私、後藤ひとりはバンドをやっている。
公園で虹夏ちゃんに声かけられて結束バンドに入ってリョウさんや喜多ちゃんとか色々な人と出会えて……最初はマンゴー仮面だったけど作詞だとかオーディションとか路上ライブを経て、少しは成長できた気がする。
た、たぶん……きっと……おそらく……めいびー。
そして今日は待ちに待ったライブの日!なんだけど……。
「こ、ここ……どこだろう……」
そう、私は見たこともない場所に来ていたのだった……。
辺りを見渡すとヨーロッパのような家々が並んでおりとてもじゃないが下北沢とは、そもそも現代日本だとは思えないような街並みである。
私が覚えている限りでは朝いつものようにジャージを着てギターを背負って台風が来ているらしいから傘を持って皆を盛り上げられるようなグッズを入れて家を出て電車に乗ってライブハウスに着いて……それから……
「お、覚えてない……」
いつの間にかここにいた。
……ど、どどどどどうしよう!?せっかくの初ライブ(マンゴー仮面でとか路上ライブはしたけど)なのに絶対ライブ遅刻するし今の状態じゃあライブに出られるかすら分からない!しかもここがどこだか分からないし! あ、人に聞いてみる?いやいや絶対そんなことできない!ここどこですか?なんて聞いたら絶対アホの子だと思われるぅ!そもそも知り合いに話しかけるのすら難しいのに全く知らない人に話しかけるのなんてぼっちの私にはむーーりーー!
い、いいい一旦落ち着こう。私は深呼吸をしてもう一度辺りを見渡す。うん、やっぱり知らない街だ。
「ひ、日差しが強い……!」
今になって気付いたがそもそも今日は台風が来ていて雨だった。なのにここはすごい晴れている。この時点でここが下北ではないということを実感する。
流石にこの日光の中で立ち尽くしていたらきついものがあるので私は目についた日陰にあるベンチに腰をかける。
「はぁ……ここからどうしよう」
重いため息を吐く。うんうんと頭を回転させてどうしたものかと考えてみたものの良い案が出てこない。とはいえぼーっとするのは良くない……気がする。色々頭の中に不安が駆け巡るがそんな不安をかき消すように私は背負っていたケースからギターを出す。
ライブ以前に帰り方すら分からない。
これからの人生をどうしていくのかも分からない。
お先真っ暗です〜♪
「作詞作曲私、『見知らぬ街より愛をこめて』」
そんな現実逃避をしていると……。
「ギターーーッッッ!!!」
「!!!!?」
どこかで聞いたことのあるような言葉が聞こえ、下を向いていた私はその声に驚きバッと顔を上げる。
声の主は少し遠くの方からこちらへ全速力で駆けてくる。狼狽える私の所までついたのに息をつくような素振りも見せないその人は赤みがかった金髪のセミロングで美しい紫の目をした、同年代くらいの女性だった。そしてその女性は私が手に持つギターを指差し
「さっきのギター上手だね!」
「うぇぇ!?そ、そんなこと……な、ないですよぉ」
「あっ!私の名前はココア!そこのラビットハウスっていう喫茶店でお手伝いしてるんだけど…」
ただでさえ情報処理のキャパシティを超えているのにいきなり知らない人に話しかけられて困惑する私に対してココアと名乗ったその女性は私の手を握る。
でもじょ、上手って言われたのは嬉しいな。
「あっ後藤ひとりです」
「ひとりちゃんだね!実は今楽器弾ける人を探してて!」
い、いきなり名前呼び……なんだかこの人少し虹夏ちゃんに似てる気がするな。
「私の妹のチノちゃんって娘がね!音楽会のソロパートに選ばれて歌を歌うことになったんだ!」
どこか誇らしげに私に告げ、そしてお願いをするように手を合わせる。
「それで歌の練習しようと思ったんだけど楽器が壊れちゃって……」
「あっはい」
「それで楽器を持ってる人いないかなーって探してたの!」
「あっはい」
「お願い!今日だけでいいから手伝ってくれないかな!」
「あっえっ……」
……い、いくら最近成長してレベルが上がったとはいえそんな……そんなこと……。
「あっ、や、やりましゅ……」
断れる勇気があるならコミュ症してない……。
「ありがとう!よろしくね!私のことはお姉ちゃんって呼んでね!」
「あっココアさん……」
流石に初対面の人をお姉ちゃんとは呼べない!
そうしてココアさんは私の手を引く。
「それじゃあラビットハウスへーれっつごー!」
「あっはい」
うぅ……コミュニケーションレベルは確実にレベルアップしてるのに断れない私が憎らしい。あっ……で、でも少しはこの街のことが分かるかもだしココアさんも困ってるようだったし……。
弱気になったらだめだ!路上ライブもちゃんと出来たしライブも……これからあるし!こんなところで怖気ついたら……だめだ!
と、とはいえ私……この知らない街でどうなるんだろう……。