路上ライブに向けてのギターを練習する私。うん、形にはなったかな。そこまで難しい曲ではなかったから、良かった。
「そ、そういえば、路上ライブの機材は……」
「あぁそれならうちに機材があるから持ってきてもらうよ」
「そ、そうですか。良かったです」
機材がなかったら何もできなかったので助かった。ここはいつもとは別の場所だから頭から抜けてたな。
「配ってきたよー」「きたよ〜」
ほっと安心していると2人が帰ってきた。どうやら作ったフライヤーを配り終えてきたみたいだ。そういえば練習している間に完成したって言ってたな。どれどれと見てみる。うん、私が作ったフライヤーとは全然違って良い。あ、ライブ時間は……あと2時間後!?
も、もうそんな直前まで差し迫っているのか。う、うん一旦落ち着こう。私はいそいそとテーブルの下に潜る。
「たっだいまー!」
どうやらココアさんも帰ってきたようだ。そして手に持っているのは……
「何借りてきたんですか?」
「じゃーん!マラカス!」
「マラカス!?」
マラカスだった。
「いやぁ借りれるものがこれしかなくって」
「鍵盤ハーモニカにマラカスにギターとボーカル……すごいバンドだな」
「異色のカルテットだね!」
「異色すぎです!」
とはいえこれでメンバー全員は一応揃ったみたいだ。となるとするべきことは。
「そうだ、一回合わせてみるか」
リゼさんがそう言って合わせの練習をしてみることにした。審査員はマヤちゃんメグちゃんの2人だ。
「どうだ!」
「う、うーん」
「わ私はいいと思うよ」
微妙、らしい。結束バンドでの活動を経て私は人に合わせるのが少し、少しだけ上手くなったが、まだまだ全力を出せるには至ってない。それが今ここでも発揮しているみたいだ。
「よし!今から私が教官だ!特訓するぞ!」
「いえっさー!」
「い、いえっさー」
「あっいっいいぇっさー」
雰囲気が少し変わったリゼさんが声を上げる。
とっととと特訓?い、いやだぁぁ!
「コースはてくてくうさぎコースだぞ!」
何か分からないしちょっと可愛いけど怖い!なにそれ!
そうして私たちは練習をしていくのだった……。
いっ、一旦休もうかな…えっ?もう一回?
*****
あれから約1時間半ほどの猛特訓の末、審査員からの合格がもらえた。教官となったリゼさんは中々に厳しいものであった……。
「やりきった……」
「ひとりさんが燃え尽きてる!」
「まだ始まってないぞぉ」
練習の疲労でだらっとフライヤーを眺めているとバン!とラビットハウスのドアを開けてマヤちゃんメグちゃんが入ってきた。
「お客さんが集まってきてるよ!」
「そろそろ準備しないと〜」
ライブ始まるのはあと30分後だよね……。まさかそ、そんなに早く集まるなんて。
路上ライブの場所は文字通り路上、と言うわけではなく近くの広場でやるみたいだ。まぁこんな家がいっぱい建っているなかでやるのは流石に難しいのかも。
「お!じゃあ行かないとね!」
「始まるんですね」
「腕がなるな!」
「こ、ここ心の準備が」
私はラビットハウスに来た時と同様にココアさんに手を引かれながら広場に行ったのだった……。
広場についた私たちはライブのための準備をする。
と言ってもそこまで時間のかかるものではないのですぐに終わるが。
準備を色々しているうちに広場にはいつのまにかお客さんが増えていた。私たちが広場に来た時は2人くらいしかいなかったのに。今はマヤちゃんメグちゃんのフライヤーの効果で初路上ライブとは思えないくらいの人数だ。
あ、あれ?
ふとそばにいるチノちゃんに目を向けるとジッと下を向いて俯いていた。
緊張か、あるいは不安か。どちらもあると思う。私も、そうだったから。
そんな少女を見て私は、声を掛けずにはいられなかった。重ねるのは烏滸がましいがいつかの誰かを、見てるような気がして。
「あっチノちゃん……」
「……」
「あっちっチノちゃん!」
「は……はい?」
「え、えっと緊張、しているんですか」
「……そうですね。ここでのライブもそうですけど、これ以上の人数を前にすると思うと……不安で」
やはり不安に感じてたみたいだ。それはそうだ、私だって音楽会のソロパートとか絶対に絶対にやりたくない。それは歌だからってのもあるけどギターだったとしても、今は厳しい、かもしれない。今後もし、文化祭でライブをするってなった時に、私は堂々とした演奏は出来るかな。
そう考えた時、一つの言葉浮かんだ。
「あっあの……チノちゃん!」
「……?」
「いっ今、目の前にいるのは、闘う相手じゃない。敵なんていない」
緊張と不安に苛まれた中、あのベースのお姉さんに掛けられた言葉だ。人にお金を借りるしずっとお酒ばっかり飲んでるけど、その一言には救われた。
あぁそうだ、路上ライブをした時の私はそうだった。私は勝手に壁を作っていた。壁を作った世界に閉じこもり怖気ついて不安と孤独を感じていた。
———でも、違う。
壁なんでどこにもない。そんなものは自分が作った幻だ。
最初から敵なんてどこにもいない。目の前にいる人達は私たちのこのライブに興味を持ってくれた人達だから。
「あっチノちゃん……だからえぇと……その」
「ふふっありがとうごさいます」
続く言葉が見つからず焦っている私に「大丈夫です」と告げる。
「そうですね……。心配する必要はありませんでした」
だって……と下を向いて俯いていた顔を上げる。私の目を真っ直ぐに見て、ココアさんをリゼさんをマヤちゃんをメグちゃんを見つめる。そして……集まっている観客の人に目を向ける。
「私たちに敵なんていないんですから」
マイクを握って目を瞑り、すぅっと息を大きく吸って深呼吸をする。そしてもう一度ゆっくりと目を開けた。
その瞳は先程までとは違う煌めきで———
「お集まりいただきありがとうございます。これは今度にある音楽会の為の練習で……」
私たちの路上ライブが始まった!
失敗なんてなく、必ず成功するんだと確信して。