ、錬気拳!だだだだだだ!」
「大車輪!」
「ガオオオ!食べちゃうぞー!ソウルフリーズ!」
「……」
少し気合いが入りすぎて訛ったリンが地面を掘るかのように武器を構えて、標的を下から斬り上げて両断する。
アウは小型斧(式典でデカい斧を装備するのはいかんだろうという忖度)の高速投擲で粉砕し、アイルが合成術レストレーションで怪我人の回復をし、ハンゾウは体術の冴えを見せる。
ジウンノテは槍を回転させて敵陣に突っ込んでいき、ヴァンパイアレディは魂を凍らせる術法で敵を倒し、あるいは拘束していき、クジンシーは無心で弓を放つ。
「動くな!」
ほかの帝国兵も奮戦し粗方敵を倒していったが……。
式典に参加していた子供を捕まえ顔にナイフを突きつけている。
「動くな!ガキの生命が惜しければ皇帝は自害しろ!」
「……」
「流石、薄汚い賊でござんすね」
「黙れ!我々は『女王様』に仕える崇高なる」
「ライトニングピアス!」
クジンシーがソウルスティールを叩き込み前に最速でテロリストの喉笛に細剣に突きをいれ掻き回す。
「が……」
「流石でござんすね」
「ありがとう、おねえちゃん!」
踊り子であるリコリスが悪漢を成敗したのだ。
仕事柄、無理矢理関係を迫る男が多い踊り子は自衛の為に鍛えているのだ。
「見事でした……私が不甲斐ないばかりに」
「陛下のせいではありませんよ。
悪いのは襲いかかった彼らですし。
しかし彼らは一体……」
「あー悪ぃ。
出来の悪い胡麻擦りチキンは抜け忍の奴らだわ。
ワグナスに鞍替えして好き勝手しようとした奴」
「あと、服装や訛り、そしてコイツらの上が『女王』……サラマットの女王の悪名がありやしてね……アバズレとワグナスが共同で帝国に喧嘩を売ってきたようで」
ハンゾウは、ジェラール2世に詫びるように頭を下げ,クジンシーはイライラを抑える為にキセルを取り出して火をつける。
ジェラール2世の波乱の幕開けであった。
昼行灯の次に鑑定屋の世界に行くコテハンは……
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ピーコックニキ
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エンマニンジャ
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史上最強の大工
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Zさん